臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

175 / 176








第百七十六話

 

 

 

 

〈Sideダフネ〉

 

 

 

 

「はあああッ!!」

 

『グオオオオッ!?』

 

 

団長の無茶振りで強化種の翼竜と戦い始めて体感的に約三十分。団長が造り出した《双魚理》とカサンドラの治癒魔法、弓矢の援護によって何とかまともに戦えている。その中でも、団長の《双魚理》の活躍が圧倒的だ。

 

団長は、自分から積極的に攻めないと言ってたけど《双魚理》の能力で翼竜の最も警戒すべき息吹による攻撃を完封しつつ逆に翼竜の息吹を利用して攻めるという前代未聞の攻め方をしながら、ウチが反応出来なかった時に迫り来る爪や牙、尾による凪払いなんかを《双魚理》で完全に受け止めて、それに伴って刀身に触れた翼竜の鱗がむしろダメージを受けるというまたしても前代未聞の光景を何度も目にした。

 

 

「ちょっと団長、その双魚理は何にで出来てるの!? ワイヴァーンがそれに触れるとあいつの身体が焼け爛れてるんだけど!!」

 

「コイツは前に話した魔剣創造とは逆の聖剣創造で創造した聖剣。だから、モンスターであるワイヴァーンにとって聖剣で出来ている双魚理は猛毒であり激物、そんな物に触れれば身体が聖なるオーラに激しく焼かれ蝕まれて行く訳さ」

 

「はあああ!?魔剣だけじゃなくて、聖剣まで無尽蔵に生み出せる訳!?」

 

「そういうこと。だからという訳ではないが、積極的に攻めなくとも守るだけでワイヴァーンにダメージが入る。『攻撃は最大の防御』とはよく聞くが、今はその逆で『防御は最大の攻撃』と言ったところだ。まさに矛盾だな」

 

「…………」

 

 

その説明を聞いてウチは唖然としながら、団長が態々ウチたちに無茶振りを強いた理由が理解できた。ウチとカサンドラがLV.3 へと【ランクアップ】するには上位の【経験値】が必要不可欠。そしてその上位の【経験値】を得るに当たって、目の前にいる強化種の翼竜は絶好な獲物だ。

 

しかし、LV.3 の団長が積極的に攻めてしまってはLV.2 のウチとカサンドラには上位の【経験値】が入り難くなってしまう。だから団長は、自分から積極的に攻めるではなく守りによる攻めへと戦い方を変えた上に、炎と氷によるダメージ半減、魔法攻撃によるダメージ軽減、物理防御向上の三種の魔法まで施してくれた。

 

ここまでお膳立てされておいて、今更相手が強化種だから逃げますなんて冒険者としての意地が許さない。ここまでやられて、あの翼竜を倒さなくては今までの冒険者としての自分が廃る。

 

ならば、ウチも─────いや、私も恐怖を乗り越えて、意地を捨ててやるわよ!!

 

 

「団長、ちょっとだけ時間稼いで!」

 

「了解。任せろ!」

 

 

一時的に団長に翼竜の注意を惹いてもらっている間、私は詠唱文から前主神のことを彷彿とさせるため使いたくなかった唯一の『魔法』の詠唱へと入る。

 

 

「【追従せし空の太陽。全ては汝から逃れるため】」

 

「………ダフネちゃん、それは」

 

「【咲け、月桂樹の鎧。ラウミュール】!」

 

 

詠唱を完成させて行使した【ラウミュール】の魔法は、私の身体に深緑の光膜を帯させながら僅かに『耐久』の基本的アビリティへ補正を掛けつつ『敏捷』を大幅に強化を掛けるという、如何にも何から逃げるために発現したと言わんばかりの魔法だ。

 

それでも今は逃げない。私は、今『冒険』をする。

 

 

「意地を捨てたか。なら、詠唱破棄───【ウチデノコヅチ】!」

 

「えっ? これって春姫さんの!?」

 

「今のうちに、ワイヴァーンの翼に風穴を開けて、こっちのフィールドに引き摺り落とせ!」

 

「わ、分かりました!」

 

「……はぁ、分かってたけど詠唱をしなくても魔法が使えるってやっぱりチートよね」

 

 

まだ春姫が【ヴィクトリア・ファミリア】に移籍して一週間も経たない頃、彼女の新しいスキルを【ヘスティア・ファミリア】の本拠地で検証した際に聞いた団長のレアスキル【魔力操作】。それはイメージするだけでどんな魔法も使えるという規格外なレアスキルで、それこそ他者の魔法すらイメージ次第で使えてしまうというとんでもない物。

 

その効果を聞いたカサンドラが、団長がそのスキルを使う際、態々詠唱をしなくとも魔法を使えるのではないかという点に気付き、団長はそれを何でもないかのように肯定した。そしてその肯定通り、今カサンドラにここにはいない春姫の【ウチデノコヅチ】によって一時的にLV.3 へと【ランクアップ】させるのを見て、思わず溜め息と共に愚痴が溢れた。

 

けれど、そのお陰でカサンドラの弓矢のキレが増して、翼竜の竜鱗に守られている身体には血を流しながら深々と矢が刺さり、翼にも幾つもの風穴を開けて翼竜の移動範囲を奪って行く。

 

それを見て、私は確信する。このまま行けるのではないかと浮かれていると、自称臆病者な団長は本当に臆病者なのかと思える程に慎重的だった。

 

 

「ねぇ、これって……もしかして、いけるんじゃない?」

 

「かもしれないけど、まだ気を抜くなよダフネ。窮鼠を噛むって諺があるくらい、追い込まれた獣ほど恐いものはないからな。安心するのは、あのクソ蜥蜴を屍の灰にしてからだ」

 

「ッ────了解!」

 

 

いや、これは違う。団長の臆病は臆病でも、逃げ腰の臆病ではなくて慎重的な方な臆病だ。慎重的だからこそ、浮かれていた私に意識を一度切り替えさせて、冷静さを取り戻させた。

 

これがまだ冒険者になって半年も経たない新人?普通なら信じられない。それでも、これが私たちの団長である【刀剣の支配者】の石黒ケンマだ。

 

 

「刀剣の支配者……確かに支配者かもねッ!!」

 

『グオオオオッ!?』

 

 

団長の二つ名と今の状況を見て、団長は刀剣以外にも戦局を支配する【支配者】だと、翼竜の身体を前主神から与えられた無駄に性能が高い《フェンサー・ローリイット》の刃で切り裂きながら私は思う。

 

その証拠に身体を切り裂かれて潜血を散らしながら激昂して、私に火炎球を放とうとする翼竜の前へと躍り出た団長が《双魚理》で火炎球を吸収すると、火炎球を放った為に次への動作が遅れるという絶好の隙を晒している翼竜を見て、後衛にいるカサンドラへすかさず指示を飛ばす。

 

 

「カサンドラ、今だ!眼を狙え!」

 

「はい!」

 

 

それに応えるように『階位昇華』の燐光を纏うカサンドラが矢を弓に番え、そのまま翼竜の右眼を正確に射貫く。右眼を射貫かれた翼竜は、あまりの激痛から反射的に手で右眼を抑えようとするが団長によって切り落とされて右脚がない為に重心が片寄り、そのまま地べたに這いつくばりながら絶叫をあげる。

 

 

『───オオオオオオオオッ!!?』

 

「次、左眼!」

 

「はい!」

 

 

そんな絶好のチャンスを見す見す見逃すはずもなく今度は左眼を狙うようにカサンドラへ指示する団長、それに応えるべくカサンドラも再び矢を弓に番える。私もただカサンドラが翼竜の眼を射貫くを待っているのではなく、翼竜の息の根を止めてやるつもりで先ほど射貫かれて死角となっている右側面から駆け出す。

 

そして遂に残る左眼も本能的に守ろうと覆った翼竜の左手ごとカサンドラは最後の瞳を射貫いて、奪って見せた。それにより、翼竜の攻撃または防御に使えるのは右手と左脚、尾の三ヶ所だけになった。一番威力があって注意すべき息吹きは大きく周り込んで背後から仕掛ければ問題ない。

 

そう思っていた矢先、翼竜は両眼を奪われたことによる激昂から無作為に息吹きを放ち始めようとした刹那、今までに感じたことのない言葉では表すこともできない圧倒的な圧力が『嘆きの大壁』を支配する。

 

 

「「ッッ──────!?」」

 

『────ウゥゥ!?』

 

 

その圧力が放たれている場所は団長とカサンドラが居る方からで、思わず振り返りそうになるがそれよりも先に団長からの指示が私を突き動かした。

 

 

「今だ、ダフネ!止めを刺せ!!」

 

「ッ───分かってる!」

 

 

多分、また団長が何かをして翼竜の動きを封じ込めてくれたんだと思う。こんな絶好のチャンスはもうないと思った私は、迷わずに真っ直ぐに翼竜の懐に飛び込んで魔石のある胸元に《フェンサー・ローリイット》を深々を押し込んだ。

 

そしてビキリッ!とモンスターを倒す時に感じる何かを砕く感触が得物から伝わると翼竜は断末魔をあげることなく、灰となって消滅して、残ったのは中層にしてはかなり大きめな魔石とドロップアイテムである『翼竜の鋭牙』が二本だけが残った。

 

 

「………はぁぁぁ」

 

「ダフネちゃん!」

 

「もう駄目……無理……限界……」

 

 

久しぶりにリスク・リターンを度外視にした『冒険』で、目立った怪我はないけど心身ともに疲弊仕切ってしまった私は、その場に灰まみれになることも厭わず背中から大の字で倒れ込む。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

「お疲れ様、二人とも」

 

「本当ッ!ここ最近で一番疲れたわよ!」

 

「だ、ダフネちゃん……」

 

 

偶然といえ、強化種の翼竜を倒したダフネとカサンドラの二人に労いの言葉を掛けると、大の字のままでダフネは盛大に愚痴を溢し、それをカサンドラが宥める。

 

けれど、今回の戦闘でダフネはLV.3 へと【ランクアップ】するには十分な『偉業』を成し得たと思う。カサンドラは翼竜の翼や両眼を射貫いて見せたのが、前衛として頑張っていたダフネよりかは上位の【経験値】の獲得は低いだろう。それでも、もしかしたら【ランクアップ】あるいは次に何からの上位の【経験値】を得られれば【ランクアップ】が可能になることだろう。

 

これで俺の密かな目標の一つである、下層への『遠征』が始まる前までの戦力アップが達成に近いたことだろう。あとは春姫の【ランクアップ】だな。欲を言えば、リリにも【ランクアップ】をしてもらいたい。

 

 

「さてダフネ、もう少しは動けそうか?動けるならここじゃなくて18階層でゆっくり休もうぜ。フィルヴィスもベットで寝かせてやりたいし」

 

「はぁ、そうだね。怪我人をいつまでも地面に寝かせるのは良くないもんね。それに、ウチも灰まみれだから水浴びもしたいわ。ごめんカサンドラ、灰で汚れちゃうけど肩貸してくれる?」

 

「うん!」

 

「ありがとう」

 

 

疲労の顔が癒えないままではあるダフネがカサンドラの肩を借りながら18階層の入り口へと向かって行くのを一瞥しながら、俺はダフネが倒した翼竜の魔石とドロップアイテムを回収した後、聖剣壁で守っていた意識のないフィルヴィスの下へと行ってからあることが脳裏を過った。

 

 

「これって……俺が運ばないと行けない感じ……だよね?」

 

 

これから行うのはリスク・リターンが全く伴っていない行為だ。最悪の場合、ゼロ距離からの魔法を受けてもおかしくはないので色々と備えることにした。

 

まずは、【バサンダ】の魔法でフィルヴィスが使う雷魔法を一回だけ無力化してくれる。次に『天鎖斬月』を纏うことで身体能力の強化及び『天鎖斬月』の鎖衣に魔法を無力化する能力を付与、これで魔法に対しての備えは完了。

 

 

「よし、行くぞ!」

 

 

備えは完了したので、意識がないフィルヴィスの背中と膝裏に手を通して掬い上げるように抱き上げて、お姫様抱っこのまま俺もダフネとカサンドラの後を追うように18階層へと繋がる連絡路へと降りていく。

 

その間、俺は必死に心内でフィルヴィスが目を覚まさないことを願い続けた。彼女は、過去に起きた悲惨な出来事とエルフ特有と他種族との肌の触れ合いを嫌う気質が相まって、尋常ならざる潔癖者になっているので他に手段がなかったといえど抱き抱えられて運ばれているなど受け入れられないだろう。むしろ、拒絶反応で先ほど思った通り魔法が飛んできてもおかしくはないだろう。

 

 

「はぁ、こういう時にレフィーヤ居てくれればな……」

 

「……レ……フィー……ヤ……」

 

「ッッ!?」

 

 

や、止めろよ。ただの寝言かよ!目を覚ましたかと思ったじゃねぇか!!今の寝言の所為で元々美少女のお前を運ぶだけでも心臓ドキドキなのに今のでドキドキがバクバクに変わったよ!!次に寝言なんて言ったら、確実に街へ着くまで目覚めないように睡眠魔法をぶっかけてやるからな!!

 

────と俺は胸の置くでフィルヴィスに対して怒りの言葉をぶつけるのでした。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。