臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第百六十二話

 

 

 

 

 

〈Sideケンマ〉

 

 

 

 

「「わぁ……!」」

 

「図らずとも、18階層まで来てしまいましたね……」

 

「見るのはまだ、二回目だけど……やっぱり綺麗……」

 

「そうでございますね。優しい森と水の香り……故郷の極東を思い出します」

 

「春姫ちゃん、小川まで行ってみよう!」

 

「はい!」

 

 

予想外の階層主攻略とボールスさんのおっさんとの賭けで勝利した『ゴライアス』の魔石とドロップアイテムを回収した後、俺たちはそのまま17階層に留まるのではなく安全階層である18階層へと降り立つことを選択した。

 

そして二回目となる18階層の豊かな大自然と水晶群が広がる光景に感動を覚えながら、ベルたちは疲れ切った身体の力を抜いたり、春姫たちのように故郷を思い出して18階層の自然に触れてみたりと思い思いの休息を取っている。

 

そんな中、春姫と千草、命の三人の和気あいあいとした年頃の少女たちのような触れ合いを見て、桜花は懐かしい物を見るように感傷深く言葉を溢す。

 

 

「……昔に戻ったみたいだ」

 

「桜花さん……」

 

「春姫とは長い間、離れ離れになっていた。だから千草も命も一緒にいられなかった時間を取り戻そうとしてる……なんだろうな、この気持ちは……ああ、そうか。嬉しいのか、俺は……」

 

「その嬉しい感情は今だけじゃないぞ、桜花。これからもずっと続くし、続けさせてやるし、続けさせるんだ。俺たちが春姫たちの『最後の希望』だ」

 

「ああ、勿論だ!いつまでもケンマだけに春姫たちを守らせはせん!俺も春姫たちを守るために強くなる!」

 

「その意気だ。けど、しばらくしたら街に行こう。安全階層とはいえ、全くモンスターがいない訳じゃないんだ。腰を落ち着かせてからでも遅くはないだろう」

 

 

春姫たちの触れ合いを眺めながら感傷から思わず男泣きを見せる桜花に、俺はやっぱり春姫を救って良かったと胸の奥が暖かなもので一杯になりながら目の前で広がる光景を今度も何度でも繰返させてやると誓いながらそれを桜花にも共感させた。

 

けれど、いつまでも和気あいあいとした触れ合いを続けさせてる訳にもいない。何故なら、先程述べた通りここは安全階層でもダンジョンで、モンスターが全くいない訳ではないのだ。突然のモンスターの襲来で春姫たちが危険になる可能性だって捨てきれない。

 

ならば、ここよりも比較的安全なリヴィラの街で一度ちゃんとした休息を取ってから改めて、ここへ来る方が余程安全だ。

 

 

「おーい、三人とも!そろそろリヴィラの街に行くぞー!」

 

「「「はーい!」」」

 

 

 

○●○

 

 

 

「わぁ……これが『リヴィラの街』でございますか」

 

「えっと、春姫さんは街に入るのは初めてなんですか?」

 

 

街の入り口を目の前にして、まるで物語の中に入り込んだのではないかとキラキラとした眼差しで街を眺める春姫にベルはそう尋ねる。

 

 

「はい。イシュタル様の元では『遠征』に伴われることは何度もあって、この18階層も通りかかることもありましたが……街には入らせて頂けませんでした」

 

「大方、俺たちと同じように春姫の魔法が露見するのを恐れたんだろう。ギルドに冒険者登録させず、【フレイヤ・ファミリア】との戦いの切り札にするくらいだ。それに、獣人の中でも珍しい狐人となれば尚更目を付けられ易くなるからな」

 

 

その為、俺も春姫を守る傍ら鍛練を兼ねて17階層からずっと『天鎖斬月』を維持し続けている。ベルたちも俺が常日頃から探索帰りには『天鎖斬月』を維持し続ける鍛練をすることを知っているため尋ねて来ないが、今回は少し段階を上げて限界または地上に戻るまでずっと維持し続けるつもりだ。

 

禁手を使う関係上、体力と『魔力』の基本アビリティはどんなに高くても足りない。それこそ、ヴァーリみたく禁手を一ヶ月丸々維持し続けてられるほどの魔力量がないと最低限十分だとは思えない。理想としては、一ヶ月丸々戦闘しながら禁手を維持し続けられるほどの魔力量があってこそ、満足に十分だと個人的に思っている。

 

そんな理想を頭の中で思い浮かべていると、初めて街に来た春姫に冒険者の先輩として街の案内を申し出る。

 

 

「………だったら、その分まで楽しみましょう!少しくらいなら案内できます」 

 

「ありがとうございます、ベル様!」

 

「なら、ベル。春姫たちのことをしばらくの間、頼んでもいいか?」

 

「何処か行くの?」

 

「ああ。せっかく18階層に来たから彼女たちの所に行ってくる」

 

「彼女たち?」

 

「正義、と言えばベルも分かるだろう?」

 

「ッッ────うん、わかった。任せて」

 

「それじゃあ、頼んだ」

 

 

春姫たちのことをベルに任せたあと、俺は街を後にして彼女たちの墓参りへと向かうことした。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

〈Side春姫〉

 

 

 

「あの、ベル様!ケンマ様が仰られていた彼女たちとは、一体何方のことを………?」

 

「わ、私も気になります!」

 

 

街から去っていくケンマ様を見送ったあと、私は事情を知っていそうなベル様に思わずそう尋ねてしまいます。また、私と同じようにケンマ様を一人の殿方としてお慕いしておられるカサンドラ様も同様でした。

 

 

「ケンマが言っていた彼女たちとは………ケンマの冒険者の師匠の一人が所属していた【ファミリア】の元同僚たちのことで、ケンマが向かったのはそのお墓です」

 

「つまり、ケンマ様はその方たちのお墓参りに?」

 

「はい。僕もケンマと一緒にその師匠からここに仲間のお墓があることを教えてもらったので、弟子であるケンマからしたら滅多に来れない師匠の代わりにお墓参りができるせっかくの機会を逃したくなかったのかもしれません」

 

 

ベル様からケンマ様がお師匠様のお仲間のお墓参りに向かったと聞かされて、私は自分を酷く恥じました。もしかしたら、私の知らない女性たちとの逢い引きをなされるのではと卑しい妄想を頭に過らせたあまりにも醜い自分の頬を叩きたくなりました。

 

それはカサンドラ様も同じだったようで、落ち込んでいるところをダフネ様に慰められています。

 

 

「カサンドラ、そんなに落ち込まないの」

 

「だって、ダフネちゃん………わ、私、もしかしたらケンマさんが私の知らない女の人に会いに行ったんじゃないかって、そんなことを思っちゃって……」

 

「バカね、あのヘタレな団長がそんなことするはずないでしょう。あんたと春姫から告白されてんのに、断ることもせずに聞かなかったことにしてるほどのヘタレよ?もしも、そんな相手いるなら普通断るわよ!」

 

「で、でも………」

 

「だぁー!いつまでもウジウジしてると、団長を春姫か別の女に取られちゃうわよ!あんたと春姫だけじゃなくて、どうもアルテミス様も団長を狙ってるみたいだし」

 

「やっぱり、アルテミス様もケンマさんのことを狙ってるんだ!?」

 

 

ダフネ様からアルテミス様までもがケンマ様のことを一人の殿方として見ていることを告げられ、カサンドラ様はまるでこの世の終わりのような叫びを上げます。私も内心では、あれだけ美しくて凛々しいアルテミス様が一人の女としてケンマ様をお慕いしていることに同じ女として危機感を覚えております。

 

そのようなことを心内で思っておりますと、左目に傷があり眼帯をされている巨漢の冒険者様がベルにお声を掛けました。

 

 

「さっきはご苦労だったなぁ、【リトル・ルーキー】!いやぁ、助かったぜ!」

 

「いえ、僕は何にも。殆どケンマが片付けちゃいましたし」

 

「………ありゃ、稀に見る化物の類いだ、間違いねぇ」

 

「あははは………。それで僕たちに何か用ですか?」

 

「お前たち【ヘスティア・ファミリア】と【ヴィクトリア・ファミリア】は、勿論『下層』の攻略もしていくんだろう?」

 

「あ、はい、まぁ、そのうち………」

 

「なら『下層』の進攻の時はこの街を寄ってってくれよ、同業者ァ!お安くしとくぜ!」

 

 

私たちがそのうち『下層』への攻略を目指すことをお知りなられた巨漢の冒険者様は、大層笑顔でベル様の背中をバシバシと叩かれているなか、リリ様が冒険者様の意図をジト目で呆れられております。

 

 

「要はどしどし利用して、金を落としていけ、ということではないですか………」

 

「ここはそういう所だから仕方ないんじゃない? 流石に街を使わないと下層での攻略に支障が出るし」

 

「それは分かっていますが、【ファミリア】の金庫番をしているリリからしたら極力利用したくありません!」

 

「まぁ、五億ヴァリスも借金があるとね……」

 

 

五億ヴァリスの借金…………私には全く想像のつきようもない大金がベル様の短剣に使われていることもあって、リリ様はお金にはとても神経質になっておられます。対して、私たちは団長であるケンマ様がこの度階層主の魔石とドロップアイテムを手に入れたことで懐事情は暖かいようです。

 

しかし、それもつかの間のことで、ケンマ様は階層主の魔石をギルドで換金したらその殆どを私たちの新しい本拠地の資金に当てると仰っておられましたので、私たちもあまり贅沢は出来ないでしょう。

 

お互いの【ファミリア】の懐事情をリリ様とダフネ様が話し合っている中、ベル様が巨漢の冒険者様に何やら謝罪をしておられるようです。

 

 

「すみません、ボールスさん。僕からヴェルフを紹介することはできません。そういうのは、ボールスさん自身がヴェルフから信頼を勝ち取るべきだと僕はそう思うんです。きっとヴェルフは、例え僕が紹介しても簡単には武器を打ってくれはしないと思います」

 

「………………分かった。俺もこう見えて鍛冶師になろうとした端くれよ。あの魔剣鍛冶師の思いは少なからず分かるってもんだ。だから、早くあいつの所へ行ってやれ。【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯で『クロッゾの魔剣』は世間に大きく知れ渡ってやがる。あの戦いを見ていた奴ら、お前の所の魔剣鍛冶師に集まらねぇ訳がねぇんだからよぅ。じゃあな」

 

「ボールスさん………ありがとうございます」

 

 

ボールス様と仰られる巨漢の冒険者は背中を向けながら手を振って街の何処かへと消えて行かれました。

 

 

「ごめんなさい、春姫さん。街の案内をしたいのは山々なんですけど、今はヴェルフのことが心配で……」

 

「大丈夫ですよ、ベル様。春姫はこれでも一介の冒険者を目指す身でございます。いずれはこの街には何度も訪れることになるでしょうから私のご心配はいりません。ですから、ヴェルフ様の方を優先してください」

 

「春姫さん………ありがとうございます」

 

 

そう。私はケンマ様たちと同じ冒険者を目指し、想い人であるケンマ様の背中を支えると決めているのです。今まだ、皆さんのお力添えがなければここには訪れることは出来ませんが、いずれは己一人の力でたどり着いてみせます。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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