臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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とある人物が通り過ぎるかもしれません。





第百六十八話

 

 

〈Sideベル〉

 

 

 

 

「一人で来いと言ったはずだぞ、ヴェルフ」

 

「気付かない内に付いて来たんだ。どうしようもないだろう」

 

 

倉庫内の窓硝子から差し込む月明かりに照らされる一人の男性に向かって、ヴェルフはそう答える。それに良く見れば、月明かりに照らされている男性は何処となくヴェルフに似ているような気がする。

 

 

「まぁいい。『魔剣』は持ってきたのだろうな?」

 

 

ヴェルフのお父さんの問いに、ヴェルフは背負っていた二本の内の一振を包みから出して、魔剣である証拠を見せる。それを見たヴェルフのお父さんは歓喜の声を上げながら自分の下へ持ってくるようにヴェルフへ要求する。

 

けれど、ヴェルフはその要求に拒絶した。

 

 

「ははは!いいだろう!その『魔剣』を持ってこちらに来い」

 

「断る」

 

「……何だと!お前が同行を拒むのなら同士達と我らの『魔剣』が街を焼くと言ったはずだ。今ここで私が合図を送れば、直ぐにでも蹂躙が始まるぞ?」

 

 

そんなヴェルフのお父さんからの脅しをヴェルフは全く気にした様子を見せず逆に強気に出る。

 

 

「やれるもんならやってみろ。本当に他の奴等も()()()()()()()()()()()()ならな!」

 

「ッ………」

 

「あんたに会った後、工房に籠って少し頭が冷えた。一族同様、『クロッゾの魔剣』に固執している王国が例え新たに『魔剣』を作り出せる俺を手に入れるためだったとしても、成功するかも分からない作戦に貴重な『魔剣』を一気に投入する訳がない。あんたが俺に『魔剣』を持って来いと指示したのもそういう理由からだろう?」

 

 

王国側が隠していることを見破ったようにヴェルフがそう言い放つと、それが当たっていたのかヴェルフのお父さんは舌打ちをすると我慢の限界とばかりに懐から一振の『魔剣』を抜き掲げる。

 

それが合図だったのか、周りの倉庫の陰から武装した王国の兵士たちが一気に僕らを包囲網して来たので、僕も腰から《神様のナイフ》を抜いて身構える。

 

 

「チッ、穏便にすませてやろうと思ったが……もういいっ!」

 

「「ッ!!」」

 

「お前とお前が打った『魔剣』を持ち帰り、我らの地位を取り戻す!やれ!捕まえろ!」

 

 

ヴェルフのお父さんの掛け声で兵士たちは一斉に僕らへ襲い掛かろうとするけど、それに待ったをかける者が現れる。

 

 

「そうはさせんよ」

 

「「「「ッ!!」」」」

 

 

突如として女性の待ったをかける声が聞こえてくると、いつの間にか倉庫の屋根の上には大勢のヒューマン、エルフ、ドワーフ、獣人、小人族と多種多様な亜人達が集まっていた。

 

それに良く見れば、彼等彼女等の制服には二本の鎚に火山のエンブレムが刻まれた徽章かあった。それの徽章に僕は酷く見覚えがあった。何故なら、僕が愛用している神様から贈られた《神様のナイフ》を作ってくれた女神様の【ファミリア】だったからだ。

 

 

「あれは……【ヘファイストス・ファミリア】!?」

 

「かっ、神ヘファイストスだと!?何故ッ!」

 

「ふむ、概ねフィンとケンマの言った通りだったな」

 

「!!」

 

 

【ヘファイストス・ファミリア】の団長である椿さんがそう呟くと、昼間のエルフ御用達の喫茶店でフィンさんと密会した際に僕の身近で変わったことはないかと尋ねられた内容が僕の脳裏に蘇る。

 

 

「ケンマが言ってたのはこういうことだったのか。王国勢力を釣り上げるために俺を餌にしやがった?」

 

「許せ、ヴェル吉。戦線が不可解だとギルドに報告があってな……全てはギルドの、いいやフィンの掌の上よ」

 

「……ここにいる貴方達以外は全員うちの子が捕らえたわ。観念しなさい!」

 

 

ヘファイストス様がヴェルフのお父さんに降伏を促すけど、それでもヴェルフのお父さんは精気に欠けた瞳に鬼気迫るものを宿しながら絶叫する。

 

 

「漸く……漸く見えた悲願への活路をそう易々と諦められるものかぁ!『魔剣』でここ一帯を焼き払い、引き摺ってでも愚息を王国へ連れていく!」

 

「やれやれ往生際の悪い」

 

 

最後の悪足掻きをしようとするヴェルフのお父さんに対して、椿さんはどうしようもない人を見るように言い放つ。

 

そんなどうしようもない人となってしまった自分の父親を見たヴェルフは、無言で父親に歩み寄って行く。それを僕は止めようと「ヴェルフ?」と彼の名前を呼ぶけど、返事はニッと笑みを見せるだけだったけれど、それだけでヴェルフが僕に言いたいことが分かる。

 

 

────俺を信じろ────

 

 

だから、僕もヴェルフを信じることにした。僕の専属鍛冶師で、同じ【ファミリア】で家族のヴェルフを。

 

血よりも濃い僕らの絆を知らないヴェルフのお父さんは、ヴェルフが自ら残り十歩分まで歩み寄って来たことに安堵と喜びの表情に浮かべる。

 

 

「はははっ!それでいい!そのまま大人しく────」

 

「王国に戻る気もあんたらのために『魔剣』を打つ気もない!」

 

「この!愚息がぁあああああああ!!!」

 

「───烈進ッ!!」

 

 

ヴェルフが自ら歩み寄って来たことで、ヴェルフが自分の指示通り王国に来る思っていたヴェルフのお父さんは、まさかの二度目の拒絶に激昂したのか右手に握っている『クロッゾの魔剣』を振り抜く。

 

対して、ヴェルフも手に握っている『魔剣』を振り抜くと、奇しくもお互いに炎の魔剣だったようで二つの大爆炎が倉庫区画を昼間のように明るく照らす中、ジャラリと音が響き渡る。

 

すると──────

 

 

「親子喧嘩にしてはちと………いや、かなり過激過ぎねぇか、ヴェルフ?」

 

 

その声が聞こえた途端、二つの大爆炎が不自然に搔き消され、大爆炎が衝突するはずだった中心部には月明かりすらも飲み込んでしまうような常闇のローブに身を包み、漆黒の刀を肩に担ぎながら左手を伸ばした状態で『天鎖斬月』の禁手を使っているケンマの背中がヴェルフの前に現れる。

 

突然のケンマの登場に僕とヴェルフを始め、この場にいる誰しもがケンマが目の前にいることに加えて、どうやって二本分の『クロッゾの魔剣』の攻撃から無傷で居られているのか困惑しているとヴェルフのお父さんが握っていた『クロッゾの魔剣』が砕ける。

 

 

「バカな……!栄光の時代のクロッゾの一族が鍛えた『魔剣』の一撃を受けて無傷だと!?」

 

「漆黒の外套に漆黒のカタナ………まさか!【ヴィクトリア・ファミリア】所属のLV.3【刀剣の支配者】!?」

 

「まさか奴は、クロッゾの一族が打った『魔剣』すら支配下に置くというのか!?」

 

 

ヴェルフのお父さんと兵士たちの困惑が言葉となって発露されたことで僕らもようやく我に返ると、真っ先にヴェルフがケンマへ怒鳴り付ける。

 

 

「ッ───バカ野郎!『クロッゾの魔剣』同士の一撃の間に飛び込むとか何を考えやがる!!」

 

「大丈夫大丈夫。天鎖斬月を纏っている今の俺には、大抵の魔法や魔剣は意味を成さないから」

 

「お前、今さらっと自分でとんでもないことを言ってる自覚あるか?」

 

「俺の秘密を知ってるヴェルフとベルからしたら、これくらいはまだまだ序ノ口だろう?それに【ヘファイストス・ファミリア】なら俺の奥の手を多少知られた所で問題はない。神ヘファイストスと椿さんはエクス・デュランダルのことを知っている訳だし」

 

「「…………」」

 

 

うん、否定出来ない。

 

そう思っているとケンマは呑気に眠たそうに欠伸をすると、そのまま帰ると言い始めた。

 

 

「それじゃあ、俺は帰るわ。明日も早朝鍛練があるし。それから親子喧嘩をするなら拳で語り合うのが王道だぜ、ヴェルフ」  

 

「お前、まさかそんなことを言いに来る為だけに魔剣の一撃に突っ込んだのか?」

 

「んなわけ。偶々、街中で使うにしては火力を間違えている魔剣の一撃で街に被害が出ないよう搔き消しに来ただけだよ」

 

 

それだけ言い残すと本当にケンマは帰って行ってしまう。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

〈Sideヴェルフ〉

 

 

 

 

「あの野郎!言いたいことだけ言って、マジで帰りやがった!」

 

 

それにしても親子喧嘩か………そういや、親父とまともに喧嘩なんかしたことなかったな。なら、今回は良い機会もしれねぇな。

 

 

「おい、クソ親父。あんたはそんなに『鍛冶貴族』としての地位と栄光が大事か?」

 

「なにを当たり前のこと!嘗て祖先が手にした地位と栄光を取り戻すことが我らの悲願であり、それにはお前の力が必要なのだ!それなのに何故お前はそれを拒む!何故、お前がその力に選ばれたのだッ!『魔剣』を打てるのがお前ではなく、私だったら、私であったらなら、今頃っ!このッ、不肖の息子め!!」

 

 

親父は俺を糾弾するように立ち上がる。その時の親父は、瞳を獣のように血走らせながら爆発した感情を俺にぶつけてくる。

 

 

「砕ける『魔剣』が見なくないなどと、まだそんな世迷い言を言っているのか貴様はァ!武器など消耗品だ!新たに作ればいい!!」

 

「………」

 

「『多くの武器を生み、多くの栄誉を得る』───『魔剣』と共に繁栄した鍛冶貴族の教えを忘れたのかぁ!?」

 

 

そうじゃない!そうじゃないだろう!!そんな下らないことをガキの頃の俺には、あんたは教えなかった。もっと、鍛冶師として熱く、鋼鉄のように硬い大切な教えを俺に伝えてくれたじゃぇねか!!

 

そんなことも忘れちまったのかよ、親父……!!

 

だったら、今度は俺があんたに教えてやる。鍛冶師として大切な教えを、あんたから教わった俺の原点を教え返してやるよ!!

 

 

「何が鍛冶貴族だ!何が栄誉だ!お前らだって鍛冶師としての本懐を忘れるんじゃねえ!武器は使い手の半身だ!鍛冶師は矜持を持って、使い手に武器を届けなきゃいけない!」

 

「綺麗事を抜かすなッ!所詮、武器に求められるのは力だ!!」

 

「違うだろう!そうじゃないだろう!俺たちが打つ武器は苦楽をともにしてやれる、道を開いてやられる魂の片割れだ!!だが『魔剣』は必ず壊れる。それがどんな状況下であったとしてもだ」

 

「ッ……だからどうした!武器など所詮は消耗品だ!砕けたのなら新たに作ればいいだけだ!求められるものを求められるだけ!それで一族の栄誉も居場所も守られる!全て失わずに済むのだ!何故それが分からない!!」

 

「全てじゃないだろう!例え王国から追い出されようが、貴族でなくなろうが、一族に栄誉がなかろうが、あんた達には鎚を握る手が、鉄を掴む鉄があるだろう!」

 

「ッ……」

 

 

親父の胸ぐらを掴み、引き寄せ、親父の揺らぐ瞳を真っ直ぐに見ながら俺は続ける。

 

 

「俺が『魔剣』を打てると分かる前……『魔剣』に代わる武器を作りだそうと鎚を振るうあんたの誇りはどこにいった!───鉄の声を聞け、鉄の響きに耳を貸せ、鎚に思いを乗せろ!!そう俺に教えたのは爺や親父達だろ!!」

 

 

今でも忘れない。祖父と、父親と、自分で煤にまみれながらも鉄をひたすら愚直に汗を流しながら鍛え続け、親父達の背中に鍛冶師としての憧れがあった幼少の日々を…………思い出してくれよ、親父ィ。

 

 

「鎚と鉄、そして燃え滾る情熱さえあれば、武器はどこでも打てる!鍛冶師に必要なのはそれだけだろうが!!」

 

「…………………」

 

「鍛冶師の誇りを思い出せ!!」

 

 

息を切らしながら俺も自分の感情を親父に爆発させたると、僅かに間を置いてから一つ声が聞こえてきた。

 

 

「もういい」

 

「爺……!?」

 

「父上……!」

 

 

その声の主は、親父の父親にして俺の祖父に当たるガロン・クロッゾだった。

 

まさかの祖父の登場に俺は親父の胸ぐらを掴んでいた手を離して、親父だけじゃなくて爺までもが鍛冶師としての誇りを、本懐を見失ってしまったのかと落胆を覚えそうになった。

 

 

「……爺。あんたも親父と同じ理由で……」

 

「そうだ。私もアレス様よりお前を説得する任を受けた。だが、止めだ」

 

「父上!しかし、それではっ」

 

「ヴィル、我らは今一度向き合うべきなのだ。鍛冶師としての矜持とな。お前もそれは分かっているだろう?」

 

「………」

 

 

爺にそう告げられた親父は、奥歯を食い縛りながらその場で力なく両膝を着いた。

 

 

「……私は七年前『魔剣』製作を強要されるヴェルフに『魔剣』を打つよう指示したことを悩んでいた。そして先程の言葉を聞いてハッキリと後悔した」

 

 

低い声音の爺がまるで懺悔するかのように俺へ言ってきた。

 

正直、俺からしたら今更そんなことを言われたからって、爺や親父たち一族の元や王国に戻るつもりは毛頭ない。だが……まぁ……七年前のあの日、俺は周りから『魔剣』を打つように強要されて、俺にとっての最初の鍛冶師であった爺に助けを求めて視線を送ったが親父達と同様に「魔剣を打て」と言われた時は心底失望した。

 

それが切っ掛けで俺は家族や一族を捨て、王国と縁を切り、流れに流れてオラリオにたどり着いて今がある。それでも爺があの時のことを後悔してることに俺は驚きを隠せなかった。

 

 

「はぁ……全く、『魔剣』というのは作り手も使い手も随分と振り回してくれる」

 

 

爺は夜空を見上げてそう呟くと、次には真剣な眼差しで俺にこう告げて来た。

 

 

「……ヴェルフよ。私らが手を引いてもその身に流れるクロッゾの血は一生お前について回る。一族の宿命はお前を『魔剣』の道へと引きずり込むだろう。それでもお前は信念を曲げないつもりか?」

 

「ああ、曲げねえ。それに俺はもう見ちまったんだよ。『魔剣』に代わるスゲー武器ってやつをさ」

 

「なに?」

 

「アレを見た時、ヘファイストス様が打った作品と同じくらいの衝撃を受けた。それでその武器の使い手に聞いてみた。これは本当に人間が作った物なのかと、そうしたら何て言ったと思う?

 

 

────ああ。これは間違いなく人間が作った武器だ。ただし、俺たちのように【恩恵】を刻まれていない人間が、己の信念と情熱だけで神の領域に足を踏み入れた英雄に匹敵する人間だけどな────

 

 

それを聞いて俺は心底悔しかった。【恩恵】やスキルでようやく『魔剣』が打てるのに、それを越える武器を【恩恵】もスキルも持たない一般の鍛冶師が作り上げている。だから俺も『クロッゾ』の武器じゃない、俺だからこそ出来る武器を打ってみせる!あんたがかつて『魔剣』に代わる武器を作ろうとした様に!」

 

「は、はははっ!そうか、生意気に育ちおって」

 

 

その時の爺の笑顔は、幼少の時代に俺が初めて一人で短剣を打つことに成功したことを誉めくれた時の様な、家族としての笑顔を俺に向けていた。

 

そのことに驚いていたのも束の間、爺は倉庫の屋根に椿と共に俺たちを見下ろしているヘファイストス様に跪いて投降すると述べ始めた。

 

 

「神ヘファイストス、投降します。責任は全てこの老い耄れに、どうか他の者には慈悲を」

 

「分かったわ。受け入れましょう」

 

 

爺の投降宣言とそれを受け入れたヘファイストス様の一連の流れを見ていた親父と兵士たちは、最早無駄な抵抗などすることなく【ヘファイストス・ファミリア】の奴等によって素直に捕縛された。

 

それを見ながらようやく長らく続いた家族の因縁───親子喧嘩も終わりを告げたのだと俺は理解する。

 

 

「ヴェルフ。今回の件、貴方の身内を含めて身柄は一度ギルドに引き渡すわ」

 

「……はい」

 

 

ヘファイストス様から親父たちの身柄はギルドに渡すと告げたあと、俺はどうしてもヘファイストス様に尋ねたくなった。

 

 

「ヘファイストス様、俺は間違っていますか?」

 

「どうでしょうね。でも────ヴェルフにはヴェルフの信念があるんでしょう?」

 

「はい。俺は俺のやり方であなたに追い付いて、追い抜き、そして伝説の聖剣に勝る俺だけの武器を必ずこの手で作ってみせます」

 

「楽しみにしてる」




これって、私だけですか?


読者の皆様にお願いです。

特殊タグの太字がスライドプレビューの画面以外だと機能しない不具合があるのですが、何方か運営に不具合メッセージを送れる方が居ましたら運営にメッセージをお願いします。

m(_ _)m

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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