臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第百二十三話

 

 

 

 

 

〈Sideベル〉

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

「少し休憩にしよう」

 

「は、はい………」

 

 

鍛練開始から五日目の夕暮れ。アイズさんが剣を下ろすと休憩だと告げられ、僕も《ヘスティア・ナイフ》と《牛若丸》を下ろす。

 

息が乱れに乱れている中、夕暮れに照らされる自身の影を見て、影が僅かに上下しているのでどう見ても体力の限界に近いことが容易に分かる。

 

今頃、ケンマはどんな鍛練をしているのだろう? ここにはいない、親友のことを考えていると市壁の下からヒョイッと僕たち以外の影が登ってきた。

 

 

「たっだいま~!」

 

「お帰り、ティオナ」

 

「お帰りなさい、ティオナさん」

 

 

その影の正体であるティオナさんが大型のバックパックを左肩に背負って、食料や僕の鍛練用のナイフなどをぎゅうぎゅう詰めにして帰ってきた。

 

 

「お肉と魚、一杯買ってきたよー!パンと水も!」

 

「ありがとう、ティオナ……」

 

「うん!あ、アルゴノゥトくんの得物、これでいい?ケンマに十本くらい用意してもらったんだけど?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

ケンマは僕とずっとパーティーを組んでるから僕が扱う武器もよく知っている。鍛練の合間を見てはケンマに何十本ナイフを造ってもらって、駄目にしたかは分からない。内心でケンマに謝りながらティオナさんから新しいナイフを受け取る。

 

その瞬間、僕はティオナさんから受け取ったナイフが今までケンマに造ってもらったナイフと、全く別物のように感じた。デザインや重さは全く同じ、けれどなんと言うか芯の部分が強く、硬く、鋭くなったように感じられた。

 

 

「あの、ティオナさん。ケンマに何か変わったことはありましたか?」

 

「ケンマに変わったこと?んー、あ!そうだそうだ、思い出した!」

 

「なにを思い出したの?」

 

「それがさぁ聞いてよ、アイズ!ホームに戻ってロキから戦争遊戯の日取りだとか勝負形式だとかを聞いてたらさ、ケンマがガレスの腕を折ったって噂でホームが持ち切りになってたんだよ!」

 

「ケンマがガレスの腕を!?」

 

「うん!LV.2 なのにLV.6 のガレスの腕を折るなんてめちゃくちゃ凄いよね!!」

 

 

ティオナさんから聞かされたケンマの『偉業』とも呼べる出来事に、僕は殴られたような衝撃を受けた。

 

前々からケンマのことは凄いと思っていた。初めてケンマと出会ってからそのあとも何度もケンマに僕は尊敬や嫉妬を覚えたことがあるし、無論感謝したこともある。

 

でも、ケンマは近くにいると思ってたらあまりにも遠くにいた。彼は僕が一歩進む度に、二歩も三歩も先に行ってしまう。このままじゃ駄目だ。このままじゃ、僕は置いていかれる!!

 

 

 

───俺は先に行く。ついて来れるか?───

 

 

 

何より、ケンマは僕が付いて来ることを信じているからあの時、ティオナさんにあの伝言をお願いしたんだ。なら、親友の期待に応えないで、何が親友で相棒だ。

 

改めて、一人でケンマに置いて行かれないように頑張ろうと心に決めていると、アイズさんからケンマがどうやってLV.6 のガレスさんの腕を折ったのかを僕に聞いて来る。

 

 

「ベルは、ケンマがどうやってガレスの腕を折ったか分かる?」

 

「ケンマがガレスさんの腕を折った方法ですか?」

 

 

アイズさんにそう尋ねられて、僕はケンマが格上であるLV.6 のガレスさんの腕をどうやったら折れるのかを考えてみることにした。

 

ブーステッド・ギア、十秒ごとに所有者の能力を二倍するあの魔導具ならば時間をかければ出来なくはないけど、アルテミス様を救う冒険者依頼で無茶な使い方をした影響でしばらくは使えないってケンマが言ってたからブーステッド・ギアはなしだ。

 

となると、どうやってケンマはガレスさんの腕を折ったんだろう?ヴィクトリア様やリューさんたち『豊饒の女主人』の人たちを除いてケンマと一番付き合いが長い僕でも分からないとなるとアイズさんたちでも分かるはずがない。

 

 

「ごめんなさい、僕にもどうやってケンマがガレスさんの腕を折ったのか分かりません。ティオナさん、何か他に情報はありませんか?」

 

「んー、どうだったかな?ごめん、あたしも【ファミリア】の皆が噂してたのを聞いただけだから………」

 

「そうですか……」

 

「ベルでも分からないなら仕方ないね。キミの鍛練が終わったら、ガレスに聞いてみる」

 

 

結局、僕はアイズさんが求めている答えに行き着くことが出来ず、最終的に腕を折られた本人であるガレスさんへ後に尋ねることで話は終わった。

 

 

「そうだ、ケンマのことで忘れちゃう所だった。戦争遊戯は今から四日後だって」

 

「四日……」

 

「そ。戦う場所はオラリオじゃないらしいから、移動する時間を考えたら………ここにいられるの、あと二日くらいじゃないかな?」

 

「あと二日………」

 

 

鍛練を始めてから今日が五日目で、残りの二日を足せば一週間。約束通り、神様は僕たちのために一週間という期間を稼いでくれたんだ。

 

僕は、有言実行をしてくれた自分の主神に心から感謝を捧げているとティオナさんからまさかの朗報を聞かされる。

 

 

「あとね、【ヘスティア・ファミリア】の団員が増えたって、ギルドの掲示板に公開されてたよ」

 

「えっ!?」

 

「ソーマ、タケミカヅチ、ヘファイストス……三つの派閥から一人ずつ移籍したみたい」

 

 

ソーマとヘファイストスって………もしかして、リリにヴェルフ?それじゃあ、タケミカヅチは?団長である桜花さんは無理だし、千草さんは何となくだけど違う気がする。残るは命さんかな?

 

何はともあれ、リリたちが僕たちの【ファミリア】に移籍してくれたのは心強い。けれど、誰もケンマのいる【ヴィクトリア・ファミリア】には移籍しなかったんだ。そこだけはちょっと悲しいかな。 

 

 

「どうかしたの、アルゴノゥトくん?」

 

「あ、いえ、ただ三人のうちの誰もケンマの【ファミリア】に移籍しなかったんだなと……」

 

「あー、言われてみれば」

 

 

三人とも僕たち【ヘスティア・ファミリア】に『改宗』してしまった以上、一年間は【ヘスティア・ファミリア】のままなので今更どうしようもない。

 

どうして誰もケンマの【ファミリア】にいかなかったのかはあとで聞こう。今は、残り二日間で強くなれるだけ強くならないと。

 

 

「アイズさん、続きをお願いします!」

 

「うん。わかった」

 

「あたしもやるよー!」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

〈Sideケンマ〉

 

 

 

 

 

「ぐああああ!!かはっ!?」

 

「もう終わりかい、ケンマ?」

 

 

身体の芯にまで響くような突きを受けて、そのまま身体が吹き飛ばされ、勢いを殺す暇もなく背中から壁に衝突して、『天鎖斬月(仮)』の鎖衣のジャラジャラとした音と既にボロボロの内壁が更に壊れて、俺の周りにガラガラと溢れ落ちる音が耳に伝わる。

 

そして完全に身体が地面に倒れてしまえば、手に握っている魔剣も地面に触れて柄尻の鎖もジャラジャラ音を鳴らす。

 

 

「キミの新しい奥の手は、ガレスの言う通りLV.4 の上位者と何ら遜色はない。けれど、今のキミはその力に振り回されている」

 

「ぐッ……くッ……!」

 

「それから例のレアスキル、キミが言っていたデメリット以外に僕の方でもデメリットを一つ見つけたよ。それは『技と駆け引き』による戦闘経験の少なさだ。まぁ、平然と自分は臆病者と言うキミだ。その所を気付いていない訳がない。その証拠に僕たち格上との鍛練、違うかい?」

 

「合って……ますよ。ただモンスターと戦うだけじゃ、いずれ限界が来る。それに深層へと行けば、モンスターは本能だけじゃなくて知性も持ち始める。嫌でも『技と駆け引き』が必要になって来ますから」

 

 

フィンさんの問いに答えながら、魔剣を杖代わりに何とか立ち上がる。その間も事前に設置していた【ライフ・マテリア】と付与して置いた【リジェネガ】、【リベホイム】、『超回復』による自動治癒で身体の痛みがどんどん引いて行く。

 

完全に立ち上がり、魔剣を構え直す頃には殆どの痛みは消えており、普通に戦えるくらいまで回復が完了する。

 

 

「ケンマの師匠たちは、予めキミに必要な情報を与えているようだね。それと、やっぱりキミが僕たちの【ファミリア】に入ってくれなかったのはかなりの痛手だ。その奥の手とやらや設置型と付与型の二種類による自動治癒の魔法、こんなのを一人の冒険者が持っていると知られれば、色々な【ファミリア】がキミを放ってはおかないだろう」

 

「一応、ヨイショヨイショで騙してはいますけどね」

 

「でも、これからはそうは行かないだろうね。キミは直ぐにLV.3 へと【ランクアップ】が可能だし、何より今回の戦争遊戯でキミの情報は少なからずオラリオに知れ渡る。今まで自分では細心の注意を払っているつもりでも、気付いたら目を付けられているというのはオラリオではざらだよ」

 

「あ、あははは………それはもう身に染みてますわ」

 

 

フィンさんの忠告で、既に目を付けられている【ファミリア】が脳裏に浮かび上がる。一つは現在、戦争遊戯を仕掛けられている【アポロン・ファミリア】。二つ目は、魔導書を渡された【フレイヤ・ファミリア】だ。

 

前者の方に目を付けられることはベルと共に行動しているので承知の上だが、後者に関してはちょっと予想外なんだよなぁ。魂の色を見分けられる眼を持っているフレイヤとアポロンを比較するには相手を間違えてしまっているから不毛な比較だろう。

 

 

「ちょっと長話が過ぎたかな。ダメージの回復は済んでるね?」

 

「はい。いつでもやれます!」

 

「それじゃあ、再開しようか」

 

「お願いします!」

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

フィンさんとの鍛練を終えて、夕食や風呂なども終えた深夜。俺は一人で鍛練場へと赴いていた。

 

何故、こんな夜更けに鍛練場に来ているかと言うと、それは今の俺で某死神代行のような仮面を禁手状態で出せるかの試みである。

 

 

「卍解・天鎖斬月(仮)」

 

 

取り敢えず、『魔剣創造』の禁手である『天鎖斬月(仮)』になってから左手に魔剣の禍々しいオーラを集約させて、そのまま額から顎にかけて、まるでお面を被るような仕草で顔にオーラを張り付けていく。

 

けれど、前髪⇒額⇒鼻先という順で禍々しいオーラを張り付けたところで突如としてオーラが霧散する。つまり、それはこれ以上『魔剣創造』のオーラを形態変化させることが出来ないということである。

 

 

「やっぱり、駄目か………。まぁ、元々駄目元だしな」

 

 

初めて試してみたが何か違う気がした。『エルソスの遺跡』の新しい赤龍帝の姿のような、神器の更に奥から力を引き出しているようなそんな感覚がなかった。例えるならば、マニュアル車でギアを上げようにもクラッチを踏めてないから上げようにも上げなれないような感覚だろうか?

 

車で例えたが、俺はまだ十七歳で自動車免許証なんて持ってないんだけどね。まぁ、『ハイスクールD×D』の原作や情報サイトでも神器は所有者の想いによっては新たな機能────つまり、能力に目覚めるケースがあるので、もしかしたら某死神代行の完全仮面化に似た能力にも目覚める可能性はあるにはあるはずだ。

 

 

「その時は理性を失って暴走しないよう、注意しないといけないんだけどな」

 

 

完全仮面化の能力に目覚めて、暴走して、挙げ句の果てにオラリオを滅ぼしてしまったなんてのは、マジで洒落にならないんだよなぁ。

 

そんな洒落にもならないことを考えた翌日、俺は目の前の光景に目からハイライトが死んでいくのを感じた。何故なら───────

 

 

「あの………リヴェリアさん?」

 

「なんだ、ケンマ?」

 

「何故、フィンさんとガレスさんはウキウキと槍と大楯の感覚を確かめて居られるので?」

 

「そんなの決まっているだろう。私は魔導士、つまり後衛だ。後衛を守るために前衛が居なければ話にならんだろう」

 

「いやいや、そうじゃないくて!な・ん・で、フィンさんとガレスさんも一緒なのか、そういうことを聞いてるんですよ!?」

 

 

マジで、何で三巨頭が目の前で戦闘準備をしてるのか訳わかなんないよ。

 

 

「いやー、偶々今日と明日の予定が空いてしまったからキミの鍛練にとことん付き合おうと思ってね」

 

「他派閥とはいえ、活きの良い若者が強くなろうとしてるんじゃ。これは年長者として、ひと揉みしてやろうと思ってな」

 

「絶対にフィンさんはわざと予定を空けて、ガレスさんは昨日腕を俺に折られたことを根に持ってるでしょう!?」

 

 

フィンさんとガレスさんから、リヴェリアさんとの鍛練日に何故参加しているかの理由を聞いて、思わずそう叫ばずにはいられなかった。

 

その証拠にフィンさんは珍しくニヤニヤしてるし、ガレスさんは俺が折って治ったであろう腕をぐるぐると回している。

 

 

「時間が勿体ない。つべこべ言わずに始めるぞ」

 

「さぁ、ケンマ。キミに勇気を問おう」

 

「昨日のように威勢良く掛かってこい、小童」

 

「だあああああ!!やってやろうじゃねぇか、こんちくしょぉおおおお!?」

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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