臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈Sideケンマ〉
「ニャッニャッニャッニャッニャッニャッニャー!!」
「ぐっ……!!」
『小遠征』の翌日、早朝鍛練でアーニャさんが繰り出す怒涛の連続突きを死にもの狂いで捌き続ける。以前レフィーヤの尊い犠牲の謝罪をしに行った際、春姫の【ウチデノコヅチ】で一時的にLV.7へと【ランクアップ】を果たしたフィンさんたちの動きを真「女王」の状態で見ていたことが幸いして、何とかアーニャさんの突きを目視で捉えることが出来ている。
しかし、目で追えても身体の方が追いついていないので先ほど述べた通り、死にもの狂いで突きを捌くことで精一杯である。更に【プロモーション】と【転生悪魔化】の効果で二重に『女王』へと昇格していることでLV.4 の下位となんら変わらない動きを出せているので、アーニャさんも無意識に今までのような接待用の手加減ではなくなっているので突きの鋭さも威力も今までとは比べものにならないものとなっている。
「せいニャッ!!」
「ぐっくッ………がはッ!?」
ここに来て一番強い突きが『聖剣創造』で創造した木剣を砕き貫いて、棍棒の先が俺の腹部を直撃して、そのまま俺は中庭の壁へと突き飛ばされて背中を壁に強く打ち付けことで肺の中の酸素が強制的に体外へと吐き出されて視界が点滅する。そんな中でもアーニャさんが追撃を仕掛けようと迫って来ているのが見えたので即座に身体を横に転がして、追撃から逃れる。
それと一応、俺に突きを当てる瞬間、棍棒を握り直して壁を突き破らない程度には威力を弱めてくれたみたいだけど、痛いことに変わりありませんよ。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「ケンマ、おミャーは本当に強くなったニャ……」
「あ、ありがとうございます。でも、まだまだアーニャさんたちに敵いませんけどね………」
実際その通りで、春姫を助けたことで新しく発現した【転生悪魔化】のおかげで今までのような神器による所見殺しではなく、純粋な冒険者としての技で皆さんに一撃を入れられるかもしれない良い所まで迫るくらいにはなれてきたが、ちょっと本気を出されるとあっという間にボロ雑巾にされてしまうくらいまだ俺は弱い。
でも、師匠の一人であるアーニャさんに強くなったと褒められて嬉しくなる。しかし、褒められても視線を彼女から離さずに折れた木剣は、折れたままで切っ先をアーニャさんに向けながら木剣を上書き創造で直す。
「………フッ!」
「……ニャッ!」
木剣を上書き創造した所で俺は新たにもう一本の木剣を創造、二刀流でアーニャさんと再び打ち合う。
今までは片手剣だったから攻めと防御を両立しなければならないが、それでも二刀流ならば二つのことが同時にできる。それを証明するためにアーニャさんが繰り出す鋭い突きをまずは木剣二本で逸らしながら受け止め、そのまま右手は棍棒を横に抑えたままで、左手はそのまま更に棍棒の持ち手を沿うようにして彼女へ凪払うを繰り出す。
しかし、こんな簡単な攻撃をアーニャさんがみすみす受ける訳もなく、僅かに身を引いて棍棒から手を離して、握っていた右手で棍棒の持ち手を横に押して回転させ、回転した棍棒を左手で掴むとそのまま左から凪払ってくる。
「甘いニャ!」
「くそっ!」
長物の弱点である懐に入り込んでも、アーニャさんみたいな達人級に一歩踏み込んでいる人たちは長い持ち手を回転させたり、短く持つことでその弱点を克服してくる。だからこそ、懐に入り込んだと思っても気が抜けない。
そんな訳で俺から見て、右側から凪払われる一撃を俺も態々受け止めることはせずに足に力を込めて跳び上がりながら身体を横に倒して、凪払いを空中でスレスレに躱し、悪足掻きとして左の木剣をアーニャさんに回転させながら投擲。
こんな至近距離からの投擲だ。アーニャさんだって棍棒で防げる訳もなく、腕か足で防いでくるかと思いきや、彼女はまさかの木剣の回転を読み、柄の先端である柄尻に拳を叩き込んで俺に返してきた。
「ンニャッ!!」
「い"いぃぃッ!?」
LV.4 の『力』で柄尻を殴られた木剣は、とんでもない速さで俺の下へと返ってきたので、こちらも思わず木剣を『聖剣創造』の能力で消滅させて難を逃れる。
流石にあのまま飛んで返ってくる木剣を受けたら打撲程度では済まなそうだし、躱したら躱したで中庭の壁がとんでもないことになって、後でミアさんに怒られる未来が待ち受けているので木剣を消滅させる選択は間違っていないと思う。
「ああああっ!! 武器を消すなんてズルいニャ!卑怯だニャ!!」
「いやいや、あのまま躱したら中庭の壁が大変なことになって後でミアさんに怒られる未来が待ち受けてますし、俺も痛いのは嫌なんで流石に消しますよ」
「うぐっ!そ、それでもズルいものはズルいニャ!!」
「ええ………」
木剣を消滅させたことに異議を申し立てるアーニャさんに、あのままでは俺が怪我をするか或いは躱した後ミアさんに怒られる未来が待ち受けていることを説明するが、それでもズルいズルいと理不尽にも非難されてしまう。
それがしばらく続くとアーニャさんのズルい地団駄を聞き付けたミアさんがやって来て、彼女に拳骨を落として黙らせた。
「朝から何騒いでるんだい!近所迷惑なんだよ、このアホンダラ!!」
「ブニャッ!?」
○●○
「ちわ~す、デュランダルを受け取りに来ました」
アーニャさんとの早朝鍛練を終えたあと、今日と明日は『小遠征』による疲労の回復と必需品の補充などを考慮して休みになっている。そのため、小遠征中に椿さんに言われた《デュランダル》を受け取るために彼女の専有工房前へと訪れている。
しかし、案の定返事が返ってこない。普通なら武器の製錬で俺の声が届いていないと思うが今はその製錬によって生じる金属同士が衝突する音が聞こえない。
となると───────
「寝落ちしてるな」
前世で見てきたアニメやラノベにも職人気質の者は、精魂込めた一品が出来上がると死んだようにその場で寝るという描写が描かれていた。なので、椿さんも似たようなことになっているのではないかと俺は推測した。
「寝落ちしてるとなると出直しか?」
別段今日は予定が決まっている訳ではないので出直してもいいのだが、態々ここまで来て出直しとなると精神的に萎えてしまう。そう思うと前世のようなスマホ等による時間指定の予約などは効率が良かったのだと改めて思う。
現代技術って、素ン晴らしい…………。
とまたしても現代技術の素晴らしさを思い返しながら、このまま本拠地に戻るのも何ので春姫の戦闘衣の素材となる物を求めて市場へと繰り出すかと自分の中の羅針盤が市場へと方針を向けようとした所で、工房の入口が開いた。
「おう、ケンマ。すまんな、明け方まで武器を打っていたらそのまま寝落ちしてしまったようだ」
「いえ、俺もいつ来るかまでは伝えてませんでしたから」
工房の入口から出てきた椿さんは、今述べた通り新しい武器が完成すると汗を流すことなく直ぐに寝落ちしていたようで、いつもは後ろで束ねている髪が束ねられておらず下ろした状態になっている。
「失礼を承知で聞きますけど、シャワー浴びるなら少し外でぶら付いてますよ?」
「いや、大丈夫だ。どうせ、手前みたいなそこらの女子のように色気もへたったくれもない職人気質の女など、ケンマも気にはせんだろう。ほら、こっちだ」
「いやいや、普通に気にしますから!」
服装からして薄々そうなんじゃないかと思っていたが、椿さんは自分の身なりに気を使わない人みたいのようでそのまま再び工房の中へと戻っていく後ろ姿を眺めながら、俺はふと前世の名前も覚えていないクラスメイトの女子が「男子は、女に夢見すぎ」と言っていたのを思い出して、まさにその通りだと溜め息が出てしまう。
名前も覚えていない女子の言葉に納得して溜め息を吐いたあと、椿さんを追いかけるように彼女の工房へと入ると鍛冶工房特有の濃い金属の臭いが一気に鼻腔を通り抜ける。
「鉄臭ァっ!!」
「鍛冶工房なのだから当たり前だろう。何を馬鹿なことを言っておるのだ」
「それはそうなんですが、思わず条件反射で………」
「鉄の臭いなど武器を持って、ダンジョンでモンスターどもを倒しておれば慣れているだろうに」
「いやいや、普段使ってる武器やモンスターの返り血とこの工房内の臭いは段違いですって!!」
「そんなものかのう。いかせん、手前はかれこれ二十年近くも鎚を打っている故、鉄の臭いがしないとどうも落ち付かなくってくる。終いには、金属の種類によって臭いに違いがあることが分かるくらいだしな」
「金属の種類によって臭いが違うって………マジですか?」
「大真面目じゃよ、ニシシシッ!」
「しょ、職人ってスゲー………」
金属の臭いを識別するなんてことは初めて聞いたが、某食戟アニメに登場するスパイスマスターみたいなものなのだろうと無理矢理納得することにした。
「そんなことよりも、お目当ての物はそこにある。また何かあったら手前の所に持ってくるがいい」
「おお!な、なんか滅茶苦茶光沢が良くなってる!?」
椿さんが指で示した先には、彼女に預けた時よりも明らかに光沢が良くなっており綺麗な霞み仕上げで鏡とまではいかないが、俺の顔が反射するくらいには仕上げられている《デュランダル》が台の上で寝かされていた。
そして満を持して約一ヶ月振りに《デュランダル》を手に持つと、いつものような暴力的なまでの聖なるオーラを暴れ馬のように放つのではなく、静かにそれでいて一歩間違えれば暴力的なまでの高濃度の聖なるオーラを刀身へ流麗に留めているのだった。
「つ、椿さん!一体、こいつになにをしたんですか!?」
「なにをしたも、ただ只管に丹念に磨いでいただけよ。最初こそ、どんな素材でどんな方法を持って聖剣を作ったのかを手前なりにあれこれ考えてみたが、結果答えに行き着かんかった」
そりゃそうだ。『ハイスクールD×D』でも聖剣や魔剣の素材とその製法は原作でも明かされていない。判明しているのは七本の《エクスカリバー》は『核』さえ残っていれば再び修復できるということだけ。
しかし、それも『ハイスクールD×D』の世界ならではであり、『ダンまち』の世界では修復できる手段がない。まぁ、万が一の可能性としていずれ手段が生まれる可能性がないとは言えないが現実的ではないだろう。
「それからは今さっき言った通り、只管に磨いでおったのよ。最高級の砥石を使ってな」
「いくら最高級の砥石を使ったからって………あの暴力的なまでの聖なるオーラを高濃度でありながらここまで静かにさせるなんて………ゼノヴィアが見たらなんて言うか」
多分、その気で軽く振るえば溜め無しで最大威力の【クロス・クイシス】を放てるのではないかと思うほど《デュランダル》は今も尚、高濃度の聖なるオーラをその刀身に留めているのに思わず冷や汗が頬から顎へと垂れる。
《デュランダル》の状態を確認したあと、俺は慎重に慎重を重ねながらゆっくりと丁寧に異空間へと収納する。実は態々毎回、《エクス・デュランダル》に合体させるのが面倒になってきていたりする。
「ありがとうございます、椿さん。思わぬ良い結果が付いてきてびっくりしましたが、お陰でデュランダルが良くなりました」
「それは良かった。手前としても、あれだけの最高級の砥石を消費して預かる前よりも悪くなっていた等と言われた暁には、鍛冶師を引退するか自決する覚悟をしておったわ」
「引退に自決って……天秤が釣り合ってないですよ」
「ま、なんにせよ一人の鍛冶師として大いに勉強になった。感謝するぞ、ケンマ」
「いえ、俺こそただで八本の剣を研磨してもらってありがとうございます」
「所で、ケンマ。お主に一つだけ問いたい」
「なんでしょう?」
「ここ最近でヴェル吉に変わった様子とかは、なかったか?」
「ヴェルフにですか?」
ヴェルフに変わった事と言われても直ぐに思い浮かぶものとしたら、『小遠征』の野営中に魔剣の耐久性のことを話したことくらいだろうか?
あとは───────
「んー、ヴェルフ本人には変わった様子はなかったですけど、ただ………」
「ただ?」
「昨日の打ち上げで俺がゴライアスを一撃で仕止めた噂で注目を集めていた中で俺ではなく、ずっとヴェルフを凝視していた奴らが居たのを覚えています。それも顔がバレるのが嫌なのか、店の中でもフードを被っていました」
「ふむ………人数は?」
「二人でした」
「二人か」
俺が打ち上げの席でヴェルフを凝視していた奴らの人数を椿さんに伝えると、彼女は腕を組んで何かを考えて始めた。
「あの椿さん、もしかしてこれからヴェルフは何かに巻き込まれようとしてるんですか?」
「いや、そこまで大袈裟なことはでない。それに手前たちでも何とかできる程度の物だ。心配は無用だ」
「そう……ですか」
心配するなと言うが、ヴェルフは大切な親友だ。何かに巻き込まれてると分かっているのに何もしないなんて俺は出来ない。
とは言えど俺に一体何ができる?ヴェルフが何に巻き込まれるのか、どんな奴らがヴェルフを厄介事に巻き込もうとしているのかそれすら分かっていない今、俺がやれることはヴェルフや同じ【ファミリア】の団長であるベルにヴェルフのことを気にかけるように注意喚起を促すくらいだろう。
ちょうど、この後は春姫を迎えに【ヘスティア・ファミリア】の本拠地に寄る予定だったので何もしないよりかは増しだろう。
オリ主たちの新本拠地候補
-
第六区画 『竈火の館』の近く
-
第七区画 元ヘスティア廃教会
-
西地区 豊穣の女主人の近く
-
北地区 適当に