臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈Sideケンマ〉
「それじゃあ、無事に小遠征を達成できたことを祝って──────」
「「「「乾杯!!」」」」
俺の音頭に合わせて、皆はそれぞれの飲み物が注がれた木製ジョッキを仲間でぶつけ合ってから一気に中身を呷る。すると、打ち上げをする前に入った風呂で火照った身体と夏に近付いている影響か夜でも少々暑く感じるようになってきた夜風も相まってキンキンに冷えた飲み物のシャワシャワ、パチパチと弾ける炭酸が喉、食道、胃へと流れ込む爽快感がなんとも言えぬ快感に変わる。
そうして、一息で飲み物を飲み干した所で新しい飲み物の注文を偶々近くに来ていたリューさんにお願いすることにした。
「あっ、リューさん!同じ飲み物のお代わりをお願いします!」
「注文、承りました。少々お待ちを」
リューさんに注文をお願いした後、俺は取り分け用の箸でポテトフライを数本、自分の取り皿に取り分けてから新しい飲み物が来るまで一本ずつ食べているとヴィクトリアから17階層での出来事が地上で噂になっていることを告げられる。
「ケンマ、今回も色々とやらかしたみたいね」
「どうせ、ゴライアスを一撃で仕留めたことだろう?」
「ええ、昨日の夕方からその話題で持ちきりでバイト中のわたしの所にも知り合いの神々が来るくらいだったわ。まぁ、殆どがあなたの勧誘だったけどね」
「懲りねぇな………」
ヴィクトリアの言う通り他派閥による俺の勧誘は【アポロン・ファミリア】との『戦争遊戯』以降、ヴィクトリアまたは直接俺の所へ勧誘しに来ることが多く、お互いに勧誘は断っていた。未だに勧誘する輩がいることに呆れるが、当時は俺たちの派閥は俺一人しか団員が居なかった為に悉くお断りをさせてもらっていたのだ。
今となっては、ダフネ、カサンドラ、春姫の三名が俺たち【ヴィクトリア・ファミリア】に加わっているが俺は別に他派閥に移籍するつもりはない。万が一にも移籍するとして候補を上げるとすれば、無難に【ヘスティア・ファミリア】が第一候補に上がるだろう。第二候補は、色々と考慮して【ロキ・ファミリア】だろうか。
そんなタラレバの可能性のことを考えていると、酒を飲んで一息ついたダフネが今後のダンジョン探索について尋ねてくる。
「ねぇ、団長。今回の『小遠征』で18階層まで踏破しちゃったけど、次の探索からやっぱり19階層を目指すの?」
「それはちょっとベルたちと相談だな。俺としては、お前たち三人の【ステイタス】をできるだけ伸ばして、可能ならばダフネとカサンドラを俺と同じLV.3 へと 【ランクアップ】させたい」
「ウチらが団長と同じ………」
「LV.3 に【ランクアップ】…………」
「春姫は、【ステイタス】を伸ばしつつ冒険者としてせめてLV.1 同士でチャンバラが出来るくらいまでは神タケミカヅチから神楽舞の剣舞を身につけて欲しい」
「畏まりました」
今の所、俺たちの派閥の方針はこんな感じだろう。
春姫のイベントが終わったので直ぐにでもヘスティアがベルとちょっとした価値観の違いで喧嘩して、『ラキア王国』の主神であるアレスに誘拐されるイベントに移るのかと思っていたらそんな訳もなく、アニメにはなかった『小遠征』というイベントもあって『異端児』のイベントが起こるまでどのくらい猶予があるのか分からないが最低限三人の【ステイタス】を軒並最上位くらいにまでには伸ばしておきたい。
アニメ通りにベルたちと共に『異端児』たちを守るために動くのか、それとフィンさんたちと共に『異端児』を生け捕りにするために動くのかはその時になってみないと分からないが今よりも強くなることは悪いことではないはずだ。それに後の『下層』への『遠征』までに三人がそれぞれ【ランクアップ】を果たしてくれれば、それだけで探索の効率が飛躍的に向上するというものだ。
「でも、その前に団長として三人に提案がある」
「提案、ですか?」
「まぁ、規格外な提案じゃないことを祈ってるよ」
「正直、この頃ずっと探索ばかりだったり神楽舞の鍛練だったりで個人の自由な時間が殆どがなかったろ?だからさ、一週間の内の五日はダンジョン探索とかに使って、残り二日は完全な自由時間っていうローテーションで予定を組んでみないか?」
これは前々から考えていた事だ。以前のように俺一人だけなら適当に休みを入れるが、ダフネ、カサンドラ、春姫が加わった事と新しい本拠地を構えることで【ファミリア】の資産問題だとか団長の俺が休んでいないからその部下である自分たちも休んではいけないなんていう考えを持ってしまうことを考慮して、今回の提案を三人にすることにした。
「んー、それはちょっと良いかもね。適当に休みを取るんじゃなくて、一週間に決まった日数で休みが来るならモチベーションにも繋がるかも」
「私もしっかりとお休みが貰えるのは嬉しいです!」
「私も五日間頑張ったあとの二日間のご褒美というのは賛成です!」
「なら、基本的に俺たちの【ファミリア】は五日働いて二日休みの流れにするか。あとは、自分の誕生日だとか何かしらの祝い事やイベントなんかがある時は祝いの休みと書いて祝日という形で休みにしよう」
『ダンまち』の世界には祝日というのが存在しないことを俺は学んだ。何故なら、『怪物祭』や『神月祭』の時もギルドの職員であるエイナさんたちが休んでいる姿を見たことがないからだ。他にもレフィーヤたちに休日はどう過ごしているのかを聞いた時、不定期で休みを入れていると聞いていたのだ。
なので、前世のように明確な日数で労働して、それに見合った休日を満喫するという流れを俺たちの【ファミリア】でも採用することがここで決まった。
「五日働いて、二日休み………羨ましいニャ~」
「あれ、リューさんはどうしたんですかクロエさん?」
「リューならエルフの客の注文を聞きに行ったニャ。ほい、お代わりの飲み物ニャ」
「ありがとうございます」
「それにしてもケンマの【ファミリア】に入れば、週に必ず二日はお休みが貰えるのかニャン?」
「はい、今後はその流れを採用して行こうかと」
「はぁ~、羨ましいニャ……。うちは年中無休だから決まった休みも取れずに毎日が死にもの狂いニャン……」
一週間の流れを決めた所に、先ほどリューさんに注文したお代わりの飲み物を持ったクロエさんがやってくると『豊饒の女主人』のシフトはまるでブラック企業の如く連日連勤らしく、新しく方針を立てた俺たちのことが凄く羨ましいと愚痴を吐いてきた。
しかし、そんなブラック企業みたいな『豊饒の女主人』を辞めたいと言わない辺り、ミアさんのことを慕っているのが伺えてくる。或いは、ミアさんの拳骨が恐くて辞めたいなんてことを言えないだけかもしれない。
「ねぇ、団長。この人は?」
「ああ、悪い。紹介がまだだったな。彼女は、クロエさん。豊饒の女主人の店員で、俺の冒険者としての師匠の一人で、さっきのエルフの店員であるリューさんも師匠の一人だ」
「クロエよ、よろしく!それとバンバン料理もドリンクもお代わり頼んで金を置いていくニャ!!」
「てっことは、団長よりもLV. が上?」
「フフン♪」
俺の師匠ということでクロエさんにLV. が俺よりも上なのかとダフネが尋ねると、その問いにクロエさんはお盆で他の客に見えないようにしながら指を四本立てた後、ニッコリと笑みを浮かべながら直ぐに別の客の注文を聞きに行った。
「れ、LV.4……」
「更に言うとここにはクロエさんとリューさんの他にLV.4 が二人、LV.6 が一人いる酒場で、オラリオでも【ヘファイストス・ファミリア】のテナントに続いて最も安全な店だぞ」
「た、確かに第二級冒険者が五人もいるお店ならかなり安全ですね」
「三人で話が進んでいるところ悪いけど、春姫は完全に話に付いて行けてなくてポカーンとしてしまっているわよ、ケンマ」
「ま、そうなるよな」
ヴィクトリアの言う通り、リューさんたちのLV.4 が高過ぎて全くイメージが出来ないようで「へぇ、そうなんだ、すごいねぇ~」みたいに話を聞き流すしかない状態に春姫は陥っている。
「あと、俺の方で提案することは……そうだな、春姫の装備についてくらいか?」
「私の装備ですか?」
「ああ。春姫、悪いけどちょっと着物に触れるぞ」
「はい。どうぞ」
春姫に断りを入れてから彼女の赤い着物の袖に触れると、やはりと言うべきか春姫の着物はダンジョンの素材を使った戦闘衣ではなく、サラサラとした上質の生地を使ったただの着物だ。これは【イシュタル・ファミリア】のダンジョン探索では戦闘娼婦たちがずっと春姫を守っていたことを証明している。俺も薄々は気付いていたがしっかりと確認しなかったのがいけなかった。
それを反省しつつ、早急にヴェルフに春姫の戦闘衣を作ってもらうように依頼せねばならない。他にも素材の確保だ。春姫は、妖術使いなので動きやすいタイプの装備が好ましいだろう。イメージとしては、アニメ四期のような『
「ありがとう、春姫。やっぱり、春姫の装備は急いで整える必要がありそうだ。今着てる着物はただの着物で、戦闘衣じゃなかった」
「それは本当ですか?」
「なら、今回の小遠征はかなり危なかったんじゃない?」
「俺も確認するのが遅くなってしまったが、これじゃあ万が一の時に春姫が危ない。だから明日、市場で春姫の装備に使えそうなドロップアイテムを探してくる。最悪は、バベルで急ごしらえの物で何とかするかしないだろう」
「同じ後衛職として、私もケンマさんの考えには凄く賛成です!いくら後衛って言ってもモンスターの攻撃が来ない訳じゃないですから!」
「ですが、よろしいのでしょうか?春姫はまだまだ未熟者で、サポーター様の真似事しか……」
「そんなことは気にする必要はないよ、春姫。金なら今後いくらでも稼げる。でも、命は一つで一度切りだ。それを無くさないよう常に臆病であり続けながら作戦はいのちを大事に、だ」
「常に臆病であり続けながら作戦はいのちを大事に………」
「それじゃあ、プチ【ファミリア】会議はここまで!今は小遠征を達成したことの打ち上げだから存分に楽しもうぜ!」
「そうね」
「だね」
「「はい!」」
そうして俺たちは再び打ち上げの料理と飲み物を楽しむことに戻ったのだが、店の中で数名フード付きの外套を着込んで顔を隠している客が俺や春姫ではなく、ヴェルフだけに視線が向けていることに訝しむがこれと言って心当たりがないし、ヴェルフ本人も狙われているというような素振りは見せていないので下手に動くことはしないでいることにした。
もしも、ヴェルフが狙われるようなら真っ先にベルが何とかするだろうし、ヴェルフ本人もLV.2 の上級冒険者の一人なので早々に殺られる訳もないだろうとその時の俺は判断する。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に