臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈Sideベル〉
「「…………」」
今、僕の目前では高潔で優美なエルフと美麗で剛胆なアマゾネスが殺気立ちながら互いに睨み合っている。
何故、こうなったのかというと事の発端は僕たち【ヘスティア・ファミリア】の本拠地である『竈火の館』で行われた今日まで集められるだけ集めたウィーネのような『喋るモンスター』の情報を神様が信頼を寄せているヘファイストス様、ミアハ様、タケミカヅチ様、ヴィクトリア様、アルテミス様の皆さんに情報共有をするべく会合を開かれたのが一番の発端である。
因みに本来ならばこの会合に参加するつもりがなかったヴィクトリア様は、今後【ヴィクトリア・ファミリア】の傘下となる予定の【ファミリア】の主神であるアルテミス様が参加されるため、本体の主神であるヴィクトリア様も参加することになったそうだ。そんな訳もあって六柱の神々による会合が早朝に行われたけど、結局のところ『喋るモンスター』について進展することはなかった。
けれど、ヘファイストス様たちも自分たちで探ってみて何かしら情報を得られた時には共有すると協力を約束してくれた。『喋るモンスター』についての会合が終わり、ヘファイストス様、ミアハ様、タケミカヅチ様のお三方が帰った後、僕は会合を聞いた上で神様に次のように話を切り出して来た。
「やっぱりダンジョンに、ですか?」
「うん。ヘファイストスやタケたちとも話したんだけど、ウィーネくんことを調べるには地上では限界がある。情報がより集まるとしたらギルドだけど……下手に探りを入れるのもねぇ」
「当然です。もしバレたら【ファミリア】の立場も危うくなりますし、あの娘もどうなることか」
「うん。だから内密にダンジョンへ行って来て欲しいんだ。ウィーネくんを見つけた場所、周囲の様子、何でもいい確かめて来てくれ」
「分かりました」
神様とリリの話を聞いてから改めて地上ではもうウィーネような『喋るモンスター』の情報を集めるにも限界があると分かり、僕とウィーネが初めて出会った場所────つまり、19階層の『大樹の迷宮』に手掛かりを探し行くことを僕らは決意する。
あの時はモンスターでありながら傷付いて涙を流すウィーネを目撃したり、普段なら本能的に感じるはずのモンスターへの嫌悪感や忌避感を感じないことやまるで人間のように恐怖を露にしていることに理解が追い付かないまま、異常発生した『ファイアーバード』の内の一匹と戦闘することになったり、その直ぐ後に現れた『ヴィーヴル』を狙っていた人相の悪い冒険者たちから咄嗟にウィーネを守ったりと落ち着いてあの場所を調べる余裕はあの時は全くなかった。
でも、今なら落ち着いて調べることが出来るはずだと命さんとじゃれていれるウィーネを見て、そう思った。けれど、この時の僕はダンジョンで『喋るモンスター』の手掛かりを得れた後、ウィーネがどうなるのかを考えていなかった。
「ベル……行っちゃうの?」
「大丈夫だよ。直ぐに帰ってくるから」
「確かに、あまり本拠地を開けたくはないな。命と今ケンマたちとギルドに行ってる春姫は残すとして、ダンジョンに行けるのは俺たち三人だけか……」
ヴェルフの口から出た最後の呟きは、これから19階層へと向かう僕たちに強くのし掛かる。それもそのはず、普段ならばケンマやダフネさん、カサンドラさんも一緒にダンジョンに行くのだが今日は春姫さんの冒険者としての前準備としてエイナさんが行う『妖精の試練』を受けるために四人はギルドへと出掛けていないのだ。
そのため、本拠地を守るために残る命さんを除いたらダンジョンに行けるのは僕とヴェルフ、リリの三人になってしまう。今までにもケンマたちの【ファミリア】の方針で週に二日間だけ休日を設けているので、四人でダンジョンに行くことはあれど三人だけでダンジョンに向かうのは今回が初めてだ。
そして何よりも─────
「間違いなく一日以上掛かる上に今まであればケンマ様やカサンドラ様にその都度回復魔法を掛けて頂いていましたが、現在はお二人は不在であり【ファミリア】として静観の意を示している以上、今まで以上にリリたちは慎重に19階層を目指す必要があります」
「はぁ~~~。だからといって、迂闊に助っ人を頼む訳には行かないし…………」
助っ人………神様から溜め息混じりで出てきたその言葉を聞いて、誰か良さそうな人は居ないものかと記憶の中から今までに出会って交流を深めた人物たちを掘り起こしている内、ふと窓の外が目に入り、そのまま空を見上げてると脳裏に一人の元ではあるが女性冒険者の顔が浮かんだ。
しかし、その直ぐ後に彼女の顔の後ろに親友の背中が浮かんでしまい、彼女を頼るのを躊躇ってしまう。仮に今の考えのまま、彼女に助っ人を頼んでしまったら巡りめぐって親友にも迷惑を掛けるのではないという懸念が僕の中で生まれてしまった。
「ベルくん、もしかして誰か助っ人になりそうな人物に心当たりがあるのかい?」
「は、はい……でも、その人を頼るのは自分勝手過ぎるのと巡りめぐってケンマたちにも迷惑を掛けることになりそうで……」
「もしや、その助っ人になりそうな人物とは『豊饒の女主人』のリュー様ではありませんか?」
「うん。あの人だったらケンマたちが抜けた穴を埋めてくれると最初は思ったんだ。けど、それはさっきも言ったけど自分勝手過ぎるし、リューさんはケンマの師匠だから巡りめぐってやっぱりケンマたちに迷惑を掛けることになるんじゃないかと思って」
助っ人の件で、僕が思い浮かべた助っ人はリューさんだと皆に言いながらその上で、彼女を頼ってしまうの自分勝手でありケンマにも迷惑が掛かってしまうのではないかという懸念を打ち明ける。
すると、僕の話を聞いた上でリリから次のような提案をされる。
「ベル様が懸念されるのも分かります。もしも仮にリュー様に助っ人を受けてもらえたとしても、『喋るモンスター』のことを調べるために19階層まで同行して欲しいとは正直に言う必要はありません。なのでここは敢えて、
「ケンマの師匠という点から考えれば、一番妥当な助っ人だと俺は思うがな」
「う~ん、二人がそこまで言うなら………」
こうして助っ人に当たりを着けた僕らは、直ぐにダンジョン探索用の準備に取り掛かり、昨日もらったシルさんからのお弁当を返却するのと合わせて今日の分のお弁当を受け取り、そのついでにリリの言っていた通りに冒険者依頼の助っ人をリューさんに頼むために『豊饒の女主人』へと向かった。
○●○
「おはようございます、シルさん」
「あ、ベルさん!少し待っててくださいね。直ぐに今日のお弁当を持ってきますから」
そう言ってシルさんはさっきまで店先を掃いていた箒を持ったまま店の中へと消えていく。それからまもなく、シルさんはお弁当を片手にリューさんを随伴させて戻って来た。
まさか、リューさんも出てくる来ると思っていなくて、思わずギョッとしそうになるのを何とか隠すように頭を左右に振るう。
「はい、ベルさん。今日のお弁当です♪」
「あ、ありがとうございます。あ、これ、洗っておきましたから」
「ありがとうございます」
シルさんのお弁当を受け取るのと同時に、昨日もらって本拠地で洗ったお弁当を返却する。すると、リューさんからケンマたちが居ないことを尋ねられる。
「今日はイシグロさんたちは休養日なのですね」
「あ、いえ、ケンマなら春姫さんたちを連れてギルドに行ってますよ」
「【ファミリア】全員でギルドにですか?」
僕の口からケンマが【ファミリア】総出でギルドに行っていることを聞いたリューさんは、凄く珍しそうに綺麗な空色の瞳を広げてキョトンとして驚いた。
「はい。先日、春姫さん用の装備が完成したので彼女が冒険者として本格的ダンジョン探索をさせる前段階として、僕たちも受けたエイナさんのスパルタ教育の『妖精の試練』を受けさながら、自分たちは『下層』について早い段階から下調べをしておくつもりらしいです」
「『下層』について、もう下調べを始めているのですか?いくら彼やクラネルさんの成長が著しいといえ、あなた方はまだ『中層』を攻略仕切れていないはずだ。なのに、もう『下層』の下調べをするにもいささか早計ではないでしょうか?」
リューさんの言い分はもっともだ。僕らはまだ先日ようやく19階層に足を踏み入れたばかり、それなのにケンマは既に『下層』の知識を得ようとギルドへと赴いている。でも、逆に考えてみればそれだけ『大樹の迷宮』に対してケンマは余裕を持っているとも捉えられるし、それだけの余裕が出来たのは間違いなく【イシュタル・ファミリア】との戦いで第一級冒険者であるフリュネさんを一方的に倒して見せたという、あの『真紅の鎧』を先代赤龍帝であるヒョウドウ・イッセイから継承したからだと僕は思う。
ギルドによって『中層』の終わりである24階層までに定めたられた【ステイタス】基準はLV.2 冒険者の最上位で、僕とケンマはそれを上回るLV.3 であり、ケンマに至っていえばフリュネさんを倒せるから実質第一級冒険者と遜色はないはず。
だから────
「ケンマなら大丈夫だと思います。それにケンマはよくこう言ってますから、情報は剣であり盾でもあるって。だから、今は情報という名の剣と盾を磨いているんだと思います」
「……そういえばそうでしたね。彼のそういう情報を知識という剣と盾にしようとする辺りは、
「…………」
リューさんが懐かしいそうに言う彼女とは、恐らく今は亡き【アストレア・ファミリア】の団員だった誰かのことなのだろう。そう思っていると痺れを切らしたリリから催促の声がかかる。
「ベル様、あまり長居をしてはいられません。ダメもとでリュー様に助っ人を交渉してみてください」
「えっ、ちょっ、リリっ?!」
「手段を選んではいられません。もうリュー様しか頼れる方がいないのですから」
「う、うん……わかったよ」
リリの言う通り、僕らに頼れる人はもうリューさん以外にはいないで彼女に嘘をついてしまう罪悪感に苛まれながら、内心で謝罪をしつつ助っ人のお願いするしなかった。
「今日中にこなしたい冒険者依頼のため リヴィラの街に向かいたい、ですか?」
「え、ええ……その……出来ればリューさんに協力してもらえたな、って……」
リューさんに嘘をついてしまったことへの罪悪感から彼女の瞳を直視できず、視線を左右に泳がせているとそのあまりにも挙動不審な僕の態度を見て、後ろにいるリリとヴェルフが溜め息をつく。
そして数舜もしない内にリューさんは、助っ人のお願いを断ろうとした、その時だった。彼女の言葉を遮るように威勢の良い声で僕の名前が呼ばれる。
「……クラネルさん、申し訳ありませんが、私にも店の勤めがありますので───」
「ベル・クラネル!」
威勢の良い声で自分の名前を呼ばれ、ヴェルフ達と声がした方へと顔を向ければ、そこにはくびれた腰に手を当てた美しい悍婦が立っていた。
僕は悍婦に見覚えがあった。踊り子のような衣装を纏う女傑────アイシャ・ベルガさん。彼女は元【イシュタル・ファミリア】の第二級冒険者であり、『殺生石』の生け贄にされそうになっていた春姫さんの数少ない味方であったアマゾネスだ。
「あ、アイシャさんっ?ど、どうしてここに……?」
「あのヘッポコ狐の様子を見に行ったら留守で、ついでにアンタの顔を拝もうと思ったら、ダンジョンに行ったと言われてね。で、大人しく帰ろうと近くを通ったら、アンタがいた。ついてたよ」
「は、春姫さんなら今、ケンマたちとギルドでダンジョンの勉強をしてますよ。彼女の装備が出来上がったから、一人の冒険者として活動する前の最後の準備に取り掛かっているんだと思います」
「へぇ、あのヘッポコ狐の春姫が冒険者に、ねぇ。ところで、こんな酒場の前で何をしてるんだい?」
「そ、その実は───」
アイシャさんに『豊饒の女主人』の前で何をやっているのかと尋ねられ、リューさんの身の上などを隠しながら事情を彼女に説明した。
「ふぅん、要はアンタ達の護衛か。いいよ、私が引き受けてやる」
「本当ですか!」
「ああ。リヴィラの街まで行って、戻って来るだけだろう?それに、一度アンタとはダンジョンに潜ってみたかったからね。ただし───」
「ひっ……!?」
「私の報酬は高いよ?」
アイシャさんが護衛を引き受けてくれると喜んだのも束の間、不意に彼女が目を細めたと思えば蛇の如く腕を僕の肩に伸ばして、そのまま抵抗する隙もなく抱き寄せられてしまう。
普通ならばアイシャさんみたいな女性に密着されれば、扇情的な意味で思わずドキドキしてしまうのだろうが今の僕は別の意味で心臓がドキッとしてしまっている。何故なら目と鼻の先にいる彼女は、まるで獲物を見つけた肉食獣のように舌舐めずりをするので、このままでは色んな意味で食われると怯えてしまった。
そんな僕とアイシャさんに見て、ヴェルフは呆れ、リリとシルさんはギョッと目を見開き、リューさんは軽蔑的に空色の瞳を鋭くする。
「いつぞやは食いそびれたからね。今度こそは合意の上で────」
「ぐぃっ……!」
密着状態の褐色肌から僅かに香る麝香の香りに、あの時の歓楽街での悪夢の記憶が脳裏に甦り、今ばかりははっきりと当時の恐怖が復活すると不意にアイシャさんに突き飛ばされる。
そして、不意に突き飛ばされ僕らの間に出来た空間に何かが高速で通り抜けて、『豊饒の女主人』の向かいにある壁へと激突して粉微塵に消滅した。
「離れなさい、アマゾネス。彼に淫らな真似をするのは許さない」
「あぁ、何だい?あんたもこの雄に入れ込んでる口か?」
「……勘違いをしないでほしい。彼には既に伴侶の先約がある」
「そんなことは知ったことないねぇ。気に入った雄がいるなら奪い、押し倒し、食う。それが私らアマゾネスの性ってやつさ。奥手なら奥手らしく手を繋ぐところから始めてな。その間、味見は私がしておいてやるから」
「これだから品性の欠片もない下賎なアマゾネスは……。シルのためにもクラネルさんの操を貴様に渡す訳にはいかない」
み、操?
こうして冒頭の睨み合いへと戻る。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に