臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第百八十二話

 

 

〈Sideケンマ〉

 

 

 

 

「はい、一度そこまで。今から二十分休憩です」

 

「は、はひぃぃ……」

 

 

ダンジョンからウィーネを連れ出し早六日。今日は、三日前に春姫用のヴェルフ謹製の戦闘衣と過去に俺が討伐した強化種の青い『ミノタウロス』の角を使った脇差しと盾代わりの扇子が完成した為、ギルドの資料室で我らがエイナ先生によるスパルタ教育こと『妖精の試練(フェアリー・ブレイク)』を春姫に履修してもらっている。

 

何故、『竈火の館』で家政婦としての冒険者依頼があるはずの春姫がギルドで『妖精の試練(フェアリー・ブレイク)』を受けているのかというと、現在『竈火の館』ではウィーネの関連する情報を収集するに当たって、今現在の情報共有をするべくヴィクトリア、アルテミス、ヘファイストス、ミアハ、タケミカヅチといった神々がヘスティアの下に集結している。

 

さて、ここで新たな疑問が生まれる。その疑問とは、六日前に俺は【ヴィクトリア・ファミリア】の団長としてウィーネ関連の事については極力静観の姿勢を取るとベルたちに宣言した。なのに何故、ヴィクトリアとアルテミスがウィーネのいる『竈火の館』に集結しているのか。

 

その理由は────単純にアルテミスの我が儘だ。

 

モンスターであるウィーネと一つ屋根の下で生活している神友のヘスティアが無事であることは五日前に行われたヘファイストスの密会で一応確認済み。しかし、それでもウィーネはモンスターであること変わらないので、アルテミスは自らの目でウィーネを見極めると言って今日の密会に赴いているのだ。

 

そうした理由から午前中は春姫に時間が出来た為、朝九時からエイナ先生の『妖精の試練(フェアリー・ブレイク)』を受けてもらっていたのだ。そして今、初めてスパルタ授業を受けて、あまりの情報量からいつもの所作のある立ち振舞いから一転、春姫はその場でだらしなく両手を伸ばして机に伏せてしまっている。

 

因みに、俺はダフネとカサンドラと共に『下層』の地形や出現するモンスター、採取できる素材などの情報が載っている資料をまるでゲームの攻略本のように読んでいる。そんな中で、自分で重要そうだと思うもの取り敢えず持参した羊皮紙に全て書き込み、そこから更に重要度の高そうなものは色ペンでラインを引いて置く。

 

 

「んー、やっぱり『下層』は『水精霊の護符(ウンディーネ・クロス)』の装備に雷の魔剣は必須かな」

 

「俺は個人的に炎の魔剣も欲しいかな。もしも、水に落ちた後に身体を暖める時に火種として使いたい」

 

「ま、魔剣を火種……」

 

「後は『巨蒼の滝(グレート・フォール)』の水だが、これは真水なんだろうか?もしも真水でないなら雷の魔剣の使い時には注意しないといけないな」

 

「えーっと、どういうことですか?」

 

「水にはいくつか種類があって、俺たちが普段口にしている水には目に見えない埃や金属、カルシウムと言った不純物があまり含まれていない真水というもので、これは電気───つまり雷が通り難い性質を持っているんだ。逆に汗や雨などは不純物が含まれているため電気が通り安くて、身体がずぶ濡れだったり水場での戦闘中に雷の魔剣を使ったら水を伝ってパーティー全体に魔剣の攻撃が当たる可能性が少なからずあるんだ。それを俺は心配してるんだよ」

 

 

前世と違って『ダンまち』の世界の濾過装置は大半が魔石製品による物なので、前世の水道水と違って完全な真水になっている可能性が高い。そうでなければ嗅覚に秀でている獣人族や【恩恵】で五感が強化された第一級冒険者たちが表情を一切歪めることなく水を飲めるはずがない。そのことからこの世界の飲料水は真水である可能性が高いと俺はそう考察する。

 

そうして、なぜ俺が態々『巨蒼の滝(グレート・フォール)』の水質を気にしているのかをダフネたちに丁寧に説明すると、斜め向かい側に座るエイナさんが俺を感心しながら次のように述べて来る。

 

 

「へぇ、ケンマくんって以外と博識なんだね。私、水は飲める物と飲めない物の二つしかないと思ってた」

 

「実はそうじゃないんですよ。他にも水に含まれている塩分濃度によって淡水や海水などの違いや、同じく水に含まれているカルシウムとマグネシウムによって口当たりや風味が変わる軟水や硬水なんて呼ばれる水も存在するんです。それにこれくらいのことは同じ高校の奴らなら普通に知ってますし、そっちの分野に進学しようとしている奴らなら直ぐに見分けることも可能性ですよ」

 

 

これまた前世と違って、この世界には前世のようなリトマス試験紙なんて物は存在しないため実際に口にするか魔石製品で水質の酸性とアルカリ性を確認する他ない。そのため、俺が今述べたような軟水や硬水などの見分けもそこまで付いている訳ではないのだろう。

 

 

「えーっと、今の口振りから察するに……ケンマくんって、もしかして学区か何かに通ってたの?」

 

「正確には似たような教育施設なんですけど通ってました。それに訳あって途中で中退しちゃって、小、中、高と合わせて通ってたのはざっと十年くらいかな」

 

 

あまりこれといって良い思い出はないが、あれはあれで掛け替えのない大切な体験だと学生生活の記憶を呼び起こしているとエイナさんから質問を受ける。

 

 

「へぇ、そうだったんだ。因みにケンマくんは何か学科を専攻してたりする?私は神聖文字を主体とした総合神学を専攻したの」

 

「俺は科学を専攻してましたね。殆ど赤点ギリギリでしたけど」

 

「かがく?」

 

「科学とは、さっき説明した水などの色々な物の性質を観察、実験、検証可能な仮説を通じて、自然界や社会の現象を体系的に理解する科目です。例えば、どうしたら雲が出来て、それが雨となり雪となって降るのか、エイナさんは知ってますか?」

 

「ううん、全然。あまり考えたこともなかった」

 

「あまり考えたこともなかった、か」

 

 

やはり魔術や魔法が体系化していると科学や化学など前世の常識が異世界では存在しない、または発展していないのだろう。うん、異世界あるあるの醍醐味の一つだ。

 

『ダンまち』の世界だとよく異世界の同じで魔石が前世でいうの石油や天然ガスといった天然資源に該当するのだが、その魔石を採取できるダンジョンは生きているのでダンジョンを踏破し、殺すことに成功した暁にはオラリオの資源である魔石はこの世から消滅するのではないかと俺は予想している。

 

そうなった場合、世界のインフラは一気にグレードダウンせざる負えない。ならば、そうならないためにどうしたらいいのか魔石に変わるエネルギー資源を考えなければならないのだが、俺には某石化ワールドの天才科学少年のような化け物地味た科学の知識はない。あるのは、授業でちょろっと習っただけの鼻糞並みの知識だけだ。

 

なので、考えるだけは今は無駄だ。それよりも先に『異端児』の問題に巻き込まれても良いように対策するべく、少しばかり藪を突ついて見ることにした。

 

 

「そういえば、ロビーの掲示板前で武器を奪うモンスターが出たって他派閥の冒険者たちが噂してたんですけど、何かあったんですか?」

 

「うーん、私たちギルド職員も詳しい情報を集めてるところなんだけど、実はかなり前からダンジョンで亡くなった冒険者の装備を奪ったと思われるモンスターが『下層』や『深層』で稀に確認されてたの。それがここ最近なってから20階層から下の『中層』でも確認されるようになったの」

 

「なるほど、それで態々ギルドの掲示板に張り出されてたのか。これからの探索を考えると、もしもその装備を奪うモンスターが偶然にも魔剣なんて奪った日には考えたくもないですね」

 

 

敢えて偶然にもと言ったが、アニメでは両手斧型の雷の魔剣が『アステリオス』の手に渡ることになっているので、偶然ではなく必然である。

 

因みに一つ疑問に思っていることがある。今、両手斧型の魔剣と言ったが刀剣ではない物でも魔法が放てればこの世界では『魔剣』という括りになるのだろうか? 個人的には魔法を放てる斧なのだがら『魔戦斧』なのではないだろうかと俺は思う。

 

そんなことを一人で考え込んでいると、ダフネが先ほど俺が述べた内容に対して非難して来る。

 

 

「ちょっと団長、そういうこと言うの止めてよね!団長はベル・クラネルと同じくらい巻き込まれ体質なんだがら面倒事に巻き込まれるウチたちの身にもなってよ!」

 

「うーん、かなり自覚あるから反論し難いところなんだけど残念なお知らせがある。恐らく、そう遠くない内にまた面倒なことに巻き込まれる。うん、間違いなく」

 

「なんでよッ!?」

 

「んー、この間のイレギュラーな存在関連」

 

「ちょっ、ウチたちはアレには関わらないって……!」

 

「そうだな。大っぴらには関わらないと決めたが……どうやら俺たちは監視されてたっぽいんだよなぁ」

 

「いつから!?」

 

「んー、監視されてるって自覚したのが五日前。あいつと出会った次の日から監視が始まってたから…… あまりにも監視の動きが速すぎる。ダンジョンから帰って来た時のあいつはサラマンダー・ウールで顔を隠してたから普通はバレることはないとは思うけど……うん、今思うとどうやってバレたんだ?」

 

「ウチに聞かないでよ、そんなこと!!」

 

 

いや、マジでどうやってウィーネの存在がウラノスとフェルズにバレたんだろうか?アニメだと二人とも最初からウィーネの存在に気付いていたような感じだったような気がするんだよなぁ。もしかして、【イケロス・ファミリア】が動いていたから何処の階層に新しい『異端児』が生まれたと、そういう解釈でフェルズたちはウィーネの存在に気づいたとか?

 

もしもそうであるならばベルがウィーネと出会う前にリドたちに保護させろよと思うが、それはそれで『異端児編』の物語が進まないので大人の汚いご都合主義ということで無理に納得しようとする俺とは裏腹に、今までの話を丸聞きしていたエイナさんがそれはそれはとても良い笑顔を俺に向けながら、今まで俺たちが何の話をしていのか詳しい説明を求めて来る。

 

 

「一体何の話なのかなぁ?よかった私に教えてくれると嬉しいなぁ」

 

「んー、普通に駄目です!冒険者でもない一般人のエイナさんが関わるにはあまりにも危ない橋を渡ることになるし、もしそうなったら俺はエイナさんまで守り切れる自信はない」

 

「危ない橋って……キミたちは一体何に関わってるの?」

 

「教えてられません。だから忠告です。今、俺たちが関わっている件に無理矢理関わろうとするのは絶対に止めてください。最悪の場合、エイナさんもオラリオに居られなくなる。それから、もしもヘルメスのクソ野郎から何か物を受け取っても絶対に身に着けたりしないでください。何処か誰も手に届かない場所に捨てるか或いは……誰の目に触れないように布か何かで隠した状態で俺に渡してください」

 

「それもケンマくんたちが関わってる危ない橋に関係することなの?」

 

「はい。ヘルメスから渡される物を持っていると間違いなくエイナさんの身が危なくなる。極め付けには命すら危うくなります」

 

「そんな……だって、ヘルメス様だよ?」

 

「あいつも例外なく神の一柱、合理的主義な男神だ。一部の善神を除いて、他の神々と同様に自身の都合や思惑のためには誰かを犠牲にすることすら厭わない。それこそ、下界の人間に神殺しさえも無意識に強要させる野郎ですから」

 

 

真剣な眼差しでエイナさんにそう忠告すると、彼女も今回の件は今まで以上に危険な物でヘルメスのヤバさを理解するように息を呑み込む。

 

流石にここまで強く忠告しておけば、いくらエイナさんでも下手に『異端児』の件に首を突っ込むこともヘルメスから渡されるグロスの目印となる品も身につけることもないだろう。後者に関しては、エイナさんのベルへの恋愛フラグを折ってしまうかも知れないが、知人を危険に巻き込みたくないという俺の身勝手な自己満足なので後悔はしていない。

 

 

「とまぁ、色々と脅すようなことを言いましたがそろそろ二十分の休憩が終わります。俺はちょっとトイレに行って来るので、引き続き春姫のことをよろしくお願いします」

 

「う、うん」

 

 

戸惑い交じりのエイナさんの返事を聞きながら俺は席を立ち上がり、宣下通りトイレに行くためにその場を後にする。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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