臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第百四十三話

 

 

 

 

 

〈Sideケンマ〉

 

 

 

「────!───ンマ!起きて、ケンマ!」

 

『────!───棒!起きろ、相棒!』

 

 

内と外から呼ばれる声でようやく俺の意識は目覚め始めた。

 

 

「ん、んん……んあ?何処だ、ここは……痛ッ!!」

 

「大丈夫、ケンマ!?」

 

「あ、ああ。所で、何処だここ?」

 

「多分、【イシュタル・ファミリア】の本拠地だと思う」

 

 

ベルの話を聞きながら辺りを見渡すとまるで何処かの拷問部屋のような場所だった。それにベル以外にも俺のことを呼ぶ声が聞こえたがもしかして─────

 

 

(ドライグ、聞こえるか?)

 

『ああ、聞こえるとも』

 

(お前の声が聞こえるってことは、ブーステッド・ギアの調整は終わったのか?)

 

『ブーステッド・ギア自体の調整は終わった。だが、禁手の方はもう少しだけかかる』

 

(どのくらいだ?)

 

『そう長くはかけん。ブーステッド・ギアの機能は使えるようにしておく。それで何とかここから脱出するんだ、相棒!』

 

(了解だ、相棒!)

 

 

久しぶりにドライグと会話をしながらブーステッド・ギアが使えるようになったと聞いて、次こそはヒキガエルのフリュネに勝つと決心を固めながら、まずは両手を縛っている手錠を何とかすることにした。

 

 

「と、ととと取り敢えず、ここから────」

 

 

脱出するか、そう言おうとする前に拷問部屋の唯一の入り口が開いた。入って来たのは、ダンジョンで俺にボディープレスを仕掛けたクソヒキガエルのフリュネだった。

 

 

「ゲゲゲゲ、やぁっと目が覚めたかい?」

 

「っ!」

 

 

フリュネが現れたことにベルは慌てて鎖を引き千切ろうと踠くが、鎖のジャラジャラとした音が響くだけでびくともしない。

 

 

「ゲゲゲゲ、逃げられないよ!」

 

「ひっ!」

 

 

この暗がりにフリュネの顔はマジもんのホラーでしかない。極力表に出さないようにしてはいるが俺もベルみたくパニックになりそうである。そして何より隣にいるベルはフリュネに顔を掴まれて、顔を蛙のように舌でベロリと舐められていることからその恐怖は計り知れないだろう。

 

せめて、目が覚めるのが春姫が助けに来る頃合いだったら良かったのにと、この時はそう思わずにはいられなかった。

 

よし、ここは恐怖から気絶の振りをしよう。そうすれば、怖くない。怖くない………はずだ。

 

 

「寝台へ行くか、それとも道具を使うか……」

 

「ま、待ってっ、お願いっ、待ってくださいっ───!?」

 

「ゲゲゲゲゲ、好きに暴れなぁ。ここはアタイだけの愛の部屋、いくら騒ごうが誰も来やしないよ」

 

 

俺は知っているが、ベルはフリュネの言葉を真に受けて誰も助けには来てくれないし、来れないのだとそう理解してしまい表情が凍る。

 

 

「ゲゲゲゲッ、いい表情だぁ。堪んないねぇ!さぁ、おっ始めるよ!!」

 

「ほぉッ!?」

 

「ぬホッ!?」

 

「チッ、どいつもこいつも縮こまりやがって。待ってな、精力剤を取ってきてやる。そいつを使えば、みんなアタイに夢中になる。あんた達もアタイにむしゃぶりつきたくなるのさ。すぐに盛った兎のようにしてやるからねぇ」

 

 

俺たちのゴールデンボールを鷲掴みしてから息子の状態を確認し、準備が出来ていない(できるか!)ことにフリュネは舌打ちをして精力剤を取るために、一度拷問部屋から去っていった。

 

 

「………こっうぇえええええ!?ヤバいヤバい、早く逃げるぞベルゥゥウウウ!!」

 

「う、うん!」

 

 

拷問部屋からフリュネが去ったあと、遅れてやってきた恐怖に精神を蝕まれながらブーステッド・ギアを具現化させると、内側から形成される籠手に鎖が耐えきれずに弾けるように崩壊する。

 

一体、なんの素材で作られてるのかは分からないがこの鎖はただの鉄ではない。多分、ミスリルかアダマンタイト辺りの希少鉱石を使っているはずだが、何とか壊せて良かった。もしも、壊せなかったら籠手の内側で鎖がどうなっていったか想像も付かない。

 

 

「よし、まずは左腕!」

 

「ブーステッド・ギア!?」

 

「次は右腕だ」

 

『Penetrate‼』

 

 

ブーステッド・ギアの第三の能力である『透過』で右腕の鎖を透過────すり抜けさせて、右腕の拘束を解放させる。右腕が自由になった所で次はベルの両腕を『透過』の能力で解放させてやろうとすると、再び拷問部屋の入り口が開いた。

 

 

「げっ、もう帰って来たのかよ!?」

 

「ひぃ!ケンマ速く!!」

 

「ま、待て慌てるな!」

 

 

ベルを縛っている手錠を解放するよりも早く、拷問部屋の入り口が開いたことでまたしても恐怖心に煽られながら何とか『透過』の能力でベルを解放してから、禁手が使えないブーステッド・ギアを解除してから『魔剣創造』の禁手を発動。

 

フリュネが姿を表した瞬間、【月牙天衝】で入り口ごと吹き飛ばして逃げてやろうと身構えるが、入って来たのは何と春姫だった。

 

 

「イシグロ様、クラネル様、ご無事ですか?」

 

「は、春姫?」

 

「は、春姫さん?」

 

「「………は、はぁぁぁ」」

 

「マジで今のはびびったは………」

 

「僕も流石にもう駄目かと思ったよ………」

 

 

助けに来てくれたであろう春姫を他所に、俺たちはみっともなく安堵から来る脱力感に逆らえずにその場にへたり込んでしまう。

 

今思えばアニメだと、この拷問部屋と連れて来られたベル・クラネルを助けたのは春姫じゃないか。何でさっきまで覚えていたのにこのことを忘れていたんだろう。忘れていたのは、フリュネの恐怖による影響だろう。そうとしか考えられない。

 

 

「わ、悪いな、春姫。せっかく、助けに来てくれたのに……こんなみっともない姿を見せて」

 

「本当に助けに来てくれた春姫さんでよかったぁ。もしも、薬を持って戻って来たフリュネさんだったら………考えたくもないよ」

 

「いえ、お二人ともご無事で何よりでございます」 

 

 

その後、春姫に先導される形で俺たちは拷問部屋から脱出を試みることにした。その道中、どうやって春姫が俺たちのことを探し当てたのかと疑問を抱いたベルは彼女に尋ねた。

 

 

「ところで、どうして春姫さんは僕らがここに居るって分かったんですか?」

 

「実は私、宮殿でフリュネさんがこの通路を使用しているところを見たことがあって……喋ったらタダではおかない、と言い付けられ、誰にも話していなかったのですが……」

 

「えっ……そ、それじゃあ春姫さんが」

 

「いっそのこと、拷問部屋を破壊してから来るべきだったか」

 

 

これまた恐怖心のあまり、一秒でも早く拷問部屋から出たいという本能から出る危機感によって、俺たちを助けに来た春姫のその後のことを考えられなかったことに後悔が生まれた。

 

なにより、この後の展開で俺は春姫をどうやって救おうかに頭を悩ませている。カサンドラの予知夢通りなら、俺は今夜には『真紅の赫龍帝』を使えるようになってフリュネと一対一で戦い、春姫を救うらしいのだが真『女王』をどうやって覚醒させるのかがイマイチ答えに行き着かない。

 

いや、もう答えは出ている。しかし、それだけは何としても避けたい。何故なら、俺が社会的に殺されてしまう予感がビンビンだからだ。そんなことに頭を悩ませていると春姫からこう告げられた。

 

 

「私はもう、いいのです」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

〈Sideヴィクトリア〉

 

 

 

「命たちが攫われたって本当か!?」

 

 

大きな音と共に扉を開けて【ヘスティア・ファミリア】のリビングへと入ってきたのは、命の元主神であるタケミカヅチだった。

 

 

「ああ、本当だよ。ダンジョンでベルくんやケンマくんも一緒に………すまない、ヴィクトリア、タケ」

 

「それでケンマたちを攫った冒険者たちの身元は分かっているのかしら?」

 

「ローブで姿を隠していましたが………リリたちを嵌めようとした冒険者たちの種族は、全てアマゾネスでした」

 

「ケンマが作ってくれた逃げ道で数回そいつらと戦ったが、あの強さは間違いなく戦闘娼婦だ」

 

「【イシュタル・ファミリア】……」

 

 

リリルカ、ヴェルフ、千草の三名の口から放たれた単語からわたしは、何故ケンマとベルが【イシュタル・ファミリア】に狙われたのか心当たりが生まれた。

 

 

「もしかして、春姫って娘が関わってるんじゃ……」

 

「どういうことだ、ヴィクトリア? なぜ、お前が春姫のことを知っている。」

 

「それは────」

 

 

わたしの呟きを聞いて、タケミカヅチが反応した。

 

なので、順を追ってケンマが歓楽街に行き、春姫と出会い、それから彼女を身請けする話をタケミカヅチに説明すると何故わたしが春姫のことを知っているのかは理解したけど、誘拐の件については納得がいっていなかった。

 

 

「春姫が【イシュタル・ファミリア】に居ることは知っていたが、まさかケンマがあの娘を身請けしようしていたなんて知らなかったな」

 

「ケンマの話によれば春姫って娘はただの構成員のようだし、それが原因でイシュタルが動くとは、わたしは思えないわ」

 

「あ、そういえばベルくんがイシュタルのことで何か言ってたな。確か……ヘルメスが『殺生石』っていう道具がイシュタルの所に────」

 

 

そこまでヘスティアが言うと、突然タケミカヅチが血相を変えてヘスティアに掴み寄った。

 

 

「────それは本当か!? 本当に『殺生石』と言っていたのか!?」

 

「あ、ああ………」

 

「………!!」

 

 

ヘスティアの返答を聞いて、タケミカヅチは信じられないような顔をしたあと彼女の肩を掴んでいた手を離してからソファーに座り直し、手を組んで俯いてしまう。その豹変振りに、タケミカヅチの眷属である千草が恐る恐る『殺生石』について尋ねた。

 

 

「あの……『殺生石』って……?」

 

「『殺生石』とは………狐人の魂を封じる禁忌の魔道具だ」

 

「魂?なんのためにそんな………」

 

「簡単に言えば、その石を持つだけで狐人の強力な『魔法』────『妖術』を使えるようになる」

 

「魔法の発動装置……ということでしょうか?」

 

 

リリルカの問いにタケミカヅチは頷く。

 

けれど、タケミカヅチの答えにダフネが尋ねる。

 

 

「ねぇちょっと待って、ウチらの知ってる『殺生石』とタケミカヅチ様の言ってる『殺生石』が全く別なんだけど、どういうこと?」

 

「別だと?」

 

「うん。ウチらもダンジョンで『殺生石』についてベル・クラネルから聞いてたんだけど。うちの団長が『殺生石』は、極東の観光地にある巨大な岩で尾が九本ある狐のモンスターを封じ込めた物だって………」

 

「でも、ダフネちゃん。タケミカヅチ様の話を聞いてると封じ込めるって意味合いじゃあ、どちらも狐を封じ込めることになるんじゃあ………」

 

「おい、【悲観者】!春姫は狐のモンスターではなない、歴とした狐人で俺たちと同じ人間だ!!」 

 

「す、すみません!?」

 

「落ち着け、桜花。どうやら俺が知っている『殺生石』とケンマが言っている『殺生石』とでは、多分伝わり方が異なるのだろう。ケンマが言っていたのは、恐らく過去にいた狐人が強力な妖術を用いて人々を苦しめていたがために狐のモンスターと恐れられ、そう伝わってしまったのだろう」

 

「………なるほど、そういうことですか」

 

 

タケミカヅチの補足によって、ケンマの言っていた『殺生石』とタケミカヅチの言っている『殺生石』との伝わり方が異なってしまった原因は分かった。

 

でも、話はそれでは終わらない。

 

 

「つまり、その『殺生石』ってのは俺たち鍛冶師が打つような魔剣みたいな物ってことですか?」

 

「いや、魔剣以上かもしれない。『殺生石』は欠片だけでもその効果を発揮する」

 

「欠片だけで?」

 

「ああ。小さく分かれてしまった欠片でも、持てば同じように妖術の使用が可能だ」

 

 

『殺生石』という魔道具のあまりの破格の効果に、わたしは言葉を失う。

 

 

「それ故、『殺生石』は魂を封じてすぐに、砕かれる」

 

「ま、待ってください!く、砕くって……じゃあ、そこに封じられた魂は!?狐人の魂はどうなっちゃうんですか!?」

 

 

狐人の魂を封じ込めた『殺生石』はすぐ砕かれると聞いて、千草は砕かれたあとに訪れるであろう最悪の流れを連想したのか、それをタケミカヅチに問いかけると他の皆も次第に気付き始めた。

 

そして、彼から告げられたことは残酷な答えだった。

 

 

「砕かれた石は、元には戻らない。封じられた魂も少なくとも、元通りにはいかん。残った破片を全てかき集めて魂を戻したとしても、赤子も同然の人形か……あるいは廃人か」

 

「それじゃあ、春姫ちゃんは………」

 

 

タケミカヅチから明かされた『殺生石』が砕かれたあとの末路を聞いて、千草はその場で崩れそうになるがそれを桜花が抱き止める。皆、言葉にはしないが【イシュタル・ファミリア】という巨大な相手に何も出来ないことに悔しさを隠し切れないのか俯くことしか出来ない。

 

しかし、そんな中で一人だけ希望を見いだしていた。何を隠そう、それはいつも悲観的なカサンドラだった。

 

 

「だ、大丈夫だと思います!」

 

「え?」

 

「多分、ケンマさんは最初からこうなることを分かっていたんだと思います」

 

「どういうことかしら、カサンドラ?」

 

 

カサンドラのケンマが最初からこうなることを分かっていたという言葉に、わたしは疑問を隠し切れなかった。

 

 

「私とダフネちゃんが『豊饒の女主人』で改宗した時、ケンマさんは私に予知夢を見ていないかと聞いて来たんです」

 

「ああ、あったあったそんなこと」

 

「それでケンマさんに予知夢の内容や予知夢で見たもので具体的に表現できそうなものを伝えたんです。そうしたら、予知夢の内容が分かったのか少し厄介だと言っていたんです」

 

「その厄介って、確か………どこぞの兎が嫉妬の女神に狙われるってやつかしら?」

 

「はい、そうです」

 

 

わたしにもカサンドラが言っているエピソードに覚えがある。

 

 

「どこぞの兎………ベルくんだね」

 

「嫉妬の女神はイシュタルか」

 

「それで、どうして春姫は大丈夫ということになるんだ【悲観者】」

 

「私が見た予知夢だと、燃える街の中で満月に照らされながら真紅(あか)い龍の戦士と蛙みたいな大きい人が高い場所で戦うんです。そして、金色の姫君は救われると………」

 

 

そこまでカサンドラが予知夢の内容をわたし達に伝えると、ヴェルフとリリルカ、ヘスティアが笑みを浮かべ始めた。

 

 

「フッ、なら安心だな。なんせ、赤い龍が出てくるんだからな」

 

「ええ。赤い龍が戦って、金色の姫君も救われるのであれば、春姫様の魂は大丈夫だとリリも思います」

 

「確かに赤い龍が居れば大丈夫なんじゃないかな」

 

「どうして、お前たちはその赤い龍とやらが戦えば春姫が救われると分かるんだ!?」

 

 

ヘスティア、ヴェルフ、リリルカの【ヘスティア・ファミリア】だけが理解できた内容に、理解が出来ていない側のタケミカヅチは何故と尋ねる。

 

 

「だって─────」

 

「なんせ─────」

 

「なにせ─────」

 

「「「赤い龍は囚われの女神すら救ってみせる規格外だから」」」

 

 

三人は揃って、そう答えた。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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