臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第百六十一話

 

 

 

 

 

〈Sideベル〉

 

 

 

 

「なら、賭けをしようぜ」

 

「賭けだと?」

 

「ルールは簡単。今から俺が一人でゴライアスを倒せたら、あいつの魔石とドロップアイテムは俺の物。俺よりも先に誰かがゴライアスに止めを刺したら、そうだな………一◯◯◯万ヴァリスでどうだ?」

 

「おいおい、随分と自信ありげじゃねぇか。まさか、クロッゾの魔剣でも使うつもりか?」

 

「いや、ヴェルフの力は借りねぇよ。それに言ったろう?俺が一人で倒せたら、ってよ」

 

 

僕は知っている。この不敵な笑みを浮かべる時のケンマと「俺が最後の希望だ」と決め台詞を言う時のケンマは、必ず有言実行と盛大に規格外な何かをやらかして周りを驚かせることを。

 

そのことを知らないボールスさんは、ケンマから仕掛けてきた賭けに負けないと思ったのか、あっさりとその賭けを承諾する。

 

 

「フッ、いいぜ。やれるならやってみやがれ、クソガキが!」

 

「おっさんこそ、負けてから賭けの話は無しなんて言うのは許さねぇからな?なぁ、ベル」

 

「ボールスさん、その………お疲れ様です」

 

「な、なんだよ、一体?」

 

「いえ、僕はもうどちらが勝つのか分かってしまったので、せめてお疲れ様だけでも言っておこうと思って………」

 

 

だって、もう勝負が分かりきっている出来レースなんだもの。せめて、ボールスさんが傷つかないように労いの言葉だけでも送らせてください。

 

本当にお疲れ様です。そして、あなたも僕たちの仲間入りです。ようこそ、規格外被害者の会へ。

 

 

「そんじゃあ、まずは………ダブル【プロモーション・クイーン】!!」

 

「うわっ、ケンマってば本気で倒しに掛かってる!?」

 

「からの…………卍解!!」

 

 

ケンマは握っていた剣を前に突き出したあと、左手を右腕に添えてから「卍解」と唱えるともう大分見慣れた光も通さないような漆黒のローブコートに、柄尻に短い鎖が付けられたローブコートと同じ光を反射させない漆黒のカタナの魔剣が装備される。

 

それがケンマの身に宿す三つの内の神器の一つの『魔剣創造』が至った禁手───『天鎖斬月』だ。

 

 

「天鎖斬月!!」

 

「ちょっと待てッ!そいつは【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯で見せた………そ、そいつはあの馬鹿デカイ包丁がなきゃなれないんじゃ……!?」

 

「誰だよ、そんなこと言った奴は?俺は一言も斬月がないと天鎖斬月になれないなんて言った覚えはないぞ」

 

「そんなの聞いてねぇぞ、おいッ!!」

 

「それじゃあ、行くぞ」

 

 

─────ジャラリ!

 

 

「え?」

 

 

僕は目の前で起きた光景に自分の目を疑った。

 

それは、僕以外も同じだと思いたい。

 

 

「「「「は?」」」」

 

「ミノタウロスが…………消えた!?」

 

「こっちもライガーファングが………!?」

 

「こっちはヘルハウンドが消えたぞ!?」

 

「ッッ─────まさか!?」

 

 

僅かに鎖の揺れる音が聞こえた刹那、ゴライアスを除いて『嘆きの大壁』にいたはずのモンスターの大群が一瞬で消えた。その異常性は他の冒険者たちも感じたようで、それぞれ相手をしていたはずのモンスターが消えていることに困惑している。

 

そんな中、僕はある既視感が身体を支配した。それはニ週間ほど前に元【イシュタル・ファミリア】の本拠地にある天空庭園で感じた感覚と全く同じものだ。そしてその既視感の正体を探して慌てて視線を向ければ、そこには一人でゴライアスと睨み合っているケンマの姿があった。

 

 

「たった一瞬……その一瞬で階層主以外のモンスターを全て一人で倒した? キミはいつの間に……そんな強く、遠くへ……行ってしまったんだ、ケンマ」

 

 

冒険者を始めたのは殆ど僕と同じ頃だったはずなのに、ケンマは僕よりも速く、そして遠くへと行ってしまっている。それを物語るかのように、視線の先にいるケンマと僕の間に出来た距離は離れていた。

 

 

「ゴライアス………お前とも何かと縁があるみたいだな。初めてここに来た時もお前を倒して、18階層じゃあ強化種のお前を倒した。そんで今回はお前だ─────てめえを斬るぜ、ゴライアス」

 

『ウッ、ウオオオオオオオオオオ!!』

 

 

ケンマが漆黒の魔剣の切っ先を向けながらゴライアスに斬ることを宣言すると、何故か分からないけどゴライアスはケンマに恐怖して、恐怖心を振り払うかのように彼へ豪腕を振り下ろしたように見えた。

 

豪腕の振り下ろしによって『嘆きの大壁』は激しく揺れて、土埃を盛大に舞い上げる。けど、誰一人としてケンマがゴライアスに殺られるなんて想像することは出来なかった。その証拠に、土埃が晴れてくるとそこには振り下ろされたゴライアスの拳に乗る無傷のケンマの姿があった。

 

 

「次は、俺の番だ」

 

 

ケンマはそう言うと、漆黒の魔剣を両手で握り直して、まるでこの世の禍々しい物を凝縮したような赤と黒が混ざりあった何かが漆黒の魔剣に収束されていく。けれど僕は、いや僕らはそれが何を示唆しているのかを知っている。

 

だからこそ、僕は慌ててケンマの近くにいる冒険者たちに巻き込まれないようにすぐにその場から離れるよう切迫しながら叫ぶ。

 

 

「ゴライアスの近くにいる人たちはすぐに離れてください!ケンマの特大魔法に巻き込まれます!!」 

 

「ベルの言う通りだ!死にたくなかったらこっちに死ぬ気で走れ、俺の打つ魔剣とは比べ物にならないぞ!!」

 

「「「「!!」」」」

 

 

僕がそう叫ぶとヴェルフもケンマが何をやろうとしているのかを察してくれたようで、僕と同じように切迫しながら叫ぶと流石に二人も注意喚起をすれば事のヤバさを理解したのか、ゴライアスに近い冒険者たちは全身全霊の死ぬ気で僕たちの下へと走り出してくる。

 

そして満を持してケンマは足に力を込めて飛び上がり、両手で握っている漆黒の魔剣をゴライアスに目掛けて振り抜こうと上段で構えた瞬間、その禍々しい何かが爆発的に膨張して、赤と黒が混ざりあった特大の斬撃がゴライアスに放たれる。

 

 

「月牙天衝ォオオオオ!!」

 

『ッッッ───ウオオオオオオオ!!』

 

 

ゴライアスもケンマが放った黒い【月牙天衝】を本能的に危険な物だと判断したようで、両手の豪腕で【月牙天衝】を退けようとするけどドロップアイテムと魔石を本気で狙っている今のケンマの一撃をそう易々と防げる訳もなく、そのままゴライアスは両手と身体を左右に分断されてしまい、【月牙天衝】が止んだ後パキリッと何かが割れる音がするとズルリとゴライアスの身体がズレた。

 

その後に残ったのはゴライアスを討伐したことを物語る大量の灰と二つに分断された核であったはずの巨大な二つの魔石、そしてドロップアイテムと思われる『ゴライアスの歯牙』だけがその場に残った。

 

 

「ま、こんな物か」

 

「いやはや、凄いものを見せてもらったものだ!」

 

 

ケンマのその呟きに終始圧倒されていた僕らは「嫌々……」と手を横に振りながら言いたかったけど、その前に『嘆きの大壁』の入り口から太刀を装備し、紅の袴を揺らす黒髪の女性がやってきてケンマのことを褒めていた。

 

あまりにも気さくにケンマへ話しかけるその女性に僕は見覚えがあった。それは以前18階層へと来た時に【ロキ・ファミリア】の『遠征』に同行していた【ヘファイストス・ファミリア】の団長であり、オラリオで『最上級鍛冶師』の一人に数えられている椿・コルブランドさんだ。

 

 

「椿さんがダンジョンに潜ってるなんて珍しいですね。以前、神ヘファイストスからあなたは一日の殆どを武器の製作に当てていて、滅多なことじゃダンジョンに潜らないと聞いてましたけど」

 

「なに、ちょっとした気分転換と素材集めにな。それはそうと、近いうちにエクス・デュランダルを取りに来てくれ。もう、あれは手前にはどうすることも出来んからな」

 

「もう良いんですか?」

 

「ああ。少し手前がやり過ぎてしまった所為で主神様からエクス・デュランダルをケンマに早く返すよう、こっぴどく叱られてしまってな」

 

「因みに何かやらかしたんですか?」

 

「いやな、エクス・デュランダルを最高の形で仕上げようと躍起になっていたら………最高級の砥石を数百個ほど無駄にして、手前の懐も素寒貧でな。アハハハハハ!!」

 

「嫌々、笑い事じゃないですから。取り敢えず、近いうちにエクス・デュランダルの回収に向かいます」

 

「うむ、そうしてくれ。所で、ケンマよ、良ければその刀を手前に見せてはくれまいか?先の【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯からずっと気になっていたのだ」

 

「別にいいですよ」

 

 

そう言ってケンマは簡単に漆黒の魔剣を椿さんに手渡した。それを見て僕はそんな簡単に漆黒の魔剣を鍛冶師に───それもオラリオでも屈指の『最上級鍛冶師』の椿さんに渡してよかったのだろうかと、僅かに不安に思う。

 

いくら『魔剣創造』で造り出した魔剣といえど、『魔剣』は魔剣。ヴェルフよりも鍛冶師としての腕が立ち、ヴェルフのようなスキルがなくても『魔剣』が打てる椿さんがケンマの漆黒の魔剣を見て、それが魔剣だと判断してしまうのではないかと内心不安でハラハラしてしまう。

 

 

「…………ケンマ、これは魔剣か?」

 

「ッ!!」

 

 

やっぱり、バレた!?

 

 

「んー、椿さんが言ってる魔剣は、武器から魔法が放たれる物を魔剣と言ってるのか、それとも俺みたく()()()()()()()()()()()を魔剣と言っているのか、どっちですか?」

 

「む?それはどういうことだ?」

 

「ま、論より証拠ですね………身体は剣で出来ている────トレース・オン!」

 

 

以前、ケンマが教えてくれた『魔剣創造』と『聖剣創造』で剣を造り出す時に使っているという疑似詠唱を唱えながらケンマは椿さんに渡した漆黒の魔剣と同じカタナの魔剣を創造してみせた。

 

その光景にケンマの能力を知っている僕たち【ヘスティア・ファミリア】とケンマたち【ヴィクトリア・ファミリア】以外の冒険者たちは、目を点にして目の前で起きた光景に驚き固まる。

 

 

「この通りです」

 

「んー、ん?んん?つまり、お主が使っている剣はお主の魔法で生み出した剣だと、そういうことか?」

 

「そうですけど?」

 

「しかし、それではLV.3 のお主がLV.4 相当に該当するゴライアスを一撃で屠るなぞ………それに先程の黒い一撃の説明も………」

 

「黒い一撃って、月牙天衝のことですか?それなら簡単ですよ、こんな風に」

 

 

またしても、ケンマは何でもないように言いながら片手を壁に振り抜くと振り抜いた手からはさっきより小さくはあるけれど、間違いなく同じ色の【月牙天衝】が放たれる。

 

それを見て、ケンマのスキルを知っている僕らを除いた皆さんは、再び目の前で起きた光景に理解が追い付いていけてないのか目を点にしながら驚き固まり直してしまう。

 

 

「これで知りたいことは知れましたか?」

 

「あ、ああ………手前の知りたいことは知れた。この刀も返そう」

 

 

椿さんから漆黒の魔剣を返してもらうと、ケンマは新しく創造した方の魔剣を消滅させてから未だに驚き固まっているボールスさんの下へと赴く。

 

 

「それじゃあ、ボールスのおっさん。約束通り、俺が一人でゴライアスを仕留めたからあいつのドロップアイテムと魔石は貰っていくからな」

 

「お、おう…………」

 

「リリ、春姫!ゴライアスの魔石とドロップアイテムの回収を手伝ってくれ!」

 

「手伝ってくれじゃありませんよ、全く!毎度毎度、ケンマ様は規格外なことを仕出かさないと気がすまないんですか!?今回だって、手負いの階層主といえどLV.3 の冒険者が一撃で階層主を討伐するなんて聞いたことがありませんよ!!」

 

「まぁまぁ、リリ様。ケンマ様は、今代の赤龍帝であらせられますし、なによりあのお力は世界の均衡を覆されるお力ですので………」

 

 

ケンマとボールスさんの賭けは、僕の予測通りケンマの勝ちで終わり。勝者の権利でゴライアスの魔石とドロップアイテムを回収するためにリリと春姫さんを呼ぶと、リリはまたしてもやらかしたケンマを怒り、春姫さんはケンマが今代の『赤龍帝』であり、『天鎖斬月』が『魔剣創造』の禁手であることを知っているために苦笑いを浮かべながらケンマを怒るリリを宥めようとしている。

 

そんな三者三様の対応に僕も思わず苦笑いを浮かべてしまう。そして椿さんはと言うと────

 

 

「ヴェル吉、お主も難儀な男と専属契約を結んだものよのう………」

 

「お前に不憫に思われるのは釈然としないが、ケンマは本当に鍛冶師泣かせな奴だぞ。この間も俺の作品とあいつの魔法で生み出した剣のどちらが優れてるか試してみたら、俺の作品があっさりと真っ二つにされて、心が折れそうになったもんだ」

 

「それは確かに、鍛冶師として己が丹精込めた剣よりも魔法で簡単に生み出した剣の方が勝るなんぞという残酷なモノを目の当たりにしたら、鍛冶師の誰しもが心が折れそうになるだろうよ」

 

「その上、終いにはエクスカリバーにデュランダルも持ってると来たもんだ。俺じゃなかったら、みっともなく癇癪起こしながら大泣きして暴れてるぞ」

 

「あー、確かにアレらを見たら無理もないな……」

 

 

元同僚で同じ鍛冶師のヴェルフとケンマのことについて色々と話し合っているようで、二人して大きな溜め息を吐いていた。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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