臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈Sideレフィーヤ〉
「ケンマくん、もしかしてキミ、誰かを本気で好きになったことがないんじゃないかい?」
ヘスティア様の問いにロキが聞き返す。
「なんでそう思ったんや、ドチビ。ケンマはレフィーヤを好いとることに『嘘』は言ってなかったんやで?」
「うん。確かにケンマくんがそこのエルフくんを好きなのは『嘘』じゃない。でもねロキ、ケンマくんはさっき、エルフくん
「なるほど………そこん所、どうなんやケンマ?」
「ええ、神ヘスティアの言う通り、俺は誰かを本気で好きになったことはありませんよ。ただ、レフィーヤじゃなくても良いという所は正直分かんないです」
ヘスティアの問いにケンマはそう答えた。
「そもそも、俺は故郷だとソーマみたいな根暗野郎だったから、異性の誰かを好きになる云々の前にオラリオに来るまで友達なんて片手で数えられるくらいしか居ませんでしたから」
「「「「…………」」」」
「あれ?」
故郷に友人の一人といないと聞いて、私たちはケンマのことを可哀想な子を見るような眼差しを向けてしまう。
「つまり、ケンマがレフィーヤに向けている好意は、レフィーヤがケンマの中での理想の女性象であり憧憬だと、そういうことか?」
「私が……ケンマの中の異性としての……憧憬?」
「多分な。ケンマはレフィーヤみたいな可愛い女の子に自分と友達になってもろて、可能性があるなら恋人になりたい。そんな憧憬をレフィーヤに向けてるんやろうな。でも、あくまでも憧憬や。だからこそ、本気で異性としてレフィーヤのことを好いてはないかもしれへん」
何故だろう、リヴェリア様の解答やロキの言葉を聞いて『神の鏡』でケンマが【アポロン・ファミリア】の女性団員を抱き締めた時と異なり、今は少し胸の奥が痛い。
「取り敢えず、これで俺のレフィーヤに対する好きの誤解は解けたで、いいんですかねぇ?」
「んー、そこはやっぱりレフィーヤ本人次第なんじゃないかな。どうなんだい、レフィーヤ?」
「あ、はい。ケンマは私のことを異性としての好きじゃなくて、憧憬として好きってことですよね?分かりました、大丈夫です」
私は誰にもこの胸の痛みをバレないように隠しながら団長の言葉に返事をする。
けれど、この時、リヴェリア様だけは私が何かを隠していることを見破っていて、悲痛な眼差しを向けながら我慢が出来なかったのかケンマにこんな質問をした。
「ケンマ、一つだけ聞かせて欲しい。もしも、レフィーヤが誰か異性と恋仲になるとしたら、お前はどう思う?」
「ちょっ、リヴェリア様!?」
「レフィーヤが誰かと付き合う………んー、まぁ、普通にレフィーヤが本当にそいつを好きで付き合うなら俺に止める権利はないですね。けれど、何かしらの手段でレフィーヤを脅しながら付き合うというなら俺は………俺の全てを賭けて、そいつを────
────紅蓮の煉獄に沈めると思います」
「ぁ……」
普段、ケンマが言わないような強い言葉に、僅かに垣間見えた猛々しい強い瞳を見て、私は先程まで感じていた胸の痛みが消えて、暖かな何かに変わっていた。
何でそうなったかは私自身分からないけど、この暖かなものは嫌ではない。寧ろ、あの時、ケンマを膝枕をした時の様に愛おしく感じる。だからなのか、私は勢いに任せてこんなことを口走っていた。
「じゃあ、もしも本当にそうなりそうになった時は、ケンマが私のことを助けてくださいね」
「当たり前だろう。必ず、レフィーヤを助けに行くさ!」
「約束ですよ?」
「ああ、約束だ」
ケンマは私を助ける約束をしながら小指を差し出してきた。
「小指?」
「そっか、レフィーヤは知らないのか。これは、俺の故郷に伝わる約束を守るための誓いの儀式みたいなもんだ」
「誓いの……儀式」
「そうだ。お互いの小指と小指を絡める」
ケンマは自身の故郷に伝わる誓いの儀式を私に教えるために、私の小指に自分の小指を絡める。
そして───────
「指切りげんまん、嘘ついたらハリセンボン飲ーます。指切った!」
「ふふふ、なんですかその歌」
「これは、どちらかが約束を破ったら、そいつに千本の針を飲ませるから絶対に約束を破るなよ、って歌だ。ま、この場合、約束を破って針を千本飲まされるのは俺の方だろうけどな」
「なら、そうならないようにしっかり私を助けてくださいね」
「ああ、そうする」
指切りの歌を歌い、小指を離して私たちは面白くて笑い合う。
「な、なぁ、リヴェリア。レフィーヤのあれは、無意識か?」
「だろうな。でなければ、あんなことを言いながらあの表情をすると思うか?」
「せやな」
◇◆◇
〈Sideケンマ〉
【ロキ・ファミリア】への感謝の挨拶と以前18階層でレフィーヤに向けていた好きの意味の誤解を解いたあと、俺たちはそれぞれのホームへと戻ることにした。
「はぁ、なんとか誤解が解けてよかったぁ………しかし、まさかフィンさんたちにも誤解されているとは思ってもみなかった。今度から口にする言葉には注意しないとな。口は災いの元って言うし」
今回の件は完全に俺の失敗だと思う。
レフィーヤに対する思いも前世の価値観が抜けてないのだと思う。この世界に生きるヒューマンや亜人種たちは、俺となんら変わらない今を生きている人間だとそう認識したはずなのにだ。
リューさんたちやフィンさんたちとの鍛練であれだけ痛い思いをしても尚、彼ら彼女らを二次元のキャラクターと思っている節が残ってしまっている。これはどうにかしないと駄目だ。
「二次元として認識してしまう根幹、それは多分今までの日常に亜人種の存在がなかったことが深く関わっているんだろうな」
前世ではエルフを筆頭に亜人種なんてものは存在せず、ヒューマンだけが地球に存在する人類として認識されていた。猿などの人類に近い者は、猿人類として括られているので人類ではなかった。
せっかく、レフィーヤみたいな可愛い子と知り合えたのにこれでは前世とあまり変わらない。他にも『赤龍帝』としての女難が早々に出ている。イッセーみたく一目惚れでもしていれば今回のようなことはなかったのだろうか?
それを考えた所で俺はイッセーではないし、イッセーでは俺ではない。結果、答えらしい答えを俺は持ち合わせていないのが結論だった。
「考えても分からない時は、ダンジョンで頭を空っぽにするのが一番だな」
まるでアイズみたいなダンジョン廚思考になりながら俺はダンジョン探索の準備を行う。今回はリリたちのサポートを受けられないので魔石用のバックパックも背負って、ダンジョンに行く前に恒例となっているエイナさんへの探索開始報告をしに行くのだが、その道中でこんな噂が聞こえてきた。
曰く、【ヘスティア・ファミリア】は二億ヴァリスの借金を抱える爆弾派閥。
曰く、主神がバイトをする程に借金を抱えるヤバい派閥。
曰く、借金でお先真っ暗な残念派閥。
以上のことを街行く人々や冒険者が口にしていた。今頃、ベルは《ヘスティア・ナイフ》の費用と今までぞんざいとは言わないがやはり武器は武器としてそれなりに粗く使ったことを思い出して寝込んでいる頃だろう。
「お労しやベル上」
届くことはないが、一応親友としてベルのことを思ってやりながらギルドに到着した。予定通り、エイナさんにこれから軽くダンジョン探索に行くことを伝えると何やら名指しで俺当てに冒険者依頼が発行されていたようだ。
「あっ、ケンマくん。ダンジョン探索に行く前に、この冒険者依頼の内容を見て行ってね。なんでもキミを指定した冒険者依頼みたいだから」
「俺を名指しで?」
一体、どこの誰やら?
依頼先は【ディアンケヒト・ファミリア】で、依頼主はアミッド・テアサナーレ。
「ん、んん?あー、なるほど、依頼人はアミッドさんか。なら、俺を名指しでこの冒険者依頼内容なのも納得。報酬は、高等回復薬と高等精神力回復力を一ダースずつまたはそれに相当するヴァリスでの支払いね。期限は……ないみたいだな。これなら探索帰りにでも行けばいいか」
「その感じだと、冒険者依頼は受ける感じでいいのかな?」
「はい。多分、この冒険者依頼は今の所は俺しか受けられない冒険者依頼ですから」
「確かに名指しでの冒険者依頼だけど、なんでケンマくんだけ?冒険者依頼内容の納品物は、赤龍帝の血って………」
「これは依頼人との間での合言葉みたいな物ですよ。それじゃあ、ダンジョン探索に行ってきます」
今思えば『神月祭』以来、【アポロン・ファミリア】の所為でバタバタとしてから彼女の下に顔を出すことすら出来ていなかった。多分、帰ってきたのならば生存報告くらいして下さいとか言われそう。
そうことを思いながらギルドから出て行く。
「まぁ、でも、アルテミスを助けられたのはアミッドさんのお陰でもあるからそこは感謝しないとな」
偶然とはいえど、アミッドさんがヴィクトリアの【神血】を採血してくれなけば、『希望の赤龍帝』になれることなく劇場版通りにアルテミスを送還することになっていただろうと思う。だから、小言の一つや二つはあまんじて受けよう。
その後、軽くダンジョンで新しく創造できるようになった魔剣などを中層の食料庫で試したり確認したりしてから冒険者依頼を遂行するために【ディアンケヒト・ファミリア】へと赴いた。
「ちわ~す、冒険者依頼の納品に来ました」
「よくぞお越し下さいました、イシグロさん」
「どうも。あと、事後報告になりますがちゃんと生きて戻ってきました」
「ええ、あなたの姿と前の戦争遊戯の活躍振りからご健在であることが分かります。それでは、こちらへどうぞ」
「了解です」
アミッドさんに促されるまま俺は【ディアンケヒト・ファミリア】の店の奥へと案内される。案内された場所は簡易的な診療室で、前世の病院と診察室の違いは電子機器がないことだろうか?その代わりに魔石製品がそれに該当するように置かれている。
治療院とは異なる診察室に目を奪われているとその間、アミッドは迅速に採血の準備に取り掛かっていた。
「用意ができました。今日もよろしくお願いします」
「分かりました。あと、一応ここだけの話になりますが、以前話した『耐呪』のレアアビリティですがこの一ヶ月で発現したレアスキルの効果で、発展アビリティの評価が同じ条件で三段階上がるようになりました」
「……………」
一時的に発現する『耐呪』の発展アビリティがレアスキルによって三段階強化されることをアミッドさんに打ち明けると、彼女は採血する注射を俺の腕に刺す寸前で止めて、一度銀トレイに置いてから奥へと消えていった。
なんかデジャヴというか前の時とまんま同じ動きをアミッドさんはしている。そして、奥から戻って来た彼女の手には何やらどす黒く変色した何かを入れた理科の実験で使ったことにあるシャーレが乗っていた。
「では、改めてお願いします」
「わ、分かりました」
シャーレに乗っているどす黒い物については聞くまい。いや、聞かなくとも分かる。あれは、何かしらの『呪詛』を受けた何かであると。
取り敢えず、アミッドさんからの冒険者依頼を遂行するために戦意を高めてから俺の持ち得るレアスキルたちを発動させてから採血をしてもらう。注射器で五本ほど血を抜かれたあと、試しにと注射針についた俺の血を『呪詛』が掛けられた何かに一滴落としてみると、どす黒かった何かはまるで回復魔法のように徐々にその色を元の色へと変化させた。
因みに、『呪詛』で変色していた何かの正体は魚の切り身だった。何の魚かまでは分からないが、三段階強化された俺の『耐呪』で『呪詛』の効果を打ち消せたことにアミッドは嬉しさのあまりシャーレを掲げて、その場でくるくると小躍りし始めた。
「フフフフ」
「やっぱり効果は増してたみたいですね」
「ッッ────コホン!ええ、どうやらそのようです」
「大丈夫ですよ、アミッドさん。嬉しさのあまり小躍りしていたのは、誰にも言いませんから」
「分かっているなら言葉にしないでください!」
羞恥心から若干涙目で怒るアミッドさんにちょっとした萌えを感じたのは間違いではないはずだ。
オリ主たちの新本拠地候補
-
第六区画 『竈火の館』の近く
-
第七区画 元ヘスティア廃教会
-
西地区 豊穣の女主人の近く
-
北地区 適当に