臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第三十話

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

「あ………ありがとう………ございました」

 

「お疲れニャン」

 

 

今日も早朝鍛練で本日の担当であるクロエさんに終始翻弄されて体力切れ&時間切れで地面に倒れ付している俺は、何とか感謝の言葉を述べながら荒れている息を整える。俺とは逆に遊びながら相手をしてくれたクロエさんは、鼻歌を歌いながらウエイトレスの制服に着替えるために宿舎へと戻って行った。

 

 

「クッッソ…………今日も完全に遊ばれてた!」

 

『膝カックン、猫騙し、タイキック、擽り………その他諸々。やられ放題だな、相棒』

 

「わかってるよ、ドライグ。でも、初めての時よりかは本当に僅かだけどクロエさんの動きがブレながら見えた。それだけでも成長してる実感が沸く」

 

『戦闘に置いて、まずは敵の動きを捉えられなければ話にならんからな。それで、このあとはウサギの小僧のところへ行くのだろう?』

 

「ああ、クロエさんたちやベルには悪いけど、正直ミノタウロスから生き残るには鍛練の時間が足らない。前世のオサレな漫画の帽子をかぶった駄菓子屋が言ってたように“死なない為に死ぬほど準備するのは皆やってること“だからな」

 

『懸命な判断だな』

 

 

ドライグの会話で大分息が整えることが出来たので疲労が残っている身体を起こして、野菜の皮向きをするべく動き出す。野菜の皮向きが終わればミアさんお手製の朝食を食べてからヴィクトリアの作った弁当を持って、ベルとアイズが鍛練している市壁の上を走り出す。

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

ベルとアイズの二人がいる市壁の正解な位置は知らないので、手っ取り早く市壁の上をぐるりと走り続ける。そうすることで円形の市壁の上であればいずれは二人と合流することができるからである。

 

そうして、市壁の上を走り続けていると鈍い打撃音とベルの苦行の叫びが聞こえてくる。

 

 

「おっ、見つけた」

 

 

目的であるベルとアイズの二人を見つけると、ちょうどベルがアイズの回し蹴りを諸に受けて空中に浮かび上がるのを捉えられた。因みに、アイズのミニスカートの中にはしっかりとタイツと同じ色のスパッツがあった。

 

回し蹴りを諸に受けたベルは、そのまま地面に倒れたまま気絶してしまった。うん、アニメ通りである。そして、気絶したベルに膝枕をするアイズ。

 

美少女に膝枕してもらうとは、羨まけしからん。

 

 

 

「派手に蹴り飛ばしたな、アイズ」

 

「ッッ!どうして………!?」

 

「さぁ、どうしてだろうな」

 

 

アイズは、自分とベル以外はここには来ないしバレないと思っていたようで、俺が現れたことでアニメでは見たことのないほど慌て始めた。

 

 

「ちょっとお願いがあるだが、いいか?」

 

「お、お願い?」

 

「ああ、俺もベルみたく鍛えてくれないか」

 

「でも………」

 

 

お願いの内容を聞いたアイズは、難しい顔をしながら気絶しているベルに視線を向けた。その行動で、何となくアイズが考えていることが理解できた。

 

 

「ベルが気絶している間だけでもいい!頼む!」

 

「それなら…………じゃ、じゃあ、ケンマも鍛えたらリヴェリアたちに言わない?」

 

「言わない言わない、約束する」

 

「それなら、いいよ」

 

 

アイズから承諾の返答が返ってきたので当初の目的は完了。アイズも俺の相手をするために膝枕をしていたベルを市壁の壁へと寄りかかせ、俺もベルの隣に昼飯が入ったバックアップを置いてからアイズと対峙する。

 

 

「それで、どうやって鍛えたらいいかな?」

 

「ベルと同じで頼む!俺も知り合いの先輩冒険者にもそう鍛えられてる」

 

「そっか、わかった」

 

 

鍛練方法をベルと同じものを頼むとアイズはアニメと同じように愛剣である《デスペレート》の鞘だけを握り、その先端を俺へと向けてくる。対して、俺は腰に差している鞘からただの切れ味の良い魔剣を抜いて構える。

 

何故、今日は聖剣ではなく魔剣なのかは、一日でも早く桜の魔剣である《千本桜》を完成させるためである。そのためには『魔剣創造』での戦闘経験値が必要になってくると思い至ったのである。 

 

 

(ドライグ、ブーステッド・ギアは出さないがサポートを頼む!)

 

『任せろ、相棒』

 

「それじゃあ、行くぞ」

 

「うん」

 

 

先攻をもらって直ぐに地を蹴る。

 

 

「せやあああっ!!」

 

「………」

 

 

勢い込めた剣の基本的な切り方である唐竹、袈裟斬り、袈裟斬り、逆袈裟、左薙、右薙、左切上、右切上、逆風、突きの九種の剣撃をアイズに放つが尽くを冷静に鞘で受け止められてしまう。

 

俺の剣が通用しないは想定内、今のアイズはLV.6 で俺よりも遥か高みにいる。なので、通用しなくて当たり前である。が、簡単には諦めるつもりはない。

 

今度は、【魔力操作】で腕力と脚力を強化して攻める。

 

 

「シッ!」

 

「!!」

 

 

魔力で強化した剣撃を鞘で受け止めたアイズは僅か眉を動かした。それもそのはず、突然俺の攻撃の威力や移動速度が増したのだ。さっきのが全力だと思ってもおかしくはない。

 

それでも、俺よりも圧倒的に戦闘経験が豊富であるアイズは四回ほど剣を受け流せば威力と速度に慣れてきたようで、鞘での反撃が来た。それを俺は、魔剣を盾にするようして剣の腹で受け止める。

 

すると、手に持っている魔剣にピシリッと亀裂が走る。それを手元で感じた俺は慌てて距離を取る。アイズも魔剣に亀裂が走ったのを目で捉えていたようで直ぐに謝罪してくる。

 

 

「あっ、ごめんなさい。剣を壊しちゃった」

 

「いや、心配はいらない」

 

 

クロエさんとの早朝鍛練で無理をしていたのか、それともアイズの愛剣である《デスペレート》の鞘に使われているモンスターの素材の強度が俺が今創造できる魔剣よりも上回っていたということも考えられる。

 

あるいは、アイズが手加減無しで突いてきたかだ。

 

 

「壊れたなら上書きすればいい………体は剣で出来ている────トレース・オン!」

 

 

疑似詠唱を唱えながら『魔剣創造』で亀裂の走っている魔剣を上書きする。上書きされた魔剣は、鍔の辺りから禍々しい黒いオーラを放たれて刀身を覆い尽くしてから直ぐに霧散すると、先ほどまで刀身にあったはずの亀裂が綺麗さっぱりとなくなり、まるで新品のような輝きを放っている。

 

 

「これで武器の心配はいらないな。んで更に、【プロモーション・クイーン】ッ!!」

 

「LV.1で二つも魔法を使えるんだ。凄いねケンマは」

 

「まぁな」

 

 

【プロモーション】で基本ステイタスに補正をかけて、再度アイズと剣と鞘を交える。途中で【瞬歩】を交えながら高速戦闘に持ち込むと、アイズも俺と同じぐらいの速度で応戦し始める。

 

こっちは【魔力操作】で体力や精神力を削りながらなのに対して、アイズのは少し早く動いている程度の感覚で俺に合わせてくるので正直、ゼロ距離で疑似【月牙天衝】をぶつけたくなるがチキン根性がそうはさせてくれない。

 

 

「ぐっ!?」

 

「凄いね。ベルの時よりも力を込めてるのにケンマはしっかり受け止められてる。それに受け流しもできてる」

 

「そりゃあ、ここ二週間殆ど実戦形式の鍛練をしてきたからな!!」

 

 

攻め切れない。そんな毎朝鍛練の時に感じているもどかしさが胸の中を占めてくる。クロエさんの場合は、霧や雨、風といった形が定まっていない物に剣を振るってる感覚、ミアさんはどんな攻撃も呑み込むか受けてもびくともしない海や山といった感覚だろう。

 

残るリューさんたちは、普通に実力的に攻め込めない。例えるなら、風に舞う木葉を切ろうと踠いている感覚に一番近いだろう。

 

そんな攻め切れない苛立ちで頭が熱くなっているとアイズから反撃を受けてしまった。

 

 

「がっ!?」

 

「自棄になっちゃダメ。視野を広く持たないと」

 

 

腕を鞘で叩かれ、痛みで僅かに動きが止まったところを正面から腹部へ蹴りが入る。『女王』に昇格しているので普通に受けるよりはダメージは低いがそれでもかなり痛いのを我慢しながら地面に剣を突き立てて、蹴りの勢いを殺す。

 

そして、アイズの言う通り、攻め切れないことに苛立って避けられないとしても【魔力操作】で魔力を一ヵ所に集めてダメージを軽減することが出来たはずなのにそれが出来なかった。なにより、アイズを攻め切れない理由がここに来てようやく分かってきた。それは、アイズの呼吸と足運びにあったのである。

 

二週間と短い間でもそれなりに剣を交えていれば無意識にリューさんたちの呼吸に合わせて攻めている部分が少なからずあった。しかし、今日初めてアイズと剣を交えるのにそれをやれるかと聞かれたら絶対に「否」と答える。

 

故に、俺は今、未知の敵と戦っているのと同じであることが理解させられる。

 

 

「どうすっかな………」

 

 

愚痴が溢れた次の瞬間、アイズから何度も早朝鍛練でリューさんたちから感じたのに近い悪寒を感じ、それに従いながら体勢を後ろに倒しつつ飛び退くと、眼前に蒼い鞘が迫り、鼻先を掠めた。

 

 

(危っっねぇぇッ!背筋に嫌な感覚が走ったからそれに身を任せたらこれだよ!? マジで怖かったわ………)

 

『野生の獣の直感に近い物だろう。やるな、相棒』

 

(伊達に、二週間毎朝ボコボコにされてねぇよ。てか、考える暇すら与えてくれないとかアイズさん鬼畜!!)

 

『バカなことを言ってないで、次が来るぞ相棒!』

 

(分かってらぁッ!!)

 

 

ドライグに注意喚起されるがままにアイズの攻撃を泥臭く躱し続ける。躱せない物は、【魔力操作】で魔力を攻撃が当たるであろう部分を予測して集中させてダメージを軽減する等の小細工をしながら耐え続けていた。

 

そして、アイズの鍛練を初めて体感的に十五分ほど経過したところで気絶していたベルが目を覚ました。

 

 

「あ、あれ? そっか、僕また気絶して…………って、ええええ!?」

 

「おっ、目が覚めたみたいだなベル」

 

「おはよう、ベル」

 

「どどど、どういう状況これ!?」

 

 

目が覚めたら目の前で俺とアイズが剣と鞘を交えているのだから驚くのも無理はない。

 

 

「ベル、直ぐに動けるか?」

 

「う、うん、動けるけど………」

 

「なら、交代だ。俺はベルが気絶してる間だけ、アイズに鍛練を付けてもらう約束だからな」

 

 

そう説明しながら俺は魔剣を鞘に納めてからベルの肩を叩いて、市壁の壁に背中を預けながら休息を取ることにした。十五分しか経過していないと思えないほどに体力と精神力を消費してしまっているのでベルが目覚めてくれて助かった。

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

 

ベルが気絶から目覚めたあと、そのあともベルが気絶して起きるまでは只管アイズと鍛練を続けていた。その結果、俺とベルは普段よりもボロボロの状態になってしまっていた。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………キッツぅぅぅ」

 

「分かっていたけど………二人がかりでも………手も足も出なかった………」

 

 

時間帯も夕暮れに差し掛かってきたところで、本日最後の鍛練ということでベルと二人掛かりでアイズに挑んだものの呆気なく返り討ちにあった。それでも、普段の早朝鍛練のあとにダンジョンへ潜るよりも実りのある経験なのは間違いない。

 

これをあと、四日間も受けられるベルが少しだけ羨ましいと感じたところで俺はとあることに気付く。

 

 

(こんなに辛い鍛練が羨ましいとか、もしかして俺ってばドM?マゾ? いやいや、俺はノーマル。決して、アブノーマルではない…………とそう思いたい。なぁ、どう思うよドライグ)

 

『相棒の性癖がどうだかは知らんが、強くなるためには強者と戦うのが一番の近道だな。そう考えると、ドMという性癖も悪い訳ではないのかも知れんな』

 

(なら、おっぱいドラゴンとドMドラゴン。どっちがいい?)

 

『どっちも嫌だァァア!おっぱいとドM、どちらもそんな不名誉な名前なぞ付けられたくない!?俺は、赤なんだよ。赤き龍の帝王なんだよ!うおおおおおん!!?』

 

 

おっぱいドラゴンかドMドラゴンのどちらがいいか、ドライグに二択を迫ると過去のトラウマスイッチが入ってガン泣きさせてしまった。どうしよう、これ?

 

幸いにも、ドライグの泣き声は俺の中だけで響いているようでベルたちに聞こえていないのは良かった。あとは、ホームでたっぷりと慰めてやろう。

 

そして、相棒であるドライグに不名誉な二つ名が付かないように明日から鍛練を頑張ろう。そう誓うしか、ドライグを慰める方法が今の俺にはなかった。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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