臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
椿さんから《デュランダル》を受け取った後、去り際に彼女が言っていたヴェルフが厄介事に巻き込まれようとしているかもしれないことが気になりながらも、俺は春姫を迎えに【ヘスティア・ファミリア】の本拠地である『竈の館』へと訪れた。
すると─────────
「け、ケケケケンマ様!あ、あああれはどういうことですかぁぁあああ!!」
「そうだぞ、ケンマ!本当にあれはどういうことなんだ!ちゃんと説明しろ!!」
「は?」
『竃の館』に訪れて呼び鈴を鳴らして待っていたら、ドタバタと音を鳴らして勢いよく玄関が開くとリリとヴェルフが血相を変えて俺に詰め寄ってくる。
正直、いまいち理解が追い付かない。誰か状況の説明をしてくれないだろうか?と思っていると羊皮紙を凝視する命を連れた春姫がヴェルフの言っているのはどういう意味なのかを教えてくれた。
「どういうこと?」
「昨晩の打ち上げから戻られた後、皆様はヘスティア様に【ステイタス】の更新をされたようなのですが、その時の基本アビリティの上がり値が過去一番だったようで………」
「ああ、【赤龍帝からの贈り物】の効果か!」
なるほど、それでヴェルフたちはこんなにも驚いているのか。
まぁ、そうだよな。ベルみたく【憧憬一途】がある訳じゃないから一気に基本アビリティが上がるなんてことは滅多にない経験だがら、こんな規格外なことを引き起こせるのは間違いなく俺だと消去法で当たりをつけた訳だ。
「因み、どのくらい上がったんだ?」
「俺は全体で五十一も上がってた」
「リリも三十四も上がってました」
「自分も四十五も上がっていました」
「おう、それなりに上がってたみたいだな」
たった一日でそこまで上がるのは、自分のことは棚に上げて俺でも完全な予想外です!!良い意味で。
元々貯まっていた【経験値】に俺が施した【赤龍帝からの贈り物】と相まって一日でとんでもない上がり値を叩き出してしまったのではないかと推測するが、それにしても効果が凄まじいね。
計画通りでよかった。
「あのケンマ様、先ほどスキルの効果と仰いましたが………」
「おう。昨日、ここの中庭で掛けた【赤龍帝からの贈り物】の効果の一つでスキルを使った対象に『良成長』のスキル?発展アビリティ? どちらかは分からないが一時的に発現付与させることができるんだ」
「つまり、リリたちの基本アビリティが急激に伸びたのは………」
「うん、俺のスキルのお陰だな。どうよ、めちゃくちゃ基本アビリティが伸びた感想は?」
敢えて、ドヤ顔で尋ねてやれば。
「「「これからもお願いします!!」」」
まぁ、そうなるのが普通だろう。
【赤龍帝からの贈り物】でリリたちをアニメよりも強化するのはこれからも継続するとして、俺は椿さんから聞いたヴェルフが厄介事に巻き込まれるかもしれないことについて、ヴェルフ本人に何か変わった事はないかと尋ねてみることにした。
「そうだ、ヴェルフ。昨日、今日でお前の周りで何か変わったことはあったか?」
「昨日、今日でか? 基本アビリティが異常に伸びたこと以外には何にもないが。何かあるのか?」
「椿さんからヴェルフの様子を聞かれてな。それで、ちょっと気になってな」
「そうか、心配してくれてあんがとな」
「おう」
一応、こうしてヴェルフには注意を促せて、本人からもこれといって変わった事はないと聞けたので一先ずは安心だな。もしも、何かあればベルが居るし今の俺なら起きていればヴェルフや【ヘスティア・ファミリア】の気配ならば直ぐに探知はできるし、大きな問題はないだろう。
それに態々、第二級冒険者の居る【ファミリア】に喧嘩を吹っ掛けるような馬鹿な【ファミリア】も早々ないだろう。前の【アポロン・ファミリア】との『戦争遊戯』を見ていた奴らなら尚更だろう。
「それじゃあ、そろそろ行くわ」
「それでは、皆様。行って参ります」
「春姫殿、お気を付けて。ケンマ殿、春姫殿を頼みます」
「そんな心配することはないと思うけどな」
ヴェルフ、リリ、命の三人に見送られながら春姫を連れた俺は『竃の館』を後にする。その際 、門扉を閉じたところで念のために館周辺の気配を探り、館を見張るような動きをしている奴がいないか確認すると当たって欲しくはなかったが物陰から館を見張る気配が複数感知できた。
ベルがいないのに館を見張るということは、恐らくはヴェルフとヴェルフが打つ魔剣が目当てなのだろう。となれば首謀者は絞れてくる、なんてことはなかった。昨日の『小遠征』でもリヴィラの街でヴェルフ本人から他派閥の冒険者から魔剣を打ってくれとせがまれたと愚痴を聞いていたので、そういう輩が力強くで奪いまたは拐いに来たか或いは今オラリオの外で戦争を行っている隣国の『ラキア王国』の密偵である可能性も捨てきれない。
「【ヘファイストス・ファミリア】が動いているから下手に動く方が危ないか」
「何が危ないのですか?」
「いやな、不審者が近くに居るもんだから速攻で片付けようかとも思ったけど、下手に動いて刺激すると何を仕掛けてくるか分からないから危ないと思っただけだ」
「ふ、不審者でございますか!?」
「大丈夫。そいつらが春姫に触れないように俺が守ってやるから心配するな」
不審者と聞いてケモ耳と尻尾を逆立てさせて不安そうにする春姫を落ち着かせながら俺たちは、北と北西のメイトストリートに挟まれた区画の路地裏深くにある【ゴブニュ・ファミリア】へと向かった。
「あ、来た来た」
「ケンマさん!春姫さん!」
「おう、待たせたか?」
「いいえ、そこまで待っていないわ」
「早朝鍛練お疲れ様だ、ケンマ」
【ゴブニュ・ファミリア】の本拠地兼工房の前に到着すると、既に【ファミリア】の総資産の九割を持った副団長のダフネ、カサンドラ、ヴィクトリア、アルテミスが俺たちのことを待ってくれていた。
「それじゃあ、行くか!」
○●○
「新しい本拠地の建設依頼か………予算はそれか?」
「はい。三○○○万ヴァリス入ってます」
その問いに答えながら【ゴブニュ・ファミリア】の本拠地にある応接室で俺はテーブルを挟んで迎え側にいる【ゴブニュ・ファミリア】の主神であるゴブニュに、ヴァリス金貨がこれでもかと入った袋を三袋差し出す。
「三○○○万ヴァリス、これだけあれば人数分の部屋とそれなりの本拠地は軽く建てられるだろう。他に何か付け加える物はあるか?」
「男女別の風呂とかなり頑丈な鍛練場、それから新しく入団するかもしれない未来の新人用の部屋を何部屋か、あとは小さな離れを一つお願いします。他には、見ての通り俺以外女神と女性団員しかいないので彼女たちの部屋をそれぞれ要望通りにお願いします」
最後の要望についてお願いしている最中、ゴブニュと同伴している経理担当らしき男性団員が僅かにペンを握る手に力を込めたのを俺は決して見逃さなかった。
すみませんね。俺も気づいたら団員が女子だけになっていたんです!肩身が狭いんです!!
などと届きもしない声を心内で叫んでいるとゴブニュは頷いて、席を立ち上がると経理担当に何人か団員を呼んで来るように伝えた。
「まずは下見からだ。新しい本拠地の場所に案内してくれ」
「分かりました」
その後、ゴブニュと数人の【ゴブニュ・ファミリア】の団員たちと共に街の西区にある新しい本拠地の建設予定地へと訪れて、まずは廃墟と化してしまっている建物の解体及びそれに伴って出てくる廃材の撤去費用、それから土地の計測などの人数が必要となる作業の人材費用などを色々と話し合った。
そしてざっとであるが経理担当から大雑把な見積り予定金額を聞いて、俺たちは呼吸が浅くなった感じがした。何故なら、予想していた通り三○○○万ヴァリスの殆どが持っていかれるからだ。
やっぱり、一から新しい本拠地を建てるとなると莫大な金額になるようで、これは前世でも同じだと思いながら若干十七歳で普通の一軒家よりも大きな家を建ててもらうのだから仕方ないだろう。
「ふむ………そうだな、完成までは約一ヶ月といったところか」
「えっ……い、一ヶ月?そんな早く完成するんですか!?」
「まぁな。だが、まずはこの廃墟を解体してからでないと土地の正確な計測も出来んし、新居の模型も作れもせんからな。もしかしたらもう少し掛かるやもしれん」
「そ、そうですか………」
元々、新居は直ぐに出来ないことは分かっていたが、それでも一ヶ月そこらで新居を一から建てられてしまう物なんだと驚いている。前世だと小さな一軒家でも重機とかを使って半年以上は掛かる物なのだが、やはり【恩恵】があるだけでマンパワーが一変するようだ。
未だに抜け切れていない前世との違いに戸惑いながらも、あと一ヶ月は今まで通りにそれぞれの借り住まいを続けてもらうことをダフネたちに説明する。
「てな訳で、あと一ヶ月弱今まで通り借り住まいを続けてもらうことになりそうだ」
「ウチとカサンドラは問題ないよ。団長が宿屋のオーナーと話を付けてくれてたお陰で、出ていけとは言われてないからね」
「はい。お陰様で快適に過ごせてます」
「私もケンマ様がリリ様と契約を結んでいだいているお陰で、毎日快適に過ごせております」
「それなら良かった。あと一ヶ月、それまでの辛抱だ」
取り敢えず、新居の完成予定日は約一ヶ月後。その後は、引っ越し作業にご近所への引っ越しの案内、新しい家具などを買ったりと諸々の出費がまだまだ出てくると思うと何故か溜め息が出てしまう。
そんな先々の出費について憂いていると、自分の眷属たちに詰め寄られて何やらああでもない、こうでもないと話し合いをしているゴブニュが深い溜め息を吐いた後、何故か俺の下に来て声を掛けてきた。
「【刀剣の支配者】、ちょっといいか?」
「はい、なんでしょう」
「うちのガキ共が、先日の【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯でお前さんがみせたテンサザンゲツをじっくりと見たいと言ってきてな。お前さんが良ければ見せてやってくれないか」
「あー、なるほど………」
思えば【ゴブニュ・ファミリア】は鍛冶師系の【ファミリア】なのだから、こうなるだろうとヴェルフに注意されていたことを今になって思い出した。
いや、マジでどうしよう。椿さんの時は漆黒の魔剣の方に興味が向いていたので魔法で作り出した物として誤魔化したが、流石に複数人となると間違いなく色々と調べられてしまうだろう。
こういう時は、主神任せにしましょう。
「ヴィクトリア、どうしたらいい?」
「そうね………流石にうちの最高戦力であるケンマの手の内を自由に調べていい、とは主神として言えないわね」
「それはそうだろう。俺もそいつと似たような眷属がいたとして、娯楽に溺れたどうしようもない神々に見せてくれとせがまれても見せようとは思わんな。それが例え、同じ鍛冶神であるヘファイストスが頭を下げてきたとしてもだ」
「なら、答えは分かっているでしょう?」
「ああ。ガキ共には俺から伝えておく」
そう言ってゴブニュは自分の眷属たちの下へと戻っていき、『天鎖斬月』の話をすると眷属たちはあからさまにガックシと残念がっていた。正直、俺としても専属契約を結んでいない人たちやその主神に奥の手の一つである『天鎖斬月』をおいそれと調べさせてはやれない。
何はともあれ、これで新しい本拠地の建設依頼だけは完了した訳だ。後は外観や内装等といった本格的な話になってくる。それに伴い、俺たちの【ファミリア】にかけているとある物も決めなければならない。
「なぁ、ヴィクトリア。俺たちの【ファミリア】のエンブレムはどうするんだ?」
「それならもう決まってるわよ」
「えっ、マジで?初耳なんだけど!?」
「フフフフ、これがわたし達の【ファミリア】のエンブレムよ!」
高らかに宣言しながらヴィクトリアは懐から一枚の羊皮紙を取り出して、俺たちに見せてくる。そこには星を背景に某腹ペコ王が持っていた神造宝具の聖剣を両手のブーステッド・ギアが鞘に納める絵が描かれていた。
ウェールズの赤い龍、某腹ペコ王の聖剣の二つは勝利に関する物だということは分かる。しかし、星は何で『勝利』を司るヴィクトリアに関するのだろうか?
「剣に籠手、それに星?」
「でも、この籠手の絵って…………」
「ケンマ様のブーステッド・ギアでございますね」
「剣と籠手は勝利に関わってるのは俺でも分かる。けど、なんで星が勝利に関わってるんだ、ヴィクトリア?」
「それは、とある小惑星の名前がわたしの名前から由来しているからよ。ヴィクトリアからビクトリアに変えて、ビクトリア小惑星と呼ばれているの」
「へぇ、そうだったか。流石に小惑星の名前までは授業で習わなかったな。習ったのは太陽系の惑星くらいだな。水金地火木土天海冥ってな」
小学生と中学生くらいの時に習った物で、それ以降はほとんど使うことなかった物が今になって出てくると思わなかった。
「ねぇ、カサンドラ。ヴィクトリア様と団長の話の内容って分かる?」
「ううん、全然。春姫さんはどうですか?」
「私も全く。アルテミス様はいいがですか?」
「ケンマたちが話をしているのは星のことだ。私たちが住んでいる場所も星の一つだが、ケンマの言っていた水金地火木土天海冥の最初から三番目に当たる『地』で地球と呼ばれている」
「「「地球………」」」
【ヴィクトリア・ファミリア】のエンブレムはFGOの勝利の兵装のイメージです。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に