臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈Sideケンマ〉
「はああッ!!」
「やああッ!!」
ベルから持ち込まれた『アルベラ商会』の冒険者依頼の話から二日、【ヴィクトリア・ファミリア】へと移籍したカサンドラとダフネを新たにパーティーへと加えて俺たちは依頼目標である14階層の食料庫付近まで来ている。
そう、来ているのだが、ベルと命が春姫のためにと随分意気込んでいるようで二人して『ライガーファング』の群れを一閃の下に仕止めてみせている。
「おいおい、ライガーファングを一閃かよ………見事なもんだな、ベルも命も」
「確かにそうですけど、この先の食料庫には飢えたモンスターたちが沢山集まっています。どうか、慎重に」
「ウチは問題ないと思うけどね。万が一の時は、うちの団長が魔剣で何とかしてくれるだろうし」
「ケンマの魔剣ってことは、ダフネやカサンドラもケンマの洗礼を受けたのか?」
「洗礼……確かにあれは洗礼だね」
「私もケンマさんの魔剣や【ステイタス】を見せてもらった時は、冒険者としての常識が一変しましたし」
俺が披露した『魔剣創造』をヴェルフは洗礼と呼称し、カサンドラは今朝見せた俺の【ステイタス】で今までの常識が一変したと述べる。
「ダフネ様とカサンドラ様の反応は仕方がないとリリは思います。ケンマ様は、規格外が人の皮を被った何かで、毎回何かしらの規格外なことをやらかさないと気が済みませんから」
「おい、リリ、流石の俺もそろそろ怒るぞ。そんなに規格外が好きなら、地上に戻ったあとでバベルよりも高い空の旅へ招待してやろうか?ええ?」
「り、リリみたいな孅い小人族を掴まえてそんな理不尽なことをしないでくださいッ!やるならヴェルフ様にしてくださいッ!!」
「リリスケ、てめえ、ふざけろッ!!」
「だ、誰もケンマさんが空を飛ぶことを否定しないんだ………」
「確かにリリルカの言う通り、うちの団長は規格外なのかもしれない」
「皆さん、近くにモンスターは居ません。今のうちに魔石の回収をしてしまいしょう!」
俺たちが話し込んでいる間もベルと命は意気揚々とモンスターたちを屠り続けて、それが終われば命の『スキル』である【八咫黒鳥】という索敵能力を持つスキルで過去に遭遇したことのあるモンスターの気配が周りいないことを確認すると、俺たちに魔石を回収するように促してくる。
それに従って俺たちも魔石の回収を早々に終わらせて、食料庫に続く道を進んでいると突然ベルから俺と命を除いた面々に感謝の言葉が送られた。
「ありがとう、ヴェルフ。リリも反対していたのに協力してくれてありがとう。それにカサンドラさんとダフネさんも僕たちの我が儘に付き合ってもらって、ありがとうございます」
「この間は厳しいことを言ったがな。それでもベルが何かしたいってんなら俺も最後まで付き合ってやる。ケンマも派閥は違うから贔屓目にはなっちまうがそれなりに付き合ってやる」
「うう……リリは完全に賛成した訳ではありませんよ!とは言え、取り敢えずダンジョンでお金を稼ぐことには文句はありませんので」
「ウチらは団長が決めたことなら無理難題でない限りは従うよ。それが人助けなら尚更ね」
「私たちもアポロン様が優しかったから団員になるだけで済みましたが、もしもアポロン様じゃなくて酷い神様に見初められてたら娼婦になってたかもしれないから」
リリはまぁ、好意を抱いているベルに新しいヒロイン候補が出現することに反対なのだろう。
そしてダフネとカサンドラは、最初こそ春姫を身請けしたいと話した時は糞野郎を見る眼差しだったが、しっかりと事情を説明してやると自分たちもそうなっていたかもしれないとIFの可能性を感じたのか、春姫を身請けすることに協力してくれている。
そんな時、ヴェルフがふと思い出したようにベルへとある道具について尋ねた。
「………あ、そう言えば。ベル、ヘルメス様が言ってたっていう、道具について何か分かったか?」
「あ……ううん……神様にも聞いたけど、何も知らないみたい」
「因みにどんな名前の道具なの?」
ダフネが興味本位でベルにそう尋ねると、ベルはこう答えた。それを聞いた俺は、ちょっと反応してみせる。
「『殺生石』って、道具なんだけど………」
「待て、ベル。今、殺生石って言ったか?」
「う、うん、そうだけど………それがどうしたの?」
「いやな、俺の故郷の観光地にも殺生石っていう巨大な岩があるんだ。んで、その殺生石は尾が九本ある狐の妖怪────強力なモンスターを封じ込めたという伝承があるんだよ」
「へぇ、極東にはそんな伝承があるんだね」
「自分もケンマ殿と同じ極東出身ですが、そのような伝承は初めて聞きました」
「あとは、その殺生石には毒性があるから触れると死んでしまう話も聞いたことあるな」
前世で偶々調べた『殺生石』ことをベルたちに説明してやると、皆もそんなヤバい道具のことを何故ヘルメスはベルに伝えたのだろうと考え出す。
しかし、ここはダンジョン。冒険者に牙を剥くダンジョンでは、尚且つリリが言っていたように腹を空かして飢えているモンスターたちが集まる食料庫の側で優しく考え事をする暇など、与えてくれる訳もなく新たにモンスターが食料庫の方がやってくる。
「前方からモンスターの群れが来ます!」
「命様、数は!?」
「数は────」
「いや、待て!」
「これは────」
最初こそ、命の【八咫黒鳥】でモンスターの群れがやってくると感知してくれたがLV.3 に【ランクアップ】したことで強化されている聴覚で俺とベルはモンスターとは異なる足音を捉えた。
その足音は、ここ中層ではあまり聞くはずもないペタペタと、まるで裸足で地面を蹴るような音に俺の警戒心が跳ね上がる。
「モンスターの叫び声に………足音」
「おいおい、またか?」
モンスターと冒険者、このパーティーセットにはカサンドラとダフネを除いた俺たちには嫌な思い出が脳にこびりついている。そう、『怪物進呈』である。
そして、間を置かずに視線の先から俺たちの後を追走してくるように外套を頭から被った冒険者たちとそれを追うモンスターの群れが飛び込んできた。
「前方から……食料庫からやって来たのですか?」
「別れ道まで引き返そう!」
「あの外套の連中が追われてんのか、まったく冗談じゃないぜ!」
顔が見えない冒険者たちに眉を曲げつつ、パーティーリーダーであるベルの指示で俺たちは転進、別れ道まで引き返すことにした。そんな最中、俺はこんな場面、アニメにあっただろうかと記憶を思い返すが大分細かい部分は忘れてしまっているので完全には思い出すことが出来なかった。
なので、無理に思いだそうとするのを止めて、今は『怪物進呈』に巻き込まれないように走ることに集中する。そして、十字路まで後少しの所まで差し掛かると先頭を走っている命から後を少しだと声が掛かる。
「もうすぐ十字路です!」
「右へ!最短でこの階層から抜け出そうしよう!」
パーティーリーダーであるベルの指示で、全員の頭は十字路を右へと転進すること決めて十字路に突入した矢先、まさかの右からも外套を頭から被った冒険者とモンスターたちが十字路に雪崩れ込んで来た。
「なっ……!?」
「左からも!?」
「くそっ!このままじゃ三方向から囲まれるぞ!?」
活路を作るために一気に【月牙天衝】でモンスターを屠りたいが、そのモンスターたちの前を走る冒険者が邪魔で撃とうにも撃てない。それに他の魔剣や聖剣を使おうにも、これまた冒険者の目があるので使いたくても使えない。
冒険者に見られながらでもこの状況を打破する策は一つしかないと、その手札を切ることにした。
「卍解!」
即座に『魔剣創造』の禁手である『天鎖斬月』を発動、そのまま【瞬歩】でまずはベルたちの周りにいるモンスターたちから高速で屠り、活路を開くために【プロモーション】の魔法を使う。
「【プロモーション・クイーン】!!」
禁手と【プロモーション】、【瞬歩】の三つによって今の俺はLV.5 の中位くらいにも匹敵する身体能力で活路を開くと後ろからリリとヴェルフの叫び声が聞こえてきた。
「ベル様!」
「ベル!」
「なにッ!?」
二人の叫びに反応して振り返れば、何故か空中で防御姿勢を取っているベルが唯一冒険者もモンスターもいない通路へと飛んでいくのが見えた。その光景から今回の三方向同時の『怪物進呈』を引き起こしたのは【イシュタル・ファミリア】なのだと確信した。
つまり、奴らの狙いはフレイヤに目を掛けられているベル。そして、俺だ。
そのことが分かるや否や俺は直ぐに活路を開いている途中のモンスターたちに振り返り、【月牙天衝】で一掃してからヴェルフたちの下へと地面を一蹴りして戻る。
「活路は開いた!全員脱出しろ!」
「ですが、ベル様が!?」
「ベルは俺が何とかする!いいから行け!!」
短い指示をヴェルフたちに残してから俺もベルが飛ばされた通路へと飛び込もうとするが、横から風を切るような音と聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「アンタはこっちだよ、【刀剣の支配者】!!」
「なっ………!?」
「ゲゲゲゲゲ!!」
「ぐっ!?」
ベルのことで頭が一杯になっていた所を突かれて、そいつが俺と並走していることに気付くのが遅れると、その太い腕で身体を力尽くで攫われベルとは別方向の通路へボールを投げるかのように投げ飛ばされてしまった。
ベルの飛ばされた通路や俺が活路を開いた通路とはまた別の通路のモンスターたちの群れが雪崩れ込んでくる通路へと俺は投げ飛ばされる中、背中に何十体ものモンスターたちが衝突して、その度に背中には何かを押し潰す感触と生暖かな液体に濃い血の臭いが襲った。
そして、地面を数回跳ねて投げ飛ばされた勢いが弱まった所で魔剣を地面に突き刺しながら勢いを殺し、体勢を立て直す。
「ここは……食料庫とは別のルームか?」
体勢が立て直せた所でまずは周囲を確信すると、不幸中の幸いなのか食料庫とは別のルームへと飛ばされたことに少しだけ安堵する。
けれど、直ぐに意識を切り替えて飛ばされてきた通路側に漆黒の魔剣を正眼に構える。すると、数秒もしないうちにズシズシと音を立てて奴は現れた。
「ゲゲゲゲ、なんだい意外とタフだね。本当にLV.3 かい?」
「やっぱりお前か………フリュネ・ジャミール!」
「おやおや、アタイのことを知っているのかい?やだねぇ、これだから人気者は……アタイがいくら美しいからってさぁ!」
「…………」
頬を赤らめさせながら手を添えるそのあまりの醜さに俺は思わず罵声が出そうになったが、口を抑えて言葉が出ないようにした。これだったら某オサレのバトル漫画に出てくるオカマのナルシスト仮面野郎の方がまだ増しに見えてくる。
流石にあのTHEトードの見た目でナルシストはヤバい。アポロンやヒュアキントス以上にヤバいと俺は心底思う。
「さて、お喋りはここまでにして、とっとお前さんをのしてイシュタル様の所へ連れて行かないといけなくてね」
「やっぱり、神イシュタルの仕業か」
「おや、そっちも気付いていたのかい。まぁ、どうでもいいことだけどねぇえ!!」
自分たちの目的やその指示役が誰であるのかがバレようとも、フリュネは左右の手に握っている戦斧の刀身を煌めかせてから俺に向かって肉薄する。
対して、俺も相手が相手なので最初から全力で向かい撃つようにフリュネへ肉薄。そして、互いに自分の間合いに入った所で得物を振り抜き、衝突すると階層を揺らす程の衝撃が生まれる。
「ぬらあッ!」
「はああッ!!」
戦斧と魔剣が幾度となく火花と金属を鳴らしながら衝突する。しかし、第一級冒険者クラスの斬擊の応酬に中層の地面では耐えきれなくなって来たのか、当然のように足元が崩落する。
「うああああああ!?」
「ゲゲゲゲッ!この程度の崩落で取り乱すなんて、まだまだ尻の青いガキだねェエ!!」
瓦礫と共に落下する中、近くにいるフリュネは長い冒険者歴からこの程度の崩落は馴れているのか全く動揺していなかった。いや、むしろ俺に笑みを浮かべながら戦斧を振り下ろそうとする余裕すらあった。
こっちは突然の崩落に動揺が収まらないのにこの糞蛙はと内心愚痴りながらも、フリュネの振り下ろしに合わせて【月牙天衝】を纏わせた斬り上げで対抗する。
「はあああッ!!」
「うおおおおッ!!」
空中で衝突する戦斧と魔剣、その衝撃で周囲にある瓦礫が消し飛ぶ中、確かな手ごたえと共に魔剣が戦斧を両断してみせた。
それを見た瞬間、やったと勝ちを確信したがそれがいけなかった。何故なら、フリュネにはもう一本戦斧が残っていた。
「まさか、ここまでアタイと殺りあえるとは思ってもみなかったがこれで仕舞いだよ、【刀剣の支配者】!!」
「クソッ、もう一本っ………!?」
二擊目の攻撃を魔剣を盾にして受け止めようとするが、不安定な空中ではそれも難しくフリュネの身体を使った二度目の振り下ろしによって下の階層である15階層へと叩きつけられてしまう。
勢いよく背中から叩きつけられたことで肺の中の酸素が無理矢理吐き出されて、呼吸が苦しくて踠き噎せていると今度はフリュネが俺の上に落ちてきた。
「があああああああ!!?」
「ゲゲゲゲゲ、良いところにクッションが落ちてたねぇ!」
フリュネの巨体が腹の上に勢いよく乗ってきたことで、禁手状態と【プロモーション】で『耐久』が上がっていたとしても限界があり、その限界を越えた所為か身体の骨たちがボキッバキッと嫌な音を立てる。
人のことを衝撃吸収の緩衝材だと宣うヒキガエルに苛立ちを覚えて力を入れて立ち上がろうとするが、フリュネはそれを許さなかった。
「まったく、本当にタフだね。けれど、今度こそこれで仕舞いだよ。沈みな、【刀剣の支配者】!!」
その言葉を最後に、さっきよりも強い力が俺の頭に叩き込まれて、アニメや漫画のように顔面が地面に陥没する未知の体験をしながら意識が真っ暗に染まった。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に