臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第二十二話

 

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

「ふぁ~、まだ眠いニャ。なんで、態々こんな面倒なことミャーがしなくちゃいけないのニャ」

 

 

欠伸をしながら愚痴を漏らすアーニャさん。彼女は、ミアさんと同じ元【フレイヤ・ファミリア】の冒険者で、現オラリオ最速の冒険者である【女神の戦車】の二つ名を持つアレン・フローメルの実妹である。

 

 

「そう言わないでくださいよ」

 

「ケンマもアホニャ。毎朝、痛い思いしながら強くなろうとするニャんて」

 

「どうしても越えたい奴がいるんです。それに、俺に憧れを抱いて、大きくなったら【ヴィクトリア・ファミリア】に入りたいと言ってくれた子供がいるんです。だから、その子のためにも俺は憧れであり、希望であり、夢であり続けるためにも強くなる必要があるです」

 

 

そう。昨日、『怪物祭』の時に助けた子供も再開して強くなる理由が俺には増えた。今まではイッセーを越えるために、自分が死なないために強くなるとしていたけど今は誰かの憧れであるために強くなりたい、そう思っている。

 

 

「憧れで、希望で、夢であり続ける………ケンマは、ミャーからしたら眩しいニャ。お喋りはここまでにして、適当に掛かってくるニャン」

 

「よろしくお願いします!【プロモーション・ルーク】!」

 

 

早々に【プロモーション】で『戦車』に昇格してからアーニャさんの得物を観察する。彼女の得物は、ミアさんが用意した長い木製の棒、本来の得物である槍で鍛練を始めたら生傷が出来てクロエさんの鍛練の二の舞になるのは間違いないだろう。

 

木製の棒でも、認識は槍系の武器。槍系の武器に注意する点は間合い。相手の懐に入り込めば此方の有利だが、それをさせないので槍使いの技の見せ所である。しかし、何事にも例外があって、前世の漫画やアニメにもあったように槍と見せ掛けて実際は三節棍だったりと複合型武器が存在する。

 

けれど、アーニャさんは普通の槍の使いであり、この世界にはそういった複合型のロマン武装の知識はまるでない。そんなロマン武装を考えて創造できるのは、異世界から転生した俺くらいの者だろう。

 

 

「まだかニャ?」

 

「あっ、すみません。長物と対峙するのは初めてで、間合いを考えてました」

 

 

今までは、木刀や拳といった超近接型の戦闘スタイルが主流で、ダンジョンでも基本的に超近接攻撃を仕掛けてくるモンスターが殆ど。例外を上げるならば、長い舌で攻撃してくるカエル型モンスターの『フロッグ・シューター』くらいのものだろう。

 

初めて長物を使う相手と対峙するので、今までの間合いの取り方は愚策。ならば、愚策は愚策でも間合いを知る所から今日の鍛練は始めよう。

 

そうと決まれば、手に持っている聖剣を握り締めて、一気に間合いを詰めるように地を蹴る。

 

 

「はあああッ!!」

 

「やっときたニャン」

 

 

ようやく動き出した俺に、アーニャさんは溜め息混じりに呟きながら棒の先端を地面に向けて、柄尻は空へと向けた状態のアニメとかでよく見る槍使いならではの構えを取った。

 

やる気なさげな言葉を口にしてはいたが、アーニャさんはしっかりと俺の鍛練に付き合ってくれるようで心から感謝しながら右切上げを繰り出す。

 

 

「フッ!」

 

「ほい!」

 

「ッッ!!」

 

 

俺が繰り出した右切上げを最後まで切り上げる前に、アーニャさんは棒の先を聖剣の刃の部分に当てて、それ以上切り上げられないように抑えた。

 

そんな芸当に驚愕するが、アーニャさんは元とはいえLv.4 で【フレイヤ・ファミリア】に所属していた冒険者。それくらいの芸当を出来て当たり前だろうと認識を改めてる。

 

 

「抑えられたなら、これでどうだ!」

 

 

最初の勢いを殺されて僅かに聖剣が停滞するが、直ぐに聖剣の刀身を斜めに寝かせ、アーニャさんが持っている棒の上を滑らせながら再度切りかかる。

 

けれど、それを見越していたのか、アーニャさんはあろうことか手に持っている棒を回転させて無理矢理に聖剣を弾いて見せる。が、それだけでは止まらずに俺は土手っ腹に鋭い一撃をもらってしまう。

 

 

「甘いのニャ」

 

「かはっ………!?」

 

 

身体が吹き飛ぶ程の威力はないが、『戦車』に昇格しているのにも関わらず痛みで膝を着いて動きが止まってしまうほど鋭い一撃だった。

 

 

「ほい、これでケンマは一度死んだのニャ」

 

「くっ…………!」

 

 

痛みで動けない俺に、アーニャさんは死の宣告を知らせながら棒の先を肩に添えた。これが本物の槍であったのなら、その穂先で間違いなく一瞬の動作で頸動脈を切り裂かれて死んでいただろう。

 

悔しい。その感情だけが頭を占めていた。ならば、どうする? ここで立ち止まるか? 否、絶対的に否である。

 

 

「もう一度、お願いします」

 

 

まだ残っている痛みを奥歯を食い縛りながら耐えて、地面に落ちた聖剣を拾って、もう一度アーニャさんに剣先を向ける。

 

 

「来いニャ!」

 

「フゥー」

 

 

さっきの攻撃は、長物の間合いを図るために特攻気味に攻めて見たがあっさりとやられてしまった。なので、次は冷静にアーニャさんの周りをゆっくりと歩きながら視野を広げる。

 

『戦車』の防御力を超えてくる鋭い一撃を貰わないためには、昨日のクロエさんと鍛練でかなり感覚を掴んだ某オサレなバトル漫画に出てきた歩方を参考を使うのが良いだろうも判断。

 

しかし、懸念すべきことがある。その歩方にはスキルで体力を多く消費するので使い過ぎには注意が必要となるのに加えて、自分の身体がその歩方で生じる慣性に耐えられるかということだ。

 

 

「昨日は出来たんだ。身体が覚えてるならやれる!」

 

 

覚悟を決めて、オサレバトル漫画の歩方である【瞬歩】で今までない速度でアーニャさんとの間合いを一気に詰めながら切り掛かる。

 

さっきと違って、突然の加速にアーニャさんは目を見開きながら驚くもしっかりと攻撃を棒の腹で受け止めて見せる。受け取られたと手から伝わる感覚を感じ取ったら、そのまま唾競り合いに持ち込まず反撃が来る前に一度後方へ退さがる。

 

 

「やっぱりこれも見えてるのか」

 

「いきなり速くなってちょっと驚いたニャン」

 

「渾身の踏み込みをちょっとって…………」

 

 

【瞬歩】での奇襲が失敗に終わった今、俺の頭の中には『聖剣創造』で手に持っている聖剣を《天閃の聖剣》と同じ能力を上書き付与して攻めることを考えたが【瞬歩】がちょっと驚かれる程度なのであまり効果はないだろうと考えが至る。

 

他には、某RPGゲームにて鳥の名前を冠した攻撃回数あるいは追撃効果のある聖剣を創造してみようかと思ったが、それは最早『魔剣』の類いになるではないかという考えに至り、アウト二つ。

 

色々と考えた末、未経験の種類の剣を扱うことにはなるが『魔剣』ではなく、ロマン武器に分類される物を選択。

 

 

「体は剣で出来ている────トレース・オン」

 

「新たらしい魔法かニャン」

 

 

疑似詠唱を唱え、手に持っている聖剣の刀身を撫でながら『聖剣創造』で能力を上書き付与する。上書き付与された聖剣は、見た目こそ変わっていないが改めて付与したのは刀身の内部構造。

 

新たな能力を得た聖剣をアーニャさんの間合いの外から振るう。無論、聖剣に新たな能力が付与されていることを知らないアーニャさんは奇行に走ったのだと勘違いする。

 

 

「はああああ!!」

 

「ケンマはバカニャ。そんな遠くから剣を振っても届くわけ─────フニャッ!?」

 

「遠くから剣を振っても、なんですか?」

 

 

自分の間合いの外から届かないと思っていた聖剣が、摩訶不思議なことに鞭のようにしなりながら伸びてきたことにアーニャさんは驚きながら慌てて避ける。

 

 

「ニャ、ニャンで剣が伸びてるニャ!?」

 

「態々、手の内を明かせるほど俺は余裕ないんでノーコメントですねッ!」

 

「ちょっ、待つニャ!」

 

「待ちません!」

 

 

俺が『聖剣創造』で上書き付与したのは蛇腹剣の内部機構。アイデアやイメージは【瞬歩】と同じくオサレなバトル漫画のキャラクターから持ってきている。

 

しかし、そのキャラクターみたく蛇腹剣を三回振るった元の形態に戻るなんて機能はなく。所有者の意思一つで好きな時に軌道と形態を変えられるようにも上書き付与している。でなければ、生まれて初めて蛇腹剣を扱う俺がまともに扱える訳がない。

 

 

「オリャオリャオリャオリャー!!」

 

「ニャニャッ!こいつ、弾いても追いかけてくるニャン!?」

 

 

蛇腹の聖剣は自由自在に軌道を変えられる。そのため、棒で弾いてもそこから軌道を修正してアーニャさんへと迫る。

 

初めて蛇腹聖剣の追撃を受けるアーニャさん。初めてということもあって手加減が抜けてきているように見えるが逆にそれは、それだけ俺がアーニャさんを追い詰めているということに他ならない。

 

そこで更に追い討ちをかけるために、左手に新しく能力を付与した聖剣を創造する。

 

 

「体は剣で出来ている─────トレース・オン」

 

 

今度創造した脇差の聖剣もオサレなバトル漫画のキャラクターが使う武器の能力をそのまま採用している。けれど、そのキャラクターと違って十三キロも刀身が伸びたりはしない。伸びるとしてもせめて、五メートルくらいが限界で伸縮速度も本物よりも圧倒的に遅い。

 

 

「射殺せ────神鎗」

 

 

解号を唱えると、脇差だった聖剣がアホみたいな長さへと伸びて蛇腹聖剣に翻弄されているアーニャさんを襲う。

 

 

「ッ!!」

 

 

アーニャさんも《神鎗》の刀身が突然伸びて襲いかかってくるだなんて想像もしていなかったようで、咄嗟に棒を投げ捨てて両手で《神鎗》の刀身を真剣白刃取りする。

 

けれど、伸びる刀身の勢いを殺すことは出来ずに中庭の壁に押し込まれるがめり込むまでには至っていない。背中から壁に倒れた程度しか押し込めていないのは手応えでわかっているし、これ以上は押し込めないことも《神鎗》から伝わってくる。

 

 

「まだまだぁあ!!」

 

 

壁を押し込められて身動きが出来ないアーニャさんに向けて、駄目押しの蛇腹聖剣を上から振り下ろす。が、刹那、俺の耳にパキンッと何が折れる音と左手に持っている《神鎗》から何かしらの強い力が加わった感触が伝わってきた。

 

さっきの何かが折れる音と左手に伝わってきた何かしらの強い力。二つのことから導き出されたことは、《神鎗》の刀身が強い力によって折られたということ。

 

つまり、アーニャさんの身動きが可能になってしまったのである。

 

 

「チッ!」

 

 

導き出された考えに俺は舌打ちしながら即座に蛇腹聖剣を強く、そして速く上下に振って刀身を波打たせる。そうすることで上下に刀身が動き、アーニャさんが動くタイミングを僅かにずれさせてくるはずだと、そんな期待を込めるが直ぐにそれが無駄だと理解する。

 

何故なら、気付いた時には眼前に棒が迫っていたのだ。つまり、アーニャさんが棒を投げたということだ。

 

 

「ふがっ!?」

 

 

投げられた棒の威力は、LV.1 が受けても死なない程度に手加減されていたようだが俺の意識を刈り取るには十分な威力であった。

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

「まだ痛てぇや」

 

「大丈夫、ケンマ。まだおデコが真っ赤だよ」

 

「どうしたら、そんな綺麗な真っ赤な丸が出来上がるですか?」

 

 

アーニャさんの鍛練で、気絶する前に投げた棒のダメージが未だに抜けず。こうしてダンジョン探索している今でも時々、痛みが走る。

 

 

「早朝鍛練で、搦め手を使ってLV.4 を少しだけ追い込むことに成功したら地面に落ちてた棒を拾って投げられたみたいで、それがこのデコの跡の原因だ」

 

「LV.4 の冒険者を追い込むなんて凄いじゃない!」

 

「言うて搦め手や手加減ありきだけどな。次からは通用しないだろうな」

 

 

今朝のは、初見だったから通用したのが大きい。初見でなくなれば対処法はそれなりあるので普通に対処されてしまうだろう。 

 

 

「もっと強くならねぇとな」

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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