臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第百七十三話

 

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

【ヘスティア・ファミリア】の本拠地である『竈火の館』にベルとヘスティアの事をリリ達にも話すために赴いた俺たちは、家政婦として客人を迎えに来て春姫に中へと入れてもらい、仕込み刀の魔剣傘を玄関に置かせてもらった後、全員で暖炉のある居間へと案内された。

 

そして、全員が揃った所で俺が話を切り出す。

 

 

「まず、ベルと神ヘスティアの安否だが、一応生きている」

 

「一応というのはどういうことですか!?何故、ケンマ様はヘスティア様たちと一緒ではないのですか!?」

 

 

俺が戻って来たのに、この場にベルとヘスティアの姿がないことにリリが尋ねてくる。

 

 

「端的に話すと、この雨中で神ヘスティアを攫った王国の兵士たちを見つけた俺たちはそのまま交戦、隙を見てベルに神ヘスティアを保護するように任せていたんだがそこでアクシデントが起きた」

 

「アクシデント、ですか?」

 

「神ヘスティアが攫われた際に使用された麻袋に足を取られ、そのまま渓谷の横に流れている川へとベルと共に落ちて流された。それを見て、すかさずアイズに二人を追うよに指示は出しておいたし、川に落ちてからオラリオに戻ってくる間に神の送還は確認出来ていないことから神ヘスティアも生きているはずだ」

 

 

ベルとヘスティアの二人が無事であることを皆に説明すると、それだけで張り詰めていた緊張がほどけて、安堵の息を吐く。

 

皆の反応を見て、緊張するのは無理もないと俺も息を吐く。アニメ知識で二人が無事であることは知っている。しかし、リリたちからしたら主神であるヘスティアが送還されれば【ステイタス】を封じられ冒険者としてダンジョン探索が出来ない上に、大切な仲間であるベルにもかなりの危険が及ぶので色々と緊張していたのだろう。 

 

 

「まぁ、なんにせよ二人が無事であることは分かっただけでも少し落ち着くことが出来るな」

 

「そうですね。ですが、ベル殿とヘスティア様が何処まで流されたのが心配です」

 

「それについては、明日以降雨が弱まるのを見て【ロキ・ファミリア】が主体となってベルと神ヘスティアを本格的に捜索する部隊が編成される予定だ」

 

「ケンマ様は、その捜索隊に参加なされるのですか?」

 

 

命が心配しているベルたちが何処まで流されたのかを捜索する部隊が明日以降に【ロキ・ファミリア】が主体となって編成されると告げると、その捜索隊に俺も参加するのかと春姫から尋ねられる。

 

 

「んー、どうだろうな。オラリオに戻って来た時、フィンさんに色々と報告したけど何も言われなかったからなぁ」

 

「そうですか」

 

「取り敢えず、ベルたちが戻ってくるまでリリたち【ヘスティア・ファミリア】はここで待機だな。それから俺たちは…………うーん、どうしようか?」

 

「ウチらは普通にダンジョンへ行けばいいんじゃない?まぁ、稼ぎはリリルカたちがいない分落ちるけど……」

 

 

主神(ヘスティア)団長(ベル)が本拠地ましてやオラリオに戻って来ていない状況でリリ、ヴェルフ、命の三名を連れてダンジョン探索に行くのはリスクが高すぎる。万が一にも探索中にヘスティアが送還されてしまい、そのままリリたちの【ステイタス】が封じられてしまえば目も当てられないような状況に陥っていってしまう。

 

なので、ベルたちが戻ってくるまでの間、『竈火の館』に待機するよう促しつつヴェルフに春姫用の武器を作った貰うためにある物を持って来ているのでそれを差し出す。

 

 

「そうだ、ヴェルフ。コイツで春姫用の武器を作ってくれないか」

 

「コイツは……ミノタウロスの角か?でも、何か青くないか?」

 

 

ヴェルフに差し出したのは、以前オッタルがベルと共に俺たちへ試練として寄越した二体いた強化種のミノタウロスの片割れ、青いミノタウロスからドロップした二本の『ミノタウロスの青角』だ。

 

 

「そりゃあ、そいつはミノタウロスの強化種の角だからな」

 

「強化種ッ!?」 

 

「ミノタウロスの強化種というとこの角はあの時、ベル様と一緒に討伐されたミノタウロスの物ですか。つい二ヶ月ほど前のことなのに、酷く懐かしく感じますね」

 

「ドロップしたのは良いけど、何に使おうかずっと迷っててさ。武器にしようにも俺にはほら、魔剣創造があるからさ」

 

「ったく、分かったよ。作る武器の種類は?」

 

「脇差しで頼む。春姫には今、神タケミカヅチの所で神楽舞を主軸にした剣舞を学ばせているところなんだ。だから攻撃用の脇差し、あと防御用の頑丈な扇子なんとかも欲しいな。ついでに戦闘衣も」

 

「もう殆んど一式じゃねぇかッ!!」

 

 

ヴェルフの言うとおり、春姫の武器と防具の製作を一式頼むとヴェルフはまるで漫才のツッコミの如く速さでそう言ってくる。

 

 

「いや~、今朝お前たちが今日のダンジョン探索に同行出来ないって命と春姫から聞いて、俺たちも探索に行かずに春姫の戦闘衣を探そうと思ってたんだけど……」

 

「そこにヘスティア様の誘拐が起きて、ベルと一緒にヘスティア様を助けに行った訳か」

 

「そういうこと」

 

「はぁ………仕方ねぇな。どうせ、俺たちはヘスティア様とベルが戻ってくるまではダンジョンには行けねぇんだ、作ってやるよ。た・だ・し、金額はリリ助に決めて貰うからな!」

 

「げっ、マジで!?」

 

「そういう訳だからリリ助、適切な料金で頼む」

 

「フフフ、そういうことでしたらお任せください!」

 

 

まさかの製作費はヴェルフが決めた金額ではなく、金に五月蝿いリリが決めることになり、リリはウキウキ顔で何処から算盤出して、あれやこれ珠を弾いて金額を決め始める。

 

それを見てヴェルフとリリ、命の三人はもう大丈夫だと安心する。残るは、今もずっと窓の外を見上げているアルテミスをなんとかも落ち着かせることだけだろうと思っていると、そこへヴィクトリアがアルテミス寄り添う。

 

 

「アルテミス、ヘスティアとベルが心配なのは分かる。けれど、わたしたちがやれることは二人を信じて待つことだけ」

 

「分かっている。しかし、この忌々しい雨さえ無くなれば、それだけヘスティアたちを探すことも……!」

 

「そうね。でも、そんなことをしてしまえば雨を待ち望んでいた子供たちが苦しむことになる。わたしも貴女と豊穣を司る女神ではないけれど、貴女の言うこの忌々しい雨も子供たちにとっては恵みの雨、だから今は待つしかないわ」

 

「どうか無事で居てくれ、ヘスティア、ベル」

 

 

流石は俺たちの主神、なんとアルテミスを宥めたヴィクトリアに俺は感心するのであった。

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

ベルとヘスティアが渓谷の川に流されたという報告を皆にした後、時間も夕飯時ということもあって命の提案で住み込み家政婦をしている春姫以外に俺たちも【ヘスティア・ファミリア】で夕飯の御相伴に預かる事となった。

 

その際に出てきた献立が日本風───ダンまちの世界では極東風の献立だった為か、思わずお代わりを二回ほどしてしまいリリたちに申し訳ないと思いつつ箸が止まることはなかった。

 

最後に食後の茶を頂いていると、斜め向かいに座る春姫が何やら意を決したような眼差しで俺を見つめると次のようなことを尋ねてくる。

 

 

「あの、ケンマ様!一つお尋ねしたいことがございます!」

 

「お、おう。な、なんだよ、いきなり………」

 

「その………ケンマ様は、例え神様が相手でも意中の方に想いを寄せるのに資格が必要だと思いますか?」

 

「ちょっ、春姫殿!!」

 

「ちょっ、春姫様!!」

 

 

春姫の言葉を聞いた命とリリが直ぐに止めようと動くも彼女の言葉は既に俺の耳に届いてしまった。そして、春姫の問いは恐らくヘスティアがベルにしたものと同じものなのだろう。

 

 

「んー、どうだろうな。正直、俺は本気で誰かを好きになったり、愛したことがないからな。それでも嘘、偽りなく答えるとしたら、分からない……だな」

 

「分からない、ですか?」

 

「ああ。恋や愛は人それぞれだし、家柄や国なんかも関わる恋や愛だって存在する。だから、ものによっては資格は必要になってくるだろう。例えば、リヴェリアさんなんかは顕著じゃないか?」

 

「「「ああ………確かに」」」

 

 

恋愛に資格は必要なのかという春姫の問いに、資格が必要になるであろう分かりやすい人物の例を上げてやれば全員が納得の声をあげる。

 

 

「まぁ、最終的には本人たち次第じゃないか。世の中には駆け落ちやデキ婚なんていう最終手段があるから、本当に相手を愛しているなら国や家柄なんかを気にする必要なんてないだろう」

 

「「「「で、デキ婚………」」」」

 

 

前世のアニメやラノベ等に出てくる恋愛の最終手段を口すると、それを聞いたヴィクトリアとアルテミス以外の女性陣は皆等しく顔を赤くしながら自分の腹部に手を添える。その仕草を見て、俺は直ぐに自分で踏んではならない地雷を踏みに行ったのではないかと僅かに焦るが、俺に好意を寄せている二人はティオネのようなガツガツ系ではなく奥手の方なのでまだ大丈夫。

 

うん。そう、まだ大丈夫……な、はず……。

 

そう自分に言い聞かせていると隣に座っているアルテミスからも次のようなことを尋ねられる。

 

 

「ケンマ、私たち神々はお前たち下界の者たちとの間に子供を授かることができない。それでも、お前は心から愛した女神とならば恋仲や夫婦になってくれるか?」

 

「…………世の中には、子供が欲しくても生まれつきや病気で子供を産めない人間がいることを俺は知っている。それでも中には養子をもらって、血の繋がりなんかよりも固く尊い親子の関係を見たことがある」

 

 

それは前世で通っていた高校の同級生だ。ひょんなことからそいつは、自分が養子で両親とは血の繋がりがないことを教室で話した。それを聞いた最初こそ、同情したが体育祭や文化祭でのそいつと里親を見て、正直羨ましいと思った。

 

俺はいつからか両親に居ない者として扱われた。食事や学費なんかは出してくれたけど、入学式や授業参加、体育祭、文化祭なんかには話しても来てくれることはなかった。しかし、同級生の両親は全ての学校行事に出席していた。

 

やはり血の繋がりなんて、所詮は一番身近な他人なのだろうか。

 

 

「だから、本気で心の底から愛した女性となら子供が産めなくても、血が繋がっていなくても関係ない。大切なのはどれだけ相手に愛情を注いでやれるかじゃないかって、俺はそう思う」

 

 

それに神々は俺たち下界の人間を「子供たち」と呼んでいる時点で、その神の【ファミリア】に入った時点で養子縁組と殆んど代わりないのではないかと思ったりもしている。

 

まぁ、ダンまちの世界に前世のような役所に出生届けを出して戸籍を取得する義務があるのかと聞かれたら、答えは否だろう。そもそもオラリオですら、ダイダロス通りの孤児たちを把握出来ていない時点で戸籍があるのかすら怪しいくらいだ。そもそもモンスターや人身売買、奴隷制度がある時点で前世よりもヤバいのはお決まりだった。

 

せめて、俺が誰かと結婚して、子供が産まれてくるまでにはしっかりと戸籍やら学校やらがオラリオにも出来ていることを今は祈る他ないだろう。或いは俺がそういう施設を作るか、だな。

 

 

「施設を作るのはまぁいいけど、先生は……向いてないな、絶対」

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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