臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
「すみません!すみません!すみません!!」
夜の路地裏で、まさかの【フレイヤ・ファミリア】の幹部の一人であるアレン・フロメルから赤い魔導書を渡された次の日の朝。
今日は昨日と同じで早朝鍛練が休みだが、『豊穣の女主人』の仕込みを手伝うために店へやって来て朝食を貰ったあと、只管野菜の皮剥きをやっていると正面入口の方からベルの声が聞こえてきた。
話しの内容から察するに、アニメ通りの展開になった様子。なので、仕込みの手伝いもここまでにしてダンジョン探索への向かうための準備をしようとするとリューさんから声をかけられる。
「イシグロさん、クラネルさんが来たみたいです。なので、仕込みの手伝いはここまで構いません。ミア母さんには、私から言って置きますので」
「分かりました。ちょうど俺もダンジョン探索の準備をしようとしていたところです」
「そうでしたか」
ダンジョン探索の準備といっても戦闘服は既に身に纏っているので、壁に立て掛けてあるヴィクトリア謹製の弁当箱が入ったバックパックと鞘に収めた聖剣を身に付けるくらいな物だ。
準備が整いベルの下に向かうとそこには、アニメ通りベルの他に魔導書を渡した張本人であるシルとミアさんがいた。そして、ミアさんは白紙と化してしまった魔導書をゴミ箱に放り捨てていた。
「ミアさん?」
「忘れな」
「で、でも………」
「読んじまった物は仕方ないだろう。こんな代物、置いていくやつが悪いんだ」
「し、しかしですね………」
ここ一週間で何とかミアさんが怒るか否かのラインを見計らうことができるようになったので、今のミアさんが少しばかりイラっとしているように感じた俺は、【プロモーション】を使って無理やりにベルの襟首を掴んでバベル前の噴水広場へと向かうことにした。
「【プロモーション・ルーク】!!」
「ちょっ、ケンマ!?」
「ダンジョンに行ってきます!!」
○●○
バベルの噴水広場に到着すると、無理やりに連れて来られたベルが何故俺がそんなことをしたのか問い掛けてくる。
「ちょっとケンマ!僕は、まだミアさんと話しがあったんだけど!?」
「無理やりに連れて来たのは謝るが、あのままだとお前、ミアさんに怒鳴られてたぞ。いつまでもグチグチとしてる暇があったらダンジョンで稼いで、うちで金を使いな! ってな」
「うぐっ! そう言われると想像できちゃうよ………」
あの巨体に怒鳴られてる想像したベルは、ぶるり身体を振るわせながら苦笑いを浮かべる。そんなやり取りのあと、サポーターであるリリをしばらく待っているが彼女の姿は見当たらない。
「あれは………リリ?」
「えっ、どこだ?」
「あそこ、あの茂みのところにリリのバックパックが見えるでしょう」
ベルがリリを見つけたと言うので、まだ見つけられていない俺は、ベルに教えてもらいながら位置を確かめるとそこには彼女と揉み合いになっている獣人の男性冒険者を捉えることできた。
明らかに獣人の男性冒険者の方がリリに突っ掛かかているように見えたので、二人して彼女を助けようと動き出した間際、視界の端から剣を背中に背負ったヒューマンの男性冒険者が俺たちの前に躍り出た。
その所為で、俺たちは足を止めざる終えなかった。
「おい」
剣を背負ったヒューマン冒険者の男の声に、俺はひどく聞き覚えがあった。
(こいつの声、ジークフリートに似ている? ってことは、『ダンまち』のアニメに出てきたモブキャラの一人か!?)
一人で目の前にいる男の存在について考えていると男は一方的に俺たちへ話を始めた。
「お前たち、あのガキとつるんでるのか? となると、何も知らねぇってことじゃあるまいな」
「………あの子は、貴方が追い掛けていたパルゥムの子とは違う子ですよ」
やっぱりか。今のベルの言葉で理解できた。この男は、俺たちが雇う前にリリを雇っていた冒険者で、アニメにも出てきたモブキャラなのだろう。更に、面倒なことにリリの変身魔法まで見抜いている。
ベルの返答を聞いた男は、口を歪めてからベルのことを嘲笑った。
「バァカ………と言ってやりてえが、思うのはてめえの勝手だ。せいぜい間抜けを演じてろ。それよりお前ら、俺に協力しろ。…………あのチビをはめるんだ」
「なっ………」
男の言葉に、バカみたいに心優しいベルは思わず絶句する。無理もないだろう。アニメでもヘルメスが言っていたように、ベルは人間の悪意を知らな過ぎる。
俺は前世、目立った苛めなどは受けたことはないがアニメや漫画、ドラマといったフィクションを見てきたので多少なりとも人間の悪意というものは理解しているつもりだ。
そう思っていると、男は俺たちの首に腕を回して話を続ける。
「そんな顔をすんなって。お前たちだって、あいつが貯め込んだ金を狙ってるんだろう。冒険者同士、役立たずの荷物ちからたんまり巻き上げようぜ………な?」
前世からこの展開は知っていたはいえ、実際に自分がそれに巻き込まれてみると男の言葉はひどく不愉快だった。それはベルも同じようで、二人して思わず首に回されている腕を払い、男を突き飛ばしてしまう。
「ふざけんなッ!」
「絶対嫌だッ!」
二人して、男の誘いを断ったまではいい。しかし、俺はあること忘れていた。それは、俺が未だに【プロモーション】の効果が適応されており『戦車』に昇格しているので『力』の【ステイタス】に超補正がかかっているということ。
そのため、男はベルよりも俺の『力』に押し負けて、その場に尻餅をついてしまった。
「がっ!? このクソガキ共…………!」
尻餅をつけさせられた男は顔を歪めて凄みを利かせてくるが、こちらも頭に少し血が登っているので思わず俺はオーラを身体から放って、逆に男を威圧する。
『ハイスクールD×D』の原作やアニメでもヴァーリや曹操が言っていたように、オーラという物は感情によって膨れ上がることがある。そのため、今放っているオーラも俺の怒りに呼応するように普段よりも膨れ上がる。俺から放たれるオーラに周りの木々も怯えているのかザワザワと枝を鳴らす。
数秒ほど睨み合っていると男は頬に冷や汗を垂らしたあと、舌打ちをしながら何処かへ去っていくのを見ながら朝っぱらから胸糞悪い気分にさせられたと頭にきていると、いつの間に背後へリリがやって来ていることに気が付くのに遅れてしまった。
「…………ベル様、ケンマ様?」
「り、リリっ? いつからそこに?」
「ちょうど今ですけど…………あの冒険者様と、何をお話していらっしゃったんですか?」
「あ、いやぁ………ちょっといちゃもんをつけられちゃって………」
リリからの問いにベルは、咄嗟に誤魔化したので俺は敢えて内容を少し変えながらリリに話すことにした。
「さっきのやつは、サポーター狩りだ。で、次の標的がリリらしい」
「ちょっとケンマ!? それは…………」
「だから、気を付けろよ。俺とベルがモンスターに気を取られている間に背後から襲われないように、自分でも注意しろ。できる限り俺たちも守るつもりではいる。それでも、“絶対“とは口が裂けても言えないからな」
「わ、分かりました。リリも気を付けて置きます」
「ああ。ところで、リリの方はどうだったんだ? 知らない冒険者に絡まれていたようだけど」
「そ、そうだよ!リリは大丈夫だった!?」
「見ていらっしゃったんですか………。安心してください、リリはこの通り無事ですから」
ベルの問い掛けに、リリは両手を広げてくるりとその場で回り、自分は何もされていないことを証明しながら最後にフードの下で微笑んで見せた。
その様子を見たベルは、隣で安堵の息を吐いていた。そして、続けてリリへ絡まれていた冒険者について訪ねようとするがそれを遮るようにこう述べる。
「リリ、あの人達は………」
「さぁ、行きましょうお二人とも! リリは昨日探索をお休みしてしまったので、それを取り返すためにも今日はお二人のご活躍を期待させてもらいますよ!」
そう言ってリリは、俺たちの脇を通ってバベルへと足を向けた。その態度を見た俺は、今日か明日辺りがリリにとって人生を大きく変える日なのだと当たりをつける。
そのためには、リリが動き出す10階層で俺が囮になるのが安牌策なのだろう。その場合、アイズと出会ったり、そのアイズに冒険者依頼を持ってくるフェルズも居たりとちょっとばかり面倒になりそうだなと頭の中でぐるぐる思考を回転させていく。
○●○
結果、今日は10階層へ行くことはなく、連日通りキラーアントをメインに倒して行きながら今日のダンジョン探索は終わりを迎えた。
「今日はこれといって何にも起きなかったな。となると、明日辺りか?」
ベッドの上で首を傾げながら手に持っている『魔剣創造』で創造した特殊な刀に視線を向けて、意識を集中する。
「散れ────千本桜」
高校生が死神を代行する漫画に出てくるワカメ仮面のお兄様と同じ刀の解号を口にしながら魔剣の能力を発動させるが、俺がまだ実力不足なのかオリジナルには程遠い刀身の半ばまでしか桜にならず、加えて舞散ることもなくベッドの上にヒラヒラと落ちるだけであった。
それを見た俺は、やっぱりと内心思いながら魔剣を消滅させて背中からベッドに大の字で倒れ込む。
「だぁー、やっぱり上手くいかない!」
あの漫画に出てくる刀の能力はどれも破格な物ばかり、それを『魔剣創造』と『聖剣創造』で再現できればダンジョン探索の効率は飛躍的に向上するし尚且つ格上の冒険者やモンスターを打倒することも可能になってくる。
それに今後の成長によって、漫画とは違って、一本だけではなく左右に一本ずつ持ってそれぞれの能力を使用することができる。例えば、漫画では刀、ラノベでは剣であったがどちらも花をモチーフにしながら似たような能力を持っている物を同時に発動しながら敵を蹂躙して見せるなんて、一人のオタクとしてはやってみたいシチュエーションだ。
「ミノタウロスとの戦いまでに、絡め手ができる剣を創造できるようにならないとな」
対ミノタウロス用の剣は、既に色々と考案はしている。先程の《桜の魔剣》を筆頭に重力系や麻痺毒などの能力を付与した剣たちだ。刃さえ通ればヒット&アウェイの持久戦に持ち込みながら回避に専念すれば、時間と共にミノタウロスは弱って行くので倒せる可能性は大いにある。
『相棒、やはりお前さんは神器使いとしての才能が他の者たちよりも秀でているな。「魔剣創造」の使い手であった木場佑斗でさえ、そんな能力付与した魔剣は創造していなかったぞ』
「これは才能というよりも発想力だ、ドライグ。仮に俺じゃなくてもアニメ、漫画、ラノベ、ゲーム、それらのジャンルが好きなオタクにとっては造作もないさ」
『発想力…………なるほどな。発想力であれば、イッセーも女を相手にする時は無類の強さを誇っていた』
「洋服崩壊に乳語翻訳な………」
この二つの技を原作やアニメで見た時は、最初は呆れたが何度も見返すうちに笑いながら見るようになってしまった。さすがに、それを使おうとは思わない。
もしも、この世界で使ってしまえば変態のレッテルは未来永劫貼られてしまう。そんなレッテルは死んでもごめんである。
そう思っていると、寝間着姿のヴィクトリアから早く寝るように言われてしまう。
「ケンマ、明日から早朝の鍛練再開でしょう。早く寝なくて大丈夫なの?」
「あっ、忘れてた。明日は、リューさんとの鍛練の日だった」
明日の鍛練に備えて、最近寝る前の日課となっているオーラを一点に集中させる鍛練を十回ほど繰り返してからベッドの上で目を瞑った。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に