臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第百八十一話

 

 

 

 

 

〈Sideケンマ〉

 

 

 

新しい本拠地の進捗状況を確認した後、アニメ通りに春姫とウィーネの絆を育むために『竈火の館』へと訪れると、館の方からウィーネの切迫するような泣き声が聞こえた来た。声の反響具合からして恐らく場所は中庭だ。

 

それだけで俺はアニメにもあったウィーネの爪でベルが腕を怪我したのだ瞬時に理解すると共に、そうならないようにするために来たのに遅かったと後悔する。

 

 

「ベル!ベル!」

 

「ッ─────チッ、遅かったか!」

 

「い、今のは……昨日のッ!?」

 

 

そんな俺の思惑と今起きている状況に理解が追い付いていない春姫は、ウィーネの切迫するような声に戸惑っているが今は時間がないので彼女には悪いが返事を聞くことなく、春姫の膝裏に腕を通して抱き抱えてから【魔力操作】で魔力で脚力を大幅に強化。

 

 

「悪い、春姫!」

 

「へ……きゃっ!?」

 

「落とすつもりはないけど、しっかりと掴まってろよ!」

 

「は、はひッ!」

 

「フッ!!」

 

 

そして、膝を曲げて脚に十分力を溜めてから一気に跳躍して館の屋上と飛び乗る。その後は、そのまま中庭へと飛び降りながらベルとウィーネの状況を把握する。

 

やっぱり、アニメ通りウィーネの爪でベルの腕が抉られて血が出ている。それを傍らでウィーネは自分がやってしまってことに信じられないのとベルを傷付けてしまったことへの恐怖で精神状況がぐちゃぐちゃになって狼狽えている。

 

着地の際に生じる芝生と地面を踏み締める音でベルとウィーネも俺たちがやって来たことに認識するが、ベルは痛みで直ぐには動けず、ウィーネも精神的不安からまともに動けずにいた。

 

 

「春姫、ベルを頼む」

 

「はい!」

 

「ケン……マ……春姫……さん……ウィーネは……!」

 

「大丈夫です、ベル様。ウィーネ様のことはケンマ様にお任せを」

 

 

ベルのことは春姫に任せて、俺は未だに怯えているウィーネを見据える。

 

 

「わたし……わたしっ……」

 

「昨日振りだな、異端のヴィーヴル。いや、今はウィーネと呼んだ方がいいか」

 

「わ、わたしの所為でベルが……!」

 

 

流石にこれ以上の錯乱はヤバいだろう。

 

なので、俺は魔術が大好きな某第七王子のように出来るかは分からないが出来るだけ龍のオーラを優しく放出しながらゆっくりウィーネに近付いて、龍翼を模したオーラで優しく彼女を包み込んでから更に抱き締めてやる。

 

 

「安心しろ、ウィーネ。ベルは大丈夫だ」

 

「……本当に?……ベルは大丈夫なの?」

 

「ああ。そんなに心配なら自分で確かめてみろ」

 

 

龍のオーラが幸をそうしたのか錯乱気味だったウィーネが落ち着きを取り戻し、俺の腕の中でベルの容態について尋ねてくるので彼女に笑顔でベルは大丈夫だと伝えながら立ち上がり、頭を一撫でしてから治療が終わっているであろうベルの下へ、そっと背中を押して促す。

 

しかし、ウィーネは先程のことがあって俺が促しても直ぐにはベルの下には行かず、ベルの顔色を伺っている。

 

それを見て俺は昨晩、春姫を安全面から『竈火の館』に泊まらせず本拠地に連れ帰ったのは間違いだったのではないかと俺の中で後悔が生まれ始める。いや、例え春姫を連れ帰らなくともいつも集合時間に命と共に『豊饒の女主人』に来ていた可能性が高い。そうなればどちらにせよ、今の状況に陥っていたに違いないだろう。

 

そんなタラレバなことを考えていると、春姫のスキルで治療を終えたベルが優しい声音でウィーネの名前を呼びながら、彼女の手を鋭利な爪で傷付くことなど顧みずに優しく握る。

 

 

「ウィーネ」

 

「ベル、駄目!また血が……!」

 

「僕なら大丈夫、大丈夫だよ。例えまた怪我をしてもその度に治せばいい。でも、心の傷はそうじゃない。だから、怖がらないでウィーネ。僕は大丈夫だから、ね?」

 

「ッッ───ベル、ベル!」

 

 

ベルの声がウィーネの心に届いたのか、彼女の顔色は先程のような恐怖ではなく、迷子の子供が親や兄弟と再開出来たような安堵による泣き顔へと変わり、僅かに躊躇するもベルが頷くと今度こそ迷うことなく笑顔で抱き付きながら何度もベルの名前を呼ぶウィーネ。

 

それを見て、やはり俺が居ようが居まいがベルとウィーネの運命は変わらないのだと小さく溜め息を吐きながら安堵しつつ、俺と春姫が来る前から『竈火の館』の避雷針に止まっている青と黄色のオッドアイの眼を持つ白い梟が飛び立つのを俺は睨むように凝視する。

 

俺の間違いでなければ、あの白い梟の右目は恐らくフェルズが作った魔道具の『眼晶』だと思う。つまりは、それはあの梟はフェルズが使役している梟ということになる。また先程までのことを『眼晶』で見ていたということは間違いなく、ベルたちだけでなく俺たち【ヴィクトリア・ファミリア】にもウラノスからの『強制任務』の通達が来ることになるだろう。

 

 

「今思うとあの魔道具って、スマホに似てるよなぁ。ま、ソシャゲとか出来ないしネットも観れないけど」

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

〈Sideアルテミス〉

 

 

 

「それで、何よ、話って。態々、アルテミスまで巻き込んで、もしかして、ま~た仕事をサボろうって口実じゃないでしょうね?」

 

「ぼ、ボクも結構頑張ってるんだから、そろそろ見直してくれよっ!それに生真面目なアルテミスまで巻き込んでサボる口実を作れると思ってるのかい!?」

 

 

場所は『バベル』の四階、【ヘファイストス・ファミリア】の店舗の一つ。一級品の武具を取り扱う高級支店の内奥部にある在庫置き場で、私たちは偶然支店の見回りに来ていたヘファイストスと三人で対面している。

 

 

「それもそうね。で、何なの?人払いまでさせて、変な話だったらすぐに帰るからね」

 

「ヘファイストス、キミはキミの眷属たちや店に訪れる子供たちから()()()()()()()()()()()()について、何か聞いたことはあるかい?」

 

「何よそれ?知るわけないでしょう」

 

「だよね………」

 

 

ヘスティアの問いに対して、ヘファイストスは当然のような答えで返した。

 

無理もない。私もとある例外を除いて、人の言葉を話すモンスターなど昨日ケンマから伝えられるまでは考えもしなかったのだからな。

 

 

「じゃあ……もし、人の言葉を喋るモンスターがいるとしたら……キミはどうする?」

 

「………詳しく聞かせなさい」

 

 

ヘスティアの珍しい真面目な眼差しを前に、ヘファイストスは眼帯をしていない己の左眼を細めた。

 

 

「事の発端は、19階層で異常発生したファイアー・バードを討伐する冒険者依頼中にベルくんがヴェルフくんたちとはぐれて迷子になったことから始まったんだ。そして、そこでベルくんはとある存在と出会ってしまった。本来なら同じモンスターには襲われるはずもなく、人の言葉を喋ることもないはずの未知のモンスターに」

 

「同じモンスターに襲われて、人の言葉を喋るモンスターねぇ……それで、その未知のモンスターがどうかしたの?」

 

「そ、それが……実はベルくんがその未知のモンスター……ウィーネくんをダンジョンから連れて来てしまったみたいで……ボクも初めてみる存在だから、ボクより長くオラリオに居るキミなら何か知らないかなぁって……」

 

「は?はああああああ!?」

 

 

ヘスティアから明かされた事の発端を聞いて、ヘファイストスは驚きのあまり絶叫の叫びを上げる。

 

これも無理もない。私もケンマから今回の件を聞いた時、驚きの絶叫を上げるよりも先にモンスターの近くにいるヘスティアの事が心配で、衝動のまま飛び出そうとした所をケンマによって抱き止められてしまっていたしな。もしもあの時、咄嗟の衝動で動くことがなく僅かでも冷静さがあったのであれば、私もヘファイストスのように驚きの絶叫を上げていたのであろう………それも近所迷惑は気にせずに。

 

 

「ちょっと待って?連れて来てしまったって……本当にモンスターを?ダンジョンから?嘘でしょう?」

 

「いや、本当だよ。それも種族は中層で出現する稀少種のヴィーヴルで、名前はさっきも言ったけどウィーネくんだ」

 

「………な、ななな何を考えてるのよ、あんた達は!!」

 

「私もケンマから聞いた時は、その未知のモンスターからヘスティアを守ろうと本拠地を飛び出そうとするのを、予め察していたケンマに抱き止められた程に信じられなかった」

 

 

いくら人の言葉を喋れる知性があるとはいえ、ダンジョンからモンスターを連れ出すなんて行いは正気の沙汰でない。ガネーシャの子供たちのようにモンスターをテイムすることが出来ていれば話は違うが、昨晩のケンマやヘスティアの話を聞く限り、ウィーネと名付けた『ヴィーヴル』はテイムなどしていないだろう。

 

 

「ダンジョンからモンスターを連れ出して、あろうことか名付けまでして本当に何を考えてるのよ、あんた達は!!自分たちが何を仕手がしているのか分かってるの!?」

 

「ゔっ……た、確かにボクたちがやっていることは間違いなく愚策だと思う。けど、あの子を───ウィーネくんを初めて見た時、自分がどういった存在なのか、何故この世に生を受けたのかを全く理解できていない、まるで道に迷った迷子のように色々なものに怯えているように見えたんだ」

 

「「……………」」

 

「そんな子をボクは放っては置けないんだ。なによりボクはヘスティア(炉と家庭の女神)だ。それが例えモンスターだったとしても、ボクは目の前にいる迷子の子供を見ない振りなんて出来ない」

 

 

自分の真名を口にながら決意した眼差しを私たちに向けるヘスティアは、我々ギリシャ神話における十二の席次にこそ名を連れていないが、その在り方はどこぞ天空神やその妻である結婚の女神、私を含めたどの神々よりも偉大な女神なのだと改めて認識させられる。

 

 

「しかし、ヘスティア。仮にそのウィーネとやら以外にも人の言葉を喋るモンスターが居たとして、お前たちはどうすんだ?」

 

「それは………」

 

「ウィーネを同じ境遇のモンスターに合わせようにも、地上からモンスターをダンジョンへ連れて行くのは連れ出す時よりも至難ではないのか?それに、もしも今後ダンジョンでウィーネと同じ境遇のモンスターと出会った時、ベルたちは場合によってだが情を捨ててそのモンスターを殺せるのか?」

 

「………………」

 

 

そう、一番の懸念点はそこなのだ。

 

昨晩、ケンマから人の言葉を喋るモンスターである『ヴィーヴル』ことウィーネの話を聞き、彼からベルにとある懸念点を上げられた。それはベルがウィーネと同じ境遇のモンスターとダンジョンで出会い、戦闘になった際に情けを殺して仕止めることが出来るのかということだ。

 

人は一度、情が沸いてしまうとその者を殺すことに少なからず躊躇が生まれる。それがダンジョンでは決定的な隙となり、一瞬で死に直結する可能性が高いと言っていた。

 

因みにケンマはというと─────

 

 

お互いに命をやり取りをして今を生きてるんだ。生きるためなら殺す、殺せないなら自分や仲間が殺されないように最低限両手足を切り捨てるだけだ

 

 

────そう、何かを斬る覚悟を決めた眼差しで返答していた。

 

そして、今一度ヘスティアの顔を見るとベルの事を考えているのか苦虫を噛み潰したような表情をする。ベルは優し過ぎる。それこそ冒険者に向いていない程にだ。

 

けれど、それこそが彼の美点である。

 

 

「ヘスティア、私から……というよりもケンマの受け売りだが」

 

「ケンマくんからの受け売り?」

 

「そろそろベルには……背負う覚悟を持たせるべきだとろうと、ケンマは言っていた」

 

「……背負う……覚悟……」

 

「ああ。ケンマはその覚悟を私と出会った時に出来ていた。この世で、最も禁忌とされる(神殺し)を背負う覚悟を」

 

「……………………」

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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