臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈Sideケンマ〉
「ちょっと待ってくれ!」
突如として、地下水路に響く女性冒険者の声に全員がそちらに意識が集中する。
「何故、お前たちはそいつの言葉をそんなにも易々と信じられる!」
「ふぃ、フィルヴィスさん!?」
「あまりにもそいつは知り過ぎているのに何故だ!例えリヴェリア様が助力を求め、レフィーヤが呼びに行った相手だとしても、私はそいつが闇派閥の手先だと言われても疑いの余地はないと思っている!?」
エルフにしては珍しい黒髪に赤緋色の瞳を持ち、純白の戦闘衣に身を包むフィルヴィス・シャリアはそう言って俺を睨み付けてくる。まぁ、端から見たらそうだろうな。フィルヴィスはオリヴァス・アクトの所為もあって闇派閥に関しては敏感なキャラクターだから今の俺は疑われてもなんら不思議ではない。
彼女の他にもあまりにも人造迷宮について知り過ぎている俺に対して、疑いの眼差しを向けてくる者はいる。てか、何でフィルヴィスがここに居るの?お前は【ロキ・ファミリア】じゃなくて【ディオニソス・ファミリア】の団長だろうに、ナァゼナァゼ?
そんなことを一人で場違いにも考えていると唯一、この場にいる神であるロキが俺の闇派閥との関与を否定する。
「あー、ケンマは闇派閥ちゃうで。それはウチが確認済みや」
「因みに僕やリヴェリア、ガレスもロキと一緒に確認しているから間違いないよ。それでも疑うと言うのならば、彼に今この場でその疑いを晴らさせよう」
「でも、団長。どうやってケンマに闇派閥の疑いを晴らさせるんですか?」
フィンさんが俺に闇派閥ではないことを証明させると述べると、その方法についてティオネが尋ねた。その問いを受けたフィンさんはニヤリと笑うと次に俺へこう言ってきた。
「なに、方法は簡単さ。『世界の修正力』とやらを利用するのさ」
「世界の修正力?」
「なにそれ?」
「マジで言ってるんすか、フィンさん!?」
「もちろん、マジだよ。その方が手取り早くキミの疑いを解消出来るからね」
まさかのそんな風に『世界の修正力』を使っての疑い解消を思い付くフィンさんに、俺は開いた口が塞がらなかった。
ここまでフィンさんにされてしまっては最早回避不可能だろう。例え、逃げようとしても目の前には【ロキ・ファミリア】の主力陣がいるので力付くでの逃走は不可能。
「はぁ、分かりましたよ」
「それじゃあ、今からケンマに今回の情報の入手先または提供先を答えてもらうけど一つだけ注意しておく。ケンマが語る内容で一部僕らでは理解または何かしらによって邪魔をされて聞こえないものが出てくるだろう。それこそが僕の言った『世界の修正力』だ。心して聞くように」
フィンさんの一言で団員の皆は意識を集中させて、俺の話を聞こうと意気込む。
「あー、まずは『世界の修正力』とやらを体験してもらうために俺の自己紹介から始めます。名前と所属【ファミリア】は知っての通りだから省くとして、俺は皆さんと違ってこのオラリオの出身でなく、
「ねぇ、ティオネ。ケンマの国の名前とその後の話は聞こえた?」
「全然駄目、なんか気持ち悪いグニャグニャした音に邪魔されてる」
「これがフィンの言ってた、世界の修正力なんだね」
「なんだこれは………何なんだこれは!?」
「落ち付いてください、フィルヴィスさん!」
フィンさんたち以外で初めて『世界の修正力』を体験した者たちは、耳が不調だと思い指で耳の中を掃除する者、隣の団員の声を聞いて耳の不調ではないことを確認する者、聞こえない部分がその国独自の言語だと誤解する者、それぞれの反応を示す。
「今回の人造迷宮の情報は、
「人造迷宮を見て、知ったことがある?」
「じゃあ、やっぱりバベルやここ以外にもダンジョンへの入口が?」
「ケンマ、この際だ。例え聞こえなくてもその場所を教えてくれ」
「俺の記憶が正しいければ、この人造迷宮はダンジョンの
「………ダンジョンに繋がることは判明したけど、やっぱりどこまで続いているか聞かせてくれるほど優しくないな」
フィンさんの言葉を聞く限り、またしても『世界の修正力』は彼らが知りたい細かい部分を聞かせないようにしているようだ。これは、全部が全部そうなのかまたはストーリー展開によって聞こえる部分が違うのかそれを確認するために以前フィンさんたちに伝えた情報を口にする。
「人間とモンスターが融合した敵の名前はレヴィス。性別は女性、特徴は赤い髪に緑色の瞳、巨乳の片手剣使い。出現場所は18階層、リヴィラの街。奴に勝つにはアイズに38階層の階層主であるウダイオスを単独討伐させて、LV.6 に【ランクアップ】させること。どうですか、フィンさん。今のは全て聞こえましたか?」
「うん、問題なく全て聞こえている。でも何故、今その情報を?」
「俺の勘が正しければ、世界の修正力はどうやら未来で起こる重大な部分またはそれに関係する敵味方の情報が聞こえないようになっているみたいです」
「なるほどね。僕らは、既にレヴィスという人間とモンスターが融合した怪人と接触して、リヴィラで起きた事件も対処した後だから、あの時聞こえなかった情報が今は聞こえるようになっている。そういうことかな?」
「俺の勘が正しければ、その通りです」
『世界の修正力』の効果を今分かっている範囲でフィンさんと共有する。すると、アイズから当然のような質問が来た。
「ねぇ、もしかして私がウダイオスに一人で挑もうとした時、フィンたちが止めなかったのはケンマから今の話を聞いていたから?」
「ああ、そうだ。でなければ、お前を一人で深層の階層主に挑ませるなんて無謀なことを私たちがさせる訳がないだろう」
「そっか。ケンマ、リヴェリアたちにその情報を伝えてくれてありがとう。お陰で私はあの人より強くなれた」
「感謝の言葉は受け取るけど、油断はするなよアイズ。レヴィスは見た目こそ人間だけど、中身は間違いなくモンスターで強化種だ。その成長速度は、普通の冒険者を遥かに凌駕する。今はもうアイズより………いや、もしかしたらフィンさんたちよりも強くて、あのオッタルに迫っている可能性すら捨てきれない」
「………うん、分かった。気を付ける」
強化種である限り、レヴィスの成長速度は図り知れない。奴等、強化種は魔石を食えば食うほどに強くなる。それも魔石の純度が高ければそれも成長速度に比例してくる。
レヴィスはアイズに59階層に行くよう言っていたし、LV.6 のフィンさんの手が折れるほどの防御力を持つ。そのことから少なからず、奴も深層59階層に通用するだけの実力を持っているはずだ。
自分の中で強化種の厄介さを思い浮かべていると、ずっと困惑しているフィルヴィスを抑えていたレフィーヤからも質問が飛んでくる。
「ケンマ、私から一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ、レフィーヤ」
「今までの話からケンマは、食人花や穢れた精霊のことも知っていたんですよね?」
「ああ、その二体なら知っていたし、フィンさんにも情報を渡している」
「なら、24階層でのイレギュラーは知っているはずですよね。どうですか?」
「知ってる」
「じゃあ………24階層で【ヘルメス・ファミリア】の方々が死ぬことも知っていたんですか?」
「は?」
今、レフィーヤはなんて言った。24階層の冒険者依頼で【ヘルメス・ファミリア】に死者が出た?いや、それはあり得ない。だって、あの冒険者依頼を受けた【ヘルメス・ファミリア】の冒険者は、団長のアスフィさんに副団長のファルガーさん、魔導師のメリル、盗賊のルルネ、吟遊詩人のような格好のエルフであるセインの五名のはずだ。
じゃあ、レフィーヤの言っている【ヘルメス・ファミリア】で死亡したキャラクターは誰だ?もしかして、アニメには登場してなくて原作の方に登場したキャラクターなのか?
「………なんだよ、それ。知らないぞ、そんな話」
「え?」
「俺が知っているのは、アスフィさんがオリヴァスにナイフで斬り掛かるけど軽々と受け止められて、そのあと背後へと回り込まれて後ろから逆にナイフで刺される、そんな展開だ。誰かが死ぬ場面なんてなかったはずだ!」
「『嘘』は言うてへんみたいやな」
「じゃあ、本当にケンマはあの人たちのことを知らない?」
一人で24階層の冒険者依頼で死んだ【ヘルメス・ファミリア】の顔を思い出そうする傍らで、ロキが俺の知らないという言葉に『嘘』はないと肯定してくれる。
しかし、やはり記憶にない。そもそも、この世界に転生しても【ヘルメス・ファミリア】との関係は『エルソスの遺跡』で共闘したくらいの程度なので親しい訳ではないのだ。
「アイズ、24階層の冒険者依頼で【ヘルメス・ファミリア】は団長のアスフィさん、副団長のファルガーさん、魔導師のメリル、盗賊のルルネ、吟遊詩人のようなエルフのセインの五人以外にも居たのか?」
「………うん、居たよ。ドワーフのエリリーさん、小人族の姉弟でポットとポック、獣人のホセさん、ヒューマンのキークスさん」
「五人も居たのか………そうか。教えてくれてありがとう、アイズ」
分かってる、これは俺のエゴだということは。助けられない、救えない命は少なからずある。【アルテミス・ファミリア】の皆だって、そうだった。
なら、ずっと引き摺っては居られない。今やることは如何にして【ロキ・ファミリア】の皆さんの被害を最小限に抑えるかだ。彼ら彼女らの目を見るに突入回避は難しいけど、準備期間を持たせることくらいは出来るはずだ。
「………話を戻します。次に人造迷宮の鍵となる魔道具のダイダロス・オーブを知ったのは
「聞こえなかった部分は、感覚からして所属と名前かな。そして、敵はやはりダイダロスの系譜なのか」
「不治癒の呪詛武器や超短文詠唱の狂乱系呪詛もその男が使います。強さはLV.5 で武器は槍と短刀で、呪詛武器の特徴は刀身が血のように赤い物になります」
「そこまで分かれば、呪詛武器の回避は出来るかもしれない。しかし、超短文詠唱の狂乱系呪詛は変わらず厄介だな」
「対象方としては、一対一に持ち込めれば狂乱系の呪詛は効果を発揮しません。この呪詛は、周りの敵に幻覚を見せて仲間同士で同士撃ちをやらせる使い方をしてくるので」
万が一、ディックスが現れた場合に使ってくるであろう『呪詛』の効果とその対処方を伝えてると、ベートさんがニヤリと挑戦的な笑みを浮かべる。
「早い話、そのゴーグル野郎を片付ければ良いだけのことだろうが!」
「でも、相手はダイダロスの系譜です。故に地の利はあちら側に圧倒的にあります。俺なら呪詛を振り撒きながら後退して、追ってくるようなオリハルコンの扉または門、檻などで足止めをしつつ呪詛の効果範囲ギリギリを維持し続けます」
「チッ、そういやぁセコい手を使ってくるのは闇派閥の十八番芸だったなぁ」
相手の立場になって考えたあり得るかもしれない戦法に、ベートは舌打ちをしながら相手は闇派閥ということで何処か納得したようだ。
「それから不治癒の呪詛の対策ですが、一つだけ心当たりがあります」
「どんな対策だい?」
「【ディアンケヒト・ファミリア】のアミッドさんと協力して、対呪詛用の道具を作っています」
「アミッドと協力してるってことは、ケンマは『神秘』の発展アビリティを持ってるの!?」
アミッドさんと対呪詛用の道具を作成していると伝えてと、それを聞いたティオナが貴重な『神秘』の発展アビリティを俺が持っているのかと驚く。
だが、俺はそれを直ぐに否定する。
「いや、『神秘』のアビリティは持ってない。俺が持っているのは『耐呪』のアビリティ────つまり、『耐異常』の呪詛版だな」
『神秘』を超える前代未聞の発展アビリティについて聞いた皆は、一斉に騒がしくなる。まぁ、多分世界中を探しても『耐呪』の発展アビリティを持っているのは俺くらいなものだろう。
「偶然にしては出来過ぎている気がしなくもないけど………もしかして、僕らが何の準備もせずに人造迷宮へと突入して、返り討ちになる場面も知っていたりするのかい?」
「いえ、知りません。フィンさんたちが深く関わってくる物は59階層で、穢れた精霊を倒す所までです。なので、今回のことは俺も完璧に未知のものになります」
そう。俺が知っている『ソード・オラトリア』は59階層での激闘で終わっている。あとは『ダンまち』の方に出てきたものくらいなので、今回の場面は完璧な未知である。
そこまで伝えれば、フィンさんはしばらく顎に手を当てて考え込むと何か結論が出たのか顔を上げた。
「一度体勢を整える。悪いけどケンマ、キミにはアミッドに不治癒の呪詛に対抗できる道具を融通してもらえるように図らいを掛けてもらえないかな?しっかりと対価も用意する」
「分かりました。なら、その対価は………この場にいる皆さんが誰一人として欠けることなく、道化の旗印の下、神ロキの前に生きて戻ってくることです。それが俺が求める対価です」
俺の言葉を聞いた皆は、目を開いて驚くが直ぐに嬉しそうに優しい目や決意を固める目になる。
「全員、ケンマの要求を聞いたね。ならば、僕らのために人造迷宮や敵が使ってくるであろう呪詛の情報、それに対抗する手段を教えてくれた彼のためにも、道化の旗印の下、僕らが主神であるロキの下に誰一人として欠けることなく生きて戻る。これを必ず遂行させるぞ!」
「「「「「「おう!」」」」」」
フィンさんの掛け声と共に【ロキ・ファミリア】の皆さんは一斉に返事をする。その傍らでは、必死に涙を堪えようとしているロキの姿もあった。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に