臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideベル〉
「ベル様、いけません!? 足元っ!」
「うわあっ!?」
7階層にあるルームにリリの悲鳴が響き渡る。悲鳴の先には、地面を俊敏に跳ね動く額に角を生やした兎のモンスターである三匹の『ニードルラビット』が迫ってきていた。
僕は、目の前のキラーアントの対処に追われていて、足元へまで意識が向けなかった。そのため、足元を飛び入り跳ね動くニードルラビットたちの体当たりに足を奪われてしまった。
目の前には、キラーアント。少し離れたところには三匹のニードルラビット。パーティーメンバーであるケンマもキラーアントや他のモンスターと対峙しているし、リリはサポーターのため戦闘には参加できない。このままでは、殺られる!
「くっ!」
そう思ったのも束の間、視界に銀閃が走る。
『ギュッ!?』
「へっ?」
その銀閃の正体は、さっきまでケンマが握っていた片手剣だった。片手剣が僕の視界を通り過ぎると目の前にいるキラーアントが短い断末魔と共に頭を失って灰となって消滅していた。
突然のことに僕は呆けてしまうが、ケンマの声と他に聞きなれない声で我に返る。
「ベル、大丈夫か!」
『Boost!!』
「う、うん、ありがとうケンマ!でも、武器が!?」
「こっちは大丈夫だ。そっちのニードルラビットは任せたぞ!」
『Explosion!!』
いつの間にか左腕に真っ赤な籠手を装備したケンマは、ニードルラビットを僕に任せながら格闘技だけでキラーアントや他のモンスターたちを打ち倒していく。
命を助けられて、役割を任された以上、僕は全力でニードルラビットの討伐に挑んだ。
ルーム内にいた全てのモンスターを倒し終わると、僕は胸の中で暴れる心臓の音と肩で息をしながらその場に座り込んでしまう。座り込んだら思わず深い息が出てしまった。
「油断大敵だぞ、ベル」
「そうです、ベル様!」
「ごめん………」
座り込んだ僕に向けてくる二人の言葉に、返す言葉が見当たらない。
この頃、調子が良かったからキラーアントも二匹くらいまでなら大丈夫だと高を括っていたが実際はこの有り様。ケンマがいなければ、怪我をしてたかもしれないし、最悪は死んでいたかもしれない。
これがソロだったらと考えるとぶるりと悪寒が背中を駆け巡った。僕は今回のことを教訓として肝に銘じることにした。
「あの、ケンマ様。その左腕の籠手は一体なんですか? 魔道具か何かですか?」
「ん~、どう説明したらいいんだろうな。咄嗟のことで思わず見せちまったしな」
投げた片手剣を取りに行くケンマの口振りからして、左腕に付けてる真っ赤な籠手は見せるつもりがなかった物らしい。
「ま、ベルとリリならいいか。悪いようにはならないと思うし。この籠手はブーステッド・ギアといって、ちょっとした魔道具みたいなもんだ」
「魔道具みたいな物、ということは正式には魔道具ではないのですか?」
「ああ。普通の魔道具と違って、こいつは万人には使えない。所有者である俺にしか使えない代物でな。その証拠に、この通り俺の意志のままに出したり、しまったりできる」
左腕に付けている"真っ赤な籠手"は魔道具みたいな物で、扱えるのはケンマだけだとリリに説明しながら証拠だと言いながら"真っ赤な籠手"をその場で何もなかったかのように消して見せた。
その光景には、僕もリリと一緒に目が点となる。
「す、すごい………!」
「こんな魔道具は初めて見ました! 因みに、あの籠手にはどんな効果があるんでしょうか」
「内緒だ。さすがに効果までは教えられないな。今度から何回か使うかも知れないから驚かないでくれよな」
そう言ってケンマは片手剣を回収すると、その片手剣の切っ先でダンジョンの壁を堀始めた。
「ケンマ、何をしてるの?」
「これか? これは知り合いの先輩冒険者から聞いたんだが、休息を取る前はこうやってダンジョンの壁を傷付けるとモンスターを生むよりも先に壁の修復を優先して、モンスターがしばらく生まれなくなるからやっといた方が良いらしんだ」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、僕も手伝うよ」
「頼む」
○●○
《神様のナイフ》でケンマとは反対の壁をザクザクと堀ると、ある程度堀ったところで、ケンマから声がかかったのでルームの中央で休息を取ることにした。
バックパックからシルさんに渡されたバスケットを取り出して、蓋を開けて、蓋に半分乗せてリリにもお裾分けする。
「はい」
「え?」
「貰い物だけど」
「俺のも少しやるよ」
「あ、ありがとうございます」
突然のことにリリは少し戸惑っていたけど、料理が乗せられたバスケットを蓋をお礼を言いながらしっかりと受け取ってくれた。
そして、いざ料理を口にしようとしたところで今度はリリから声をかけられた。
「あ、あのベル様、ケンマ様!」
「ん?」
「なんだ?」
「明日、一日お休みを頂いてもよろしいでしょうか」
「いいけど、何か用事でもあるの?」
純粋に僕はリリの予定が気になったので訪ねてみた。
「【ファミリア】の集会があって、どうしても出席しなくちゃいけなくて…………契約違反なのは分かっています。ペナルティーはお受けしますから」
リリは頭を僕たちに下げながら休みを懇願してきた。
「い、いいよペナルティーなんて! ケンマもそうだよね!?」
「そのくらいなら別に大丈夫だ。それにしても【ファミリア】の集会か…………団員が自分たちだけの俺たちからしたら想像できないな」
「そうだね。でも、いつかは僕たちも集会を開くのかな?」
「どうだろうな」
「リリ、ごめんね。僕たちも気が回らなくて、休みたい時は遠慮なく言ってね」
休みのことまで気が回らなかったことを謝罪したあと、改めてシルさんの料理を口にするがやはり劇的な味であった。
◇◆◇
〈sideケンマ〉
「久しぶりの休みだ…………」
今日の早朝鍛練とダンジョン探索は休み。昨日、リリが【ファミリア】の集会があるため休みが欲しいと願い出たためベルと相談した結果、今日は休みにしたのである。
毎日、鍛練とダンジョン探索の連続で身体が疲労で悲鳴を上げる頃だったので丁度良かった。
「そう言えばそろそろだったか? ベルがシルから魔導書を渡されるのは」
アニメ第一期の五、六話辺りにそのエピソードがあったはずだと朧気な記憶を思い起こす。
リリが【ファミリア】の集会で休み。それに伴ってベルのダンジョン探索も休みということになって、『豊穣の女主人』でシルが多分フレイヤから渡ったであろう魔導書を普通の本だと勘違いしたベルに貸し与えるイベントがあったはずだ。
それによって、ホームで魔導書を読んだベルに『魔法』である【ファイアボルト】が発現する。そして『魔法』が発現したことに興奮したベルは、玩具を与えられた子供の如くヘスティアの言い付けを無視して、深夜のダンジョンに試し撃ちに向かう。
深夜のダンジョンで『魔法』を試し撃ちしたベルは、さらに興奮が増して調子に乗ってバカスカと【ファイアボルト】を撃ち続けた結果。案の定、『精神疲弊』でダンジョンの中で気絶しまう。
「それと膝枕…………。アイズは推しではないが、男としては美少女に膝枕してもらえるのは羨ましいよなぁ」
『相棒、頼むからイッセーのような二つ名や女の胸で新しい力に目覚めるなんてことにはならないでくれよ!頼むからな!!俺は、誇り高き「赤い龍の帝王」と称される「赤龍帝」でいたいのだ!!』
美少女の膝枕を羨ましがっていると、俺の心を読んだドライグが二天龍の誇りと威厳からイッセーの二の舞になると忠告してくる。いや、この場合は懇願に近いのか?
「胸が駄目ならキスならいいか?」
『キスか………まぁ、胸と比べたら………』
「歴代赤龍帝には、乙女のキスで禁手に至ったやつはいなかったのか?」
『片手で数えるほどだな。歴代のほとんどは修業や戦いの中で自ずと至ったいたからな。他には、敗北による自分への怒りや仲間の死による激情で至ったりしていた。まぁ、最後のは場合によっては禁手を通り越して《覇龍》を発動させたやつもいたがな』
「《覇龍》か…………。そういえば歴代赤龍帝たちの残留思念は、まだブーステッド・ギアに残ってるのか? 俺が知ってる原作だとイッセーの魂を守ろうとして犠牲になったみたいだけど」
『相棒の予想通りだ。サマエルの毒でほとんどの残留思念が消滅している。お前と出会ってから毎回、歴代赤龍帝たちやイッセーの残留思念も探しているが全く見当たらない』
「そうか…………」
どこかで淡い期待をしていた。歴代赤龍帝たちは無理でも、イッセーの残留思念くらいは残っているのではないかと思っていたが現実はそんなにあまくはなかった。もしも、イッセーの残留思念が残っていたらトリアイナや『真紅の赫龍帝』について、あれこれ教えて貰おうと思っていた。
「無い物ねだりしても仕方ないか………まずは禁手化が目標だな」
色々と考えた末、まずは禁手に至るまでに身体を鍛えなければと思考がまとまって来たところで睡魔に襲われるまま身を任せて瞼を閉じた。
○●○
次に目が覚めると、窓の外は既に夜の帷が降り始めていた。
「マジか…………。いくら疲れが溜まってるからって、さすがにこれは寝すぎだ。っと、トイレトイレ」
寝起きでトイレを催したので急いでトイレに駆け込む。トイレでスッキリすると身体はトイレの次に栄養を求めて腹の虫を鳴らす。昼飯も抜いて、眠っていたので当たり前の反応である。
何かないかと台所へ行くが、このホームに住んでいるのは俺とヴィクトリアの二人だけであり、昼間は二人とも探索とバイトでホームを開けているので冷蔵庫の中にも作り置きをしているはずもない。
そもそも朝と夜の食事の殆どが『豊穣の女主人』で摂っているため、いつ自分で料理をしたのか定かではない。
「少し早いけど、豊穣の女主人に行くか」
そうと決めれば、ヴァリス金貨が入った小袋を懐に入れてからホームを出る。路地裏を通りながらヴィクトリアが働いている『豊穣の女主人』に向かっていると、突然ドライグから俺だけに聞こえる声であることを知らせてきた。
『相棒、付けられてるぞ。それもかなりの実力者だな』
(えっ?! かなりの実力者って…………そいつに心当たりはあるか?)
『いや、ないな』
ドライグが始めてということは、その実力者は【ロキ・ファミリア】の冒険者ではないことが判明。けれど、ドライグが認めるほどの実力者となるとオラリオの街でもかなり限られてくる。
大前提として、オラリオに住まう神々は除外される。オラリオに住まう神々は、下界に降りてくる際に『神の力』の殆どを封じ込めてからやってくる。なので、必然的に冒険者となる。
そして、【ロキ・ファミリア】の冒険者でもないのにドライグが実力者だと認めるほどの冒険者といえば【フレイヤ・ファミリア】の冒険者だと消去法的に導き出させる。他にも、昼間にベルがシルから魔導書を貰う展開があるのでそれを踏まえても【フレイヤ・ファミリア】である可能性はかなり高いだろう。
(はぁ………。覚悟はしていたけど、やっぱり俺もなのね)
『やっぱりというのは、あのウサギ小僧と同様に色ボケ女神とやらに目を付けられたということか?』
(だろうな。フレイヤは他の神々と違って固有能力として、俺たち人間の魂の色を識別できるんだとさ。その能力で俺と魂レベルで繋がってるドライグの存在を珍しく感じたんだろう。この世界の神々にとって、『未知』とは格好の餌でしかないんだよ)
『で、どうする? このまま、気付かない振りをするつもりか?』
(んー、一か八か賭けてみる。もしも、当たりならベルと同じように魔導書を貰えるかも知れないしな。それなれば、俺としてはかなり美味しいイベントなんだよ)
てか訳で──────
「なぁ、ずっと俺のことを付けてるみたいだけど、何かようか?」
立ち止まって、背後にいるであろう実力者さんにそう声をかけると少し間を置いてから路地裏の影からその人は現れた。
何となく、実力者さんが出てきた気配を感じた俺は背後を振り返るとそこには予想通りでありながら予想外の人物が立っていた。
「アレン………フローメル」
オラリオの冒険者の中でも最速の誇る冒険者。ドライグが実力者だと認めるのも頷けるほどの手練れだ。
「ある御方から貴様にプレゼントだそうだ。有り難く受け取れ」
「ある御方…………」
嫌嫌そうにアレンは、俺に赤い本を差し出してくる。
彼が言っているある御方とは、十中八九フレイヤであり、この本も魔導書に違いない。それと同時に、俺もベルと同様にフレイヤに目を付けらてしまったと確信した。
「どうした、早く受け取れ」
「あ、ありがとうございます」
促されるままに赤い魔導書を手に取る。魔導書を受け取ったあと、アレンは用がなくなれば持ち前の【ステイタス】にものをいわせてあっという間に夜の街へと姿を溶かして行った。
魔導書を受け取った俺もこのまま『豊穣の女主人』に向かうのは、他の冒険者たちに目を付けられては面倒になる可能性を考慮して、こちらも少し面倒だけど一度ホームに魔導書を置きに戻ることを選択した。
ホームに戻ると道中黙っていたドライグに魔導書を読むのか訪ねられる。
『その魔導書はすぐに読むのか?』
「まだ読まない。いつかは読むつもりではいるけどな」
『アザゼルならば、この世界の魔導書に大層興味を引かれていただろう。相棒の話によれば、この世界の魔導書はある意味では神器と似ている。あの神器マニアのアザゼルのことだ、徹底的に調べあげるだろう』
「他には、アジュカ・ベルゼブブもやりそうだな」
ドライグの言う通り、魔導書は確かに神器に似ている。魔導書で発現する『魔法』には読者が何に関心を抱き、認め、憎み、憧れ、嘆き、崇め、誓い、渇望するのか。読者の心の内に秘めている強い何かが引き金となって『魔法』が発現するのだ。
それさえ分かっていれば、魔導書によって発現する新しい『魔法』の能力なども自分で決めれるということではないだろうか。そうであるならば、なおのこと今読むべきではないという結論が俺の中が出た。
「やっぱり、こいつはもしもの時の保険だな」
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に