臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
「ベル様………どうしてこの頃、ケンマ様のようにダンジョンへ潜る前からボロボロなんですか?」
ヴェルフと出会って二日後の早朝、いつものようにバベルの前にある噴水広場でベルたちと合流するとここ二日間ほど、俺と同じようにダンジョンへ潜る前からあちこちがボロボロになっているベルをリリは疑問に思ったようで、率直に訪ねている。
そんなリリに対して俺は、以前アイズにアドバイスしたことが上手くいったようだと内心で安堵していた。
「は、ははっ………ちょっとね。うぎっ!?」
「ふ~ん?」
苦笑いで返答するベルに、リリは納得はいかないがベルの言うことなので深くは追求しないでいる。
ベルのボロボロ具合はアニメで知っていたが、これはひどい。手心が加えられているとはいえどLv.6 の打撃はLv.1 の俺たちの身体に致命傷の二~三歩くらい前のダメージを与えているのは必然的だろう。
俺も日頃、リューさんたちの鍛練で良い動きを見せた際、リューさんとルノアさんから力加減を誤った一撃をもらうことがあるのでそれに慣れるまでは毎回が死戦に等しく感じる時がある。
「あれ? たしか、アイズとベルの鍛練は一週間ほどで、俺は週五で二日休み。これは、二日間はアイズの鍛練に飛び入り参加できるのでは?」
一人、頭の中に浮かんだことをブツブツと呟いていると、前で歩いているベルとリリの会話が聞こえてきたので今考えている内容は後にすることにした。
「すみません、ベル様。お疲れのところにリリの荷物を任せてしまって」
「いやぁ、疲れているのは自業自得だし……それに空のバックパックくらい大丈夫だよ。それに直ぐ交代しちゃうから」
ダンジョンへと繋がるバベルの真下にある螺旋階段を一段一段下りているとリリは申し訳なさそうに肩を小さくする。しかし、これはベルが決めたことなのでリリは何にも言い返せず、俺も何も言わない。
今のリリは変身魔法で、髪は灰褐色のロングヘアーに円らな金色の瞳をした狼の獣人、ウェアウルフに変身しており。背中にはリリをサポーターではなく、一人の冒険者として思わせるようにベルのプロテクターを鞘に見立てながら《バゼラード》を背負っている。
これがもしも獣人ではなく、金髪のエルフであったのであれば何処と無く前世の某三つの黄金の正三角形力が出てくるゲームの主人公を思わせていただろう。
「うぅ~、リリはベル様に借りを作ってばかりなのが心苦しいんですよ………」
不貞腐れ気味にリリはそう呟き、ベルは苦笑いで返す。けれど、それだけではなくウェアウルフに変身したリリの姿を微笑ましく見ていた。
その視線に気付いたリリは、今度は不安そうな声を出しながらベルの顔を見上げる。
「あ、あのっ………やっぱり、変ですか?」
「いつもと雰囲気が違って、何だが新鮮………なのかな? 僕は可愛いと思うよ?」
「ほ、本当ですかっ?」
「うん。似合ってる。ケンマもそう思うでしょう?」
「そうだな。新鮮味もあって、可愛らしく思う」
ベルの問いに対して普通に返すが内心では、「リア充爆発しろ!」である。なんせベルの言葉を聞いてリリは、スカートの下にある尻尾が飼い主に構ってもらえて嬉しくて仕方がない犬のように忙しなく左右に揺れているし、ケモ耳もピクピクと動いている。
リリの好感度MAX表現に焚き付けた張本人が何を言っていると思われるかしれないが、ケモ耳美少女に好かれて羨ましくない男はいないと思う。動物アレルギーの方を除いてな。
○●○
変身したリリとベルのイチャこらしているのを1階層の半ばまで見せつけられたあと、その場でベルとリリが荷物を交換。そうすることで、外ではリリが冒険者でベルがサポーターだと周りの冒険者たちが勘違いするので【ソーマ・ファミリア】の冒険者がリリを見つけるのを困難にするというのがベルの作戦であった。
その作戦の効力はアニメであれば覿面だった。であれば、現実となったこの世界でもその効果は多いに表れるだろう。
そして、再びやって来た10階層。
「ベル様、今日はどこまで行きましょうか?」
今日の方針を決めるべく、パーティーリーダーであるベルにリリはそう訪ねる。
「うん。明日休みにする分、できるだけ奥まで潜りたいかな」
「奥に行くのはいいがあまり無茶はするなよ」
「あはは、気を付けるよ。でも、背中はケンマに任せてるから僕は安心だな」
「ッ………こいつ!」
「ちょっと、なんでさ!?」
平然と恥ずかしくてそれでいて嬉しい言葉を掛けてくるベルに対して、俺は照れ隠しを混ぜたヘッドロックをかける。
それと何故、明日のダンジョン探索を休みにするのかはリリの下宿先が関係している。そのため、今日は明日分も含めて多く魔石を稼ぎたいのが俺たちの目的だ。また明日が休みということは、ベルには悪いが螺旋階段で考えていたようにアイズの鍛練に飛び入り参加ができる可能性が大いに高まる。
そんなことを考えながらベルと少しだけじゃれているとお客さんのお出ましのようだ。
『ヒイャアアア!』
『ギイイイ!』
甲高い鳴き声と共に霧の中から現れたのは『インプ』。身体は全身が黒く、頭部には尖った小石くらいの一角を生やしており、ひょろひょろした体格とは裏腹に頭はバスケットボールくらいの大きさがあってアンバランスに思えるが、実際に想像できないほど俊敏とエイナさんから聞いている。
しかし、先日はそんなインプを俺は一人でオークを含めて複数体倒しているので心配はいらない。心配するのは、アイズにボコボコにされて疲れているベルが大丈夫なのかどうかだ。アニメ通りであれば心配はいらないが、ここは現実。何があるかわからない。
「ベル、無理はするなよ」
「大丈夫。やれるよ」
二人して臨戦態勢に入りながら少しだけ視線をベルに向けると、ベルの臨戦態勢に変化があることに気付いた。それは、二日前までのベルであったのなら《ヘスティア・ナイフ》だけで構えていたのが今日になって、以前リリからもらった《バゼラード》も構えており二刀流になっているのである。
それを見て、日を跨ぐごとに俺の知っているアニメの『ベル・クラネル』に友人のベルが近付いて来ていることにドキドキやワクワクといった感情が胸の中で湧水のように湧いてくるのと同時に負けたくないといった向上心も生まれてくる。
「せやッ!!」
「ふっ!!」
「はあああッ!!」
「てやあああッ!!」
二桁にも登る量のインプを二人して倒していると、攻撃の隙をじっと狙っている個体を牽制するように離れたところにいるリリが小型バリスタの矢を打ち出している。
公式設定で小人族は他の種族と比べると視力が長けているという種族設定があったはずだと各個撃破しながら思い出していた。ある程度捌いたところで俺たちに畏怖を抱いたのかインプたちが数歩後ろへ後退り。
しかし、それだけでは狡猾なダンジョンは退かせることはなく。小型のインプで駄目ならばと今度は大型のオークが複数体、霧の中から姿を表した。
「ちょっと、数が多いね………」
「はい。多種のモンスターがああまで群れるなんて珍しいです。どうしますか、一旦逃げて、体勢を立て直しましょうか?」
「その必要はないと思うぜ、リリ。やれるよな、ベル」
「もちろん!」
インプとの攻防をチラ見していた限り、ベルにはまだ余裕が見られるのに加えて、戦いの選択肢の中に今まではそこまで頻繁ではなかった『体術』が加わっていた。それは、この二日の間にあったアイズとの鍛練で身に付いた賜物である。
「一気に蹴散らすぞ!」
「うん!」
「ドラゴンショットッ!!」
「【ファイアボルト】ッ!!」
霧の海を穿つ赤い光弾と引き裂くような何条もの炎雷が、ものの数分でモンスターたちを全滅させた。
○●○
「ねぇ、二人とも。僕って、『魔法』に依存しちゃってるかな?」
あれから更にモンスターをあらかた倒して魔石を稼いだ俺たちは、昼休憩を挟むために霧の発生しない10階層と9階層を繋ぐ階段のあるフロアで昼飯を食べていると、唐突にベルがそう俺たち訪ねてきた。
「依存、ですか?リリはそこまで気になりませんが、確かにベル様とケンマ様の『魔法』は使い易い節もありますし………手軽に使ってしまう分、必殺としての一面が薄れているかもしれませんね」
「やっぱりそうだよね………」
必殺と聞いて、ベルの必殺技といえば後に『下層』で強化種の『モス・ヒュージ』に使っていた技【聖火の英斬】が直ぐに浮かんだ。しかし、それを今のベルが使えるかと聞かれたら何ともいえない。
なので、他にはないかと前世の『ダンまち』の記憶を思い越していると一つだけ可能性がある技があった。それは、ヒロインの一人である『サンジョウノ・春姫』を【イシュタル・ファミリア】から救うために最後の最後で戦うことになってしまった『アイシャ・ベルカ』に放った最後の一撃。
あれならば、今のベルでも使えるのではないかとちょっと試すために途中から二人だけで話しているベルに声をかける。
「なぁ、ベル」
「なに、ケンマ?」
「ちょっと試して貰いたいことがあるだが、いいか?」
「いいよ。どんなこと?」
「方法は簡単。モンスターを素手で殴って、殴った拳から触れたままでゼロ距離の【ファイアボルト】を放つだけの簡単な技だ」
「えっ?」
「さっきの戦闘で【ファイアボルト】を同時に三発は撃てていたからな。それをゼロ距離で使えばかなりのダメージが与えられると思うんだ。あとは、必殺としての一面が薄れるなら必殺になるようにすればいい」
「えっと、それはどういう…………」
「脳筋思考だが、毎日限界まで【ファイアボルト】を連射して『魔力』の【ステイタス】値を999まで上げてからランクアップすればいい。そうすれば、弱い魔法だろうがいつかは必殺になるだろう?」
この世界の『魔法』は、詠唱文が長ければ長いほどにその威力が高い傾向にある。しかし、公式設定によれば『魔力』の【ステイタス】が上がれば魔法の威力と使用回数が増える。つまり、突き詰めれば長文詠唱の魔法とも対等に渡り合えるということでもある。が、それには俺やベルのような基本アビリティを限界突破する『スキル』が発現しているのが前提条件になってくるので他の者には真似できないだろう。
それでも例外として、俺はその更に上へと至る方法がある。そう、ブーステッド・ギアである。これがあれば、体力と時間が許す限りはどんな高威力の魔法とも対等に渡り合える。
「意外とケンマ様の仰っていた脳筋思考は、冒険者の間では普通ですよ」
「えっ、そうなの?」
「はい。長文詠唱の魔法は、詠唱が長いということから使う頻度が低くくなりがちなんです。それに対して、短文詠唱またお二人のような特殊な詠唱が殆どない魔法の方が使う頻度が高く、それだけ【ステイタス】に反映されて成長しやすいんです」
「つまり?」
「魔法を使えば使うほど『魔力』が上がり、それに伴って魔法の規模や出力が上昇するということです。戦闘には直接関係しないリリのこんな魔法でも【ステイタス】の強化によって少し具合が変わりましたから」
リリの体験談を混ぜた説明にようやくベルも理解が追い付いてきたようで、軽く手のひらを開いたり閉じたりを繰り返している。
「リリの変身魔法が変化したとなると、俺たちの場合はどう変化するだろうな?」
「そうだね。すごく気になるよね」
「ま、単純に考えれば俺のドラゴンショットは威力と弾の大きさ、あとは爆発範囲かな。ベルの【ファイアボルト】は威力と炎雷の数、連射速度じゃないか」
「威力と数、連射速度か………」
二人して、成長した魔法のイメージを浮かべみるがどう明確なイメージまでは想像出来なかった。それでも、ベルの魔法に依存しているという悩みは解消されたようだった。
「ご馳走でした」
「少ししたら午後の探索も頑張ろうか?」
「はい、どこまでも力添えさせていただきます」
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に