臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第三十三話

 

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

「すみません。こんにちはー」

 

 

中央広場から西のストリートへ出て、路地裏にある【ミアハ・ファミリア】のホームに俺たちは冒険者依頼の『ブルー・パピリオの翅』を納品するべくやって来た。

 

そして、カウンターでベルが声をかけると奥にいたナァーザさんが入り口から入った俺たちを見て、眠たそうな半目を軽く見開く。

 

 

「……ベル? もしかして、もう冒険者依頼をやって来てくれたの?」

 

「はい。ちょうど今、終わらせてきました」

 

 

納品物である『ブルー・パピリオの翅』が入ったちょっとした盾ほどある包みをベルがカウンターに乗せ、中身を見せるとナァーザさんは瞼を数回パチパチと閉じたり開いたりしたあと、直ぐに嬉しそうに口元を緩める。それに伴って、尻尾も動いていた。

 

 

「ブルー・パピリオの翅、五枚です」

 

「ありがとう、ベル……やるね、すごーく見直した」

 

「い、いやぁ………」

 

「ベルはできる子だって信じてたよ………」

 

 

素直に褒められて照れているベルとベルの頭を撫でるナァーザさんを見て、イラッとしたのでここはヒロイン枠であるリリに対応して貰おうとアイコンタクトを送る。

 

 

(なぁ、リリ。あれを放っておいていいのか?)

 

(よくありません!それに報酬もまだ頂いてませんから!?)

 

(んじゃあ、頼むわ)

 

(任せてください!)

 

 

別に念話が使える訳ではないがアイコンタクトでこのような会話をしていたであろうと思いながら、リリの行く末を見守る。

 

 

「お取り込み中すみませんが、そろそろ品物と報酬を交換しませんか?」

 

「………そうだね。少し待ってて………」

 

 

にっこりと邪気のない営業顔したリリに促されると、ナァーザさんは素直に頷いてからカウンターの裏へと回った。

 

そして、残されたベルはリリにお叱りを受けている。

 

 

「ベル様、あまりデレデレしないでください」

 

「で、デレデレしてる訳じゃあっ………」

 

「いいですから、覚えていてください、しっかりと報酬を頂くまでが冒険者依頼ですよ」

 

「……えっ?」

 

 

どうやら、ベルは既にギルドでリリから教えてもらった冒険者依頼の講義を忘れているようだ。ナァーザさんはアニメでもベルを助けてくれていたので悪い人ではないことは俺もわかっているが、それは所詮アニメのワンシーンでの出来事。今は現実として、捉えている俺は少なからず初対面であるナァーザさんを警戒している。

 

さすがに戦闘行為には発展しないだろうが、何かあるかもしれない。その何かとはなんだと訪ねられても答えられないのが厳しいところである。

 

ほどなくしてナァーザさんは一つは二段の木箱を抱えて戻ってきた。

 

 

「おまたせ………これが報酬………回復薬二ダース」

 

「に、二ダース!?」

 

「手間賃も込みで」

 

 

二ダースの回復薬、計二十四個分の回復薬が入った木箱を差し出されてベル思わず叫ぶが、俺はその回復薬を見て、より一層警戒心が強まる。

 

それは、リリも同じであった。そのため、何の警戒もせずに回復薬擬きに手を付けようとしたベルの手をリリが止める。

 

 

「あ、ありがとうございます……! じゃあ翅を………」

 

「少し待ってもらってもいいですか、ベル様」

 

「り、リリ………?」

 

 

リリはすうっと自然な流れでナァーザさんが持っている木箱から回復薬擬きが入った一本の試験管に取る。その試験管には青い溶液が詰まっていたが、その溶液の色を見て、俺の警戒心は確信へと変わった。

 

 

「失敬しますね。代金は後で払いますので」

 

「えっ、ちょっ………」

 

「いや、その必要はないぞリリ。本物の回復薬なら俺が持ってる」

 

 

回復薬擬きの中身をリリが確かめようとしたので静止させてからレッグホルダーの中にある【ディアンケヒト・ファミリア】謹製の本物の回復薬を見せる。

 

すると、俺の回復薬とナァーザさんが持ってきた回復薬擬きの溶液の色の濃さが違うことに犯人であるナァーザさんも理解したのか顔色を悪くさせる。

 

 

「明らかに俺が持ってる回復薬とリリが持ってる回復薬の色の濃さが違う。どういうことか、説明してもらえますか?」

 

「き、キミのは高級回復薬なんじゃ、ないかな………」

 

「あくまでも誤魔化しますか………それなら仕方ない。悪いけどリリ、ベルと一緒にこの回復薬とその回復薬を比べてくれ」

 

「わかりました、ケンマ様」

 

 

俺が本物の回復薬を受け取ったリリは、指示通りにベルと共に回復擬きと比べて始める。まずは色、この世界には着色料がないことは『豊饒の女主人』のところで確認済みである。そのため俺の回復薬の方が色濃く、ナァーザさんの回復薬擬きの方が色褪せている。

 

次に味、二人は手の甲にそれぞれの溶液を一滴落として確かめる。すると次の瞬間。

 

 

「──ふふっ、このポーションが五◯◯ヴァリスですか? ぼろい商売ですねぇ、いやはや羨ましい限りです。これ、もとの溶液を薄めてらっしゃいますよね? これでは効能も半分以下でしょう。回復薬特有の甘味も調味料で誤魔化しているようですし、ええ、全くよくある手口です」

 

 

無垢な子供を装いながらリリは怒りを滲ませながらそう言った。

 

 

「精々二◯◯ヴァリスがいいところです。随分と今までぼったくられていたんですねぇ、ベル様。───勿論、今回の報酬にもこれっぽっっっちも見合いません」

 

「あ……え……?」

 

「…………」

 

 

未だにベルは騙されていたことに困惑しているが、ナァーザさんには最早弁明の余地はない。

 

 

「さぁ、お前の罪を数えろ!」

 

「さぁ、どうやって落とし前をつけてくださるんですか?」

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

とまぁ、某ハードボイルド探偵の台詞をナァーザさんに放ったあと、このあらましを彼女の主神であるミアハに説明ならびにベルの主神であるヘスティアも呼び出した。

 

 

「すまんっっ!!」

 

 

そして、橙色の西日が窓から差し込む今、ミアハはナァーザさんを無理矢理頭を抑えて腰を折らせ共に深く頭を下げながらベルに謝罪した。

 

 

「私の監督不行き届きだ、本当にすまん、ベル! 今まで騙し取っていた金は全て返そう!」

 

「あ、いや、ミアハ様、大丈夫ですから、そろそろ頭を………」

 

「すまぬ……。ヘスティアも、迷惑をかけた。そなた達の懐から金を詐取するような真似を……」

 

「まぁ、過ぎたことはしょうがないからなぁ。もうこんなことが起こらないようにして、けじめをしっかり付けてくれよ。ミアハにはいつも助けてられているし、それでちゃらにしよう」

 

 

さすがにそれは優し過ぎるのではないかと思うところがあるが、被害にあったのはベルとヘスティアだけで俺とリリには何の被害がないため、今は口を出すことはしない。

 

 

「うむ、約束しよう………」

 

 

ミアハがヘスティアに固く約束すると、次に隣にナァーザさんへ何故このようなことをしたのかを問い詰め始める。

 

 

「………ナァーザ、何故こんなことをした!? 答えよ!」

 

「……【ファミリア】の帳簿はずっと火の車状態……何も知らない兎はいい鴨だった」

 

 

その発言に空気が凍結した。それに伴って俺の堪忍袋の尾が切れかかり、怒りで身体からオーラが溢れ出る。俺のオーラに耐えかねた窓や床、家具などに亀裂が走る。その現象を目にした皆、特にナァーザさんは俺に対して恐怖の対象を見るような眼差しをしていた。

 

 

「わりぃ、神ミアハ。家具の弁償はあとでする。ちょっと外の空気を吸ってくる。リリには悪いが、俺のいない間の話はあとでまとめて聞かせてくれ」

 

「そ、そうか………」

 

「わ、わかりました………」

 

 

【ミアハ・ファミリア】のホームを出て、宛もなくぶらぶら街を周りながら冷静になることを努める。幸い、あの場でナァーザさんを殴り付けにいかなかったということはまだ冷静だったのだろうと安心する。

 

けれど、この世界で唯一の友と言ってもいいベルを理由はどうあれ然も騙して当然のような言われようをするとグツグツとした怒りが腹の底から沸き上がってくる。

 

 

「アニメじゃあ、あんなにベルを助けてくれるのに実際はベルを騙してるだなんて………」

 

 

どこかで思っていた。アニメや原作のキャラクターはそのまま異世界でも同じように反映されてるのだと。しかし、それは勘違いだと知った。

 

俺が知っている彼ら彼女らは創造が生まれた存在。けれど、今、俺の目に映って、動いて、喋っている彼ら彼女らは一人の人間なのだ。けしてキャラクターなのではない。

 

 

「まだ価値観がズレてるのか…………はぁ、憂さ晴らしでもするか」

 

 

未だに晴れぬ怒りを抱えながら北西ストリートから市壁の上と向かった。今からやるのは完全な自己満足の憂さ晴らしで、後先など考えていなかった。

 

 

「ブーステッド・ギア」

 

『Boost!!』

 

 

ブーステッド・ギアを展開して、倍加を溜める。

 

 

「なぁ、ドライグ」

 

『なんだ相棒』

 

「今の俺が使える倍額の限界ってどのくらいかわかるか?」

 

『今の相棒なら一度の倍加限界は約三十六回といったところだろう。ブーステッド・ギアが目覚めて、二週間でこれほど倍加に耐えられるのは滅多にいなかった』

 

「それは、エルシャやベルザードを含めてか?」

 

『いや、あの二人はやはり別格だろう。エルシャはブーステッド・ギアが目覚めて一週間で禁手に至った。ベルザードに関しては三日だぞ。そんな奴らを比べるのは無理がある』

 

「一週間に三日………どんだけ才能の塊なんだよ歴代最強の二人は………」

 

 

原作でも明記されなかった歴代最強の赤龍帝が禁手に至った日数を聞いて思わずげんなりしてしまって、さっきまでの怒りが半分以下になってしまった。

 

 

『Boost!!』

 

「そろそろいいかな」

 

『Explosion!!」

 

 

いきなり限界の三十六回まで倍加をするのではなく、十二回の倍加で止める。下手に限界まで倍加して体力切れで倒れてしまっては【ミアハ・ファミリア】で待っているベルたちに心配をかけてしまう。

 

そして二の十二乗されたアホみたいな力を魔力に込めて、天へとぶちまける。

 

 

「撃龍拳」

 

 

ブーステッド・ギアが装着されている左腕から打ち出した撃龍拳は十二回分の倍加の恩恵を受けて、前世でいう高層ビルほどの巨体になりながら空気を振るわせるほどの雄叫びを上げて空高く飛んでいった。

 

そんな巨体になれば、街の人間たちに見つかるのは必然的であり、またそれを見た民間人や冒険者たちから悲鳴が聞こえてきてしまった。そして、その悲鳴で自分で何をやらかしたのか今更ながらに冷静に捉えることが出来た。

 

 

「ってやべっ!? なにやってんだよ、俺!!」

 

『怒りのあまり、自重しないで倍加ありの撃龍拳を使っていたぞ』

 

「わかってる!自分でも普段やらなそうなリスキーなことを仕出かしたことは理解してるって!?」

 

 

自分でもこんなに短気な性格だっただろうかと、自問自答しながら慌てて市壁の上から逃げる。その動きだしが幸いしたのか、先ほどまでいた場所には既に【ガネーシャ・ファミリア】の冒険者が集まり初めていた。

 

普段からあれこれと予測を立てながら神器の運用には細心の注意を払っているつもりだったが、今回はめちゃくちゃ失敗してしまった。

 

倍加の効力が残っているうちに【ガネーシャ・ファミリア】の冒険者に捕まらないようにしながら何とか【ミアハ・ファミリア】のホームへと帰ることに成功する。

 

 

「ただいま」

 

「あっ、ケンマ様が戻られました!」

 

「ケンマくん、無事でよかった!さっき聞いたこともないような化け物の雄叫びが聞こえて心配してたんだよ!?」

 

「そなたが無事でよかった………」

 

 

【ミアハ・ファミリア】に帰ってくるや否や、なかいる皆に凄い心配されてしまった。その原因は間違いなく、俺が放った撃龍拳である。

 

なので、心配かけてしまったことに心苦しく思いながら感謝の言葉を述べることにした。

 

 

「心配してもらってありがとうございます。今は【ガネーシャ・ファミリア】の冒険者たちが原因を確かめているみたいです」

 

「そうか、ガネーシャの子供たちが………なら、時間の問題かな」

 

「そうだな。民衆を大切にしているガネーシャの子供たちであれば心配はいらんだろう」

 

 

俺の憂さ晴らしでご心配とご迷惑をかけてすみません、と届くことはないけど心の中で謝罪しておくことにした。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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