臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第百五十六話

 

 

 

 

〈Sideケンマ〉

 

 

 

 

「おいおい、マジかよこれ………」 

 

 

街行く市民たちから懇願されて、一人で冒険者同士が殺し合っているという現場に急行してみれば、そこには既に事切れてしまっているアマゾネスが居た。

 

アマゾネス特有の褐色の肌にはあちこちに裂傷が刻まれており、致命傷は喉元を横一閃された斬り傷が原因だろう。

 

 

「一体、誰がこんなことを………」

 

 

俺は、最初こそちょっとしたいざこざで喧嘩になり、それでヒートアップして市民たちからは冒険者同士が殺し合っているように見えたのだろうと思っていた。しかし、これは歴とした殺人だ。それも場所が表の通りではなくて裏路地ということは、計画的な殺人で間違いはない。

 

また雨の所為で、素人でも分かるような殺人犯に迫れる証拠も流れてしまっているし、犯行に使われた凶器もない。これでは、犯人が何処の【ファミリア】に所属しているのかや性別すら分からない。

 

流石に死体をこのまま放置して、他にも殺人事件が起きていないかを確認しに行く訳にもいかないので、またしても目立ってしまうがこればっかりは仕方がないので、【魔力操作】で【ガネーシャ・ファミリア】に見付けもらうために上空に【ガネーシャ・ファミリア】のエンブレムを模した【撃龍拳】を放つ。

 

 

「撃龍拳・Verガネーシャ!!」

 

 

そうして、俺の拳から放たれた【撃龍拳】は雨空へと登っていき、龍の咆哮を上げたあとイメージ通りに赤い【ガネーシャ・ファミリア】のエンブレムとなってしばらくの間留まった。

 

流石にこれだけ大きく、そして分かりやすく【ガネーシャ・ファミリア】へメッセージを発してやれば誰かしら来てくれるだろう。その間に、俺は目を開いたまま事切れてしまっているアマゾネスの瞼を優しく下ろしてやり、両手を合わせて黙祷を捧げる。

 

今の俺にはそれくらいのことしか出来ない。

 

 

「そこのお前!貴様が我々の【ファミリア】のエンブレムを空に打ち上げた張本人か?」

 

「はい、そうです。あなた達は確か………」

 

 

後ろから声を掛けられて振り返ると、そこには見覚えのある二人の女性が立っていた。一人は青い髪をしたヒューマンの女性、もう一人は赤い髪をしたアマゾネスだ。

 

 

「【ガネーシャ・ファミリア】所属で団長のシャクティ・ヴァルマだ」

 

「同じく【ガネーシャ・ファミリア】所属、副団長のイルタ・ファーナだ」

 

「ご存知かもしれませんが、【ヴィクトリア・ファミリア】所属で団長の石黒ケンマです。市民の要請に応じてこの現場に急行、被害者のアマゾネスはその時には既に…………」

 

 

自己紹介を交わしつつ、端的に状況を説明すると二人は俺が犯人ではないことを理解してくれた。

 

 

「そうか。即時の対応に感謝する」

 

「あの、今オラリオに何が起きてるんですか?被害者に付けられた傷は、明らかに犯人は強い殺意を持っていることを物語っています。例え【ファミリア】同士のいざこざによる抗争だとしても、納得できないですよ」

 

「おい、お前!姉者に向かって……!」

 

「これでも俺は、正義の眷属であるあの人の弟子だ。ギルドとあなた達【ガネーシャ・ファミリア】があの人を捕まえていないのは、あなた達の間で何かしらの取引をしたからだ。表だって動けないあの人の代わりとは決して言えないけれど、あの人の弟子として協力はしたい」

 

「……そうか。お前は、彼女の弟子なのか」

 

「はい、『正義の剣と翼に誓って』」

 

「!!」

 

 

正義の派閥である【アストレア・ファミリア】の代名詞とも呼べる誓いの言葉を口にすると、シャクティさんは目を見開いてから直ぐに懐かしいものを見るような眼差しに変わった。

 

それと前世から思っていたが、【アポロン・ファミリア】との『戦争遊戯』であれだけ活躍しながら口元だけ隠してるのみで何故あの時に助っ人がリューさんだとバレないのだろうか?

 

七年前と違って髪を短くしているから?髪の色を金髪から黄緑色に染めているから?いやいや、そんなので身元がバレないなんてあまりにも無理がある。となれば、『ジャガーノート』の件を含めてギルドと【ガネーシャ・ファミリア】はリューさんを捕まえることをしないことから何かしらの取引をしていることに他ならない。

 

故に、こうして俺がリューさんの弟子であることを普通にシャクティさんに明かすことができる。

 

 

「正直、我々も詳しいことを把握していないが今起きている事件はここだけではない。オラリオ中で起きている」

 

「なっ……!?」

 

 

殺人事件を目の前にして、何の情報がない状態でいるのは悪手なので、思い切ってシャクティさんに街で何が起こっているのかを尋ねると、まさかこんな殺人事件がオラリオ中で起きているとは思ってもみなかった。

 

それじゃあ、まるで七年前の……いや、それはない。そうであったならば、こんな重要な事件をアニメでやらない訳がない。つまり、この事件はベルを主人公とした『ダンまち』の方ではなく、アイズとレフィーヤを主人公とした『ソード・オラトリア』に出てくる事件ということになってくる。

 

そうなると今回の事件の首謀者は、闇派閥という筋が濃厚になってくる。なら、仮に奴らが首謀者だとして目的はなんだ?ここだけでなく、街中で殺人事件を起こしているその意図は一体何で、何処にある?

 

 

「駄目だな、情報が足りない。シャクティさん、今起きている事件で共通していることはありますか?」

 

「共通していることか?色々と情報が錯綜しているようだが、強いてあげるとしたら被害者がアマゾネスに偏っていて、外傷が裂傷と刺し傷、遺体発見現場が路地裏などの人目があまり付きそうにない場所だな」

 

「!!」

 

 

シャクティさんからの情報で俺の頭の中でまるでパズルが填まるように何かが嵌まった。

 

1、被害者はアマゾネスに偏っている。

 

2、外傷は裂傷と刺し傷。

 

3、おそらく犯人は単独犯ではなく、複数犯であり無差別殺人ではない。

 

4、犯人は冒険者同士のいざこざではなく、明確な殺意を思って人目の付かない路地裏で犯行に及んでいる。

 

 

そして先日のフィンさんとの会話。以上のことから仮に首謀者が闇派閥ならば、奴らはアマゾネスを手当たり次第に殺して何かを止めたがっている。けれど、アマゾネスを手当たり次第に殺しているのは何かしらの意図を隠すためのフェイク。

 

なら、奴らの真意とは─────

 

 

「アマゾネス……ティオナ、ティオネ、アイシャ、フリュネ……ッ!!そうか、奴らの狙いは元【イシュタル・ファミリア】の戦闘娼婦たちか!!」

 

「なに、どういうことだ?」

 

「詳しいことは俺もあまり知らないんですが、【ロキ・ファミリア】団長のフィンさんから【イシュタル・ファミリア】は闇派閥と繋がっている可能性があると教えてもらったんです。そしてその考えは的中していて、闇派閥は何かしらの情報がフィンさんたちの手に渡らないようにアマゾネスを無差別に殺し回っているんだと思います」

 

 

アマゾネスからの連想ゲームで、俺の知っているアマゾネスの名前を一人ずつ口にしていったら闇派閥の目的が判明した。奴らの狙いは、元【イシュタル・ファミリア】で『人造迷宮』の鍵である『ダイダロス・オーブ』の情報とその在り処を知っているかもしれない戦闘娼婦を抹殺することだ。

 

何せ、フィンさんたち【ロキ・ファミリア】が再度、人造迷宮を攻略するには人造迷宮の『鍵』である『ダイダロス・オーブ』が必要不可欠。なので、どうにかしてそれを手に入れようとする。

 

しかし、闇派閥はそれをさせたくない。なので、先ほど考えた通り『ダイダロス・オーブ』の情報を持っている可能性のある元【イシュタル・ファミリア】の戦闘娼婦を始末すればこの問題は解消される。そのために、敢えてアマゾネスの無差別殺人を決行したのだろう。

 

ここまで考えを纏めれば闇派閥の狙いをしっかりと洗い出せた。意外にも自分にこんな才能があったことに驚きだが、闇派閥の狙いが判明した今、やることはオラリオ中にいるアマゾネスたちへ不用意に野外に………。

 

 

「いや、待て………本当に戦闘娼婦だけか?」

 

 

何故、俺は闇派閥が戦闘娼婦だけではなく元【イシュタル・ファミリア】の戦闘員・非戦闘員構わず狙っているという可能性を捨てた? 闇派閥と繋がっていたのならば、奴らが元【イシュタル・ファミリア】の団員たちの情報を知っていてもおかしくはないのではないか?

 

そこまで考えた所で、脳裏に血の水溜まりに沈む春姫の無惨な光景が浮き上がり、血の気が引いていくのを感じた。

 

 

「ッ────春姫が危ない!」

 

「おい待て、【刀剣の支配者】!まだ話は───」

 

 

後ろでシャクティさんが何か言っているが、今の俺にはそれに返答するだけの余裕がない。脳裏に浮かんでしまった春姫の最悪の未来を回避するため、俺は土砂降りの雨の中、【プロモーション】と【転生悪魔化】で二重に『女王』へと昇格。その上で全力の【瞬歩】を使って、LV.6 の最上位に匹敵するほどの速度でヴィクトリアたちと共にギルドに居るであろう春姫の下へと驀進する。

 

そして息を切らしながらギルドにやって来た俺を見て、ギルド職員や他派閥の冒険者たちは驚き、ヴィクトリアたちも俺を見るなり心配して駆け寄って来るがその中に無事の春姫が居ることに酷く安堵しながら俺は漆黒の魔剣を放り投げて、彼女を抱き締めた。

 

 

「春姫!」

 

「こっ、こおおおんっ!!」

 

「ちょっ、団長!?」

 

「ちょっ、ケンマさん!?」

 

「「ケンマ!?」」

 

「良かった、無事で」

 

 

せっかく乾いたであろう春姫の着物は、雨でずぶ濡れになっている俺から水分を吸収して少しずつ水気を帯びて行くが俺の腕の中で感じる春姫の温もりから心底安堵する。

 

全く、この世界に転生してからというもの寿命が縮みそうな心配や経験が多すぎる。ま、実際に寿命が縮まった経験はあるんですけどね。

 

そんな切迫したような俺から何かを感じたのか、春姫は優しく俺に声をかけてくれる。

 

 

「あ、あの……ケンマ様? なにかあったのですか?」

 

「あ、ああ、悪い。今回の事件の首謀者とその目的が分かってな。それで春姫の命が危ないと思って飛んで来たんだ。だから、お前が無事で本当に良かった」

 

「そ、そうでしたか……」

 

 

春姫の声で我に返った俺は、公衆の面前で彼女を抱き締めてしまった羞恥心から顔を熱くしながら春姫を抱き締めるのを止めて、放り投げてた漆黒の魔剣を拾いあげる。その際、彼女を解放した時にケマ耳と尻尾が若干元気を失くしたように垂れたのを見て、心にグッと来てしまったのは内心だ。

 

取り敢えず、春姫の安否の確認は出来た。けれど、これで終わりじゃない。なので、受付にいるエイナさんにフィンさんたちが何処に配置されているのかを確認することにした。

 

 

「エイナさん!今【勇者】は、フィン・ディムナは何処に配置されているか急いで教えてください!」

 

「え、えっとディムナ氏だよね。ディムナ氏なら今はバベルで【ロキ・ファミリア】の皆さんと狙われているアマゾネスの保護をしてるよ」

 

「バベルですね、分かりました」

 

 

エイナさんからフィンさんの居場所を聞いた俺は、ヴィクトリアたちに声をかけてからギルドを出て、バベルに向かう。

 

フィンさんたちがバベルに陣取っているということは恐らく、いや間違いなくフィンさんも今回の事件の目的を導き出しているはずだ。であれば、今俺がすべきことはフィンさんと情報共有だ。

 

 

「所でケンマくん。ケンマくんって、サンジョウノさんとその……そういう仲なの?」

 

「そういう仲?ああ、違いますよ。今回の事件で春姫も狙われる可能性があったので、それで春姫が無事だと分かって思わずって感じです」

 

「そ、そうなんだ」

 

「それじゃあ、俺はこれで」

 

 

エイナさんからフィンさんの居場所を聞いたあと、一度ヴィクトリアたちと合流して、街の安全がまだ確保されていないのでギルドからは出ないように伝えて残しておくことにした。

 

 

「これから俺はフィンさんの所に行くが、お前たちはまだギルドから出るなよ」

 

「団長、今起きてる事件は一体なんなの? ギルドの人が言うにはアマゾネスの人たちが狙われてるって………」

 

「………ちょっと厄介な奴らが組織だって動いてるだけだから、直ぐに【ガネーシャ・ファミリア】が何とかしてくれる」

 

 

正直、これはもちろん嘘。今回の首謀者は闇派閥だと判明したが、実行犯を俺は見ていない。つまり、どんな奴らが犯行を行っているのかを知らないので、それを知るためにもフィンさんと合流する必要があるのだ。

 

 

「大丈夫。何があっても、お前たちは絶対に傷付けさせやしないからさ」

 

 

それだけ言い残して、俺はバベルを目指した。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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