臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
「リリ.……? リリ、何してるの!?」
手加減無しのドラゴンショットを放って俺の目の前にいたオーク二匹を倒すと背後からベルの叫びが聞こえてきた。
その叫びからアニメ通りに、リリが小型バリスタでベルの《ヘスティア・ナイフ》が入ったレッグホルスターをワイヤー付きの矢で奪取したのだと理解するのに十秒もいらなかった。
そして、ベルの叫びにリリはこう返すのだった。
「ごめんなさい、ベル様。もうここまでです」
「はぁ?」
「ベル、左から来るぞ!」
「っっ!!」
リリの言葉に集中していたオークの攻撃を察知するのに遅れそうになっているベルに注意喚起をすると、ベルは慌てて転がりながらオークの凪払いからの振り下ろし攻撃を避けた。
「ドラゴンショット!!」
枯れ木を振り下ろしたことで次の動きが僅かに遅れるオークの両目に目掛けて小型のドラゴンショットを放って視界を奪う。こうすることで、両目を失ったオークの脅威は格段に低下する。
そんなちょっとした小細工を他所にリリは俺たちに向かって話を続ける。
「あいつから全部聞いたんでしょう?」
「な、なにを?」
リリの問いにベルは分からずに質問で返すが、リリは知らないならそれでいいといった感じで次の言葉を残して霧の中へと消えて行った。
「折を見て逃げて下さいね。さよなら、ベル様、ケンマ様」
霧の中へと消えて行くリリに対して、ベルは何度も彼女の名前を叫び呼ぶが足を返して戻って来る気配や返答する声音すら聞こえて来ない。返ってくるのは、俺たちを殺そうとするモンスターたちの息遣いだけであった。
「くそっ!どんどん増えて来てる!?」
さっきまではオークだけだったのが今では、小型モンスターである『インプ』までもがトラップアイテムの餌に惹かれて集まり始めていた。
これ以上は、対処が厳しくなってくる。そんな時、俺の頭に余儀ったのは昨日の夜に失敗した桜の魔剣である《千本桜》であった。あれさえ、完璧に創造できていればオークやインプ程度の雑魚を一掃するのに苦労はしないと無い物ねだりな考えが浮かび、思わず舌打ちしてしまう。
そんな時、ドライグが冷静になるよう声をかけてくれた。
「チッ!あれさえ、完璧に創造できればこんな雑魚に………」
『落ち着け、相棒。桜の魔剣が使えなくとも、こんな雑魚を一掃するのに手間はかからんはずだ。何故なら、お前は赤龍帝だ。ブーステッド・ギアの能力を使え!』
「そうか!『赤龍帝からの贈り物』で聖剣創造を強化すれば…………ブーステッド・ギア!!」
ドライグのアドバイスで、イッセーがライザーとのレーティングゲームでやったのと同じ技をやるためにブーステッド・ギアを具現化させる。しかし、このままではベルも巻き込んでしまうと思い、一手間加えることにした。
『Boost!!』
「ベル!今から道を開く。そこからリリを追いかけろ!」
「えっ、でもケンマはどうするの!? こんな数を一人じゃ…………どあぁ!?」
「俺のことはいい!それに、リリにはベル、お前が必要だ!」
「僕が必要って、どういうこと!?」
オークとインプたちの攻撃を交わしながら会話を続け、再び背中合わせになるとベルが俺の言葉の意味について訪ねてくる。
「あいつは、リリは、助けを求めてる。だから、お前が助けてやれ!」
「リリが助けを?」
「ああ。お前がリリルカ・アーデの"英雄"になってやれ、ベル・クラネル!」
「僕が、リリの英雄に…………でも!」
ベルにリリを助けに行くように差し向けるために「英雄」というキーワードを使いながら促すが、ベルは俺一人で周りにいる多数のモンスターを相手取らせることに躊躇している様子。
どうにかして、アニメ通りにベルをリリに追わせてたいのだがここで俺というイレギュラーがいることで思うように展開が進まない。
『Boost!!』
そうこうしているうちに二回目の倍加も来てしまった。あと更に二回も倍加が完了すれば、この辺り一面を魔剣の剣山で覆い尽くせるが予定変更。ブーステッド・ギアの倍加を止めて、今まで溜めていた倍加を全てベルに譲渡する選択に俺は変えた。
譲渡をするべく、背中合わせから身体を翻して、ブーステッド・ギアを装備した左手でベルの背中を叩きながら力の譲渡を行う。
「ああ、もう、四の五の言わずに早よ行け!そんでもって、灰被りの小人を助けて来い!!」
『Transfer!!』
譲渡が完了すれば、不思議と力が沸き上がってくることにベルは驚きの声を漏らす。
「なに、これ………力が漲ってくる!?」
「それだけの力があれば、あのモンスターたちの中を突破できるはすだ。行ってこい、ベル!」
「…………ここまでされたら行くしかないよね。分かった。でも、リリを助けたら必ず戻ってくるから絶対に死なないでねケンマ!」
「そう易々と死んでたまるか!」
軽口を叩いたあと、特大のドラゴンショットで道を開いてやるとベルは四倍に強化された【ステイタス】で一直線に走り抜けていくが、あまりの強化された【ステイタス】におっかなびっくりという様子であった。
けれど、直ぐに慣れたのか膝を曲げて脚に力を溜めたあと9階層へと繋がる階段の入り口まで一気に跳んで行った。
「譲渡したといえ、あの高さを軽々と跳ぶのかよ………主人公補正チートも大概だろう!?」
四倍の力を譲渡したから『敏捷』にものをいわせて走って行くと思っていたところを予想外の跳躍に、ベルはこの世界の主人公だから仕方ないと思いつつ『主人公補正』はやっぱりチートだと叫ばずには居られなかった。
チートやチーターやろう!と叫んだあとはモンスターたちの攻撃を最低限の動きで回避しながら再び倍加の力を溜めていく。幸い、オークは鈍足、インプも確かに小細工動きをするがクロエさんと比べたら圧倒的に動きが単調で読みやすい。
なので、只管攻めたい衝動を抑えながら回避を続けて三回目の倍加が完了したところで一気に攻めへと転じた。
「今までの鬱憤を喰らいやがれッ!!」
『Transfer!!』
両手で逆手に持った聖剣を力強く地面に突き刺してから三回倍加した力を『聖剣創造』へと譲渡して、俺が立っている場所から直径十メートルほどを多種多様な形状をした聖剣たちで辺りを埋め尽くす。
すると、何匹もいたモンスターたちは地面から生えた聖剣に串刺しにされて絶命していく。僅かに生き残ったモンスターたちも居たが聖剣の聖なる力に身体を蝕まれたのか、俺の下にたどり着くよりも先に身体がボロボロと灰へとなって消滅した。
「ふぅー、すっきりしたぜ」
一仕事終えた俺は、腕で額の汗を脱ぐってから辺りを見渡しながら他にモンスターが残っていないかの最終確認を行うと一連の動きを見ていたのか、唖然とした表情のアイズがそこにいた。
ベルを送り出した時点で、こうなることは予想通りであり尚且つアイズには『怪物祭』の時にも見せているので今更なので、アイズの口からロキやフィンさんたちに伝わったところで問題はない。そうアイズならば問題ない。
問題があるしたら─────フェルズである。
(どうだ、ドライグ。居たか?)
『ああ、居た。ちょうど、そこの紫の聖剣がある辺りだ』
俺はまだ実力不足のため、透明マントで身を隠しているフェルズを自力で見つけることはできないがドライグのお陰で大体の位置を把握できた。
ならば、ここは早々に立ち去ってベルを追いかけるのがベストであろう。が、俺の存在でこれ以上下手なイレギュラー展開が生じないようアニメ通りの展開へと矛先を修正するべく動く。
その修正は、ベルがオークの猛攻から避け続けた際に左腕から取れてしまった緑色のプロテクターをアイズに渡すことである。そのためにもまずは、周りの聖剣を消さなければならない。
「砕けろ」
そう一言呟くと、俺の意思一つで握っている以外の聖剣たちが粉々になって砕ける。そのあとは、予定通りベルのプロテクターを拾い上げてからアイズへ山なりに投げ渡す。
「アイズ、パス」
「これは……プロテクター?」
「そう、ベルのプロテクターだ」
「でも、なんで私に? 渡すならケンマが渡せば………」
アイズの考えは尤もである。けれど、それでは俺的には困る。
「それをあの恥ずかしがり屋と話すきっかけにすれば良いと思ったんだが、いらなかったか?」
「…………ううん」
「あとついでもう一つアドバイス。ベルがアイズを見て逃げたら何が何でも追いかけろ、絶対に逃がすな。それだけだ」
「分かった。ありがとう」
「おう、それじゃあな!」
無事にアイズへ、ベルのプロテクターを渡すことが出来たのに加えてちょっとしたアドバイスも与えることが出来たのでアニメ通りの展開になってくれることを祈りながらベルとリリを探しに上の階層へと駆けていく。
正規ルートを駆けながら8階層へと繋がるまで上がってきたところで、上からボロボロのベルとリリが降りてきたことで無事に合流することが出来た。
「よう、ベル。無事にリリの英雄になったみたいだな」
「あはは、どうだろう」
二人して軽口を叩いていると少し不安気なリリが口を開く。
「あのケンマ様…………その…………」
「うりゃ」
「あうっ!?」
うじうじするリリと俺がこの後どう対応に出るのか不安がるベルの二人によって醸し出される何とも言い表し難い空気をぶち壊すために、リリが口を開いている途中で一歩前へ出て、彼女の額にデコピンを喰らわす。
因みに、ここまでの道中で【プロモーション】の効果は切れているので『戦車』による『力』の補正はないため、純粋な【ステイタス】によるデコピンであるのでそこまで威力はないはず。それでも痛かったようでリリは、涙目になりながら額を抑えている。
「俺からの罰はこれでお仕舞い。ベルみたく何かを取られた訳じゃないしな」
「で、ですが…………!」
「ぶっちゃけた話、リリがリューさんに路地裏から追いかけられてた時からを目を付けてた」
「「ッッ!?」」
「それでもリリに何もしなかった。するつもりもなかった」
俺の言葉にベルとリリは信じられないといった表示を全面に出しているのを見て、俺は苦笑いを隠せそうになかった。
「仮に俺がいなかったとしても、そこの英雄がリリを助けてたはずだからな。そうだろう、ベル」
「うん。例えケンマがいなかったとしても僕はリリを助けに行ってたと思う。それだけは自信を持って言えるかな」
ベルと二人でタラレバの話をすると、何故かリリはまた泣き出してしまった。
俺がいなくてもアニメ通りにベルがリリを助けることを普通に話してたはずなのに、何故また泣き出してしまうのか分からずにベルと二人してあたふたしたがリリが泣き止んだあと、リリの装備が心許ないので今日の探索はここまでにすることにした。
○●○
あれから二日が過ぎた。
その二日間、リリは俺たちの前に姿を現すことはなかった。我慢が出来なくなったベルは、態々リリの使っていた宿屋や【ソーマ・ファミリア】にまで赴いて少しでも手ががりを探したがこれといって何も得るものはなかった。
リリの手がかりが得られず心配と不安が入り交じっているベルを他所に、俺はそろそろバベルの噴水広場に初めて会った時のようにリリが現れるのではないかと思っていた。
すると、予想通りというかアニメと同じように噴水の前で俯きながらリリは座っていた。まるで誰かを待っているかのように…………。
そんなリリを見つけたベルが思わず駆け寄って行きそうなのを少しだけ止めて、初めて会ったあの時の意趣返しとまで行かないがちょっとイタズラに誘ってみると笑顔で乗ってきた。
そして───────
「サポーターさん、サポーターさん。冒険者を探していませんか?」
「えっ?」
俯いていたリリが顔を見上げて俺たちを見ると、目を丸くしながら少しだけ戸惑っている様子だったがベルを更に畳み掛ける。
「混乱していますか?でも、今の状況は簡単ですよ?サポーターさんの手を借りたい半人前の冒険者が二人、自分を売り込みに来ているんです」
「そうだぜ、簡単な状況だ。キミが俺たちに雇われ、俺たちがキミを雇う。とても単純な話だ」
「…………ベル様、ケンマ様」
俺たちの名前をリリが呟く。けれど、俺たちは止まることなく彼女へ笑顔で手を差しのべる。ベルは右手を、俺は左手を。
「僕たちと一緒に、ダンジョンへ潜ってくれないかな?」
「俺たちと一緒に、ダンジョンへ潜ってくれないか?」
その問い掛けにリリは、この約一週間の中で一番の笑顔を咲かせながら小さな手で俺たちの手を取ったのであった。
「───はいっ、リリを連れて行ってください!」
オリ主たちの新本拠地候補
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