臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
『Boost!!』
「これで五回目」
円形闘技場から逃げ出したモンスターを何体か倒したあと、フレイヤが逃がしたモンスターとは別で現れるであろう蛇のようで、その実は花型のモンスターである食人花が動き出すのを待つ。
食人花が地上に出る際、僅かではあるが地面が揺れるのでその揺れを辿れば自ずと食人花の元へとたどり着く。あるいは、俺自身が食人花の餌となって倍加して強化された魔力を放出すればホイホイと集まってくるだろう。
しかし、臆病者の俺はその選択肢を選ぶことはない。そんなことをしてしまえば、一人で四体の食人花の相手をすると思うと怖くて膝が笑いそうになる。そう思ったところであることを後悔した。
「さっき倒したモンスターの魔石を持ってくれば良かった…………」
食人花は、『魔法』や『魔石』に反応するのため、先ほど倒したモンスターの『魔石』を餌にレフィーヤが『魔法』を詠唱するまでの時間稼ぎになったのではないかと後悔している。今更取りに戻っても【ガネーシャ・ファミリア】の冒険者たちが回収しているはずなので期待は全くできないのである。
そんな後悔先に立たたないことを考えていると地面が僅かに揺れ動くのを感じた。地震の多い日本人の俺だからこそ、僅かな揺れでも感じ取れる。体感的に震度3弱といったところだろうか。
そんな訳を揺れ感じ取ると辺りを警戒する。すると三分もしないうちに三軒先の先にある広場から土煙を上げながら黄緑色で巨大な蛇のようなモンスターが這い出てきた。
「出たな!」
食人花が現れたのを確認出来たので移動する。
広場へ近付くに連れて、打撃音と何かの魔法詠唱を唱える綺麗な声音が聞こえてきた。その声には聞き覚えがあり、確信を持ってその声の主が危ないと思い今まで溜めていた倍加を解放させる。
『Explosion!!』
「イメージは、死神を代行する高校生キャラクターの技のように魔力を放出するんじゃなくて、刀身に収束させる感じで………」
二の五乗で三十二倍され、アホみたいに跳ね上がった魔力を《エクス・デュランダル》の刀身へと収束させるとイメージの影響なのか、刀身から無数に枝分かれしたように揺らめく真紅の魔力が迸る。
そんな俺の魔力に反応したのか、花を開く前の蕾形態の食人花が魔法の詠唱を唱えていた【ロキ・ファミリア】の第二級冒険者にして 【千の妖精】という二つ名を持つレフィーヤ・ウィリディスというエルフから標的を俺へと変えた。
しかし、そこで予想外というよりも場違いな俺へ当たり前の出来事が迫る。それは、食人花の移動速度が速いのだ。けれど、視覚で捉えられないわけではない。
「逃げてください! そのモンスターは、あなたの魔力に反応しています!!」
レフィーヤは、俺へ注意喚起をするために詠唱を止めてしまったために完全に食人花の標的が俺一人へと絞られてしまった。
ならば、仕方ない。選択肢は一つだけ、《エクス・デュランダル》に収束された帯状の魔力の塊を食人花にぶつけるだけ。技のイメージも先ほどのキャラクターと同じで、即座に自分の技の名前が思い浮かばないのでそのまま彼の技名を使わせてもらうことにした。
「月牙………天衝!!!」
《エクス・デュランダル》から放たれた真紅の魔力の斬擊が食人花に当たると、あっさりと食人花の花の部分を呑み込み灰へと屠り去る。
「なに、今の…………」
「魔法なの?」
疑似的な【月牙天衝】を目の当たりにした【ロキ・ファミリア】所属のアマゾネス姉妹が驚くなか、俺は警戒を怠るなと叫び、知らせる。
「まだだ! まだ他にもいるぞ!!」
「「「!?」」」
叫び、知らせたはいいがアニメ通り、新たに地面から這い出てきた三体の食人花は疑似的な【月牙天衝】の所為で一斉に俺へと襲いかかってくる。
このままだと三体の食人花に食い殺されてしまう。そんな恐怖に襲われながら何とか【魔力操作】で魔力を使って脚力を強化、更に《天閃の聖剣》の能力で、先ほどの空間から高速で退く。数秒後には、その空間に三体の食人花が押し寄せていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
『今のは危なかったぞ、相棒』
「ああ、幸いにも倍加の力が残ってたみたいだ。天閃の聖剣だけなら確実に死んでた。サンキュー、ドライグ」
『気にするな』
ミノタウロス以来の本能的な「死」を感じた俺は、思わずブーステッド・ギアを装着している左腕で顎下に流れる冷や汗を拭うとレフィーヤとアマゾネスの姉妹、ティオネとティオナが心配そうに駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!?」
「怪我はない?」
「ああ、なんとか」
正直、マジで危なかった。今も死の恐怖で手や足が震えている所為で、《擬態の聖剣》で擬態させている《エクス・デュランダル》に付属している鎖がジャラジャラと揺れて音を鳴らしている。
なので、中途半端で悪いけど、ここは第一級冒険者のアマゾネス姉妹のティオネとティオナの二人に前衛を任せることにしよう。
「アマゾネスの二人、申し訳ないけどさっき喰わそうになった恐怖でまともな動きができない。武器を用意するから代わりに、あのパックンフラワーみたいなモンスターを任せてもいいか?」
「ぱっくんふらわー? あいつのこと?」
「まぁ、武器があればやれないことはないと思うけど………そんなのどこにあるのよ?」
「直ぐ用意する」
ティオネとティオナの武器を『魔剣創造』で創造するために、深呼吸しなが目を瞑り、剣を創造する。前世の情報サイトで調べた二人が最も得意とする得物は、ティオネが二刀流のククリナイフ、ティオナが両剣。それぞれ、特性は切れ味と耐久性に重点を置いた魔剣。属性付与をして他が疎かになれば意味がない。
イメージした剣が二人の足元から生えてくると、彼女たちはそのことに驚くが即座に意識を切り替えて得物を手に持ち、食人花へと疾走していく。流石は第一級冒険者、心構えが違うね。
「武器さえあれば!」
「やれる!」
食人花の討伐適性レベルは、およそLV.5。なので、死の恐怖を感じた今の精神状況だと、普段の創造した剣よりも出来が悪く、LV.1の俺が創造した剣なので、折れるという不足の事態を想定して二人に声をかけておく。
「折れたら何度でも造る。全力で使ってくれ!」
「それなら……!」
「遠慮なく使わせてもらうわ!!」
二人が遠慮なく戦えるようにしたあと、更に余念なく食人花を倒すためにレフィーヤに魔法の詠唱をお願いする。
「【千の妖精】、出来れば魔法の詠唱を初めてくれないか?」
「どうしてですか? ティオナさんとティオネさんのお二人で十分なはずでは?」
「本来の二人が使う得物があればそうかもしれないけど、俺が造った剣は俺の精神状況によっては耐久力が著しく低下する。それに、あっちの屋台の影で子供が一人逃げ遅れて蹲ってる」
「えっ!?」
俺が指で示した先には、アニメ通り一人の子供が屋台の影で怖くて蹲っている。それを知ったレフィーヤは、あの状況で周りの状況も把握していたことに驚く。けれど、驚くのも束の間、即座にティオネとティオナの二人に情報をレフィーヤが伝達する。
「お二人とも、モンスターを屋台とは反対側へ出来るだけ誘導してください! 屋台の影に子供が居ます!」
「マジ?!」
「しょうがないわね!?」
レフィーヤからの情報伝達を聞いたティオナ、ティオネの二人は出来る限り屋台から離れるように誘導しながら戦いを継続する。けれど、次第に二人が持っている剣に皹が走る。それの感じた二人から声がかかる。
「かったぁーい!!」
「新しい剣をお願い!」
「了解!好きなだけ持っていけ!!」
二人から武器の要請がかかったので、食人花たちを牽制する意味も込めて、食人花の周りから大量の剣を創造して剣の林を造る。その光景を見た後ろにレフィーヤへとあるモンスターの名前を呟く。
「まるで37階層の階層主、ウダイオスみたい………」
「あー、確か居たなそんなの」
『ウダイオス』というモンスターの名前を聞いて、脳裏に巨大な骸骨のモンスターをアイズが倒してLV.6へと至るシーンを思い出した。時系列でいえば、ベルがリリをサポートとして雇っている時だったと朧気な記憶を思い出すが、今はそんな呑気なことを思い出してる場合ではないと頭を振る。
大分、身体の震えが収まってきたのでゆっくりと体勢を直して、いつでも動けるようにする。
「【千の妖精】、見ての通り俺の造る剣はあの有り様だ。決定打にならないからキミの魔法であのパックンフラワー擬きを倒して欲しい」
「なんで、私なんですか? 別に倒すだけならあなたでも…………」
あちゃー、これは予想外な展開になってきたぞ。最初の食人花を疑似的な【月牙天衝】で屠って見せたから食人花を倒すだけなら自分じゃくてもいいだろうと思ってしまっているようだ。
この食人花イベントで、レフィーヤが魔法で倒さないと彼女の今後のランクアップに影響が出てしまう。それだけは何としても避けなければならない。
「俺はLv.1 の駆け出しだ。あのモンスターを倒せたのも単なる偶然。けれど【千の妖精】、いやレフィーヤ・ウィリディス。キミならあのモンスターを一撃で屠れるはずだ。それともLV.1 の駆け出しに負けていいのか?」
「~~~~~ッ!!」
あまり誉められたやり方ではないが、こうして発破をかけることでレフィーヤがやる気を出してくれるならそれはそれでいいだろう。
「駆け出しの冒険者に、LV.3 の魔法を見せてくださいよ、先輩」
「ええ、わかりました。駆け出しのあなたに出来て、LV.3 の私が出来ないなんてあり得ません! しっかりとその目に焼き付けなさい。LV.3 の実力というものを!!」
「それじゃあ、彼女が魔法詠唱をするまで残りの一体の足止めをあなたに任せてもいいか、【剣姫】」
「うん、大丈夫。任せて、ケンマ」
何となくそろそろ来るだろうなぁ、と思いながらアイズの二つ名を口にすると上手くタイミングがあったようで俺の隣にアイズが舞い降りて来た。もしも、彼女がタイミング良く来てくれてなければ笑い者だったから内心、焦っていた。
そんなことを他所に、憧れのアイズがやってきたことにレフィーヤへ歓喜の声を上げる。
「アイズさん!」
「それじゃあ、あとよろしく。俺は、屋台の影にいる子供を助けてくる」
「お願い」
アイズの返事聞いてから今まで溜めていた倍加の力を解放して、身体能力や【ステイタス】の基本アビリティなどを強化してから屋台の影に隠れている子供を助けるために地面を蹴る。
今までよりも多い倍加と《天閃の聖剣》の恩恵も合わさり、LV. 3 の冒険者に迫る速度で半壊しかけている屋台に近付いて、怯えている子供に優しく声をかける。
「そこのキミ、大丈夫か? 助けに来たぜ」
「えっ…………?」
「ここは危ないからお兄さんと一緒に離れような」
「う、うん…………」
子供の抱き方なんて兄弟のいない俺にはわからないので、手っ取り早く首の後ろへぐるりと手を回してもらい、膝裏に手を入れて、掬い上げるように子供を抱き上げる。
「落ちない? 大丈夫か?」
「うん、大丈夫!」
「なら、目をギュッと閉じてな。あの怖いモンスターが見えないように」
「うん」
目を瞑り、更に俺の肩へ顔を埋めるようにしたのを確認してから子供と共に屋台から離れるとレフィーヤがいる場所に、俺の担当アドバイザーであるエイナさんとその同僚であるピンク色の髪をしたヒューマンのミィシャがいた。
ギルドの職員がいるなら、抱き抱えている子供は彼女たちに任せよう。それと、あとで絶対にエイナさんに叱られるのは確定なのでそこは腹を括ることにしよう。
「エイナさん、この子をお願いします」
「えっ、ケンマくん!? どうしてあなたが………」
エイナさんの質問に答えるよりも更に、魔法詠唱を唱えて足元には水色の魔法陣を形成しているレフィーヤに何の気がねなく魔法を放つように伝える。
「【千の妖精】、子供は助けた。思う存分、LV.3 の魔法を見せてくれ!」
「【ウィン・フィンブルヴェトル】!!」
レフィーヤの口から魔法名が放たれた刹那、彼女の掌から大気を凍てつかせる三条の吹雪が食人花へと降り注ぐ。吹雪が直撃した食人花は、茎が、花が、断末魔までもが凍結冷房されていく。
やがて、吹雪が止むとそこには氷の檻に閉じ込められた異形の形をした三本の花が出来上がり、そして花だけが砕け散り、灰とへと変わった。なんとか、アニメ通りの展開になり、これで終わりかと思った僅かな緩みが仇となる。
何故なら、未だに石畳を凍て付かせた氷の下から新たに一体の食人花が現れたのだ。その食人花の狙いは間違いなく魔法を放ったレフィーヤだった。
『女王』への【プロモーション】、ブーステッド・ギアによる倍加、《天閃の聖剣》による恩恵、この三つの力が合わさっていたお陰で僅かにアイズたちよりも先に俺はレフィーヤの前に躍り出て、彼女を右へと突き飛ばすことが出来た。
「────────ぇ」
『相棒!?』
「ケンマくん!?」
「ケンマ!?」
「ぐぅぅぅ…………がはっ!!」
守ることに意識が向いた俺は、咄嗟に《擬態の聖剣》で《エクス・デュランダル》を大楯へと擬態させて、食人花の突撃と衝動する。いくら魔法や神器で強化されたといえど、LV.1 の駆け出しがLV.5 の打撃を受けて平然としている食人花の攻撃を受け止められることなんて、到底できるはずもない。
僅かな、拮抗状況が出来たが直ぐに勢いに負けて、《エクス・デュランダル》ごと建物よりも高く撥ね飛ばされてしまう。この時、俺は本日二度目の「死」を自覚しながら意識が真っ暗に染まった。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に