臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第百六十七話

 

 

 

 

 

〈Sideヴェルフ〉

 

 

 

それは所謂虫の知らせ………いや、あいつは自分のことをドラゴンだと言ってたから『ドラゴンの知らせ』だったのかもしれない。『小遠征』を終えたその日の夜に、ヘスティア様に【ステイタス】の更新をしてもらい今までに見ないほど基本アビリティが上がっていた。

 

最初こそ、ヘスティア様の手違いではないかとも疑ったが俺だけでなくリリスケ、命までも見たこともないような上がり方に違和感を覚えた所で、これはもしかしたら規格外が人の皮を被ったようなケンマが原因ではないかと思い、翌日『竃の館』にやってきたケンマに問い詰めるとやっぱりあいつのスキルの影響だったようだ。

 

そしてここからが先ほど述べた『ドラゴンの知らせ』って話になってくる。あいつのスキルの影響で俺たちの基本アビリティが過去一番の上がり値になったのだと分かった後、ケンマから俺の周りに変化はないかと尋ねられた。

 

 

 

「そうだ、ヴェルフ。昨日、今日でお前の周りで何か変わったことはあったか?」

 

「昨日、今日でか? 基本アビリティが異常に伸びたこと以外には何にもないが。何かあるのか?」

 

「椿さんからヴェルフの様子を聞かれてな。それで、ちょっと気になってな」

 

「そうか、心配してくれてあんがとな」

 

「おう」

 

 

椿も何やら俺の周りを気にしているようだが、『小遠征』から帰って来てから変わったことは【ステイタス】以外に全くないため、その時はただ心配性なだけだと思っていた。

 

しかし、実際にはそうではなかったようだ。何故なら、ケンマから心配された翌日に偶々気分転換に街を歩いているとオラリオにいるはずのない男と再会したからだ。

 

 

「ヴェルフ」

 

「親……父……!?」

 

 

七年前、故郷を飛び出した際に決別したはずの実の父親であるヴィル・クロッゾが目の前にいることに俺は理解が出来なかった。

 

 

「なんでだっ……どうしてあんたがここにいるっ!?」

 

「説明が必要か、愚息よ」

 

「ぐっっ………!」

 

 

なんでだっ!どうして親父がここにいるっ!?親父は王国の人間だ。今、都市の外でオラリオの冒険者たちと戦争をしている側の人間がどうしてこんなに堂々と俺の目の前にいるんだ!?

 

まさか、今回のラキアの目的は────俺とケンマ!?

 

そこまで考えが至れば後は簡単だった。王国はオラリオの冒険者以上に魔剣魔剣魔剣、魔剣のことしか頭にない魔剣脳だからだ。それに前の【アポロン・ファミリア】との『戦争遊戯』で俺もケンマも盛大に魔剣を披露してしまっている。魔剣好きの王国なら狙ってもおかしくはない。

 

クソたれッ!俺の所為でケンマまで王国に目を付けられるだなんて、ふざけろッ!!

 

そんな思いが頭の中をぐるぐると支配していると親父から魔剣を打つように命令される。

 

 

「ヴェルフ、我々のために魔剣を打て」

 

「………!!」

 

「王国が、アレス様が貴様の『魔剣』を認めた。くだらない神の遊戯に用いた、一族の力を」

 

「…………」

 

「オラリオとの戦の準備は以前から進められていた。だが戦争遊戯の知らせが届き、急遽アレス様と王は戦略を変更したのだ。オラリオから生まれ続けるクロッゾの魔剣を奪取せよ、と。今も続いている戦争の目的の本命は他でもない……お前だ」

 

「………フッ」

 

「何がおかしい?」

 

「いや別に、個人的なことだからあんたは気にしなくていい。それで?態々、俺の前に現れてそのまま拐おうってか?」

 

 

良かった。本当に良かった。王国の連中はケンマの『魔剣創造』について何も気づいちゃいなかった。ダチを巻き込んでいない、それだけでも俺にとっては救いだ。

 

それにお陰で少しだけ冷静さを取り戻せた。

 

 

「いいや、私が仰せ遣ったのはお前の説得だ。私と共に来い、ヴェルフ。『クロッゾの魔剣』を生み出すお前が戻れば、今一度王国の栄光は蘇る」

 

「仮に俺一人が王国に戻った所で、王国の栄光なんて蘇りはしないぞ。あんたらは王国に籠っている所為で世界の広さと理不尽さを知らないのさ」

 

「なに?それはどういうことだ、ヴェルフ」

 

「答えるとでも思ってんのか?」

 

 

親父を初め、王国に残ってる一族は知らない。所詮、俺が打つ魔剣はケンマが創造する魔剣には及ばない。まして、伝説の聖剣たちを目にした時、俺はまるでヘファイストス様が打った作品を初めて見た時に匹敵するくらいの衝撃を受けた。その後、ケンマから聞いたがあの聖剣たちは神々から【恩恵】を授かっていない人間が造り出した物だと聞いて、心底信じられなかった。

 

だからこそ、親父や一族連中は知らない。世界はあまりにも広く、そして理不尽で満ちているということを。

 

 

「それで俺を力強くで攫おうってのか? こんな外れでも、人が駆け付けて来るくらいまでは足掻いて騒ぎまわってやる。ここは迷宮都市だ、一度見つかれば逃れられないぞ」

 

「お前が同伴を拒んだなら────オラリオに侵入した同志が、『魔剣』で街に火を放つ手筈になっている。無論、『クロッゾ』のな」

 

「なっ────嘘を言うなッ!? 王国にはもう『クロッゾの魔剣』は残っちゃいないだろう!?」

 

 

ダチであるケンマが今回の件に巻き込まれていないということで僅かに落ち着きを取り戻せたはずの冷静さも、今の親父の発言で一気に消し飛んでしまった。

 

 

「いや、存在する。『精霊』に呪われた際、破壊を免れた五十振りがな。一族の末端であったお前が知らないのも無理はない」

 

「…………」

 

「王国は残された祖先の『魔剣』を失うのを恐れ、使うことはなかったが………証拠に、見ろ」

 

「─────ッ!?」

 

 

親父が懐から出した一振の『魔剣』に俺は言葉を失わざるを得なかった。何故なら、その一振を見た途端に俺の身体に流れる血がざわめき、それが本当に破壊を免れた『クロッゾの魔剣』だと知らせているからだ。

 

そしてそれは親父の言葉通り、残り四十九振りの『クロッゾの魔剣』を携えてオラリオに侵入した王国の奴らが親父の合図で何時でも街に火を放てるということになる。

 

そうなれば平和なオラリオの街も火の海と化し、建物は瓦礫の山となり、それに伴って数え切れないほどの一般人への被害が出る。

 

 

「お前が私達の下に来れば何も問題はない。何も、な」

 

「俺を脅そうってのか……!」

 

「ヴェルフよ、お前さえ来れば王国は盛り返すぞ?そして我々『クロッゾ』も再び栄華を極めることができる!富も、地位も、名誉もな!!」

 

「………っ!?」

 

「アレス様は約束してくれたのだ、国にお前と『魔剣』がもたらされれば一族を再興させると!輝かしい一族の栄光が蘇るのだ!『クロッゾ』の悲願が成し遂げられるっ、いや、私が成し遂げる!」

 

 

顔を輝かせ、結った髪を振り乱しながら、覇気のないその瞳に一種の狂喜を、常軌を逸脱した爛々とした光を滲ませながら一族の妄執に囚われた親父を見て、俺は僅かに気圧されながらも思わずこう思ってしまった。

 

これが本当に俺の親父なのか?まだガキだった俺に爺と共に鍛冶師としてのなんたるかを、鍛冶師としての矜持を教えてくれた親父なのか?『魔剣』は冒険者だけじゃなくて鍛冶師さえも、家族の親父さえもその在り方をここまで変えてしまうものなのか?

 

だとしたら、俺はやっぱり『魔剣』が────

 

 

「オラリオから脱出する準備は今夜行う。今手元にある『魔剣』を全て持って正子に都市南西、街外れの倉へ来い……誰かに漏らせば、わかっているな?」

 

 

俺に向かって親父は指示を残すと立ち去っていった。

 

それに伴って、ずっと感じていた周囲の気配も遠ざかるが、まるで俺が逃げたり、誰かに親父のことを漏らさないか見張るように付かず離れずの距離を保って居やがる。

 

 

「…………くそったれめ」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

〈Sideベル〉

 

 

 

 

「悪いがこれから俺は工房に籠る。食事は適当に取るから俺の分は作らなくていいからな」

 

 

フィンさんとリリの縁談がティオネさんの介入によって色々と有耶無耶になってしまったけど、リリはフィンさんからの求婚を断ってこれからも僕たちと一緒に行ってくれると決断してくれた。その後、『竈の館』を飛び出したリリを探してくれていた皆とも合流して館に戻るとヴェルフが僕たちにそう告げると工房へと籠ってしまった。

 

普通ならヴェルフが自分の工房に籠ることはいつものことだと流せるけど、今回だけは何故かヴェルフから何かを隠しているような違和感のようなものを感じた。その違和感は具体的に何の違和感なのかは分からないけど、どうしても僕は今のヴェルフを放っておいてはいけないような気がしてならなかった。

 

そしてヴェルフを除いた皆で夕食を摂り、お風呂も済ませたあと、自室のベッドで昼間のヴェルフから感じた違和感について考えていると微かに裏門の扉が動く音が聞こえた。

 

 

「もしかして………ヴェルフ?」

 

 

神様やリリ、命さん、春姫さんは既に眠っているだろうから裏門から出て行ったのはずっと工房に籠っていたヴェルフなのではないかとそう推測した僕は、何故こんな夜更けに僕らの目を避けるかのように裏門から出て行くのかが昼間の件もあって更に気になってしまい、自衛用の《神様のナイフ》だけを装備して僕はヴェルフの後を追うことにした。

 

しばらくヴェルフの後を追いかけていると、彼の目的はオラリオの南西にある街外れを目指していることが分かった。それにヴェルフはダンジョンに行く訳でもないのに武装をしていることがより一層に僕へ違和感を感じさせていると、ヴェルフは僕の気配を感じ取ったのか勢い良く後ろへ振り向く。

 

 

「なっ………ベルっ!?」

 

「その………ヴェルフの様子が変だったから気になって……」

 

「………そうか。気付かれてたか」

 

「それでどうしてこんな真夜中に態々裏門から出て、南西の街外れに?」

 

「…………昼間リリスケを探すためにお前たちと分かれた後、王国の人間が俺に接触して来た」

 

「ラっ、王国が!?」

 

 

そうか。だから館に帰って来たばかりのヴェルフの様子がおかしかったんだとヴェルフから感じていた違和感の正体が分かり、それに納得した後、ヴェルフから夕方の出来事について教えてくれた。

 

王国の目的はヴェルフとヴェルフが造った魔剣で、前の【アポロン・ファミリア】との『戦争遊戯』で王国側の主神であるアレス様がヴェルフの魔剣を気に入ったことから今回のオラリオとの戦争が始まったようだ。

 

そして一番の問題なのがヴェルフが王国からの要求に応えなかった場合、王国に残った五十振りの『クロッゾの魔剣』で街に火を放つと脅してきたということだった。それもヴェルフを脅した人はヴェルフのお父さんだという。

 

 

「……そんな!それじゃあ、オラリオの住人が全員人質ってこと?」

 

「大群を囮にオラリオの冒険者を外壁の外へ引っ張り出したのもこのためだろう。あの国は本当に『魔剣』がお気に入りらしい」

 

「……ヴェルフはどうするつもりなの?」

 

 

僕はもしかしたらヴェルフが王国に行ってしまうのではないかと不安で仕方がなかった。

 

 

「不安そうな顔をするな。俺はお前を……お前たちを置いてどこにも行かない、心配するな。ちゃんと考えがあるから任せろ」

 

「分かった。ヴェルフを信じるよ」

 

 

頭を撫でながらそう言ってきたヴェルフに僕もその言葉を信じて返す。その後、僕らは指定された南西にある街外れの倉庫地帯へと移動することにした。

 

街外れの倉庫地帯はオラリオが都市外部と交易する場所にもなっており、大小様々な倉庫が立ち並び、点在する魔石灯の光が網目状に存在する道を照らし切れずに所々薄暗くなっている部分があって物陰や死角が多い。やがて周囲でこちらを窺っていた密偵の一人が頃合いを見て僕らの前に現れると、僕らに付いて来いとでも言うように外套を翻す。

 

それから更に倉庫地帯の人気が少ない道を進むことしばらく、長方形を描く古びた倉庫の一つに案内されると壁面高部の窓硝子から差し込む月明かりに照らされる一人の男性がいた。

 

 

「一人で来いと言ったはずだぞ、ヴェルフ」

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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