臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第百四十四話

 

 

 

 

 

〈Sideケンマ〉

 

 

 

 

「もういいって、どういうことですか?」

 

 

儚く微笑みながら告げられた春姫の言葉をベルは聞き返す。

 

 

「お気になさらないで下さい」

 

「え?」

 

「あなた方を逃がすのは、私の最後の我が儘。アイシャさんたちもきっと大目に見てくれます」

 

「でも、春姫さん………」

 

 

俺たちを拷問部屋から助けたことで、春姫はフリュネによって叱責や暴力を受けるのではないかと危ぶんだベルが何かを言うよりも先に、春姫がベルの口を手で抑えて、それ以上は何も言わなくとも良いと態度で示した。

 

 

「はしたない真似をして申し訳ありません。とにかく急ぎましょう」

 

 

春姫の指示にしたがって、追われている俺たちは彼女の背中を追う。

 

しばらく回廊を歩き、秘密の出入口を開いて外に出ると、時は夕方なのか空が茜色に染まり始めていた。朝からダンジョンで冒険者依頼を遂行するために食料庫に向かい、モンスターと戦い、戦闘娼婦に『怪物進呈』を仕掛けられ、フリュネと戦い、拷問部屋からの脱出劇と濃厚な一日を送っている。

 

 

「もう、夕方か………」

 

「みたいだな。ほら、春姫」

 

「ありがとうございます」

 

 

空を仰いでから春姫に手を貸してやり、地下に繋がる秘密の出入り口から引き上げる。春姫を引き上げてから周りを見渡すと、幅広の路地裏で周囲に建ち並ぶのは打ち捨てられた古い娼館だと春姫が教えてくれた。

 

周りの古い娼館の中に娼婦がいる気配が感じられないので、この場所なら誰かに見つかる心配はそこまで高くはなさそうだ。

 

 

「春姫さん、ここは?」

 

「以前、お二人をお連れしたダイダロス通りへと抜ける道です。夜になる前に歓楽街から逃げてください」

 

「で、でも命さんを助けないと!」

 

 

やはり、アニメ通りに命も捕まっていたのか。フリュネの相手を俺がしていたので、もしかしたら命は捕まらないかもと思ったがどうもそうではなかったらしい。

 

俺たちが命のことを案じていると、春姫から今は状況が悪いため、俺たちの代わりに彼女が命のことを助けると申し出る。

 

 

「命様の事は私にお任せください。沢山の団員がイシグロ様とクラネル様を探しています。私の方が自由に動けますから………」

 

「それだと春姫さんに迷惑が……」 

 

「クラネル様、これを見てください」

 

 

ベルがこの場に踏み止まろうするが、春姫は自分の首元に付けられている黒い首輪を示した。

 

 

「これは私の居場所を知らせる魔道具……見えない鎖に繋がれた『首輪』でございます」

 

「えっ……?」

 

「やっぱり、そうか。でなければ、こんなにも簡単に俺たちが逃げられる訳がない」

 

 

春姫の『階位昇華』という破格の魔法を知っているイシュタルの立場になれば、春姫に首輪を付けて置きたくなるのも頷ける。万が一にも逃げれられ、その先が憎き【フレイヤ・ファミリア】であった場合は目も当てられない。

 

ならば、そうならないように首輪を付けて、常に位置を知り、脱走しようものならば目に見えない鎖を引っ張り、行く先を阻む。そのための首輪だ。

 

 

「私の行き先は常にイシュタル様に筒抜けなのです。歓楽街から一歩でも出ればこの首輪は音を立てて鳴り響き、首を焼いて身動きを封じ、追手の方々が駆け付けてくるでしょう」

 

「そんな………」

 

「気付かれてしまえば、ここにもきっと、すぐに誰かが追ってきます。私は、ここまでです」

 

「なら、その首輪を壊さずに取り除けばいいか?」

 

 

さっきの拷問部屋で確信したが、アルテミスやベルの時みたく対象者または対象物に触れたままブーステッド・ギアの『透過』の能力を使えば、俺が触れているのものはそのままに他は全てすり抜けることができるはずだ。だから、今回は春姫の首に付けられている首輪を触れた状態で『透過』を使えば、春姫をすり抜けて首輪を外すことができるはずだと俺は思っている。

 

なので、詳しいことは春姫には伝えずに首輪を壊さず取り除けば、共に来るかとそう尋ねたのだが、タイミングが悪いことに空から命が降ってきた。

 

 

「ベル殿、ケンマ殿、春姫殿!!」

 

「命さん!?」

 

 

どうやら、命は春姫が用意した鍵を使って自力で【イシュタル・ファミリア】の本拠地である宮殿から抜け出して来たようで、肩で息をしている。

 

 

「無事でよかった!」

 

「お二人も無事でよかったです」

 

「どうしてここが?」

 

「探知スキルでベル殿の反応を見つけました。ケンマ殿や春姫殿も一緒でよかった」

 

 

俺たちをどうやって見つけたかを答えてから深呼吸をして、息を整えてから春姫へと振り向き、真剣な眼差しで質問をする。

 

 

「………春姫殿、お聞きたいことがあります」

 

「なんでしょうか?」

 

「『殺生石』の儀式の事です」

 

「!!」

 

 

命の質問に春姫は劇的に反応して、肩を震わせ、目を見開き、俯いてしまう。また、ベルも春姫は反応にこれは何かあると勘づき始めていた。

 

 

「嘘だと言ってください!今夜……あなたが犠牲になるなんて!?」

 

「春姫さんが………犠牲?」

 

「………」

 

「春姫殿!」

 

 

何も否定も答えもしない春姫に命が叫びながら詰め寄ろうした所で、何者が風を切りながら春姫を掻っ攫って、古い娼館の屋根の上へと降り立った。

 

その正体は、黒の長髪をなびかせながら俺たちを見下ろす【イシュタル・ファミリア】の幹部の一人で、【麗傑】の二つ名を持つアイシャ・ベルカだった。

 

 

「アイシャさん……!」

 

「ヒキガエルに喰われなかったのは幸いだが、面倒を増やすんじゃないよ」

 

「あなた達の目的は何なのですか!」

 

 

命の叫びにアイシャは春姫を抱き抱えている方とは反対の手に握っている大朴刀の切っ先を俺たちに向けながらこう明言した。

 

 

「戦争さ!」

 

「「!?」」

 

「私達は、【フレイヤ・ファミリア】を潰す。それが神の思し召しなのさ」

 

「そ、そんなの!?」

 

「無理だと思うかい?確かに相手はオラリオ最強の【ファミリア】……だが、私には春姫がいる!」

 

 

春姫の『階位昇華』のことを知らないベルは、アイシャの言っている春姫がいるから【イシュタル・ファミリア】は【フレイヤ・ファミリア】に勝てるという意味が理解出来なかった。理解出来ているのはベル以外の俺たちだ。

 

それ故にベルは、アイシャに聞き返す。

 

 

「【フレイヤ・ファミリア】との戦争に、春姫さんと何の関係が!?」

 

「鈍いね!春姫には力がある。私にダンジョンでやられたろう?」

 

「まさか、あの時の……!?」

 

「『レベル・ブースト』、それが春姫の妖術さ!」

 

 

アイシャから明かされた春姫の持つ超レア妖術に、ベルは驚きのあまりあんぐりと口を開け、その隣にいる命はその超レア妖術の所為で春姫が今夜生け贄にされてしまうこと、【イシュタル・ファミリア】の宮殿で見た情報と同じだと唇を噛む。

 

俺は、この後でどうやって春姫を助けるかの脳内シュミレーションをしている。だって、ここの話は知ってるしね。

 

 

「今夜、春姫は生け贄になる。私たちの力になるためにね」

 

「……待ってください、待ってくださいよ!さっきから何を言ってるんです!?それじゃあ、まるで春姫さんが死ぬみたいな!?」

 

「死ぬんだよ。今夜、春姫は死ぬ。ずっと前から決まっていたことさ」

 

「そんな……そもそも『殺生石』は九本の尾を持つ狐のモンスターを封じるための道具のはずじゃあ!?」

 

「誰だいそんな出鱈目なことを言った馬鹿は。『殺生石』は狐人専有の魔道具さ。効果は生け贄にした狐人の妖術を他の奴らでも使えるようになるって優れものさ」

 

「……なん、ですか……それ。同じ【ファミリア】の団員を、家族を、なんだと思ってるですか!?戦いの道具にして、使い捨てにして!そんなの……絶対に間違ってる!」

 

 

ベルの心の底からの叫びに、アイシャは目を細めて睨み返す。

 

 

「言うじゃないか……なら、春姫を奪っていくかい?───なら戦争だね、お前らの【ファミリア】とも!」

 

「「!!」」

 

 

アイシャから放たれた春姫を狙うのであれば【ヘスティア・ファミリア】とも戦争を辞さないという言葉に、ベルと命は思わず辟易してしまう。

 

けれど、俺は違う。ここは覚悟の決め時だと思い、覚悟を決めてアイシャの売り言葉に買い言葉で返す。

 

 

「上等だ!取り敢えず、二人を逃がしたらテメェらの本拠地に乗り込んでやるから覚悟しやがれ!!」

 

「本気かい?」

 

「ああ、本気だ。テメェらこそ、誰の推し()に手を出したのかよく考えておけよ?」

 

 

本気の殺気と何の制限を掛けることなく感情のままに龍のオーラを解放してアイシャだけにぶつけてやると、あからさまにアイシャは一歩後退して冷や汗を流した。

 

俺に対して恐れを抱いたアイシャの態度を見れただけでも十分だと判断してから、一度殺気とオーラを納めてから優しく春姫に語り掛ける。

 

 

「春姫、少しの間だけ怖くて危ない目に合うと思うが、少しだけ待っていてくれ」

 

「イシグロ様……」

 

「必ず、お前を迎えに行く。約束だ」

 

 

出来るだけ優しく笑顔で春姫にそう言い残して、俺はベルと命の襟首を掴んでその場から移動する。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

〈Side春姫〉

 

 

 

 

「あいつは、【刀剣の支配者】は来るよ」

 

「え?」

 

「あいつは雄の───いや、ただの雄じゃない。まるで、ドラゴンのような眼を私に向けていた。本気で私たちと戦争をしてでもあんたを迎えに来るつもりだよ、春姫」

 

「そんな……私は……私を助けに来るような価値など……」

 

「あんたはそうでも、あいつはそう思っていない」

 

 

どうして、あなた様はこんな卑しい私を助けようとしてくれるのですか?どうして娼婦に身を堕し、汚れた女の私を救おうとしてくれるのですか?

 

私は、あなた様のような『英雄』様に救われる資格など………ないのに。

 

口には出来ない言葉を胸の奥で思っていると何時ぞやの夜に交わしたイシグロ様の言葉を思い出した。

 

 

────英雄は娼婦を助けない、ねぇ……。なら、娼婦のお前を鳥籠から連れ出す存在がドラゴンならどうだ、春姫────

 

────英雄でないドラゴンならば、娼婦であるお前も連れ出して、救ってみせても問題はないはずだ────

 

 

「英雄様でない、ドラゴンなら」

 

 

あの方は、イシグロ様は最初から本気で私のことを救おうと決めていた?もしも、もしもそうであるならば私はなんて幸せ者なのでしょう。

 

父からは、母を奪い、サンジョウノ家の品位を奪う疫病神とばかりに罵られ、捨てられたこの私をあの殿方は見初めて下さった。

 

求めても良いのでしょうか?もう一度、あの憧れた英雄譚のように。救いに来てくださるのは英雄様ではないけれど、自分のことをドラゴンと称したあの方にこの身が救われることを望んでも許されるのでしょうか?

 

 

「イシグロ・ケンマ様」

 

「ふっ、行くよ春姫」





またやらかしている主人公…………。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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