臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
「
アイズとベルの一日鍛練に飛び入り参加した日の翌日、いつもの噴水広場で俺たち三人が揃ったところでベルが冒険者依頼を受けたと話してきた。依頼人はナァーザ・エリスイス、派閥は【ミアハ・ファミリア】でこの人は俺も記憶がある。アニメで【アポロン・ファミリア】からベルを助けるために弓矢で狙撃したキャラクターだ。
俺たちと合流する前にナァーザさんとのやり取りで冒険者依頼を受ける経緯を聞いたあと、リリは珍しそうに次のように述べた。
「珍しいですね。いくら派閥繋がりで懇意にしているとはいえ、下級冒険者の方に直接冒険者依頼を発注してくるなんて」
「そういうものなの?」
「俺もその辺りはエイナさんにまだ詳しく聞いてないな。どうなんだ、リリ?」
「はい。ものにもよりますけど【ファミリア】関連の冒険者依頼は上級冒険者の方々が受ける内容であるが常です」
なるほど、リリの説明通り『冒険者依頼』は上級冒険者たちが受ける内容が普通であれば下級冒険者である俺たちにはまだ縁のなかったはず。だから、エイナさんは『変な冒険者依頼に引っかかっちゃ駄目だ』と注意をしてくれていたのだろう。下手な依頼で金に目を眩ませてしまえば命がいくらあっても足りないだろうからな。
しかし、それならば何故ナァーザさんはベルに直接冒険者依頼を発注したのだろう? リリの説明とナァーザさんの行動に矛盾が生じてしまっていることを疑問に思っていると、リリがベルが持っている依頼書を確認しようとするので便乗して見せてもらうことにした。
「ちょっと見せて頂けますか?」
「俺にも見せてくれ」
「あ、うん………」
依頼書を受け取ったリリの隣で依頼書を見る、すると聞き覚えのあるレアモンスターの名前とそのレア素材の名称が書かれていた。
「……『ブルー・パピリオの翅の収集』、ですか。……うーん、まぁ確かにこの程度なら、LV.1 の方にも依頼を出してもおかしくないですが……」
「なぁ、ベル。もしかして、いいように利用されてるんじゃないか? 貰える報酬の確認もしてないんだよな? 」
「報酬は………まぁ、うん………」
「個人的に、面倒ごとを押し付けられているように感じるのは俺だけか?」
「いえ、リリもそう思います。………しかも安上がりで済むように」
依頼書を読んで、確認して思ったことを冒険者依頼を受けたベルへと訪ねると、当の本人は歯切れの悪い返答をする。
「そ、そんなことは………神様同士も仲がいいし………」
「そういった馴れ合いが、人の判断を鈍らせることは多いです。詐欺師の常套手段ですよ」
「さ、詐欺師って………!?」
「あくまで例えです。そういったこともあるということです」
自分も俺たちと出会う前の冒険者たちにやってきたからなのか、ナァーザさんの方法にリリは当たりを付ける。所謂、同族嫌悪というやつだろう。
ベルは、リリの話を聞いて冷や汗を流しながらわざとらしく話を変えた。
「え、えっとさ。そもそも、冒険者依頼って何なのかな?聞いたことはあるような気はするんだけど………」
「ベルはエイナさんから変な冒険者依頼を受けないように注意されなかったか?」
「うん、されたよ。でも、ずっとダンジョン探索に没頭してたからケンマと同じで詳しくは聞いてないんだ」
「確かに、これからお二人に一切縁のない話、という訳ではありませんし………そうですね、今日一日は冒険者依頼に関して時間を費やしてみましょうか」
「えっ、でも………」
「それにちょうどいい機会です。ベル様はこの頃、
「!!」
リリが放った最後辺りの言葉を聞いたベルは、反射的に俺を見る。その行動に昨日のアイズとの鍛練を「リリに話したの?」と言いたげにさっきよりも勢いのある冷や汗を流している。
なので、左右に首を降って否定する。バレているのであれば、合流して早々にベルを問い詰めているはずである。
「たまには休息も必要ですよ、ベル様? 今日は息抜きがてらということで、この冒険者依頼を引き受けてみましょう」
「………そう、だね。そうしよっか」
「それじゃあ、『ブルー・パピリオ』を求めてダンジョンに行くか?」
冒険者依頼を受ける方向で矢印が向いたのでダンジョンへと向かおうとするとリリが違う場所を目的地に指定する。
「いえ、ダンジョンではなくギルドへ向かいます。後学のためにも、少し冒険者依頼のことを勉強した方がいいと思います」
「よし。なら、ギルドに行こうぜ」
○●○
ギルドに向かう途中にある北西のメインストリート、別名『冒険者通り』を歩いていると早速リリが冒険者依頼についての講義を初めてくれる。
「冒険者依頼とは、簡単に言ってしまえば、冒険者に対する依頼の総称です。依頼人と呼ばれる方々が抱える様々な問題を、冒険者に解決してもらう、という解釈をしてもらえればそれで。依頼人側は依頼の内容に見合った報酬を用意して、冒険者側は冒険者依頼をこなした見返りとしてその報酬を収めます」
その辺りは、前世のゲームやラノベと変わらないな。ベルも似たような考えがあるようで、それが合っているのかをリリに訪ねていた。
「えーと、それって、【恩恵】を授けてくれる神様と僕たちとの関係みたいな………?」
「ええ、神様たちの言葉を借りるなら、『ギブアンドテイク』というやつですね」
まだ時間帯が朝早いためか、ダンジョン探索に向かう前の冒険者たちがギルド本部やそれぞれの道具屋に立ち寄り、身支度を揃えてるのがチラホラと見受けられる。
そんな冒険者たちの中で、美しい衣装と防具に包まれた女性エルフのパーティーに鼻を伸ばしていたベルは、リリに太もものあたりをつねられていた。
それを見ていて、俺は内心で「リア充爆!!」と思っていたのは悪くないと思う。
「このオラリオで典型的な冒険者依頼の例を挙げますと……力のない依頼人に代わって、冒険者がダンジョンの奥深くに潜り資源を回収してくる、といったところでしょうか」
「何だか如何にも冒険者が受ける依頼って感じだな」
「だね。
「ふふ、そうですね」
冒険者たちの波に乗るように移動していた俺たちの前に、綺麗な白色の石材で作られた見慣れた巨大な建造物が現れる。ギルド本部である。
ギルド本部の中へと入ったら、受付ではなく冒険者たちが集まっている大きな掲示板の前で足を止める。
「冒険者依頼は多くがギルドを介して掲示されています。これが今、発注されている冒険者依頼の一覧ですね」
「ここの張り紙が全部………えーと、『ヘルハウンドの牙×一◯、収集求む』………『24階層・宝石樹の実と以下の報酬を交換したい』………『階層主討伐・臨時パーティー募集。注・加入条件LV.3 到達』……」
「どれも俺たちじゃあ死んじまうような依頼だな………」
ベルが読み上げた依頼の内容に俺は頬の引きつりを隠せない。一つも禁手に至っていない今の俺では、《エクス・デュランダル》があるとはいえどBAD ENDの血塗れ文字が脳裏に浮かび上がる。
他にも掲示板に張られている依頼は、リリの言うとおりどれもこれも上級冒険者向けの冒険者依頼だらけであった。俺たちが受けられるとしたら『オークの皮×三◯枚採取』が関の山だろう。
「ご覧の通り、ダンジョン絡みの冒険者依頼は、ほとんどが『中層』以下の階層が対象になっています」
「どうして『上層』への依頼は少ないの?」
「並みの【ファミリア】や冒険者なら、大抵は自分たちだけで辿り着けるからですよ。よっぽど冒険者に向いていない限り、パーティーを組んで慎重に時間さえかけていけば、上層の7階層くらいまでは踏破できます」
確かに時間と人数を賭ければそれだけ安全に階層を踏破できる。けれど、中層からはそうは行かないために冒険者依頼が中層へ偏りがちなのだろう。
「ただしギルドに張り出されているのは、【ファミリア】や商人が依頼人に回っている………所謂冒険者たちにとっても魅力的に映る冒険者依頼だけです」
「え?」
「なるほど、そういうことか」
「つまり、きちんとした報酬が確約されていて……何より信用があります。裏を返せば胡散くさ~い冒険者依頼というのもする、ということです」
胡散臭い冒険者依頼とは前世でいうところの裏バイトやブラック企業だろう。ラノベとかではよく出てくるが、ゲーム等はメインストーリーを進める時以外には出てこないので、実際に聞いてみると珍しく感じてしまう。
そんな感想を抱いているとリリが再び移動を始めたので、追いかけるとその行き先はギルドの外だった。
「依頼人の名前が伏せられていたり、依頼の内容がど~もきな臭かったり」
「……えっと、報酬を踏み倒されちゃったり。とか?」
「場合によっては、納品物にいちゃもんを付けられてギルドで売れる値段よりもかなり安い値段で買い取られたりとかな」
「あ、鋭いですね、お二人とも。察しがよろしくなって、リリは嬉しいです。ちなみにリリもその手口をやったことありますよー」
「あんのかよッ! 今の話しの流れから普通は『ない』と答えるのがお約束じゃないのか!?」
「とにかく、ギルドにも認められていない信用度の低い依頼だったり、後は一般人からの依頼は、街中の酒場に集められます。そういったものは、あらゆる意味で、一癖も二癖もある冒険者依頼がほとんどです」
ギルドを出て次に向かったのは、北西のメインストーリー沿いに建てられている一軒の酒場の前。何でも、この酒場を経営しているのはアニメや前世の情報サイトにも載っていなかった名も知れない【ファミリア】で、ギルドとは別に冒険者依頼────非公式の依頼を斡旋している場所らしい。
めちゃくちゃ異世界感満載である。
こういった酒場の【ファミリア】は訪れる客からの情報収集も盛んで、情報屋として冒険者依頼の仲介料や仕入れた情報を売って【ファミリア】を経営しているとのこと。上手いこと考えるものだ。
「な、なるほど………」
「要するに、です。ギルドを介していない冒険者依頼は、痛い目に遭いたくなければ手を出さないことをお勧めします。……例え、仲の良い【ファミリア】からの直接頼まれたものでも」
「えっと……でも、今更断るのも……」
「だからベル様はお人好しと言われるです。リリが言えたことではありませんが、甘いところに付け込まれて、すぐに騙されてしまいますよ」
そう注意されているベルも自覚してきたのか苦笑いを浮かべている。そういう俺もアニメの知識がなければリリに騙されていた可能性を否定でいないので今日のことはしっかり記憶に刻んで置くことにする。
「まぁ、リリの目の黒い内は、ベル様をあらゆる欺瞞からお守りしますからご安心ください」
「あれ?リリ、俺は?」
「ケンマ様は、リリのことを見抜くほどの観察眼をお持ちなのでリリがお守りする必要はないと思います」
「あ、そう………」
ここに来て、アニメ知識が裏目に出てしまった。
「さて、冒険者依頼の基礎知識もこれくらいにして、そろそろ本題に入りましょう」
「ベル、依頼書を見せてくれ」
「あ、うん……」
俺たちは、再度依頼が書かれた羊皮紙を読み返して、冒険者依頼の内容をしっかりと把握する。依頼内容の中で一番厄介なのは、やはり『稀少種』であるブルー・パピリオの翅である。
「ブルー・パピリオってさ、あれだよね? 『稀少種』って呼ばれてる……」
「ええ。出現階層は『上層』ですから、今のお二人にとっては危険はありませんが………見つけ出すには骨が折れるかしれません」
「だよね………」
「だよな………」
もしも、ベルがこの時点でLV.2 にランクアップしていれば『幸運』の発展アビリティで都合良く見つかるのではないかと過ぎったが世の中そんなに甘くはない。
そこまで考えたところで、あることを思いだす。それは、《真のエクスカリバー》に統合された七振りの一本である《祝福の聖剣》、これは前世の情報サイトでは信徒に幸運を授けるとあったが持ち主にも幸運を授けるのであれば、それを利用すれば簡単にブルー・パピリオを見つけられるのではないかという安直な考えが浮かび上がる。
一か八か賭けに近い思考を巡られていると、俺たちの不安を振り払うかのようにリリはにっこりと微笑みかけながらこう続けた。
「ご安心ください、ベル様、ケンマ様。リリに考えがあります。少し準備をして、それからダンジョンに向かいましょう」
この自信の有り様のリリを見て、ベルに好感度が高くなるように仕向けたの失敗だったかなとゲスい思いが浮かんだが直ぐにそれを消す。
でないと、せっかくこの世界で友人になってくれたベルにもリリにも失礼でしかないからだ。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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