臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第百三十一話

 

 

 

 

 

〈Sideケンマ〉

 

 

 

 

「こいつはまた、派手に破いてくれたもんだ………」

 

「悪りぃ、かなり無茶な使い方をしてた」

 

 

クロエさんとの早朝鍛練を終えて、一度ホームに戻りブーツを履き替えてから【ヘファイストス・ファミリア】にあるヴェルフの工房に破れた方のブーツを持って訪れている。

 

引っ越し作業中で悪いがダンジョン探索用の装備の一つなので早急に、ヴェルフに報告と相談をしておくことにしたのだ。

 

 

「どんな無茶な使い方をしたんだ?」

 

「例の天鎖斬月で高速機動を………あー、一度外で体験してみるか?」

 

「そうだな。お前がどんな規格外な動きをしているのか、それを見て、確認してみないことにはどんな素材を使えば良いのか分からないからな」

 

「了解」

 

 

【アポロン・ファミリア】との『戦争遊戯』で、ベルとヒュアキントス、カサンドラの三人以外であの場にいた冒険者に『天鎖斬月』の高速機動を見たものはいないため、ヴェルフには装備を作ってもらう上でそれを披露する必要があった。

 

そのため、一度俺たちは工房を出て多少開けた所を探して、そこで『天鎖斬月』の高速機動をヴェルフに披露することになった。

 

 

「それじゃあ、卍解・天鎖斬月!」

 

「おお………今回のは前のブーステッド・ギア・スケイルメイルと防具の変化が色々と違うんだな」

 

「あっちは完全な全身鎧だけど、こっちは武器が剣だから戦闘衣も高速機動特化になるんだよ」

 

「高速機動特化と言いながらも俺の勘が正しければ、その戦闘衣……そいつもケンマが扱う魔剣創造の一部なんじゃないか?」

 

「やっぱり、分かるか?」

 

「ああ、うっすらとだが分かる。俺だけじゃなくて、椿くらいの鍛冶師にもなれば同じことを言うはずだぜ」

 

「となると、【ヘファイストス・ファミリア】と【ゴブニュ・ファミリア】の鍛冶師たちにもバレてる可能性があるのか………フィンさんの言う通りになったな」

 

 

フィンさんにあれだけ忠告されておきながらヴェルフに言われて、忠告通りになってしまったと反省しながら今履いているブーツを脱いで、裸足になる。

 

こうしないと万が一にも今履いていたブーツまでもが破けてしまうと変えのブーツがないので、裸足ならば何も壊す必要もないので安心である。

 

 

「よし、こっちは準備が出来た。ヴェルフは?」

 

「ああ、問題ねぇ。始めてくれ」

 

「オーケー、それじゃあ行くぞ!」

 

 

最初の内は禁手状態で出せる普通の高速機動でヴェルフの周りを動き回る。

 

 

「速えな。なるほど、これだけの速度で動いてたらブーツにガタが来るのも分かる。けど、これで終わりじゃないんだろう?」

 

「ああ、まだ二段階ある」

 

「なら、一段階ずつ頼む!」

 

「了解!」

 

 

ヴェルフの要望に答えるために今度は【プロモーション】で『騎士』へと昇格してから動き回り、その後は【瞬歩】を使いながら更に動き回る。しばらくそれを続けているとヴェルフが突然どかりと腰を降ろした。

 

それを見て、俺は足を止める。

 

 

「ヴェルフ、大丈夫か?」

 

「あ、ああ……流石にLV.3 の威圧を全身に受けるとなると精神的にな」

 

「そうか」

 

 

ヴェルフにはまだ話していないが禁手状態の俺は、どういう訳か二段階【ランクアップ】をしている状態なので、そんな状態で周囲を駆け巡られれば否が応でも精神的に負担を強いられることになるはずだ。

 

フィンさん、リヴェリアさん、ガレスさんとの地獄の二日間で禁手状態での力の加減は出来るようになったが、威圧の方はやったことがなかったので近いうちにそちらも試してみることにしよう。

 

威圧の調整について一人であれこれ考えている間、ヴェルフは俺が【瞬歩】で付けたであろう足跡をジーッと確認しながら腕を組んでいた。

 

 

「んー、やっぱりか………ちょっとこれは厳しいな」

 

「何が厳しいんだ、ヴェルフ?」

 

「まぁ、こいつを見てくれ。ケンマ自身は気付いてないかもしれないが、お前が付けた足跡は少し地面に窪みが出来てんだよ」

 

「あっ、本当だ……」

 

 

ヴェルフに説明されながら自分で付けたであろう足跡に触れて見ると、僅かにだが他の地面と比べて窪みが出来上がっているのが分かった。

 

つまり、【プロモーション】を使った上での全力の禁手状態の脚力に耐えられるだけの素材がヴェルフの手元に無いが故に「厳しいな」と述べたのだと察する。

 

するとヴェルフは何かピンッ!と来たのか掌の上に拳をポンッと乗せるとこちらに振り向いて来た。

 

 

「ゴライアスの硬皮……あれなら、ケンマのその状態の足にも耐えられるはずだ!」

 

「ああ、なるほど」

 

 

確かにヴェルフの言う通り、『ゴライアスの硬皮』ならば【プロモーション】を使った上での全力の禁手状態の脚力に耐えうる可能性は十分にある。しかし、ここであのドロップアイテムを使うことになるとは完全に予想外。

 

けれど、タイミング的に今を逃してたら代わりの素材を探すのにかなりの時間が掛かりそうなので、ここは即決する他ないだろう。まぁ、仮に他の用途で『ゴライアスの硬皮』が必要になった際は速攻で取ってくれば問題はないだろう。

 

 

「分かった。なら、ホームに戻ってゴライアスの硬皮を持ってくる」

 

「いや、今直ぐにじゃなくていい」

 

「えっ、何でだよ?」

 

「今、元【アポロン・ファミリア】の屋敷をヘスティア様が【ゴブニュ・ファミリア】に依頼して改装してもらっててな。その改装には俺専用の工房も含まれてるんだ。だから、俺の工房が出来上がってから最初の作品として、ケンマの防具を作りたい。駄目か?」

 

「親友からそんな風に頼まれて駄目な訳あるかよ。それじゃあ、ゴライアスの硬皮を使った防具は【ヘスティア・ファミリア】の新拠点が完成してからだな。となると、ブーツの代わりはどうするかなぁ……」

 

 

新しいブーツの目処は立ったが代わりにその間の代用品が問題となってくる。そもそも『魔剣創造』の禁手を使わなければ話はそれで済んでしまうのだが、ダンジョン探索でそんな舐めプをすれば思わぬ危険に襲われるのが目に見えているのでそれは駄目だ。

 

せめて、妥協が出来そうな代用品があれば話が変わってくるのだが、引っ越し作業中のヴェルフの手元にはそんな代用品になりそうなブーツは置いていないはずだ。

 

 

「はぁ……スゲー癪だけど、スメラギの所に行ってみたらどうだ?」

 

「えっ、スメラギさんの?」

 

「ああ。マ・ジ・で癪だけ、スメラギはケンマと同じLV.3 で上位鍛冶師だ。お前が壊したブーツの代わりくらいの物なら作ってるはずだ」

 

「でもいいのか?」

 

「良いか悪いかと言えば、良くねぇ。けど、俺の意地の所為でダチのお前に死んで欲しくねぇんだよ。だから、今回だけだ!次からは今回みたいなことが起きねぇように予備の防具を作って置くことにする!」

 

「分かった。今回はスメラギさんの所で代用品を買ってくる。けど、ヴェルフの作る新しいブーツが出来たら直ぐにそっちに履き替えるよ」

 

「当たり前だ、この野郎」

 

 

その後、俺は一度ホームに戻り、必要な金を持ってヴェルフの提案通り、久しぶりにスメラギさんの店でヴェルフが作る『ゴライアスの硬皮』を使ったブーツが完成するまでの代用品ブーツを購入したのであった。

 

因みに値段は、予備用も含めて二足で二五○○○○ヴァリスした。『中層』でも使えるブーツとなると、このくらいの値段になるのだそうだ。

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

「取り敢えず、これでヴェルフが作る新しいブーツが完成するまでは問題ないな。あとは……手持ち無沙汰になってしまった今日の予定をどうするか、だな」

 

 

ヴェルフを筆頭に【ヘスティア・ファミリア】は新しい拠点へと引っ越しをするために数日は引っ越し作業で忙しいのでダンジョン探索はなしになってしまっている。

 

なので、完全にやることがない。

 

 

「しゃあない、エイナさんに【ランクアップ】の報告を直接してから自主鍛練でもするか」

 

 

やることが本当にないと人間、駄目になりそうだ。

 

取り敢えず、軽く予定を決めてから予備のブーツを片手にギルドに向かうが前の『戦争遊戯』でかなり目立ってしまった所為か、街行く人々からめちゃめちゃ注目を集めてしまっている。その中、何故か子供たちに人気が出ているようで、とある子供が俺に「バンカイを見せてほしい!」という一言により、わらわらと何処からともなく子供たちが集まり出す。

 

ここで今は駄目だと追い返すのは何となく忍びないので、ヒーローショー擬きとして仕方なく子供たちと街行く人々に『魔剣創造』の禁手を披露することになった。因みに今日で禁手を使うのはこれで三回目である。

 

あと、念のため子供たちに注意事項を話すことにした。

 

 

「いいか、お前ら!今見せた大きな包丁みたいな大剣は、人を傷付けてしまう剣だ。それは皆のお母さんやお父さんが使ってる包丁も同じだ。だから、勝手にお家から包丁を持ち出して、俺の真似をしようなんてことはするなよ?でないと、【ガネーシャ・ファミリア】が皆を捕まえに来るかもしれないし、今度から卍解を見せて欲しいと言われても俺も見せない。分かったか?」

 

「「「「はーい!」」」」

 

「良い返事で、よろしい!」

 

 

あまり子供の相手はしたことがなかったが、無事に終わってなによりだ。包丁についての注意事項を子供たちに話すと周りにいる親御さんや街行く人々の中に驚く者や頷いている者もいて、俺のことを関心したような眼差しを向けてくる。

 

そんなに関心されるようなことはしていない。これは日本人として当たり前の注意だ。昨今の日本では、明確な物理による殺傷事件は少ない。代わりに多くなったのは言葉や情報による精神的な攻撃での自殺だ。

 

情報伝達ツールが発展していないオラリオでは、どちらかというと前者の方が圧倒的に多いため、こういう所で子供たちに注意を促して置けば割かし聞き入れてくれる。いずれは誰も傷付けることのない、心優しい子供たちが育まれて行くことを俺は期待しながらギルドに到着するとエイナさんが俺を指で示しながら叫ぶ。

 

 

「ああー、やっと来た!」

 

「え?」

 

「遅いよ、ケンマくん!オラリオに帰って来たなら、なんで直ぐにギルドへ来てくれなかったのよ!?」

 

「いやいや、ちゃんと来たじゃないですか」

 

「ケンマくんたちが【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯に勝利してから色々な【ファミリア】の冒険者がキミの情報が欲しいって、私の所に大勢詰め掛けてきたんだから!」

 

「それはそれは………」

 

「ギルド長や班長からはキミの【ランクアップ】の経緯なんかを聞いて来いって、催促までされてるんだから!」

 

「あ、あははは……」

 

 

予想はしていたが、エイナさんがキレるくらい他派閥からの情報詮索があるとは思わなかった。まぁ、【ランクアップ】の経緯についてはウラノスに全部投げる方向でいいか。

 

 

「俺の情報については今まで通りでお願いします。【ランクアップ】の経緯について、かなり訳有りなのでギルド長に会えますか?」

 

「態々、ギルド長に?」

 

「はい。今回ばかりはエイナさんにも話す訳にはいかないので」

 

「………分かった。ちょっと待ってて」

 

 

いくらエイナさんでも『エルソスの遺跡』での出来事を話す訳にはいかないので、催促しているギルド長のロイマン・マルディールを呼び出してもらおうとすると神威が込められた威厳のある声がギルドに響き渡る。

 

 

【─────その必要はない】

 

「この声は………神ウラノスか」

 

【────いかにも。先の冒険者依頼並びに戦争遊戯、見事であったイシグロ・ケンマ】

 

「まさか、神ウラノスから賞賛の言葉をもらえると思っていなかった」

 

【────汝の【ランクアップ】の経緯はヘルメスから聞いている。あれだけの『偉業』を成し得ていれば、上がらない方が不自然だ】

 

「まぁ、そりゃそうだ。俺もアレを倒すのにかなりの代償は支払ってるし」

 

【────代償………それはどのような代償だ?】

 

「答えられるとしたら………時間、とだけ」

 

【────時間………まさか、イシグロ・ケンマ!汝は自らの──!?】

 

「神ウラノス、そこまでだ。それ以上はあいつに知られてしまう。そうなれば、俺の努力も無駄に終わってしまう。なので、そこから先はあなたの胸の奥に止めて置いてください」

 

【────汝がそう望むのであれば、そうしよう】

 

「それでは、俺はこれで」

 

 

まさか、ウラノスが態々声をかけてくるとは思っても見なかったが取り敢えず【ランクアップ】の経緯報告は、話の流れからウラノスの方でギルド長にしてくれるはずなので俺はお役御免とばかりにギルドから去ることにした。

 

 

「ちょっとケンマくん!今のウラノス様との話はなんなのよー!!」

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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