臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第三十五話

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

ナァーザさんの悲惨な過去を聞いてから更にしばらく馬車に揺られたあと、ようやく目的地である『セオロの密林』へと到着した。

 

 

「こ、ここが………」

 

「『セオロの密林』」

 

「へぇ~、密林と言うだけはあるなぁ」

 

 

目の前の密林に圧倒されながら俺たちは準備を進める。各自それぞれ荷物を背負い、金で雇った御者は安全のために密林から離れた場所で待機しているように指示を出してから俺たちは密林の中へと足を踏み入れる。

 

 

「えっと………モンスターの『卵』を、取りに行くんですよね?」

 

「そう、ドロップアイテムとは違う、モンスターの『卵』………」

 

 

行きの途中ずっと気になっていた冒険者依頼の『卵』は、モンスターの『卵』であることは道中で聞かされたので今になっては驚きはしない。

 

しかしだ。その肝心モンスターがどういった姿で、どういう行動をしてくるモンスターなのかは聞かされていない。未だに不安が残るので今の内に【プロモーション】の魔法を使用しておくことにした。

 

 

「【プロモーション・クイーン】」

 

 

魔法を使用すると、下界に降りてきてからオラリオ街から全く出たことがないヘスティアがダンジョン以外にもモンスターが生息していることに驚きを示していた。

 

 

「話には聞いてたけど…………ダンジョンの外だと、本当にモンスターが卵を産むんだねぇ」

 

「普段、モンスターがダンジョンの壁から産まれるのを見てると、余計に…………」

 

「ええ、何というか違和感が………」

 

「同じく………」

 

 

知識としては、前世で見た『劇場版 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか ──オリオンの矢── 』で知っていたがこの世界に転生して約三週間、毎日のようにダンジョン探索をしているとダンジョンの外にいるモンスターたちに違和感を覚えてしまう。

 

例えるならば、海の魚介類が山にある渓流で泳いでいるようなものだろう。

 

それからしばらく俺とベルを先頭に隊列を組みながら密林の奥へと進んでいるとナァーザさんから呼び止められる。

 

 

「…………ベル、イシグロ、二人とも止まって」

 

「は、はい」

 

「わかった」

 

 

呼び止め通りにその場に止まると、ナァーザさんから冒険者依頼の目標であるとあるモンスターの『卵』がある巣が近いことを知らされ、そのままナァーザさんは俺たちへ指示を出す。

 

 

「そろそろ、あいつらの巣…………ミアハ様とヘスティア様はここに残ってもらって、リリルカは護衛。お願い」

 

「分かりました。お任せください」

 

「ベルとイシグロは、これを持って、こっち………」

 

 

身を低くしながら窪地へと近いていく中、ナァーザさんが運んでいた装備品が分配される。ベルには、古臭い大剣が一振と何かが入ったバックパック、俺は何かが入ったバックパックだけ。差別かな?

 

 

「大剣とバックパック………?な、何に使うんですか、これ?」

 

「これくらいかイシグロのみたいな武器じゃないと、あいつらにはきついと思うから………そのバックパックは背負っておいて」

 

「あいつら…………?」

 

 

俺の持っている片手剣やベルが渡された大剣でないと相手をすることが出来ないモンスター。つまり、普段ベルが使っているナイフや短剣では武器のリーチが足らないモンスター。その情報から浮かび上がってくるのは、大型モンスターである可能性。

 

俺たちが相手してきた大型モンスターといえば『オーク』くらいな物で他はいえば、『怪物祭』で相手にした『トロール』くらいだ。そんな訳で今までに相手取ったことのない未知のモンスターと戦うのではないかと思った俺は慌ててブーステッド・ギアを具現化。

 

 

『Boost!!』

 

 

するとナァーザさんは俺たちが背負っているバックパックの紐を解き始めた。

 

 

「───今、バックパック、解放」

 

 

封を解き放たれたバックパックからは、どこかで嗅いだ覚えのある異臭が俺たちの鼻を襲う。

 

 

「うっ!? この臭い………!?」

 

「間違いねぇ…………10階層でリリが使ってたモンスターを誘き寄せるためのアイテムだ。ってことは───」

 

「じゃあ、頑張って、二人とも。ごめん」

 

「な、ナァーザさん………!?」

 

 

ベルが困惑気味に彼女の名前を呼ぶや否や、ナァーザさんは既にこの場から離脱していた。さすがはLV.2 とでも褒めるべき物音を立てずにあらよあらよと樹木と樹木の間をパルクール選手のようにすり抜けていく。

 

そして、背後から悪寒と生暖かな吐息が首元へと吹き掛けられて、古びた錻のごとくギギギと軋むようなイメージでゆっくりと振り向くとそこには紅色の外皮をした二足歩行で立っている巨大なサイがいた。

 

 

「………へっ?」

 

「………はっ?」

 

『ゥゥウ………』

 

『Boost!!』

 

 

巨大なサイみたいなモンスターと目が合うと、やつの口元からは大粒の唾液がボタボタと溢れて地面に小さな唾液溜まりを作り上げていた。

 

壮絶な勢いで血の気を失う俺たちは、まるでミノタウロスに追いかけられて死にかけたあの日の再現のように叫びながら脱兎の如くその場から逃げ出す。

 

 

『オオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

「ほぁああああああああああっっ!?」

 

「うほおおおおおおああああっっ!?」

 

 

モンスターの咆哮と俺たちの絶叫が重なり合う。

 

背後から迫ってくる重量感のあるドスン──ッ! ドスン──ッ!という足音は本当にミノタウロスを彷彿させるには十分だった。

 

 

「おっ、大型級モンスターじゃないですかあああああっ!?」

 

「やっ、やっぱり大型モンスターじゃねぇかあああああっ!?」

 

 

逃げる。只管、俺たちは逃げる。

 

見たこともない大型モンスターに恐怖を煽られながら俺たちは兎に角、必死に逃げ続ける。しかし、モンスターは執拗まで俺たちを追いかけてくる。無論、その理由は俺たちが背負っているバックパックの中にある餌である。それを背負っている限り、モンスターは永遠に俺たちを追いかけてくる。

 

 

『情けないぞ、相棒。あの程度の雑魚共に何を恐れる必要がある』

 

「ふざけんな、ドライグ!どう見ても俺たちみたいなひよっこの駆け出し冒険者が相手できるモンスターでもないし、数でもないぞ!?」

 

『心配するな。今の相棒なら、あの程度など軽く流すくらいでも倒せる。それともずっと逃げ続けるのか? お前は、イッセーを越えるのではないのか?』

 

「ッ…………」

 

 

そうだ。俺はイッセーを越える。それに二~三日もすればミノタウロスの強化種と殺し合わないといけないんだ。こんなところで逃げているようでは、強化種のミノタウロスから生き残れないし、憧れを越えることなんて到底できない。

 

ならば、どうする?

 

 

「立ち向かうしかねぇだろう!」

 

「け、ケンマなにをっ!?」

 

 

逃げていた足を反転させて走り出しながら魔剣を抜き、何回溜めたか分からない倍加を解放する。

 

 

『Explosion!!』

 

「信じてるからな、ドライグ!!」

 

 

ドライグの言葉を信じながら俺はモンスターの群れを突貫する。

 

 

「うおおおおおおッ!!」

 

 

大型モンスターはその巨体故に動きが鈍い代わり攻撃が重く威力が高い。そのため俊敏に動けば攻撃にあることはない。しかし、それは適切LV. や基本アビリティが拮抗している場合が主である。

 

それでもドライグの言葉通りであれば、今の俺でもあのモンスターの群れを倒すことは可能。そして狙うのはモンスターの足首辺り、二足歩行ならば人間と同じでアキレス腱を切られれば動けなくなる。

 

 

「シッ!」

 

『グギャアアアァァァッッ!』

 

 

倍加と【プロモーション】で強化されている一撃は、モンスターの足首をバターを切るかのように容易く切り落とした。足首ごと切り落とされたモンスターは、体重を支えることができなくなり、バランスを崩して転倒。それに躓いた後続たちもゴロゴロと転倒していく。

 

それを見て好機だと思った俺は、ベルに呼び掛ける。

 

 

「ベル、今ならやれる!魔法で援護を頼む!」

 

「わ、わかった!【ファイアボルト】ッ!!」

 

 

それからはナァーザさんも弓矢で援護に加わり、俺たちはモンスターの群れを撃破し続け、途中ではベルも大剣で俺たちを追いかけて回していたモンスターを相手取るようになった。

 

やがて、モンスターの群れを一通り撃破し終わると俺とベルはその場に座り込んで大きく息を吐く。

 

 

「「ふぅ…………」」

 

 

ダンジョンでもないのに、こんな乱戦になるとは思ってもいなかった。多くても五~六匹くらいだと思っていたところをまさか二桁も倒すとは予想外だった。

 

大分、荒れていた息が整うとベルがナァーザさんへ目的の『卵』を十分手に入れたのかを訪ねる。

 

 

「もう…………大丈夫ですか?」

 

「うん………帰ろう、二人とも」

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

セオロの密林に生息するモンスターの『卵』を入手した俺たちは、オラリオ街に戻るや即座に【ミアハ・ファミリア】にて新薬の開発に駆り出された。

 

そして、予定通り新薬が完成して【ディアンケヒト・ファミリア】へと売り出しに行くと結果はこの通りであった。

 

 

『あぁっ!ムカムカして仕方ないっ! こうなったら…………お外走ってくるぅうううううう!』

 

 

【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院からその叫びと共にディアンケヒトが駆け出して行くのを目の当たりにして新薬は成功したのだと確信した。

 

 

「先程の叫び声………上手くいったようですね」

 

「大儲けの機会をつっぱねるほど、あの爺も馬鹿じゃない。私たちに嫌がらせはしたいだろうけどね……ざまぁーみろ」

 

「いやぁ、それにしても疲れたぁー。一日中動き回りっぱなしだったよ。新薬開発の助手なんて、安易に引き受けるもんじゃないね~」  

 

「あはは……でも、本当によく作れましたね。あんな土壇場で新薬なんて」

 

 

ベルの言う通り、切羽詰まっていると何かしら作業でミスを犯したりするものだが今回はそんなことはなかった。

 

 

「オラリオの人間はダンジョンばかりに目がいって、都市の外の可能性を知ろうとしない……『ブルー・パピリオの翅』と『ブラッドサウルスの卵』………ダンジョン内外の素材が揃って、初めてできるものだってある」

 

「それなら新薬の製法がちょっとやそっとではバレることも低いな。ある意味、灯台もと暗しか」

 

「もっと外に目を向ければ、沢山の発見がある筈」

 

「僕には思いもつきませんけど……」

 

「そんなことはない……きっと、この先ベルが見つける発見も、沢山あると思う」

 

「もしもベルが見落としそうになったら俺やリリが見つけてやるよ。なぁ、リリ」

 

「そうですよ、ベル様!」

 

「うん………ベルたちなら大丈夫」

 

 

和気藹々と喋っていると新薬の売買契約の話が終わったミアハが俺たちの下への帰ってきたことにヘスティアが気が付く。

 

 

「あ、ミアハ。終わったのかい?」

 

「うむ、話はつけてきた。改めて礼を言わせてくれ。これもそなた達のおかげだ、感謝する」

 

「少しは借りを返せたようで、何よりだよ」

 

「頑張ったかいがありましたね」

 

 

ミアハがホームから追い出されることもなくなったと説明すると俺たちは微笑み合い喜びを分かち合う。

 

そんな俺たちを一瞥したミアハは、今度はナァーザさんと対面する。

 

 

「ナァーザ」

 

「はい………」

 

「昨日、お前は自分のことを役立たずと言ったな」

 

「……はい」

 

「私は、ただの一度もそう思ったことはない」

 

 

ミアハの言葉に、ナァーザさんは眼を見開きながら驚く。

 

 

「神である私はお前に何度も救われている。例え以前よりも貧しき身に成り下がっていようが………私は、お前のおかげで満たされている。だから、自分をもう決して責めるな」

 

「……それは、命令ですか?」

 

「いや、懇願だ。子を誰よりも想う神の、心からのな」

 

「………鈍感」

 

「どうした、ナァーザ?」

 

 

思わずナァーザさんの呟きに同意してしまう。今のは完全にナァーザさんに告白して恋に堕せた流れだったのに、何故ラノベ主人公みたく鈍感属性をここで出してくるのか理解し難い。

 

それは俺だけでなく、ヘスティアとリリも同意のようだ。

 

 

「あ~ぁ。ミアハ、ホントにキミってやつは天然だよなぁ?」

 

「そうですよっ。男神様って、こんな方ばかりなのですか?」

 

「まぁ、少なからずいるね。ミアハとかタケは、特にだけどねー」

 

「そなた達、一体なんの話だ?」

 

 

本当に分かってねぇな、このクソボケ神は。ナァーザさんが可哀想だ。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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