臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
ミアさんとの早朝鍛練のあと、約束通り【魔力操作】による【武具破壊】の応用で野菜たちに皮を剥いて、ベルが迎えに来るまで暇だったので『器用』の熟練度が上がらないかなと期待しながら只管野菜切っていた。
ベルが迎えに来たあとは、バベルの前でリリと合流してダンジョンへと繋がる螺旋階段を降りながら今日の探索方針をパーティーリーダーであるベルに訪ねる。
「ベル、今日はどの程度まで探索するんだ?」
「そうだね………大雑把な考えとしては、7階層で夕方まで粘ろうかなって思ってるんだけど」
「7階層ね、了解」
「リリもそれで平気かな?」
「お二人がお決めになられたのならリリはそれに従いますよ。ところで、ベル様?」
「なに?」
「あのナイフは、どこにしまったんですか………?」
1階層の真っ当な地面を踏み締めたところで、リリ
ベルにそう問いかける。
リリが言っているナイフとは、《ヘスティア・ナイ》のことだ。昨日、ベルから盗んで何処か質屋に売ろうとしたが持ち主以外にはその考慮を発揮しない《ヘスティア・ナイフ》が売り物にはならなかったあと、リューさんによって奪還されて、ベルの手元と戻ってきた。
なので、今度狙うのは【ヘファイストス・ファミリア】のロゴが刻まれている鞘ごと《ヘスティア・ナイフ》を盗みために、ベルにしまっている場所を聞いたのである。
「うん、今度は落とさないようにプロテクターの中へ鞘ごと収納してるんだ。格納スペースがちょうどあったから」
「そ、そうですか………それとケンマ様。ケンマ様の今日の武器は、昨日とは違うように見えますが」
「ああ、今日は小太刀じゃなくて片手剣だ。知り合いの先輩冒険者から使わなくなった物を譲ってもらったんだ」
「そ、そうなんですか………」
リリの言う通り、今日は昨日の小太刀とは違って片手剣に武器を変更したのだ。今朝の鍛練でもそうだが、ここ一週間でようやく自分の間合いを把握することが出来てきたので、前世のコンビニ傘くらいの長さの片手剣が一番使い安いと思ったのである。
コンビニ傘くらいの長さなら前世で、死ぬまでの学生の頃によく傘でチャンバラをやっていたので取り回しには慣れている。
大方、俺が使っていた昨日の小太刀も狙っていたのだろう。別に、これといった属性を付与していないので奪われても困りはしないが、やっぱり盗まれて良い心地はしないので片手剣に変更して良かったと内心では思っている。
俺たちの武器が簡単に盗めないと分かったリリはがっくり、と項垂れるが直ぐ顔を上げてこう述べ始める。
「………ベル様、ケンマ様、改めて、リリを雇って頂いてありがとうございます。お二人に見捨てられないよう、リリは鋭意頑張ります」
「見捨てるって、そんなことしないよ。僕はリリ以外にサポーターの当てなんてないし」
「俺もないな」
「それは良いことを聞きました………なぁんて、お二人がそんなことをするとは思っていませんよ? お二人はびっくりするくらいお優しいですから」
ベルは昨日の件でともかく、俺は何かリリの評価に値するようなことをしただろうか? 心当たりは、リューさんに嘘を付いたくらいだが。そんなことで評価されるだろうか?
いまいち、ピンと来ない。
リリに評価される理由をあれこれ考えていると、サポーターとしてリリに負担かけることをベルが懸念していたが、リリにはサポーター向けのスキルがあることが判明。『スキル』を持っていることに、ベルは羨ましがる。
「ケンマは、やっぱりスキルとかあるの?」
「あるちゃあるけど、リリと同じであまり冒険者としては役に立たないスキルだな。バレても不便はないが言うが、俺のスキルは【言語和訳】、あらゆる言語を俺が理解できるように頭の中で変換してくれるものだ」
「あらゆる言語って………それはそれで凄いじゃないか!?」
「共通語を覚えていない多種族との商売に打ってつけのスキルですね」
「商売か…………あまり考えたことないな」
ベルたちには悪いが、俺に発現している他二つの『スキル』を明かすわけにはいかない。嘘を付けないベルはどこかで思わずボロが出るし、今のリリはまだベルとの絆を深めていないので安易に悟らせる訳にもいかない。もっとも、この世界で自分の【ステイタス】を易々と公開するのは自殺行為にも等しいことは前世から知っているので、どのみち明かすことはないだろう。
○●○
あれから予定通り、7階層で夕方まで粘りに粘ってダンジョンから地上へと戻ってきた。探索の間、リリというサポーターの存在は、まさに劇的な効果だった。
原作やアニメでその有り難みは理解していたが、実際に現実として自分がその恩恵を受けて見ると何倍もその有り難みを実感する。
リリと出会うまで、俺たちは背中に背負っている支給品のバックパックが一杯になるまでダンジョンへ潜り、一杯になったら地上へ戻るを繰り返していた。それがサポーターが一人いるだけで、それが大きく減った。
何より、リリの『スキル』だ。詳しい内容は忘れたが、重い物を持つ時に補正がかかる物だったはずなので、その背中に背負っている自分の身体よりも何倍も大きいバックパックに、何キロという魔石やドロップアイテムを入れても動けるというのは駆け出し冒険者としては非常美味みがあった。
そのお陰で今日の稼ぎは、今までの記録を軽々と塗り替えた。
「「「よ、四八○○○ヴァリス…………」」」
目の前にある金に俺たち三人は、顔を見合わせてから歓喜の叫びをあげる。
「「「やあぁぁぁっ!!」」」
「すごい、すごいですっ!ドロップアイテムは数えるくらいしか出なかったのにっ、ベル様とケンマ様お二人で二五○○○ヴァリス以上を軽々と稼いでしましました!」
「わっ、わっ、わっ!夢じゃないよね!こんなにお金が入るだなんて!」
「マジか、ヤバい、これ!」
「ベル様もケンマ様もすごい!お二人でLv.1 の五人パーティーを軽く上回る額を稼いでしまいました!」
「いや、ほら、兎をおだてりゃ木に登るって言うじゃない!それだよ、それ!」
「それを言うなら豚だろう、ベル!」
高額を手にしたことで浮かれて、変な諺を口走りベルに注意を言いながら俺は目の前にある金で、今日の夕飯は何にしようかワクワクとしていた。
「……では、ベル様、ケンマ様、そろそろ分け前をいただけませんか?」
「うん、はい!三分の一の一六○○○ヴァリス、いいよねケンマ」
「ああ、それが一番良いと思う」
「あぁ、これなら普通に神様へ美味しいもの食べさせてあげられるかも………!」
「おいおい、普通に美味しいものって……まさか、毎日じゃが丸くんを食べてるのか?」
俺とベルがあれこれ話している最中、リリは目の前に差し出された今日稼いだ三分の一の一六○○○ヴァリスを見て困惑している。
「べ、ベル様!なんで山分けなんて………二人だけで独占しようとか、お二人は思わないんですか!?」
「え? どうして? 僕たちだけじゃ、こんなに稼げなかったよ。リリが居てくれたからでしょう」
「それに今日、俺は少し調子悪かったんだ。先輩冒険者との早朝鍛練で少し無理をしててな」
「そうだったの!? なら、余計にリリのお陰で稼げてたんだね、ありがとうリリ。これからもよろしく頼むよ」
「俺からもよろしく頼む」
ベルから握手を求められ、俺から拳を合わせること求められたリリは、困惑のあまり僅かに固まった握手と拳を合わせることに応じたのだった。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に