臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideフィン〉
今、僕たちは未知の力を目の当たりにしている。
ケンマの身体が迸る摩訶不思議な青と白が混じった光、その光には神々が極稀に見せる神威に近しいがそれでいて別な何かで他にも赤いドラゴンを彷彿とさせる光に僕は困惑する。
そして一度その光が止むと、ケンマが装備している赤い籠手から男性のような声が鳴り響くと彼の姿が一瞬にして消えた。
『Boost!!』
『Explosion!!』
「フッ!」
「は?」
ありえない。自慢ではないが僕はLV.6 で、それなりに強い冒険者だと自負しているつもりだ。なのに、LV.1 であるケンマの動きを全く視界で捉えることが出来なかった。理解が追い付かない未知を感じながら右手の親指が酷く疼く。
僕以外にもアイズ、ティオネ、ティオナ、ベート、リヴェリアなど【ロキ・ファミリア】の名だたる冒険者ですらケンマを見つけることが叶わなかった。
次にケンマが姿を表したのは、片方の角がない青い外皮をした明らかに強化種だと分かるミノタウロスに何回もの斬撃を刻んだあとだった。
『──────!?』
青いミノタウロス自身、己が切られたことに切られた後になって理解したようで驚き、困惑しながら突如膝からがくりと崩れる。それによく見れば、切られた箇所から不自然に煙が生まれている。
なんだ、あの煙は…………?
「悪いけど、今度こそ遠慮なしだ。体は剣で出来ている───トレース・オン!」
煙が気になっていると何処からともなくケンマの声と超短文詠唱が聞こえてくると青いミノタウロスが絶叫を上げたのでそちらを見れば、やつの両目にいつの間にか剣が突き刺さっていた。
『オオオオオオオオッ!?』
「いつ、青いミノタウロスの目に剣を刺したんだ!?」
「あの時のミノタウロス目は、ケンマがやったんだ」
リヴェリアが驚くなか、アイズは懐かしそうに呟いた。しかし、ケンマが使う『魔法』が発動する前兆が全く見えなかった。まるで、最初から青いミノタウロスの目に剣が突き刺さっていたように思えた。
両目を失ったミノタウロスは怒りのまま、闇雲に腕を振るうがそこには誰も居らず、ケンマの姿もない。それを見て僕は、この勝負はケンマの勝ちで終わりだと見切りを付けた。
「残るは………赤いミノタウロスを相手している白髪の彼だけだね」
その直後だった。また男性の声が響く。
『Boost!!』
『Boost!!』
『Boost!!』
『Boost!!』
『Boost!!』
『Boost!!』
ケンマが身に付けている赤い籠手から響く声は、約十秒置きに聞こえてくるようだ。一体あの赤い籠手はどんな能力の魔道具で、どういった方法で手に入れたのか気になる。
「さぁ、クライマックスと行こうぜ!」
『Explosion!!』
先ほどケンマが姿を消した時と同じ言葉が響くと今まで感じ取れなかったケンマの気配がいきなり大きく感じるようになった。その気配の感じはまるで『下層』のモンスターに匹敵するほどで、到底LV.1の冒険者が出せるようなものではないはずだった。
「な、なんだこれは………!?」
「もしかして、これってケンマがやってるの?!」
「なにがどうなってやがる!」
「凄い、ケンマ」
ケンマの気配が爆発的に大きくなったことに驚くのも束の間、今度は強大な魔力の波動を感じる。
「撃龍拳ッッ!!」
『グォオオオオオ!!』
強大な魔力を感じた方へ向けば、ケンマの声と共に見たこともないような真っ赤な飛龍が現れ、青いミノタウロスに向かって低空で飛翔する。
「「「「ドラゴン!?」」」」
両目を潰されて真っ赤な飛龍を捉えることが全く出来ていない青いミノタウロスは、まさに捕食される側、そのためあっという間に真っ赤な飛龍に呑み込まれて残されたのは大きな魔石と青いミノタウロスの角であるドロップアイテムだけだった。
◇◆◇
〈sideケンマ〉
《透明の聖剣》で身を隠しながら『聖剣創造』で青いミノタウロスの両目を奪い、ブーステッド・ギアで六回分の倍加を溜めて、最後に撃龍拳で青いミノタウロスを倒すことに成功した。姿を消せる《透明の聖剣》があるんだから最初から使えよって話なのだが、下手に姿を消し続けて万が一にも二体のミノタウロスがベルを狙うのはさすがにまずいと思ったのであえて使わなかった。
決して、忘れてたりナメプして訳ではございません。因みに、最初から《エクス・デュランダル》で戦っていたからなのか、《祝福の聖剣》の効果で何とドロップアイテムである角が二本もドロップしたのである。
自分の幸運に喜びながら物陰で《エクス・デュランダル》を異空間に収納して、ブーステッド・ギアも解除してから【瞬歩】で魔石とドロップアイテムを回収。回収してから小さく息を吐くと身体の奥で何かが脈動した。脈動が終わると本能的に俺の中にある『聖剣創造』と『魔剣創造』がパワーアップしたのを感じた。
「もしかして、ミノタウロスを倒して精神的に成長したからか?」
理由はそれしか浮かばないが、これでようやく《千本桜》や新たに色々な剣が創造できることだけは理解できる。これはかなり嬉しい。
新たな能力の目覚めた嬉しさを顔に出さないように気を付けながらベルと赤いミノタウロスの戦いがどんな状況なのかを見ると、物凄い激闘を繰り広げていた。
「すげぇ………」
赤いミノタウロスの大剣をベルは《ヘスティア・ナイフ》で反らして捌き、捌き切れないのは転がりながら回避する。アニメ第一期のあのバトルシーンが目の前で繰り広げられているのを見て、手に汗を握ってしまう。
そして、終盤に近付いて行く。
ベルは赤いミノタウロスから奪った大剣を構え、赤いミノタウロスは最後に残された己の武器である角による突進の構え、無言の静寂が訪れる。
ベルの眼差しと、赤いミノタウロスの眼光がかち合ったの合図に互いに駆け出す。
「あああああああああああああああああッッ!!」
『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
真っ向からの勝負、そう誰もが思った。
「───若い」
「馬鹿がッ!」
「駄目です、ベル様ぁ!?」
けれど、アニメの知識がある俺とベルの師匠であるアイズだけは違った。
「大丈夫」
「この勝負、ベルの勝ちだ」
真っ向からの大剣と角が衝突し、耐久力の限界を先に迎えた大剣が持ち手も含めて粉砕される。脅威となる得物を失ったベルを見て、赤いミノタウロスは勝ち誇ったような唸りを上げる。
『ヴヴッ───!』
ベルを仕止めきれていないのにも関わらず赤いミノタウロスは、最後の止めと角で刺し殺しにかかるがそれよりも速くベルが赤いミノタウロスの顎下へと潜り込む。
そして、そのままベルは最後の得物であり、主神から与えられた最も信頼している漆黒のナイフを硬い赤いミノタウロスの腹部へと力一杯押し込んだ。
「シッ!!」
『ヴオッ!?』
一瞬の油断、過信が勝負を分けた。
その証拠に《ヘスティア・ナイフ》から伝達するベルの魔法が赤いミノタウロスの内臓を焼き尽くしていく。
「ファイアボルト!」
『ヴゴォッ!?』
「ファイアボルトォッ!」
『ガバッ、ゲバッ……!? グッ……オオアオオオオッ!?』
「ファイアボルトォオオオオオオオオッ!!」
三連続による内部からの【ファイアボルト】を受けた赤いミノタウロスは、反撃の拳を振るうことも出来ずに風船が限界を迎えたように上半身を爆散させ、残った下半身からルームの天井に届くほどな火柱を上げた。
やがて火柱が止むと生命活動を継続できない下半身が灰となって崩れ落ち、灰の上に残ったのは俺と同じで大きな魔石と赤い角をしたミノタウロスのドロップアイテムだけだった。
「ハハハハ、やっぱり主人公には叶わないな」
そう呟かずにはいられなかった。
「ベル様…………」
「こいつも……勝、ち……やがった………」
「立ったまま、気絶してる」
「………精神枯渇」
《ヘスティア・ナイフ》を振り抜いたままの状態で気絶しているベルに、ベートさん、ティオナ、ティオネらが唖然と呟いた。
ズタボロで気絶しているベルに回復薬をかけてやろうと思ってレッグホルダーを探るとホルダーの中で回復薬の試験管が粉々に割れていた。打撃を受けて倒れた時に割れてしまったのだろう。
「ベル様………ベル様ぁっ!」
全ての戦い終わり、気絶しているベルを心配してリリは勢いよく駆け寄る。
「ケンマ様、リリに使った回復魔法をベル様にお願いします!」
「わかってる。光よ集え、全治の輝きを持ちて、彼の者を救え! キュア!」
さすがにリヴェリアさんの前でリューさんの【ノア・ヒール】を使う訳にもいかないので、前世でプレイしたことのあるゲームから詠唱文のある回復魔法をイメージして【魔力操作】で行使する。めちゃくちゃ便利です。
キュアの魔法でズタボロだった身体が一瞬にして癒えるベル。その光景を見ていた全員が驚きのあまり唾を飲んだ。
「短文詠唱で、あの傷を一瞬で治すだと?!」
「キミと関わると毎度驚かされるね、ケンマ」
「だから言ったじゃないですか、今から見せるものは全て他言無用でお願いします、って」
「それを聞き入れた覚えは僕にはないけどね」
「ですよねぇ………」
一方的な口約束なので、最初から聞き入れてくれるとは思ってなかった。
「ケンマ、今の回復魔法なんなのだ!教えてくれ!?」
「ノーコメントで」
「じゃあ、いきなり姿が消えたのは?」
「ノーコメントで」
「あの赤いドラゴンはあんたが出したの?」
「それは俺が出しました」
「ねぇ、どうしたらキミやベルみたく、速く強くなれるの?」
「んー、アイズの言ってる強くなれるが俺のやり方で答えになるかわからないけど、俺式の『魔力』の上げ方なら夜寝る時に普通に寝るんじゃなくて、わざと精神枯渇させて気絶するように寝てるからだと思う。他は、普段から知り合いの上級冒険者に鍛練を付けてもらってるくらいだな」
リヴェリアさん、ティオナ、ティオネ、アイズの順で青いミノタウロスとの戦闘とその後に見せた力や魔法について問い詰められるが答えられるもの答えて、答えれないものは同じ答えで返答する。
返答を終えてから気絶しているベルを取り敢えず地面に寝かせることにした。
「あ、そうだ!フィンさん、ちょっと頼みたいことがあるんですけど、いいですか?」
「一応内容だけ聞こう」
「俺たちがミノタウロスを一人で倒したことは内緒で、フィンさんたち【ロキ・ファミリア】の冒険者が倒したことにしてもらえませんか?特に俺のことは」
「えー、どうして!? LV.1 でミノタウロスを倒すなんてめちゃくちゃ凄いことじゃん!」
「私も気になるわね」
「下手に目立ちたくないんだよ。LV.1 の冒険者が格上のミノタウロスを一人で倒したなんて神々が知ったら絶対に面倒ことになる決まってる」
俺の言い分を聞いたティオネたちは心当たりがあるようで苦笑いをしている。
「わかった。その頼みは受けよう。代わりに59階層について何か知っていたら教えてくれ」
「おいおい、フィン。こんな駆け出しの雑魚が『深層』なんて知ってる訳ねぇだろう」
59階層、フィンさんからその階層について訪ねられてベートは駆け出しの冒険者である俺が知るはずもないと馬鹿にするが、フィンさんとリヴェリアさんの二人は期待を寄せていた。
その眼差しに俺は諦めながら話すことにした。
「59階層にはモンスターと精霊が混じりあった『穢れた精霊』が待ち構えています」
「「「!!」」」
「おい、てめえ!出鱈目なことを────」
「静かにしてくれ、ベート。これは重大な話なんだ」
「ッッ、ちっ!」
「続けてくれ、ケンマ」
「わかりました。皆さんご存知かもしれませんが、【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】が残した資料によると59階層は極寒地獄のはずですが、今は『穢れた精霊』によって熱帯林に変わっています」
「極寒地獄から熱帯林か………」
「そして、ここからが重要なのでしっかりと覚えていてください。『穢れた精霊』は複数の魔法を詠唱します。それも超長文詠唱と高速詠唱を使ってきます」
モンスターと化した精霊が魔法を、それも超長文詠唱と高速詠唱を使ってくるだなんてこの世界の住人からしたら信じられないことで、みんなこれでもかと目を見開いている。
「更に魔法の威力は絶大です。リヴェリアさんの結界魔法でも一回は何とか防げても二回目は破られます」
「うそ………」
「リヴェリアの結界魔法でも駄目か……」
「てか、なんでケンマがリヴェリアの魔法を知ってるのさ? 」
「それは、鍛練を付けてもらっている上級冒険者から聞いたんだ。五人のうち一人はエルフだからな」
何故リヴェリアさんの魔法を知ってるのかを訪ねてくるティオナに違和感のない返答を返す。
「それなら知っててもおかしくないわね」
「確かに同胞がケンマの師であるなら私の魔法を知っていても何ら不思議ではないな」
「他に59階層についての情報はないかい?」
「すみません。例の物語を見たのは二~三年くらい前で、色々と抜けがあって………」
本当、こんなことなら『ソード・オラトリア』のアニメを死ぬ前に見返して置くんだった。そうすれば【ロキ・ファミリア】を相手に色々できたはずだったのにと、思ってしまう。
「いや、前回もそうだが、ケンマからは色々と有益な情報が聞けているし、感謝しているよ。また、何かあったらキミの知っていてる情報を聞かせて欲しい」
「んー、状況によりますが」
「それでも構わないさ。それじゃあ、約束通りケンマたちがミノタウロスを一人で倒したことはギルドに報告しないで置こう。それと念のため、うちの冒険者を二人ほど護衛を付ける」
「ありがとうございます」
「なに、僕とキミの仲じゃないか」
笑顔でフィンさんはそう言ってくるが、俺とフィンさんはそんなに仲が深い関係ではなかったと思う。【ファミリア】同士で同盟を結んでいる訳でないし。
だとなると、考えられるのはリリが狙いかな? アニメでもフィンさんは、小人族の再建のために奮闘している。そのために己の子孫を残して、未来の小人族の象徴にする思いがある。そして、その相手に見初めたのが今回の件でフィンさんたちに助けを求めたリリである。
そう結論付けところで俺は未だに気絶しているベルを背負って、リリは俺とベルの戦利品やら自分のバックパックやらを回収してから【ロキ・ファミリア】の冒険者に護衛されながら地上へと帰還した。
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に