臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈Sideベル〉
『殺生石』の生け贄にされそうになっている春姫さんを助けるため、僕と命さんはケンマより遅れながらも殺生石の儀式を妨害するために【イシュタル・ファミリア】の宮殿に乗り込んだ。
何とか儀式が行われる空中庭園へとたどり着いて、『殺生石』を壊す機会を物影から伺っていると突如として春姫さんの魂を封じ込めようとしていた『殺生石』と彼女を空中庭園の祭壇に繋ぎ止めている鎖が砕け、千切れた。
何がどうなっているのか、全く状況の理解が追い付かないでいると今度はフリュネさんとアイシャさん以外のアマゾネスの人達が瞬く間に軽く吹き飛んで戦闘不能に陥っていった。こんな出鱈目なことをやってのけるのは僕は一人しか知らない。そう、ケンマだ。彼なら、こんな出鱈目なことをやってのけるとそう思っていると、やっぱりケンマの仕業だったのか、その手には見たこともないまるでリリが使うバリスタやボウガンのような武器を持ったケンマが高い場所から降りてきた。
ケンマが姿を現したあとも僕たちの驚きは尽きなかった。一度ダンジョンでフリュネさんに負けてしまった彼だが、彼は二つの理由から本気を出せなかったが為に負けたと述べた。一つ目は、ギルドが関係しているため詳しくは説明できないみたいだけど、ケンマ曰くダンジョンの中では本気で戦えないようだ。
二つ目、僕はこれが決定的な理由だと思っている。それはケンマの奥の手であるブーステッド・ギアが使えなかったこと。最初からブーステッド・ギアが使えていて、その奥の手のブーステッド・ギア・スケイルメイルも使えていたならば例え第一級冒険者のフリュネさんが相手でも負ける訳がない。
そしてそれらの理由を述べながらケンマは二ヶ月振りにブーステッド・ギア・スケイルメイルをその身に纏った。しかし、それで終わりではなくケンマはまさかの長文詠唱を始めたのだ。
「『我、目覚めるは王の真理を天に掲げし、赤龍帝なり!』」
『汝らは、王の真理を天に掲げし者なり!』
「『無限の希望と不滅の夢を抱いて、王道を往く!』」
『無限の希望と不滅の夢こそ、汝らが刻む王道なり!』
「『我、紅き龍の帝王と成りて────』」
『汝らは赤を超越せし、真紅の帝王なり!』
「『汝を真紅に光り輝く天道へ導こう───ッ!』」
『汝らは、我らを真紅の天道に導く龍帝なり!』
詠唱が終わるとケンマの鎧が赤よりも紅い色へと変色して、鎧の形にも変化があり、彼から放たれる存在感は今までにないほどに強烈なものとなっていた。
それだけでも僕は驚いているのに、フリュネさんが春姫さんに自分へ『階位昇華』の魔法をかけるよう指示を出すと、あろうことかそれを止めることなく寧ろ敢えて春姫さんに魔法をかけさせるように促すという信じられない行動に出たのだ。僕も命さんも春姫さんに『階位昇華』の魔法を使わないよう止めるが、彼女はケンマの言葉を信じてフリュネさんに魔法をかけてしまった。それによってフリュネさんは一時的にアイズさんと同じLV.6 へと【ランクアップ】を果たしてしまうが、結果的に今のケンマには通用しなかった。
『階位昇華』を受けたフリュネさんを見て、ケンマはお互いに全力で戦う準備が出来たと認識して、フリュネさんと次のような会話を交わす。
「ゲゲゲゲゲ!これでアタイはLV.6 になった。たかがLV.3 ごときの雑魚がどう足掻いた所で勝てやしないよ!」
「そうか。お互いに準備が出来たみたいだから、先行は貰うぞ」
そう述べて鈍い打撃音が耳に届いた刹那、ケンマの姿が消えており、慌てて探すとフリュネさんがいた場所にいつの間にか移動していて、代わりにフリュネさんの姿がなくなっていた。
本日二度目になるけど一体、何が起きているのか理解が追い付かない現実に困惑していると宮殿の方から鼻から血を流して目を血走らせて激昂しているフリュネさんが現れた。そのことでケンマが僕たちが捉えることのできない速度でフリュネさんに近づいて、そのままフリュネさんを宮殿の方へと吹き飛ばしたのだということだけが理解出来た。
「よ、よくもアタイの美しい鼻を折ってくれたねぇ!もう許さねぇ!挽き肉にしてやる!!」
「あのヒキガエル 、完全に頭に血が上ってやがる」
「上等だ。ダンジョンでのお礼を返してやる!」
激昂しているフリュネさんを相手にしてもケンマの戦意は下がることはなく、再び僕らでは捉えることのできない速度でフリュネさんと肉薄したのか、今度はケンマの雄叫びとフリュネさんの悲鳴でやっぱりケンマが戦局を押しているのだと分かった。
「ぶっ飛べぇえええ!!」
「ぐッぴぎやぁぁあああ!?!」
次に目視で捉えた時には、ケンマの新しい紅い鎧の右腕だけが不思議と大きくなっていた。そのことに気付いた後、彼は右腕を元の大きさに戻すと僕のことを約三秒ほど指で示し親指だけを立てた手の形を作ると、直ぐに殴り飛ばしたフリュネさんを追いかけて宮殿へと消えて行ってしまった。
その行動だけでケンマが意図している意味が僕には理解出来た。次は僕の番だと、ケンマはそう言いたかったのだろう。そして親友の僕ならば、今の手の形だけでそれが伝わると信じてくれたのだ。
「【リトル・ルーキー】、【刀剣の支配者】が使ってるあの力はなんだい!? あそこまでフリュネが一方的にやられるなんて、早々見れるもんじゃないよ!!」
「ケンマの言っていた通りです。力の象徴と称されし赤き龍の帝王、赤龍帝の力をケンマは使っているんです!」
「赤龍帝………では、イシグロ様は本当に今代の赤龍帝であり、あの時、私たちにお話してくださった物語は……」
「実在した物語だと言っていました」
僕と春姫さんだけがケンマに聞かされた先代赤龍帝、ヒョウドウ・イッセイの物語。あれはケンマが作った空想の物語だと彼女はそう前置きされていたからケンマが赤龍帝であることに驚いていたのだろう。
僕自身、あの物語を語られる前からケンマにブーステッド・ギアや『魔剣創造』、『聖剣創造』、《エクスカリバー》たちの名前や効果を聞かされていなければ春姫さんと同じように驚いていたはずだ。
「あっ、そうか。だから、ケンマは春姫さんを助けようとしてるのか」
「どう意味だい、【リトル・ルーキー】」
「ケンマは春姫さんが先代赤龍帝が助けたとあるシスターと似たような境遇だから赤龍帝として、ケンマも春姫さんを助けようとしているということです」
「何故、春姫殿とその先代赤龍帝が助けたシスターが似てると?」
「そのシスターは春姫さんと同じ金髪で翡翠のような瞳を持ち、聖書の神が作ったとされる様々な奇跡の力が備わっている武具を宿していた。それはまるで、僕たちの知る神様たちが授けてくれる【恩恵】のように!」
「あっ………!」
そこまで説明すれば春姫さんも思い出したのだろう。
先代赤龍帝が助けたシスター────アーシア・アルジェントがどうして先代赤龍帝に助けられるような状況になったのかを。
「しかし、心優しいシスターはレイナーレという堕天使にその身に宿る力を利用されて儀式の生け贄にされてしまう。それはまるで『殺生石』の儀式の生け贄にされる今の春姫さんみたいに!」
「「ッ!!」」
「そして儀式を止めて、心優しいシスターを助けたは他でもない先代赤龍帝だ。だからこそ、今代の赤龍帝であるケンマも同じ境遇の春姫さんを救おうとしてるんだ!」
「嗚呼……イシグロ様……あなた様は本当に私のことを……」
何故、ケンマが春姫さんを救おうとしているのか。本人は推しだとか言ってたけど、その実、真意はシスター・アーシアを助けた先代赤龍帝のようにケンマも春姫さんを助けようとしていたのだ。
それはまるで僕が憧れて、オラリオでなりたい『英雄』のように………。
春姫さんもケンマは自分をドラゴンだと言っていたけど、行動そのものは僕らの憧れた『英雄』と何ら変わらず。自身がケンマという『英雄』に救われようとしていることに歓喜の涙を流し始める。
「フリュネさんはケンマが必ず倒す。なら、アイシャさん、あなたは僕が倒す!」
「へぇ、意気がるじゃないか。【刀剣の支配者】がフリュネを簡単にぶっ飛ばしてみせたから私の出番はないかと思っていたが、今のあんたなら十分相手にする価値はありそうだ!掛かってきな、【リトル・ルーキー】!!」
「いきます!」
戦局的には既に僕たちの方へ完全に傾き、時期にケンマも戻ってくる。そうなれば春姫さんの安全は必然的に確保される。けれど、アイシャさんとの戦いはケンマが言っていた通り、ダンジョンでのリベンジマッチで僕は負けたままではいたくなかった。
なにより、僕だって今だけは春姫さんの『英雄』になるとそう決めてここに居るんだ。なら、『英雄』にならないで終わるなんてそんなのは、絶対に認められる訳がないだろう!
「はあああああ!!」
「ははははははははははッ!!」
互いの体を行き交わせし、技術と駆け引きで錯綜し、縦横無尽に二本の短剣と短刀で大朴刀と斬り結ぶ中でアイシャさんは楽しそうに笑っていた。
「本当にいい雄になったよ、【リトル・ルーキー】!傲慢で、荒々しくて、強い……だからこそ雄と交わるのは止められないんだ!!」
強い!ダンジョンでもアイシャさんは強いと思っていた。けれど、『階位昇華』がなくてもこんなに強いだなんて! これが戦闘経験の差!?
でも、負けられない。対人の戦いは何度もあの人に───アイズさんに教わってきた。それにアマゾネスとの戦い方はティオネさんにも教わった。
「ッッ───ぐぁああああ!!」
「女達の血を騒がせるのは、いつだって男達なんだ!!」
空中天園の上を高速で移動しながら、一撃と一撃を衝突させて衝撃で空気を揺らし、金属音を高らかに戦場の歌として響かせながら一進一退の攻防が繰り広げられる。
やがて、女戦士としての性が最高潮に達してきたのかアイシャさんは縦横無尽に動きながら詠唱を唱え始めた。
「【───来たれ、蛮勇の覇者!雄々しき戦士よ、たくましき豪傑よ、欲深き非道の英傑よ】!」
「あれは平行詠唱!?ベル殿!!」
「くッ……!?」
アイシャさんの口から紡がれる詠唱の声音は力強い。それだけで、今行っている平行詠唱が一朝一夕ではなく何年もの年月を積み重ねてきた歴とした技術だと理解できる。
このままじゃ魔法が完成してしまう。しかし、何度詠唱を止めようとしてもアイシャさんの詠唱が止まることはない、まるでヒュアキントスさんとの戦いの時と同じだ。
「【女帝の帝帯が欲しくば証明せよ】!」
そこまで考えた僕は、一つの賭けにでることにした。
「せああああああ!!」
「【我が身を満たし我が身を貫き、我が身を殺して証明せよ】!」
僕は敢えてアイシャさんの詠唱を無理に妨害するのを止めて、とある立ち位置に彼女を置くことだけに集中した。その行動にアイシャさんは僕に訝しむような眼差しを向けてくるけど、それでいい。
僕とアイシャさんの背後には、春姫さんも命さんもいない。これで僕も心置きなく【英雄願望】を使うことができる。
「スゥー、ハァー!」
「【飢える我が刃はヒッポリュテー】!」
【英雄願望】を発動させる方法はケンマたちのお陰で理解している。それは僕が思い浮かべる『憧憬』や『英雄』によって効果が発動する。
今の僕が思い浮かべる『英雄』は、親友のケンマだ。『エルソスの遺跡』でアンタレスに取り込まれたアルテミス様を救ってみせたあの時のケンマだ。あの時、自分の目で見た光景を脳裏に思い浮かべながら【英雄願望】を行使すると、僕が握っている《神様のナイフ》が黒から純白に染まりながら鐘の音が響き渡る。
「【ヘルカイオス】!!」
「【ファイアボルト】!!」
アイシャさんの魔法が完成して、それを大朴刀と共に振り抜いたのに合わせて僕も《神様のナイフ》に【ファイアボルト】を流し込みながら正面から振り抜く。
すると、どうだろう。偶然にも僕が行った【ファイアボルト】を《神様のナイフ》に流し込むという賭けは、あろうことかまるで『エルソスの遺跡』でケンマが《エクス・デュランダル》でやったように【ファイアボルト】が《神様のナイフ》に吸収されて、刀身が少し長い炎の刃となってアイシャさんの魔法に抗ってみせた。
未知ではないけど、未経験の出来事に僕は一瞬驚くけど、親友のケンマと同じ技が使えることに嬉しくて思わず、こう叫んでしまった。
「アルゴ・ウェスタァァアアア!!」
アルゴは僕の【英雄願望】からで、ウェスタは何のかは知らないけどケンマがあの時の一撃をそう呼んでいたから僕も下の技名はお揃いにさせてもらった。
そして僕の一撃がアイシャさんの魔法を大朴刀諸とも完全に焼き切ってみせると、まさか自分の魔法が破られるとは思っていなかったのか驚愕のあまりアイシャさんの口から声が漏れていた。
けれど、顔は笑みを浮かべていた。
「消し飛ばしやがった………!?」
「──────ッッ!!」
【英雄願望】の反動で、体力と精神力を消耗してしまったけどまだ動ける。戦える。
疲労感はあるものの自分の身体がまだ動くと信じながら一歩前へと踏み切る。アイシャさんも僕があれで終わるとは思っていないなかったようで、その長脚を鞭のようにしならせる。
「ぎっっ───」
それを僕は腕で受け流しながら前へと進む。
蹴られるのは慣れてる。あの人には何度も蹴られて、意識を飛ばされて、そしてまた蹴れた。それを何度も越えて今の僕がある。この程度の蹴りで僕は止まる訳にはいかない。
渾身の蹴りを受けてもなお、前へと突き進むとアイシャさんは表情を凍らせるが僕は止まらない。無防備となった彼女の腹部に向けて、右腕を下から振り上げる。
その瞬間、何故か僕の脳裏にケンマの言葉が甦った。
『モンスターを素手で殴って、殴った拳から触れたままでゼロ距離の【ファイアボルト】を放つだけの簡単な技だ』
もしかして、キミはこうなることを予測してあの時、僕にああ言ったの?とここにはいない親友に尋ねてみたくなる衝動を抑えながら偶然にも巡ってきたチャンス。これを外したら笑い者だ。
ならば、当てる他ないだろう。
「うあああああああああッ!!」
「ぐうぅッ!?」
右拳がアイシャさんの腹部に炸裂して、彼女の身体を勢いによって地面から浮かび上がらせる。けど、これで終わりじゃない。
残り全ての精神力を右拳に収束させて、僕は腹の奥から咆哮をあげる。
「ファイアボルトォォオオオオオオッ!!」
「があぁっ!?」
これが今の僕に出来る最後の必殺技だ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「フッ……やれば……できる、じゃないか……」
それを最後にアイシャさんは仰向けのまま意識を失ったのか、長髪で顔が隠れてしまっているために表情は確認できないけど口元は弧を描いている。
「僕の………勝ち」
やべぇよ、原作よりもベルくん強くなっちゃった…………。
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