臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第百三十九話

 

 

 

 

 

〈Sideベル〉

 

 

 

 

命さんを追いかけて、ヴェルフたちと【イシュタル・ファミリア】のテリトリーである歓楽街へと来た僕は、色々あって戦闘娼婦のアイシャさんたちに追いかけ回されてやっとの思いで遊廓の一部屋に逃げ込むとそこには親友のケンマと綺麗な金髪に翡翠のような瞳をした狐人の女性が談笑していた。

 

最初こそ、何で親友がこんな所にいるか分からなかったけど、どうやら【ヴィクトリア・ファミリ】に移籍したカサンドラさんの予知夢で僕がここに来ることが分かっていたようだ。それが分かったのもつかの間、僕を追いかけて二人がいる部屋まで戦闘娼婦の人が来たけど、ケンマが追い払ってくれたお陰で僕の貞操は無事が保証された。

 

その後、ケンマは春姫さんに語っていた空想の物語を僕にも聞かせてくれた。何の才能もなく、ただひたすらに女の人の胸が大好きなスケベで変態の主人公で、泣いている女の子や苦難に苦しむ仲間のためや助けを求める誰かのために命を張れる、まるで『英雄』のような少年の物語だった。

 

ただ気になるのが、その物語にケンマが使ってるブーステッド・ギアや魔剣を無尽蔵に生み出すソード・バース、それから《エクスカリバー》や《デュランダル》の名前が出てくる度にケンマの顔を見るけど、答えてくれることはなかった。でも、物語は僕が読んで来た英雄譚とはまた別の意味で面白かった。

 

そして、ケンマが買ったであろう春姫さんとの時間の刻限がやってきて、僕ら安全に歓楽街から出してくれるために抜け道を教えてくれている。

 

 

「あの、春姫さん」

 

「なんでしょう、クラネル様」

 

「勘違いならいいんですけど、春姫さんってもしかして、貴族の方、なんじゃないですか?」

  

 

僕の問いを聞いた春姫さんは驚きのあまり動きを止めた。

 

 

「よくお分かりになりましたね」

 

「一つ一つの動きに貴族特有の所作があったんだろう。それも本人が気付かないうちに表に出るほど、日常生活の一つとして溶け込むくらい幼少期から習っていたんだろう」

 

「なるほど、そういうことでしたか」

 

 

僕が春姫さんは『貴族』の出なのではないかと当たりを付けると、ケンマが補足をし彼女が貴族である根拠を述べると春姫さんも何処か納得がいったように微笑む。

 

 

「クラネル様の仰る通り、私の家は何代も続く高貴な家系です。母はおらず、父は国のお役人で………幼い私は、沢山のお手伝いの方々にお世話になっていました」

 

「極東のサンジョウノ家は神事、ゴジョウノ家は暗殺の家系だと、何処かで読んだことあるな」

 

「イシグロ様は、ゴジョウノ家にお知り合いが?」

 

「知り合いという訳じゃないが、冒険者としての師匠に亡くなった戦友がゴジョウノ家の令嬢だったと聞いている」

 

「す、すみません!そのようなことを知らずとはいえ………」

 

「こればかりは知らないのも無理もない。何せ、その戦友が亡くなったのは今から五年も前の話だからな」

 

 

ケンマが言っている師匠とは多分リューさんのことで、その亡くなった戦友とは18階層にあった【アストレア・ファミリア】の墓地に眠る誰かだ。

 

 

「貴族の春姫が娼婦をやらざるを得ないということは、サンジョウノ家は滅びたのか?」

 

「いえ、五年前………十一歳の時、私は家を勘当されたのです」 

 

「勘当って……親子の縁を切られたってことですよね?」

 

 

貴族の出である春姫さんが、何故娼婦なんてものをやっているのかをケンマが問うと春姫さんは自分は勘当された身であると答え、その答えに僕は思わず聞き返してしまった。

 

 

「父の怒りを買ってしまい仕方のないことでした。それから様々なことがあり、私はこの歓楽街……【イシュタル・ファミリア】へと売り渡されたのです」

 

「………」

 

「………」

 

「あっ……で、でもオラリオには憧れもあったのです。極東にも、この地を舞台にした物語が沢山伝わっていますから」

 

「もしかして、『迷宮神聖譚』ですか?」

 

「はいっ!他にも異国の騎士様が聖杯を求めて迷宮を旅するお話とか」

 

「それって、『ガラードの冒険』!不治の病の女王様を癒すために聖杯を探しに行く?」

 

「ご存知なのですか!?」

 

 

思わぬ所で僕と同じ英雄譚が大好きな人に出会えたことに、僕らの会話は弾むように進んだ。時折、ケンマから声がデカイとバレるぞと注意が飛んでくるけど、そこはご愛敬ということにしておいて欲しい。

 

『迷えるディラルド』、『わがエノーの歌』、『ジェルジオ聖伝説』………出るわ出るわ。なかには割と有名じゃない物語を春姫さんが知っていることに驚きながら談笑を楽しんだ。

 

 

「春姫さんは沢山の物語を読んでるんですね」

 

「クラネル様こそ、すごいです!本当に何でも知っていらっしゃって」

 

「僕は英雄譚ばかりですよ。春姫さんの方こそ、他のお話にも詳しそうだし」

 

「俺からしたら、二人とも似たり寄ったりだけどな」

 

「ケンマの故郷では、どんなお話が広間ってたの?」

 

 

ケンマの故郷は、春姫さんと同じ極東にあるとは聞いているけど、彼の故郷と春姫さんの故郷とでは多分場所が違うのだろう。

 

だからなのか、ケンマの故郷で広まっている英雄譚や物語に興味が出た。

 

 

「そうだな。メジャーな物なら桃太郎かな?」

 

「桃太郎?」

 

「買い摘まんで話すと、川で洗濯をしているお婆さんの前にとても大きな桃が流れてくるんだ。それを持ち帰って、お爺さんと二人で食べようと桃を割ったら、なかには可愛い男の子の赤ん坊が入っていたんだ」

 

「桃の中に子供!?」

 

「まあ!?」

 

「老夫婦の間には子供がいなかったからその子を我が子として育てることに決めて、名前は桃から生まれた男の子という意味を込めて桃太郎と名付けた」

 

「ああ、それで題名の桃太郎になるんだ」

 

「桃から生まれた桃太郎様ですか」

 

 

それから語られた『桃太郎』という話は、桃太郎が鬼ヶ島という島に住まう鬼がお爺さんたちのいる村を初めとした多くの人々を困らせているから退治に向かうお話だった。

 

でも、そのお話は子供向けなのか、色々とおかしな部分があった。お婆さんが作った世界一美味しいお団子を鬼ヶ島に向かう途中で出会う、犬、猿、キジの三匹を仲間に加えて鬼ヶ島へと攻める。

 

そして鬼ヶ島に着いた桃太郎一行は、まず犬が鬼のいる場所を探して、鬼の根城を見つけると次は猿が根城の門を開いて、その後はキジは鬼の眼を突いて、たまらず鬼が逃げ出すとそれを待ち構えていた桃太郎が鬼を退治して、二度と悪さをしないことを約束させてから金銀財宝を持って村へと戻り、皆で幸せに暮らすお話だった。

 

 

「とまぁ、こんな感じだな」

 

「同じ鬼が出てくる物語でも、私の知っている物語とイシグロ様の物語は違うようですね」

 

「春姫さんが知っているの鬼の物語って、どんなお話なんですか?」

 

「極東で古くから伝わる鬼に襲われる娘を小さき身でありながら助けた武士様のお話が」

 

「一千童子ですね」

 

「私も本の世界のように、英雄様に手を引かれ、憧れた世界に連れ出されてみたい……なんて、はしたない夢物語でございます。連れ出してもらえる資格は、私にはございません」

 

「そ、そんなことっ!?」

 

 

春姫さんの悟ったような言葉に、思わず僕は彼女を強く見てしまう。

 

 

「英雄は、春姫さんみたいな人を見捨てない!資格がないなんてことは─────」

 

「お優しいのですね、クラネル様は」

 

「────ッッ」

 

「けれど、私は……可憐な王女でもなければ、生け贄に捧げれた哀れな聖女でもありません。私は娼婦です」

 

「………」

 

「未熟ではありますが、多くの殿方に身体を委ね、床を共にしています。意志をもって貞操を守る訳でもなく、お金を頂くために春をひさいできました」

 

 

春姫さんが言おうとしていることはわかる。『英雄』にとって、『娼婦』は破滅の象徴なのだ。それは僕らが大好きな英雄譚でも描かれている。だからなのか、だから春姫さんは自分は『英雄』に救われる資格はないのだと。そう悟ってしまっているんだ。

 

僕は、彼女の言葉を否定出来なくて思わず握り拳を作ってしまう。

 

 

「汚れていると自覚したあの日から、私にあの美しい物語を読む資格はございません。憧れを抱くことは、許されません」

 

「………」

 

「私は、ただの娼婦なのです」

 

 

嗚呼、どうして僕にはこんな優しい一人の少女すら救えないのだろうか。『英雄』に憧れて、泣いている人や救いを求める誰かを助けられる英雄になりたくて、オラリオの街にやって来たのに。目の前で、本当は救われることを望んでいる少女すら救えないなんて。

 

なんて、情けないんだ僕は……………。

 

そう自分のことを恥じていると、『英雄』に憧れている僕が駄目でも彼はやっぱり誰かを救うためならば、どんなに本人が資格がないと言おうが救おうとする。

 

 

「英雄は娼婦を助けない、ねぇ………。なら、娼婦のお前を鳥籠から連れ出す存在がドラゴンならどうだ、春姫」

 

「え?」

 

「英雄でないドラゴンならば、娼婦であるお前も連れ出して、救ってみせても問題はないはずだ」

 

 

春姫さんを見つめるケンマの眼を見て、僕は既視感を覚えた。それはあの夜、湖でアルテミス様とダンスを踊ったあとにあの方に向けていた眼差しだ。

 

あははは、やっぱりキミはキミが語っていた物語の主人公のように、泣いている誰かのために命を張れる『赤龍帝』なんだね。

 

 

「俺はお前を身請けすることにする。時間は少し掛かるだろうけど、それまで待っていてくれ」

 

「………イシグロ様。春姫は幸せ者です。出会って間もない、あなた様にそこまで思っていただけるなんて……」

 

 

ケンマの言葉を聞いた春姫さんは確かに綺麗な涙を流していた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

〈Sideケンマ〉

 

 

 

 

春姫の案内で『ダイダロス通り』へと繋がる抜け道を教えてもらったあと、俺たちは無言のまま道標を頼りに歩いている。

 

 

「ケンマは、本当に春姫さんを助けるつもりなの?」

 

「ああ、春姫が気に入ったからな」

 

「それは女の子として?でも、ケンマはレフィーヤさんのことが………」

 

「ぶっちゃけると春姫もレフィーヤと同じ推しになった。それにあの綺麗なケモ耳や尻尾を自由に触れるとなれば、そりゃあ身請けもしたくもなるさ」

 

「あははは………」

 

「それから【イシュタル・ファミリア】の黒い噂が流れてる。それに春姫が関わっている可能性が少なからずある。だから、助ける」

 

「やっぱりケンマは、今回もアルテミス様の時みたく誰かを救うために動くんだね。流石は、赤龍帝」

 

「別に俺はベルみたく、誰彼構わず助けるつもりはないぞ。これでも赤龍帝をやる側も辛い時はあるんだぜ?」

 

 

苦笑いしながらそう言ってやると、ベルは突然真剣な顔になるとこう聞いてきた。

 

 

「ねぇ、さっき遊廓で話してたあの物語って、もしかしてケンマの前世だったりする?」

 

「なんでそう思ったんだ?」

 

「だって、あの物語にはブーステッド・ギアだとか魔剣創造だとか、ケンマが使ってる力や武器の名前が出てたし。即興にしてはあまりにも内容がしっかりしてるし……だから……」

 

「まぁ、そう思うのも無理ないか。だが、残念なことにあの物語に登場した人物の中に俺の前世はないな。少しネタバレになるが、彼らは俺の身体に宿ってる神器たちの前任者だ」

 

「前任者ってことは………」

 

「物語にはいつか終わりが来るもんだ。それがどれだけ永遠に近い寿命を持つ悪魔や天使、堕天使だとしても変わらない。だから、俺たちは今を精一杯生きるんだ。後悔が残らないようにな」

 

 

カッコつけて言ってみたが、ベルとヴェルフたちともいずれは死に別れる時が来る。そうなることを知っていながら、俺はドライグに取引を持ちかけた。

 

だから、今を精一杯に生きる。やりたいことをやって、満足して死ぬ。それが俺の大きな夢である。

 

 

「あっ!そうだ、ベル」

 

「なに?」

 

「お前、ホームに戻ったら覚悟しておいた方がいいぞ。ヴェルフたちと歓楽街に来たなら、お前とはぐれたことを間違いなく神ヘスティアに伝えてるはずだから神ヘスティアから怒られるのは避けられないぞ」

 

「え"っ………」

 

 

『竈火の館』に戻ればヘスティアに怒られることを伝えてやると、ベルは表情と身体が硬直した。

 

 

「あと、次の探索からはカサンドラとダフネも参加してもらうからリリに伝えておいてくれ。俺はこのあと、少しだけ仮眠を取ってからミアさんと早朝鍛練だ」

 

 

加えて、臭い消しの魔剣で歓楽街特有の臭いを消して置かないと獣人のルノアさん、アーニャさんを筆頭にLV.4 のリューさんやクロエさん、今日の鍛練相手であるLV.6 のミアさんに身体についた臭いがバレてしまう可能性がある。

 

あとは、鍛練が終わればカサンドラとダフネを連れて軽く『中層』で連携の練習をしないといけないと今日のスケジュールを脳内で思い返してみる。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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