臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈Sideレフィーヤ〉
「どうだい三人とも、何か分かったかい?」
「周囲を粗方確認してみましたが、入り口はどこも凍り付いていました。恐らく、ケンマは中にいる何者かを外に出させないようにしたんだと思います」
「しかし、このような大規模な凍結をイシグロ・ケンマはどうやったのでしょうか?」
「アリシアの言う通りだ。この氷塊に触れてみたが、魔力のような物は一切感じられなかった。それもこれだけ細部にこだわる魔法を私は見たことがない」
団長に尋ねられて、上から私、アリシアさん、リヴェリア様の順で元【イシュタル・ファミリア】の本拠地である完全に凍結しながら所々に青い氷の薔薇を咲かせた『女主の神娼殿』を調査した内容を報告します。
けど、本当にどうやってケンマはこれだけの建物を完全に凍結してみせたのだろうか?それにしても氷の薔薇なんて生まれて初めて見ました。リヴェリア様の【ウィン・フィンブルヴェトル】も出力を調整すれば、こういうことができるのでしょうか?
「ふんがぁぁああああッ!!」
「そりゃぁぁああああッ!!」
「団長、入り口が開きました!」
「ご苦労だったね、三人とも」
私たち外部調査班と別で、『力』の基本アビリティに自信があるガレスさん、ティオネさん、ティオナさんの三人は宮殿へと乗り込むための入り口を作るためにこの氷を自前の得物でひたすら砕いていました。
その後、リヴェリア様が皆で宮殿へと突入する前に念のために全員へ【ヴェール・ブレス】の魔法をかけ直し、それから内部へと突入することになりました。
「ふむ、中は外と違って完全に凍り付いてる訳ではないみたいだね」
「となると、レフィーヤの言う通りケンマは宮殿内部にいる何者か………十中八九、今回の殺人事件を引き起こした闇派閥の連中だと思うが、そいつらを逃がさないために宮殿外部だけを凍らせたことなるな」
「所でさ、なんでレフィーヤは建物を凍らせたのがケンマだって、分かったの?」
「それはですね、ティオネさん。前の遠征の帰りの時に──────」
ティオネさんから宮殿を凍結させたのが何故ケンマだと分かったのかと私に質問が来たので、それについて前の遠征の帰りに巻き込まれた『黒いゴライアス』の時のことを話そうとすると、突然轟音と激しい揺れが私たちを襲います。
「きゃっ!?」
「おっとっと!」
「凄い揺れるわね!」
「な、なんですか今の音と揺れは!?」
「そんなのは一つしかなかろう!ケンマが誰かと戦っておるということだ!」
「フィン、多少のリスクを背負ってでも急ぎケンマの下に行くべきではないか?もしかしたらケンマが今戦っている相手はあの怪人レヴィスの可能性も捨て切れない」
「そうだね。リヴェリアの言う通り、これから多少の奇襲は承知の上でケンマの下に向かう!ティオナ、ティオネ、先陣を切れ!」
「はい!」
「まっかせてえ!」
団長の指示の元、急ぎ今も誰かと戦っているであろうケンマの下に私たちは向かいます。その道中、ケンマが撃退したであろう顔以外を完全に凍結されて身動きを取ることが叶わない闇派閥の残党と遭遇。
そんな残党に団長が今回の殺人事件の首謀者について尋ねますが、誰一人として答える者は居らず、その間も何度も轟音と激しい揺れが宮殿を襲います。
「まだ揺れが続いてるわね」
「ねぇ、この揺れも本当にケンマがやってるの?揺れの大きさからあたし達と同じ、LV.6 同士が本気で殺し合ってるって言われてもおかしくないと思うんだけど!」
「恐らくケンマは先日新しく発現した力で戦ってるはずです!」
「何故、レフィーヤは他派閥のイシグロ・ケンマが新しい力を発見したことを知っているのですか?」
「えっ?え、えーっと、それは………」
アリシアさんの質問から私は先日、この宮殿の屋上でケンマに……む、胸を突つかれた記憶とあの時に感じたビリビリとした未知の感覚とこの上無い羞恥心を思い出してしまい、頭が沸騰するのではないかと思うほどに顔を赤くしながら咄嗟に両腕で胸を隠します。
その動作を見ていたティオネさんは、私とケンマにナニがあったのかをアマゾネスの知識から何かを察したのか私のことをニヤニヤと見て来ます。
「なるほどねぇ。レフィーヤ……あんた、ケンマを食べたの?」
「た、食べてません!」
「じゃあ、食わせたの?」
「食わせてもいません!突つかれただけです!!」
「なーんだ、乳繰り合っただけか」
「ち、乳繰りッ……!?」
「れ、レフィーヤ………あなた、いつからイシグロ・ケンマとそういう関係だったのですか!?」
「ち、違います、アリシアさん!まだ、私はケンマとそういう仲では!?」
「まだ!?」
「あッ……あ、嗚呼もう!こんな恥ずかしい思いをしなくちゃいけないのは全部ケンマの所為です!あんの二代目おっぱいドラゴンめ、後で全力の【アルクス・レイ】をお見舞いしてやるんだから!!」
こんなに恥ずかしい思いをさせられる元凶たるケンマに、後で本気の【アルクス・レイ】をお見舞いしてやると心に決めながら宮殿の上階を目指します。
けれど、私はこの時知らなかった。こんな和やかな怒りが簡単に打ち砕かれるほどに、ケンマにどんなことが起こっているのかを。
「あれ?いつの間にか揺れが収まってない?」
「そういえばそうね」
「だとなると、イシグロ・ケンマと闇派閥の決着が………」
ティオナさんの気付きから始まり、揺れが収まったことからアリシアさんがケンマと闇派閥の戦闘が終わったのではないかと口にした時、遠くの方から一定感覚で粘りのある音が聞こえてきます。
ゴッチャ……ゴッチャ……ゴッチャ……ゴッチャ……ゴッチャ……ゴッチャ……
その粘りのある音を捉えると、全員がそちらへと意識が集中し、意識の先には一本の通路がありました。恐らく、通路の先にはケンマと彼が戦っていたと思われる今回の殺人事件の首謀者がいるはず。
「どうする、フィン」
「罠かもしれないけど、これ以上時間をかけてケンマが危険に晒されるのは容認できない。彼には色々と恩があるしね」
「そうか」
「それじゃあ、行こう」
団長の号令で、私たちは粘りのある音が聞こえる方へとどんどん進んで行きます。そして通路を抜けて、開けた場所へとたどり着くと、そこには信じられないような残酷な光景が広がっており、それを見て思わず私は声を掠れさせながらケンマの名前を呼びました。
「……ケン……マ?」
しかし、それでも彼の耳には──────届くことはありませんでした。何故ならケンマはずっと、命乞いをする無惨なヴァレッタ・グレーデを殴り続けいるのだから………。
「……タ、タシュケッ」
────ゴッ!二チャ……。
「……ヤラ……モウ……ナアオサライレッ」
────ゴッ!二チャ……。
「……オネガイ……ジバズッ」
────ゴッ!二チャ……。
「……モウ……イダイノ……ヤダッ」
────ゴッ!二チャ……。
「……ダレカ……ダレデモ……イイガラ……」
────ゴッ!二チャ……。
「……タシュケテ……ワダジヲ……ゴロジテ……」
────ゴッ!二チャ……。
「……オネガイ……ゴロジテ……」
────ゴッ!二チャ………。
「……オネガイ……イジバズ……」
私の声やましてや精神が折れた敗北者の懸命な懇願も届いていないのか、ただただ無言のまま右手で胸ぐらを掴んでいる闇派閥の幹部であるヴァレッタ・グレーデを左拳で殴っては魔法で癒し、殴っては癒し、殴っては癒し、殴っては癒しを淡々と続けており、ヴァレッタ・グレーデの足下にはずっと殴り続けていたことで彼女の返り血によって生まれた血の水溜りが出来ていました。
「ねぇ、ちょっとアレはヤバいんじゃない!?」
「あの赤い鎧のやつが本当にケンマなの!?」
「あのままでは、ケンマが本当に戻って来れなくなるのぞ!?」
「全員、ケンマを止めろ!!」
ティオナさん、ティオネさん、ガレスさんの三人が今のケンマをそのまま殴らせ続けては何か取り返しの付かないことになると感じて、団長の切迫した指示で急ぎケンマを止めようと駆け出します。
けれど、ケンマは止まりません。LV.6 であるガレスさんたち三人の『力』でも今の彼を止めることが出来ないのか困惑の声が出ます。
「コイツッ、本当にLV.3 なの!?」
「とーまーれ!!」
「止せケンマ!それ以上はお主がお主でなくなる!儂らの声が聞こえんのか、ケンマッ!!」
「駄目だよ、ケンマ!それは駄目!」
「戻って来い、ケンマッ!!」
「ケンマ、キミは人造迷宮で散っていったロイドたちの為にヴァレッタを殴り続けているのは分かる!けど、それ以上はキミもヴァレッタと同じになってしまうぞ!!」
等々アイズさんやリヴェリア様、団長までもがケンマの止めに参戦することでようやく動きを止めることに成功しました。まさか、LV.6 が六人居て動きを止めるのが精一杯だとは思っていませんでした。
そう思っていたのも束の間、ケンマの口から詠唱が唱えられ始めました。
「……我……目覚めるは……」
「なっ、詠唱!?」
「まさか、ここに来て『紅の鎧』になるつもりか!?」
「……覇の理を……神より奪いし……二天龍なり……」
「いや、クリムゾン・カーディナル・プロモーションの詠唱とは違う………また別の新しい詠唱だと!?」
ここに来て、私の胸で発現したのとは別の何かの力を使おうとしているのかケンマは新しい詠唱文を唱えると、それに合わせて彼の左腕の籠手に埋め込まれている宝玉が緑から徐々に真っ黒へと染まっていきます。
ですが、私はもっと別の所に目が行きました。それはヴァレッタ・グレーデの返り血でケンマが纏う鎧の兜の目元から顎にかけて流れている様が、まるで彼が泣いているように見えました。
「……泣かないで」
「レフィーヤ?」
「……泣かないで、ケンマ!」
そこからは無我夢中でケンマに駆け寄り、皆さんに止められながらもヴァレッタ・グレーデを殴り続けようとする彼の前へと周り込んで、私は優しくケンマを抱き締めます。
「ケンマ、もういい!もういいから、そんなに自分を追い詰めないで!ロイドさんたちはケンマの所為で亡くなった訳じゃない。冒険者がいつも死と隣合わせなのは、ケンマ自身も知っているでしょう?」
「……………」
「だからね、もういい。もういいの。だからお願い戻って来て。私の知っている、誰かを傷付けるのも誰かから傷付けられるのも恐がる。いつもの臆病なケンマに戻って、お願い!お願いです、ケンマ!」
「……レ……フィー……ヤ……?」
「ッ──はい!あなたが好きな推しのレフィーヤ・ウィリディスです!」
ようやく私の声がケンマに届いたのか、私の名前を呼ぶとさっきまで強かった力がゆっくりと脱力して身に纏っていた赤い鎧も消滅した。そしてケンマの素顔が見えるようになると、やっぱり兜の下で彼は泣いていた。
恐らく、ケンマは人造迷宮の情報や闇派閥が使ってくるであろう『呪詛』の武器の情報を私たちに提供したのに死者が出てしまったことをずっと胸の奥で悔やみ、嘆き、最後には自分の所為だと優しすぎるがあまりに己を追い詰めてしまったのだろう。
「レ……フィー……ヤ……そうだ、俺………俺、レフィーヤやフィンさんたちが直ぐ側にいるのに『覇龍』を使おうと……嗚呼ァァアアアア!!」
「ちょっと、ケンマ!?」
何とかケンマを我に返すことに成功するも、今度はジャガーノート・ドライブ?という何かを私たちを巻き込んで使おうとしたことに、ケンマは頭を抱えて再び泣き始めてしまいました。
一体、何なんですかジャガーノート・ドライブって………。
「大丈夫です!大丈夫ですから落ち着いてください!」
「でも……でも……俺は……レフィーヤたちを!」
「嗚呼、もう!」
これ以上、ケンマを取り乱したまま放っておくのは不味いと判断して私は、未だに泣く彼の頭を胸に抱き抱えます。数週間前の私なら、こんな事は恥ずかしくて出来なかったでしょうが今の私はこれ以上に恥ずかしいことをケンマにされてしまったのでこれくらいなら問題ありません。
「ッッッ──────!?」
「いいですかケンマ、よく聞いてください。私たちは大丈夫です!確かにケンマは、その……ジャガーノート・ドライブ?を使おうとしたかも知れませんが私たちは何ともありません!だから、少し落ち着いてください!」
「けど……俺は……」
「だ・か・ら、私たちは何ともありません!今は私の鼓動の音だけに集中してください。他は考えなくていい。今は私に全てを委ねてください」
「…………………わかった」
その返事が返ってきた後、ケンマは私の言葉通りに身体の力を抜いて全てを委ねて来てくれます。それからしばらくの間、私はケンマの頭を抱き締めたままでいます。その間に団長たちは精神を折られたヴァレッタ・グレーデや下階の闇派閥たちと同様に玉座の間でも顔以外が氷付けにされている闇派閥たちを歓楽街の外で待機している団員たちと共に捕縛へと移り始めました。
今回の事件に関わったヴァレッタ・グレーデを筆頭とした闇派閥の残党と奴らに協力してケンマに行動不能にされた暗殺者たちの全員を捕縛し終わった頃、ようやく落ち着きを取り戻したのか、ケンマが自分の頭を抱き締めている私の腕を数回叩きます。
「ごめん、レフィーヤ。もういいよ」
「ようやく落ち着きましたか?」
「うん。大分、頭が冷えた。ありがとう」
「それは良かったです」
声音からケンマがしっかりと落ち着きを取り戻していることを確信した私は、彼の要望通りに抱き締めていた頭を解放します。私の腕から解放されると、ケンマの顔はかなり泣いていた為に目が充血しており、周りも少しばかり腫れてしまっています。
「……はぁ、俺を止めてくれてありがとうな、レフィーヤ」
「いえ、私はあのままケンマを放って置くのは良くないって思って、直感に身を任せただけですから」
「……でも、本当に助かったよ。あのまま、詠唱が続いてたら俺は間違いなく『覇龍』になって、それで………この街を────オラリオを滅ぼしてた」
「オラリオを滅ぼすって……そんな大袈裟な!?でも、ジャガーノート・ドライブって一体何なんですか?」
「簡単に説明すると、前に見せた『紅の鎧』の間違った使い方だな。怒り、嫉妬、悲しみ、憎しみ、苦しみといった強い負の感情を引き金に、自分の命を対価に周囲のモノを見境なく全てを滅ぼす力、それが『覇龍』だ」
「そんな危険な力だって知ってるならどうして使おうとしたんですか!?」
「奴を………ヴァレッタ・グレーデを生まれて初めて心底殺してやりたいと思ったからだろうな。いや、それは今も同じで、あいつが憎くて憎くてどうしようもなくて殴って治して、殴って治して、殴って治して、あいつがこの世に生まれてきた事を後悔させてやりたくて、それを邪魔するモノも誰であろうと滅ぼしてやるって、強い怒りと憎しみで頭が一杯になって、レフィーヤが止めてくれるまでフィンさんたちが俺を止めようとしてくれてるなんて分かってなかった」
ジャガーノート・ドライブについて説明してくれた後、何故そんな危険な力だと知りながら使おうとしたのかをケンマに尋ねると、まるで懺悔するかのようにケンマが抱えていたものを吐き出してくれます。
しかし、それはケンマが優し過ぎるあまり自分でも気付かないほどに強く、大きく、抱え込んでしまったものでした。
「それに、ずっと後悔してたんだ。あの時、フィンさんに止められても無理矢理にでもレフィーヤたちと一緒に人造迷宮の攻略に参加してれば、ゼロとは言い切れないけど亡くなった六人のうちの誰かは助けられたんじゃないかってさ」
「それは………」
「でも、そうなると春姫を助けられなかったかもしれない。あの時は、フィンさんに止められたお陰で俺は春姫を助けることに集中できた。けど、その代わりに俺の知らない所で短い付き合いだけど同じ机で同じ飯を食べた知り合いが六人も犠牲になった。どちらかを助けようとすると、片方が助けられない」
「それは仕方ないことです。私たちは神様たちのような『神の力』が使える訳ではありません。救える命にも限りがあります」
「そうだよな。だけどさ、やっぱり思うちゃうよ。俺がもっと強ければ助けられたのかな、ってさ…………」
そう言ってケンマは天井に手を伸ばして、何かを掴もうするけど、何かを取り溢してしまったかのように力なく腕を下ろします。それを見て私は心底、ケンマは優し過ぎると思いました。自分は誰かを傷付けるのが嫌で、誰かから傷付けれるのも嫌なのに、手が届く距離にいる人たちを助けたいだなんて………。
ロイドさんたちが亡くなったのはケンマの所為じゃないのに、ケンマはあったかもしれない無数の可能性の一つに手を伸ばせなかった自分が自分で許せないなんて、そんなの無茶苦茶です。
それとやっぱりケンマは落ち着いているように見えて、まったく落ち着いていないことが分かりました。なので、ここは一つ約束を取り付けることにしましょう。
「ケンマ、一つだけ私と約束してください」
「なんだよ、いきなり」
「例え、今後誰かを助けようした時、絶対に自分を犠牲にしないこと。誰かを助けたいならその人と自分、両方を助けることを約束してください」
「両方を助ける………」
私が一方的に小指を突き出す。
それは以前、ケンマが教えてくれたケンマの故郷に伝わる約束を守るための誓いの儀式、指切りである。
「ほら、ケンマも小指を出してください」
「あ、ああ」
「「指切りげんまん、嘘ついたらハリセンボン飲ーます。指切った」」
「約束ですからね、ケンマ」
「努力はする」
「絶対です!」
しかし、この時の私は知りませんでした。私たちの所為で、この約束が果たされることがなくなる最悪の未来が待ち受けていることを………。
投稿予約忘れた!!
オリ主たちの新本拠地候補
-
第六区画 『竈火の館』の近く
-
第七区画 元ヘスティア廃教会
-
西地区 豊穣の女主人の近く
-
北地区 適当に