臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈Sideケンマ〉
「えー、それでは第一回チキチキファミリア会議を行いたいと思います。今回のお題は、新しい本拠地の候補です」
第一回ファミリア会議を開いたはいいが、やはりリビングの男女比が可笑しい、一対五って…………多数決なら過半数が圧倒的に女性陣に割り振られておるやんけ。
「あのー、ケンマさん?」
「なんだ、カサンドラ」
「その背中から生えている羽?みたいな物は一体………」
「ああ、これか。新しく発現したスキルの一つで、このスキルを発動させると自由に羽を出し入れができたり、こうして飛んだりできるから精神力を使わずに飛ぶ練習をしてる」
「は、はぁ………」
カサンドラが俺の背中から生えている一対二枚の羽を見て尋ねてくるのは仕方がないことだ。『ダンまち』の世界において、翼や羽が生えた人間は存在しないのだから珍しくもあり奇妙な光景でもあるだろう。これは前世も同じだが、『ハイスクールD×D』を知っている俺からしたら【転生悪魔化】なんていうスキルとスキル内容に『悪魔の駒』の効果を一時的に付与なんて記載されていれば大体把握できる。
さて、少し話が脱線してしまったが俺の目の前には俺を含めて七人で囲んでいるテーブルとその上には何十箇所も赤い目印が記されたオラリオの全体図がある。
「見て分かると思うが、この地図に書かれている赤い所がギルドで確認した現状空き家の物件だ。この中から何処か良い場所を皆で決めたい。意見があれば遠慮なく言ってくれ」
「じゃあ、遠慮なくウチから。新しく本拠地を決めるのは良いけど、【ファミリア】としての資産はどのくらいあるの?それによっては妥協しなきゃいけない部分も出てくると思う」
「【ファミリア】の資産としてはざっと二○○○万ヴァリス。そこに俺のポケットマネーを合わせたら軽く二七○○万ヴァリスくらいだな」
「に、二七○○万………!?」
「だから場所や内装なんかも多少は融通を利かせることはできるから遠慮なく言ってくれ。因みに俺は、男女別で少し広めの風呂が欲しい。【ヘスティア・ファミリア】の檜風呂みたいなあんな風呂がな」
春姫の一件の後で【ヘスティア・ファミリア】の檜風呂に入らせてもらったが、最高の一言以外に言葉が出なかった。贅沢を言えばコーヒー牛乳あるいはコーラやスポーツドリンク、アイス何かがあれば言うことはなかった。
スポーツドリンクといえば、前世では医薬品メーカーが出品していた記憶がある。ならば、この世界の医薬品メーカーである医療系【ファミリア】にスポーツドリンクのことを教えたら再現できるだろうか?
けれど、この話は後にしよう。今は目の前の新しい本拠地の候補を決めることに集中だ。
「春姫、お前の部屋の内装は命の部屋みたく畳や布団も敷き布団にしてみたらどうだ?金の心配はマジでする必要がないから遠慮しなくて良いぞ。もしも足りなければ、軽く階層主を仕留めてくるからさほど問題ないから」
「団長の場合、本当に階層主を軽く仕留めてきそうだから全然笑えないわ」
「ケンマ様がそう仰るのであれば、私の寝室は極東風でお願いします」
「おう、任せろ。残るヴィクトリア、アルテミス、カサンドラ、ダフネたちはどうする?」
「わたしは取り敢えず、少し広めでシンプルな部屋でお願いするわ」
「私の方は普通で頼む。その内、また【ファミリア】の主神としてやり直すかもしれないからな」
「あまり無理はするなよ?」
「分かっている。それにヴィクトリアと話して、新しく【ファミリア】を発足させたならば、私の【ファミリア】はヴィクトリアたちの傘下に入ることになっている」
アルテミスから明かされた団長である俺も知らない情報に思わず、ヴィクトリアとアルテミス以外のこの場にいる全員が目を見開いてしまう。
「ちょっ、何それ、俺知らないんだけど!?」
「知らないもなにも、話していないのだから知るはずもないでしょう?」
「いや、そうなんだけど、そうなんだけどね!そういうことは一応俺たちにもちゃんと報・連・相してくれよ。今回はこのタイミングでアルテミスの【ファミリア】が俺たちの傘下に入ることが知れたから良いものの、もしも俺たちが大所帯でアルテミスに新しい眷属が出来てからの事後報告だった普通に対応に困るわ!」
「す、すまない。やはり、せめて団長であるケンマに相談してからの方がよかったか?」
「いや、主神であるヴィクトリアが既に勝手に決めてしまったことだから今更とやかく言うつもりはないけど、出来れば相談はしてくれ。でないと、【ファミリア】としての対応も団員たちと相談する暇もないからな。マジで今回のファミリア会議で知れてよかったわ」
マジで今回の会議でアルテミスが俺たちの傘下に入ることが知れてよかった。もしもこれが大所帯になってから聞かされたら、傘下に入ったアルテミスの【ファミリア】の団員との情報共有やら定期的な双方の団長及び幹部による定例会議なんかも設けなくてはならない。
他には双方の下級団員へのバックアップやらと軽く考えるだけで、これだけの問題が出てくる。こう考えると前世の企業なんかも親会社と子会社の関係はこんな感じだったのだろうか。
「因みに、団員は前と同じように女性のみで構成するのか?」
「ああ。そこは変えるつもりはない」
「そこは、ってことは何かは変えるのか?」
「前のように子供たちを恋愛ごとから遠ざけるようなことを強要しないことにした。その……私も……ケンマに恋をしている訳だからな」
「「なっ!?」」
新しく発足するかもしれない【アルテミス・ファミリア】の団員構成についてアルテミスに少し尋ねると、何故か俺への告白へと繋がってしまった。
それによって少なからず俺に好意を寄せている春姫とカサンドラが反応すると、それを見て俺はこれ以上の恋愛話は社会的に危ういと感じて、それ以上そっちに意識が向かないように手を叩いて話を戻させる。
「はーい、恋愛話は後でじっくりしてくれ。今は新しい本拠地についての会議だからな」
「団長、逃げたわね」
「自分、ヘタレなので」
ダフネから鋭い突っ込みが入ってくるが、まずは新しい本拠地の候補を決めるのが急務のため、それ以上話が脱線することはなかった。
結果的には、やはり実物を見てから各地区ごとに候補を出して、最終的にその中で一番良かった立地に新しい本拠地を建て替えることに決まった。
○●○
会議を終えてから実物の物件を見ることにしたのだが、正直どれも俺たちの中では今一の評価だった。
とある物件は、横が狭くて縦に長いため風呂が設置できないため却下。とある物件は、ある程度横に広いが場所が路地裏で街灯も少ないため防犯面から却下。とある物件は、縦横共に広さがあるが些か道が入り組み過ぎていて見つけるまでに一時間ほど彷徨うはめになったので却下。
「かれこれ十数件見て来たが、どこも欠点が目立つな」
「少し選り好みし過ぎじゃない?ウチ的には、横には狭いけど高さがある物件は良かったと思うよ。団長が欲しがってる男女別のお風呂も上と下の階で分ければ設置できなくはないと思うし」
「なるほど、上下で風呂を設置すれば横に狭くとも問題は無いわけか……その場合、女風呂は男風呂の上だな。これは譲れん」
「譲れんって、凄い頑なだね……」
「単純に女性陣の尊厳を守るためと、俺が社会的に抹殺されないための予防策」
「あっ、そういうことね。流石はヘタレの団長」
「止めて!そんな不名誉な呼び方をするくらいなら普通に名前で呼んでくれ!?」
ダフネの突っ込みにそう返すと、突然頬に冷たい物が降ってきたので雨かなと曇り空を見上げるとそれを皮切りにどんどん雨足が強くなってきた。
「雨、でしょうか?」
「多分、この曇り空ですし………」
「うわっ、本格的に降ってきた!?」
「何処か雨宿り出来そうな場所を探しましょう!」
春姫、カサンドラ、ダフネの反応を聞いてからヴィクトリアの提案に俺たちは異を唱えることなく従って、雨宿りが出来そうな場所まで走る。
【恩恵】を刻まれている俺たちはまだ良いが、【恩恵】を持たないただの一般人並みの身体能力しか持たないヴィクトリアとアルテミスは、土砂降りの雨に打たせておくのは良くない。その証拠に、アニメでヘスティアが土砂降りの雨に打たれ、流れの早い川へと落ちた所為で風邪を引いてしまった描写があった。
なので、早めに雨宿りが出来そうな場所を探して、【魔力操作】で髪と服を乾かしてやらねばと思っていると、街の雰囲気が何やらヌメリとしたら泥つくような嫌な空気に変わっていくのを直感で感じた。
【イシュタル・ファミリア】の一件で真『女王』を継承してからは気配だとか生命エネルギー、オーラといった普通では目に見えないような物を肌で感じられるようになり、試しに早朝鍛練後に目を瞑ってリューさんたちの気配を探ると某オサレなバトル漫画のように生命エネルギーが遮蔽物などをすり抜け、その人の身体を縁取るように光って見えたりしているので、今感じているこの不穏な空気も勘違いではないはずだ。
それ故に、この場に長くいるのは不味いとそう思った矢先、近くから一般人の悲鳴が響き渡り、それを聞いた俺はやはりと思わず舌打ちをしてしまう。
「きゃあああああ!!」
「冒険者同士が殺しあってるぞ!?」
「誰か【ガネーシャ・ファミリア】を!!」
更に、運が悪いことに【アポロン・ファミリア】との『戦争遊戯』で大々的に俺の顔が知れ渡っている為、街行く市民からどうにかしてくれと懇願の声や冒険者なんだから何とかしろよという責務を押し付けてくる期待の目が俺に刺さる。
「なぁあんた、【ヴィクトリア・ファミリア】の【刀剣の支配者】だよな?」
「【刀剣の支配者】といえば、LV.3 で今期待の冒険者じゃねぇか!?」
「良かった!偶然とはいえ、そんな冒険者様が居てくれるなんて!」
「なら、話しは早い。早く冒険者同士の殺し合いを止めてくれ!頼む!」
どいつもこいつも俺はまだやるとか全く答えていないのに、やる方向で話を進めやがる。これが某アメコミヒーローの言う所の「大いなる力には、大いなる責任が伴う」っていう状況なのか!?
正直、今はあまり面倒なことには首を突っ込みたくはない。何故なら、今は主神のヴィクトリアとレアな魔法とスキルを持っている春姫が一緒にいるからだ。前者は、余程のバカでなければ神を傷付けようなんてことは考えないだろうが、万が一にもヴィクトリアが送還されてしまえば言わずもがなだろう。後者に関しては、ヴィクトリアの送還よりかは増しだがそれでも厄介なことになることは間違いない。
以上のことから市民の願い通りに冒険者同士の殺し合いを止めに行くか、または市民からの声を無視してでもヴィクトリアと春姫の安全を確保するか、或いは二人の安全を確保してから冒険者同士の殺し合いを止めに向かうかの三択を迫られ必死に思考を回転させる。
そんな時、ヴィクトリアから鶴の一声が走る。
「行きなさい、ケンマ!」
「ヴィクトリア?」
「わたし達のことはダフネたちに任せて、行きなさい!何より、あなたは誰の弟子?あなたは、あなたの師とその師である彼女の主神を裏切らないように正義の剣を振るいなさい!」
「そうだ行くんだ、ケンマ!あなたは、最後の希望なのだろう?ならば、今その希望を求めている市民のために剣を振りかざしてくれ!」
「ヴィクトリアにアルテミスまで………」
「あまり状況が良く呑み込めないけど、団長の力が市民に必要とされているならヴィクトリア様のことはウチたちに任せて。これでも一応、あんたがスカウトした副団長だからね。役目は果たしてみせるよ」
「私はダフネちゃんみたく前衛としてはあまり戦えないけど、後衛として皆さんの怪我は治してみせます!」
「ケンマ様、春姫のことをお気になされているのであれば、お気になさらないでください。今、市民の皆様はあなた様のお力をお求めになられております。なので、春姫のことよりも助けを求めている市民の皆様のためにその身に宿る赤龍帝のお力をどうか使ってください」
「ダフネ、カサンドラ、春姫………わかった。そこまで言うなら、カサンドラと春姫はヴィクトリアとアルテミスと一緒に今回の騒動をギルドに報告を。ダフネは四人の護衛を頼む!」
「了解!」
「分かりました!」
「承知いたしました!」
「もしも、道中で戦闘に巻き込まれたらこれを使ってくれ」
念のためために五人には『魔剣創造』で創造した短剣の魔剣を一本ずつ渡しておく。能力は俺が今創造できる最大威力の魔法を放つ魔剣に、この世界の魔剣のような耐久性の問題は極力無くした魔剣にしてある。
「それじゃあ、後は頼んだぞ」
「任せてよ、団長!」
「任せてください!」
「お任せください!」
ダフネ、カサンドラ、春姫の返答を聞いた俺は、俺自身も念のため備えて『魔剣創造』の禁手である『天鎖斬月』を発動させて、街行く市民たちに冒険者同士が殺し合っているという場所を教えてもらいながら現場へと急行する。
全く、やっぱり悪目立ちというか下手に目立つとこういった時に厄介な事件に巻き込まれるようになるので困ったものだ。今度からはもっと、自重と慎みを持って行動することも心掛けよう。
まぁ、心掛けた所で状況と場合によってはそんなことを言っては居られなくなるのだろうが。
「全く、どこのバカだよ!こんな騒動を起こしたのは!!」
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に