臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
『赤龍帝の籠手』を覚醒させて、この籠手に宿っているドライグの世界線がBADENDの兵藤一誠のモノだと判明すると、ドライグは感情の整理をつけるために『赤龍帝の籠手』の奥へと引っ込んでしまった。
『『『ギャギャーッ!』』』
「うわっ!?」
ダンジョンの奥へと進み、下の層へと降りていくに連れて、モンスターたちの出現率も増していき、現在ではゴブリン三体が徒党を組んで襲いかかってくる。
転生して直ぐのダンジョンへのアタックで、チュートリアルのような物もなく、武器の扱いもド素人の俺は、必死にゴブリンたちの引っ掻き攻撃を躱し、剣で弾くのを繰り返す。
「これじゃあ、じり貧だ。クソッ、ソード・バースッ!!」
一向に決定打を決められない俺は、焦りのあまり右手にもつ魔剣を地面に差し込み『魔剣創造』でコボルトたちの足元から上へと貫くように魔剣を創造すると、あっという間にゴブリンたちを魔剣で串刺しにする。
『魔剣創造』の魔剣で串刺しになったゴブリンたちは、生命活動が停止して、灰となって消滅した。残ったのは手の爪くらいの大きさしかない魔石と魔剣で串刺にした時に生じた返り血だけだった。
「色々とエグっ…………でも魔法とスキルの使い分けはしっかり出来るみたいだな。これなら、魔法と誤解させることができる」
いつか行われるかもしれない【戦争遊戯】に備えておくためにも、『魔剣創造』と『聖剣創造』を周囲の冒険者や【ファミリア】には、スキルだと誤解してもらった方が有難いのだ。
そんな未来のことを今のうちから想定していると身体に漲っていた力が消えたのを感じ取った。
「これって…………【プロモーション】の効果切れ?」
『ハイスクールD×D』の原作でもアニメでも、【プロモーション】に効果切れの設定は書かれていなかった。だとすれば、この感じはこの世界に適応させるための弱点ということになる。
制限時間は何分?何十分だろうか。今後は、その時間を正解に把握する必要がありそうだ。であれば、状況に応じて別の駒へと昇格する時に、タイムリミットが更新されるか、それとも駒の能力が変わるだけでタイムリミットはそのままという場合も考えられる。
前者であれば、魔力が残っている限りは心配いらない。後者であれば考えものだ。
「細かい設定まで書いていなかったことが裏目に出たか…………」
転生する前のあの時に、細かい設定まで記載しておけばこんな試行錯誤する必要はなかったと後悔している。
「色々と考えたいことはあるが、今は駒の能力補正の把握からだな。今度は騎士でいくか、【プロモーション・ナイト】!!」
そう叫ぶと『女王』と同じように脳内に『騎士』の駒が浮かび上がり、身体に『女王』の時より強くはないが漲ぎる力を感じると身体に脱力感を感じた。これは、『魔法』によって精神力を消費してるからだろう。このことから魔法スロットの『魔法』は【魔力操作】のスキル対象外ということが判明した。
二度の【プロモーション】でかなり精神力が削れたのだろうこの状況はソロでダンジョンを探索している以上、魔法の使い過ぎで『精神疲弊』によるダンジョンでの気絶はBADENDまっしぐらなので一番避けなければならない。
そう心掛けながら『騎士』の能力補正を把握するために、ダンジョンの中を駆けていく。
「すげぇ…………!」
速い。めちゃくちゃ速い。基本アビリティがゼロの状態で、この速さは感動を覚える。感覚的には高速道路をぐるぐると巡っているルーレット族のような感覚だ。
この速さに慣れて戦闘が出来れば、同じLv.1 の冒険者ならば勝てるのではないだろうかと思わせるほど速い。そのうち、死神代行をしている高校生のような高速戦闘が出来るのではないだろうか。それはそれで魅力的である。
『騎士』の能力補正の感覚把握を続けていると、途中でコボルトやゴブリンと遭遇することは数々あるので右手の剣でタイミングよく当てれば綺麗に斬れる。最悪は、斬れなくとも突き出せば、剣が貫いて倒してくれるので意外と楽な戦い方だと感じた。
しかし、斬れる感覚が少しいまいちなので今度は刀で試してみようと思い、『魔剣創造』で剣から刀へと造り替えて、頬に十字傷のある抜刀斉の抜刀術を見よう見真似ねで繰り出してみると上手い具合に首筋に刀が命中したようでモンスターの首が跳ね飛んだ。
これは『敏捷』だけではなく、『器用』の【ステイタス】まで『騎士』の能力補正が効果を発揮している気がする。
「色々なキャラクターの戦い方が出来るのはオタクとしては嬉しい限りだな! けど、やっぱり肉を切る感触が包丁と違うから凄い違和感があるな。それに血の臭いもキツイ」
あまりの嬉しさに調子に乗って、『騎士』の能力補正でダンジョン内を駆けずり回り、スパスパとモンスターの首を跳ね続けているといつの間にか5階層まで降りて来てしまった。
そして、丁度5階層の途中のところで【プロモーション】の効果が切れてしまい、『騎士』の能力補正もなくなってしまった。
「体感的には一時間ぐらいかな…………」
何となくであるが、【プロモーション】の効果が切れる時間を把握することには成功できた。あとは、制限時間が更新されるのか、はたまた継続なのかを把握するだけで済む。が今更になって考えたくない要素が思考に浮かび上がった。それは、駒によって制限時間が違うということ。そんなことになれば、今後の戦いがより難しくなってしまう。
そんな色々なことを思考していると前世も含めて、聞いたことのない獣の雄叫びがダンジョン内に響き渡る。
『ヴヴォオオオオオオオオオオッ!!』
「なっ、なんだ!?」
未知の獣の雄叫びに、本能が逃げろと促してくる。
本能に従って、急いで4階層への階段がある方向へと走り出す。けれど、走る速度よりもドゴォ、ドゴォと恐怖を掻き立てるような音の方が早く近付いてくる。
その音に合わせて、誰かの叫び声が聞こえてくる。
「ほぁああああああああっ!?」
その叫び声には聞き覚えがあり、こう思った。
嗚呼、彼の叫び声がしているということは今日が全ての始まりの日なのだと。そして、その始まりの日の出来事に俺は運が良いのか悪いのか、わからないまま巻き込まれてしまったのだと…………。
「うわあああああああっ!?」
「いや、なんで、こっち来るんだよー!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさぁぁぁいっ!!」
白髪で、赤い瞳をした兎のような少年が俺の方へやってきたので、思わず叫ぶも涙目で走りながら謝罪を述べてきた。
このまま二人で逃げてもやがては、追い付かれる。ならば、自分ルールに従ってアイツを引き抜くしか、この状況を打破することは難しいだろう。
けれど、怖くて反撃に出ようという気概が全く起きない。なので逃げることに全てをかけるためにも『赤龍帝の籠手』を出すことした。
「ブーステッド・ギア!!」
『Boost!!』
「もっと!」
『Boost!!』
「もっとだ!!」
『Boost!!』
「よっしゃッ!」
『Explosion!!』
「食らいやがれ!ドラゴンショット!!」
『倍加』が完了したので、『赤龍帝の籠手』が装備された左腕を迫りくるミノタウロスに向けて、スキルを使ってありったけの魔力を込めた魔力の塊を生み出し、それをミノタウロスに殴り飛ばすと魔力弾は大きく膨れ上がりながらミノタウロスへと迫っていく。
バランスボールサイズとなったドラゴンショットが飛んできたことに、ミノタウロスは本能的に危険だと察知したのか両腕をクロスさせて防御姿勢に入った。そして、ドラゴンショットが着弾すると爆発が起こり、その爆発で生まれた爆風に多少なりとも俺たちは吹き飛ばされる。
「うわっ!?」
「ほわっ!?」
爆風で吹き飛ばされた俺たちは何とか地面を転がりながらも直ぐに体勢を立て直し、ミノタウロスの状況を確認することなく再び走り出す。
「早く走れ!」
「は、はい!」
さっきの8倍に強化されたドラゴンショットで倒れてくれるのなら御の字だが、多分、いや間違いなくあんなんじゃ倒せていない。確実に倒すのであれば、百五十秒くらい『倍加』を溜めないと倒せる気がしない。
それこそ、《エクス・デュランダル》のような破壊力抜群の武器でないと倒せない。俺のような剣を握って二時間くらいのド素人の剣技では、あの格上のミノタウロスは倒せるビジョンが全く浮かばないからだ。更に転生して間もないため、《エクス・デュランダル》の中にある《真のエクスカリバー》に統合された七本の内の《天閃の聖剣》や《破壊の聖剣》の能力を引き出す方法をまだ知らない。
故に、逃げるという選択肢しか選べない。
『ヴヴォオオオオオオオオオオッ!!!』
「やべぇ、絶対怒ってる!!」
先ほどのドラゴン・ショットで多少なりともダメージを負っているはずなのに、さっきよりも凄みが増している怒りの咆哮が後方から聞こえてくる。
こんなに必死に逃げているのに、まだあの人は来ないのか。この世界のメインヒロインで、俺たちよりも遥かに強い女剣士である【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインは…………。
ろくに地図も持たず、調子に乗って5階層まで降りてきて、ミノタウロスに追いかけ回されてしまったのが重なり出鱈目に走っていると遂に行き止まりに合ってしまった。
「い、行き止まり!?」
「嘘だろ………!?」
ミノタウロスは直ぐ側まで迫っている。死の恐怖に支配されてしまった俺は、今後のことを考えずに『聖剣創造』と『魔剣創造』で創造した剣で出来た壁を何重にも造り上げて、少しでも近づいて来れないように足掻いていた。
一歩、また一歩と近づいてくるミノタウロスが怖くて仕方ない。よくある二次元創作で転生した主人公たちはどうして、こんな恐怖を感じずにどんどん強くなれるのだろうか。実際に、目の当たりにしてしまえばこの様だ。
どんなチート能力を与えられようが、どんな強い武器を貰おうが心が弱ければ意味がない。怖い、怖い、怖い、死ぬのが怖い。そのうち恐怖のあまり思考が狂っていき、【プロモーション】で『女王』に昇格して、異空間から《エクス・デュランダル》を取り出して、無謀にもミノタウロスへ切りかかっていた。
「【プロモーション・クイーン】!!」
無謀の特攻。けれど、ミノタウロスには通用しない。
「うあああああああッ!!」
『ヴオオオッ!!』
「ガハッ!?」
《エクス・デュランダル》がミノタウロスの身体に当たるよりも先に、ミノタウロスの強靭な剛腕が俺の脇腹を捉えて、そのまま壁に叩き付けられてしまう。壁に叩き付けられた俺は、今までに感じたことのない激痛が全身に駆け巡り悶える。【プロモーション】で『女王』に昇格してなければこの程度で済まなかったはすだ。
「うぐっ…………!!」
「うわわわわわわっ………!?」
「くそっ………たれ………せめてもの…………悪足掻だ!!」
地面に倒れ伏しながら、せめてもの悪足掻きとして片手を伸ばして、ミノタウロスの両目付近の空中に聖剣と魔剣を一本ずつ創造して、そのまま二本の剣を操り、ミノタウロスの両目に突き刺す。
両目に剣を突き刺されたミノタウロスは、あまりの痛みに両目を抑えながら暴れだし、その様子を嘲笑ってやると意識が暗闇へと落ちていった。
「ざま……みやがれ…………牛野郎が」
○●○
「…………ん、んん? ここは?」
「あ、起きた?」
意識が目覚めて、最初に聞こえてきたのは聞き覚えのある声だった。声がする方に視線を向けると『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』のメインヒロインである【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインがいた。
「アイズ…………ヴァレンシュタイン」
「うん、そうだよ」
なるほど、ゆっくりとではあるが大体現状を把握することが出来た。俺がミノタウロスに最後の悪足掻きをして意識を失ったあと、原作やアニメ通りにアイズがミノタウロスを倒してくれたのだろう。
そして、原作主人公であるベル・クラネルの近くで意識を失って倒れていた俺を何処か安全な場所で手当てをしてくれたといったところだろう。そのお陰か、意識を失う前に感じていた激痛が嘘のようにない。
そこで、あることも思い出す。それは、ダンジョンで使っていた《エクス・デュランダル》の所在である。
「はっ! あの、俺の青い剣は?!」
「それならここにあるよ。安心して」
「良かったぁ…………」
アイズが指で示した先には、壁に立て掛けられている《エクス・デュランダル》の姿があった。ダンジョン内での武器や防具、アイテムといった物の破損・紛失・盗難などの一切をギルドは責任を持たずに自己責任になってしまうのである。
なので、大切な武器がなくなってしまったら俺は泣いてしまう。
「ありがとうございます。怪我の手当てや武器の回収まで」
「ううん。私たちの方こそ、キミに謝らないといけない。あのミノタウロスは、私たちが逃したミノタウロスだから、ごめんなさい」
「別にいいですよ。こうして、俺は生きてるし、武器も無事だし」
本当にあの時は死を実感していた。前世でも、こんなはっきりとした死を実感したことがなかった。今でも腕が僅かに震えている。
イッセーは、よくこんな恐怖に毎回打ち勝ちながら、サイラオーグとインファイトなんて繰り広げられたな。マジで感心するよ。こんなことなら、性格もヴァーリのように戦闘狂にしてもらえばよかったかもしれないな。
内心で後悔しながらアイズと少し会話をしてからギルドで今日集めた魔石を換金して、ヴィクトリアが待っているホームと帰宅する。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に