臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第二十八話

 

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

約一週間後に控えたミノタウロスとの死闘に備えて、どうやって今以上に速く強くなれるかあれこれ思考を巡らせているがこれといって案が出ることはなかった。

 

なので、安直にダンジョンへソロで向かうことにした。久しぶりのソロでじわりと恐怖が身体を蝕むが、昨日の更新した【ステイタス】とエイナさんからの太鼓判を思い出して、心に活を入れながら足を進めていく。

 

 

「せあッ!」

 

「シッ!」

 

「でりゃッ!」

 

 

昼間のダンジョンということもあって下の階層へと繋がる正規ルートにはあまりモンスターがいないようで攻撃を一回も受けずに余裕で8階層までやってくることが出来た。

 

案外、ソロで10階層まで行けてしまうのではないかと馬鹿な考えが過るが、その考えを頭の中から振り払い、戒めのために両頬を強く叩いて意識を切り替える。

 

 

「よし!ガンガンいこうぜじゃなく、いのちだいじにだ!」

 

 

某RPGの命令を口に出しながら周りの警戒を忘れずに足を進めていくと、9階層に繋がる階段まで残り半分まで来たところでようやく他の冒険者がモンスターと戦っている音が聞こえてきた。

 

別に獲物を横取りするつもりはないので、そのまま金属が何かと衝突する音の方に向かっていると懐かしい記憶が甦る。それはベルと初めて出会い、そのままパーティーを組むことになったあの日のことだ。

 

ベルと出会って、まだ一ヶ月も経っていないのにも関わらず懐かしいと思っていると正規ルートと他のルートに別れる十字路に到着した。何故、十字路をここで述べたかというと十字路の左側からは、ずっと聞こえている戦闘の音の音源が響いているからだ。

 

そして、他にも─────

 

 

「くそっ、ふざけろ! 切りがねぇぞッ!?」

 

「Oh………マジか」

 

 

音源の方に視線を向けると聞き覚えのある声と口癖が聞こえたあと思ったら、容姿にも見覚えがあった。

 

背中側から見ているので確かなことは言えないが、髪は炎のように真っ赤に染まっており、首周りには青い襷のような物が巻かれ、服は煤まみれで真っ黒に染まった服を着ている。また、得物は唾に近い部分には背中で背負えるために何かを引っ掛けられるように工夫された四角い穴が掘られた大剣。

 

以上の容姿、服装、得物から当てはまる人物で8階層までソロで攻略できる冒険者はただ一人、【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師冒険者のヴェルフ・クロッゾ、その人である。

 

何故、ヴェルフとこんな所でエンカウントしたのか今はどうでもいい。今、注目するべき所はヴェルフがキラーアントの群れに襲われているということだ。

 

 

「【プロモーション・ビショップ】ッ!!」

 

 

ヴェルフを救うために、キラーアントを一掃する前準備として【プロモーション】の魔法で『僧侶』に昇格、その効果で『魔力』のアビリティに補正をかける。準備が完了すれば、焦りながらギリギリの対処をしているヴェルフへ声をかける。

 

 

「おい、そこの赤髪の冒険者!スリーカウントで地面に伏せろ!!」

 

「はっ!? いきなり現れて、何言って………」

 

「スリー!」

 

「おい、人の話を!?」

 

「ツー!」

 

「だぁー、くそっ!」

 

「ワン!」

 

 

一方的にとはいえ、俺の指示に従ってくれているヴェルフは「ワン」のカウントで何とか目の前のキラーアントの爪を大きく弾くと身体を反転させね、全力で俺の方へかけてくる。

 

そして───────

 

 

「ゼロ!」

 

「うおおおおお!!」

 

「ドラゴンショット!!」

 

 

最後のカウントでドラゴンショットをキラーアントの群れに放つと、ヴェルフは叫びながら地面に伏せる。その際、ギリギリだったようでドラゴンショットがヴェルフの髪の先端を掠めたように見えたが気のせいだろう。うん、気のせいだ。

 

『僧侶』に昇格したことで威力が上がっているドラゴンショットは、大半のキラーアントを呑み込みながら爆発すると、その爆風で生き残りのキラーアントは通路の奥へと吹き飛ばされ、ヴェルフは爆発によって生まれた砂埃を被ってしまう。

 

取り敢えず、被害も出さずにキラーアントを退けて、ヴェルフを救うことに成功したと安堵の息を吐くと地面から這い起きたヴェルフに胸ぐらを掴まれてしまう。

 

 

「お前、いきなりあんな高威力の魔法をぶっ放すとかふざけろッ!危うく俺まで巻き込まれるところだったじゃねぇか!?」

 

「ちゃ、ちゃんと事前に声かけしたろ?」

 

「一方的に言われて、あんな魔法を使うなんて誰が考えられるんだよ!?」

 

「ごめんごめん、キラーアントの群れを一掃するのにあれが手っ取り早かったからさ………」 

 

 

事情を説明すると、俺の言い分を理解してくれたのかヴェルフは溜め息を吐いてから胸ぐらを離してくれた。

 

 

「ったく、命を救われた身としてはこれ以上は言わねぇ。改めて、助けてくれてありがとうな。俺は、【ヘファイストス・ファミリア】で鍛冶師をしてるヴェルフ・クロッゾだ。お前さんは?」

 

「【ヴィクトリア・ファミリア】の石黒ケンマ。ケンマが名前で、石黒が名字な」

 

「家名が前ってことは、極東出身か?」

 

「まぁ、似たようなもんだな」

 

 

簡単に自己紹介を終えるとヴェルフは、俺の腰に差している聖剣に目が行ったのか見せてくれと願い出てくる。

 

 

「なぁ、ケンマ。無理を承知で頼むが、その剣を少しだけ見せてくれないか?」

 

「こいつか? 別に構わないけど、今はヴェルフの後ろに戻ってきたキラーアントをどうにかしようぜ。奴さん、滅茶苦茶怒ってるみたいだからさ」

 

「えっ? うわっ、なんだよあの大群はよ!?」

 

 

ヴェルフが後ろを振り向くと上下左右の地面と壁にうじゃうじゃと赤い目を不気味に光らせるキラーアントの大群を俺たちに押し寄せようとしていた。

 

さすがのこの大群には、俺も逃げるしか選択肢がなかった。しかし、【ステイタス】の『敏捷』が俺もよりも低いのか、次第にヴェルフが俺から離されていく。

 

それを見た俺は、このままではヴェルフが危ないと思い、即座にヴェルフの服を掴み【魔力操作】でオサレなバトル漫画に出てきた魔力に似た力を足場にしながら移動する技をイメージしながら魔力で作った板でキラーアントから爆走しながら逃げる。

 

当然、俺の『スキル』を知らないヴェルフは、魔力で作られている板は見えておらず、走ってもいないのにキラーアントからあっという間に逃げおおせていることに驚き、声を上げる。

 

 

「な、なんだこりゃ!? 走ってねぇのに勝手に身体が進んでやがるぞ、てか速ぇえ!?」

 

「あんまり喋ってると舌を噛むぞ」

 

 

テンプレートな台詞を言いながら7階層に繋がる階段まで逃走。

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

「ここまで来ればいいだろう」

 

 

7階層に繋がる階段のフロアで掴んでいたヴェルフを離して、一息付くと思いの外、精神力が消耗していることに気が付く。

 

普段は、ベルやリリがいるためここまで長時間魔法を使うこともなく、ましてやリューさんたちの鍛練の時も長時間使い続けるのではなく、乱発するのでペース配分などは考慮していた。

 

そのため、長時間の魔法は寝る前に魔力を循環させる鍛練をここ三日間ほど行ってきたが、まさか早々に役立つとは思っても見なかった。

 

 

「すまねぇ!俺、ケンマのお荷物になっちまって……」

 

「気にするな。目の前で誰かを見殺しにするほど、人間は止めてないつもりだからな」

 

 

ヴェルフは、何も出来ずにただのお荷物になっていたのが悔しいのか凄い勢いで頭を下げてきたので普通に思ったことを口にした。

 

そして、そのあとはバックパックに入れていた革の水筒で喉を潤してから腰に差している聖剣をヴェルフに差し出す。別に、ヴェルフであれば聖剣を見られても困ることはない。むしろ、アニメよりも彼とエンカウント出来たことを幸運だと思って置いた方がいいだろう。

 

 

「なんだよこれ………見たこともねぇ製法で作られてやがる。それにこいつは……いや違うな。似ているようで、全くの別物だ。なぁ、ケンマ。この剣はどこで仕入れたんだ?」

 

 

その問い掛けに俺は、どう答えるか悩む。

 

先ほど漏れ聞こえていた呟きからヴェルフは、俺の聖剣が魔剣に似て非なる物だということや正しく鍛練されて作られた物ではないことを一目で見破って見せた。

 

そのことからフィンさんたちの時のようにバカ正直に答えるのは、あまりにもリスクがデカイと打算的な考えが過る。

 

 

「悪いけど、それは答えられないな。うちの主神から厳命されてるんだ」

 

「…………そうか。なら、仕方ねぇな」

 

 

主神から厳命だと聞くと、ヴェルフは諦め切れない気持ちを何とか抑えながら引き抜いた聖剣を鞘に納めて、俺へに返してくれる。

 

聖剣を受け取ったあと、俺はこのあとのことを考える。このまま、ダンジョン探索を続けるかそれとも帰るか。しばらく考えた後、帰ることを選択。

 

 

「さて、帰るか。ヴェルフはどうする?」

 

「そうだな………本音を言えば、まだ粘りたいが。ケンマに助けられる前のことを考えるとここは一度帰ることにする」

 

「なら、地上に戻るまで臨時のパーティーを組まないか?」

 

「いいのか?」

 

「同じ目的があるのに普通、断るか?」

 

「それもそうだな。んじゃあ、地上に戻るまで頼むぜ、ケンマ!」

 

「ああ、ヴェルフ」

 

 

こうして臨時のパーティーを組むことになった俺とヴェルフは、8階層の時のような失敗もなく、順調に正規ルートを通りながら地上へと上がる長い螺旋階段のところまで戻ってきた。螺旋階段を登りながら今日の夕飯は、何を食べようか考えていると隣にいるヴェルフから声がかかる。

 

 

「なぁ、ケンマ」

 

「なんだ、ヴェルフ」

 

「ちょっと頼みたいことがあってよ」

 

「その頼みとは?」

 

「お前さえよければ、これから俺とパーティーを組んでくれないか?」

 

「パーティーか………」

 

「駄目か?」

 

 

たしか、ヴェルフは凄い魔剣を作れるのに自分の意地を通すために魔剣を作らないから同じ【ファミリア】の仲間たちから仲間外れにされているという話があった覚えがある。

 

下手にここでパーティーを組むことを承諾してしまうと今後の展開に大きな歪みを生まれさせてしまう。アニメ通りならば、ヴェルフは【アポロン・ファミリア】との『戦争遊戯』でベルのいる【ヘスティア・ファミリア】にはなくてならない存在となる。

 

なので、この場で俺がするべきなのは答えを先延ばしにするのがベストだろう。

 

 

「直ぐに答えを出せないな。俺もパーティーを組んで奴らがいるからさ」

 

「そうか………だよな。無理を言って悪かったな、忘れてくれ」

 

「待て待てヴェルフ、まだ話は終わってない。同じパーティーの仲間たちには、俺からヴェルフのことを相談はしてみる」

 

「本当か!?」

 

「ああ、ヴェルフをパーティーに加えられるように努力はするが期待はするなよ? 取り敢えず、答えが出る目安として十日後の昼頃にギルドで落ち合おう」

 

「十日後の昼頃にギルドだな!」

 

「もしも、約束の日より俺の方でパーティーの話が早く決まったらヴェルフのところへ伝えにいく。逆に、俺の方が遅かったらギルドにいるエイナ・チュールというハーフエルフの受付の人に俺の名前を出して、彼女に伝言なり伝えてくれ」

 

「おう、わかった!」

 

 

取り敢えず、これで大丈夫。アニメ展開を少しだけ前倒しになるが、このまま行けばヴェルフをベルに紹介して、そのまま行く行くは【ヘスティア・ファミリア】に改宗へと持っていけるはずだ。

 

てか、今思うとベルよりも先に色々なキャラクターとエンカウントしている気がする。自発的にエンカウントしようとしたのは、リューさんを初めとした『豊饒の女主人』の皆さんと推しを助けるために無謀な戦いに挑んで逆に助けてもらったレフィーヤを筆頭とする【ロキ・ファミリア】の皆さん。

 

他には、イレギュラーなアレン・フローメルとヴェルフ、アミッドくらいだろうか。アレンとヴェルフに関してはあっちから寄ってきている気がしないでもないので、もしかしたらドラゴンの力が影響しているのではないかと過るが、こんなのはまだ序の口だろうと結果を纏めた。

 

 

「それじゃあ、ケンマ。十日後を楽しみにしてるからな」

 

「さっきも言ったがあまり期待はするなよ」

 

 

地上に戻り、バベルの中にある換金場で今日の稼ぎを換金した俺たちはバベルの前でそれぞれのホームへと帰るため分かれたのであった。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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