臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第四十二話

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

「ケンマ、ちょっといいかしら?」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……なんだ、ヴィクトリア。 今は……見て通り……早朝鍛練で……満身創痍なんだけど……」

 

 

クロエさんの早朝鍛練で毎度の如く限界まで翻弄されて、地面に仰向けで倒れ伏していると俺の主神様であるウエイトレス姿のヴィクトリアが声をかけてきた。

 

 

「昨日、お店に来た友神から聞いたのよ。今日、【ランクアップ】をした子供に称号を付けるための神々の会合である『神会』が開かれるってね」

 

「あー、大体の話は読めてきたぞ」

 

「それで先日【ランクアップ】したあなたはどうしたいのか聞きたかったのよ。あまり目立ちたくないんでしょう?」

 

「もちろん、目立ちたくない。だからベルやエイナさん、ギルドにも報告してない。俺がLV.2 になったことを知ってるのは、リューさんと昨日教えたルノアさんくらいだな」

 

「なら、しばらくは黙っておく方向でいいのね?」

 

「悪いけど頼むよ。ギルドに報告するとしたら、無事に『中層』から帰ってきてからかな」

 

 

ヴィクトリアにはこう言ったが、俺たちが初めて『中層』に挑む時は、アニメ通りであればまず無事には帰って来れない。負傷者を抱えた【タケミカヅチ・ファミリア】による『怪物進呈』からのモンスターが出現する時に生じる天井崩落でヤバい状況に陥ることになるだろう。

 

それを知っていて中層を挑むのは愚の骨頂だろうが、『世界の修正力』によって大抵は抗えない出来事になっているはずなので、間違いなく俺もベルと共にいれば巻き込まれる。

 

今でも考えただけで逃げ出しそうになるけど、俺だけ一人で助かるなんて選択はしたくない。

 

 

「分かったわ。ケンマが中層から戻ってきたらギルドに報告をしましょう」

 

「悪いな、俺の我が儘で」

 

「大丈夫よ。別に急いでいる訳ではないもの」

 

 

そう言ってヴィクトリアは、店の中へと姿を消した。

 

彼女が姿を消してから少ししてから上半身を起こして、胡座をかいて中層の対策を練る。一昨日、5階層で対魔法用の魔剣は創造することに成功して、耐久性能もある程度は保証されている。残る懸念は、中層での天井崩落時による回復アイテムの損失。これが懸念される。

 

アニメの記憶を掘り起こしながら対策を考えていくと、回復薬の容器をガラス繊維の試験管ではなく鉄製のキャップ付きボトルにすれば割れる心配も漏れる心配はないと思う。しかし、それをあと約一週間か二週間で用意できるかと問われたなら否である、そもそもの話、金属ボトルを製造できる技術力がこの世界にはまだない。

 

こういうところが前世との価値観の違いであり、簡単にアレがあればなんとかなるという安易な考えが出てきてしまう悪いところである。

 

 

「他に対策できることがあるとすれば………()()()()くらいか」

 

 

中層での対策は、別に戦闘に置ける対策だけでなく他のことでも対策ができるはずだ。その一つが置き手紙という名の予言書であり指令書である。

 

その内容は平易で、俺たちが中層に挑んでから二十四時間以内に戻って来なければリューさんに救援要請をした後、ヘスティアと合流、情報交換からタケミカヅチとその眷属から事の経緯を聞いて、偶々やってくるであろうヘルメスとその眷属であるアスフィ・アル・アンドロメダにも救援要請。それと、決してヴィクトリアはヘスティアやヘルメスのようにルールを破ってダンジョンの中に来るなんて事がないように注意書きして置くことくらいだろう。

 

あと、置き手紙は誰にも見せないよう注意事項も書き記して置くことも忘れない。置き手紙を誰かに見られてしまえば、何故知っているなら止めなかっただとか面倒なことになりかねないからな。

 

 

「さて、考えるのもここでにするか。早く皮剥きをしないとミアさんに……」

 

「アタシがなんだって?」

 

「えっ?」

 

 

ミアさんに「怒られる」と続けとようとすると後ろからミアさんの声が聞こえてきた。振り向けば、そこには野菜が積まれていた。

 

 

「アタシがなんだって、ケンマ。その先を言ってごらん」

 

「い、いや………お、怒られると言おうとしただけです」

 

「なら、アタシに叱られないように野菜の皮剥きを頼んだよ」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

ミアさんに叱られないように急ぎで魔法を使った野菜の皮剥きを終えた俺は、手持ち無沙汰になってしまったので店の掃除などを手伝っていると店の入り口からベルの声が飛んできた。

 

 

「おはようございます。シルさん、いますか?」

 

「おはようベル、もう退院したのか。シルなら奥にいるからちょっと待ってろ」

 

「うん」

 

「おーい、シルー! ベルが来たぞー!」

 

 

奥に聞こえるように口元に手を添えてシルを呼んでやると急いで奥から出てくる。

 

 

「おはようございます、ベルさん!」

 

「はい。おはようございます、シルさん。あっ、これ、いつもお弁当ありがとうございます」

 

「どういたしまして。それよりベルさん」

 

「はい、なんですか?」

 

「なにか良いことでもありましたか?」

 

 

確かにシルの言うとおり、今日のベルは普段よりも笑顔というよりもニヤけている。思い当たることといえば、俺と同じLV.2 に【ランクアップ】が可能になったくらいだろう。いや、逆に出来ない方が可笑しいだろう。

 

 

「えへへ、実は僕、一昨日LV.2 に【ランクアップ】できるようになったんです!」

 

 

心底嬉しそうにベルが【ランクアップ】が可能になったと言うと目の前にいるシル以外に俺たちよりもLV. が上で聴覚が強化されている元冒険者たちがこぞって反応する。

 

 

「今の本当かニャ!?」

 

「その話は本当かニャ、白髪頭!?」

 

「彼も【ランクアップ】を………おめでとうございます、クラネルさん」

 

「いや、これはおめでたいね」

 

 

厨房で仕込みをしていたクロエさん、アーニャさんは木ベラとホイッパーを持ったままでベルに詰めより、リューさんとルノアさんは掃除している手を一度止めて満面笑みを浮かべているベルを見る。

 

しばらくベルの【ランクアップ】に騒いでいると騒ぎを聞き付けたミアさんが奥からやってくるや否や、拳をクロエさんとアーニャさんの頭上に振り下ろした。

 

 

「ギニャッ!?」

 

「グニャッ!?」

 

「いつまでもくっちゃべってないで働きな、馬鹿娘ども!」

 

「「ヒイィィイ!!?」」

 

 

ミアさんの一喝でそれぞれ急いで仕事に戻る。俺も叱られたくないので作業を再開する。

 

 

「で、坊主。あんた、LV.2 に【ランクアップ】したんだって?」

 

「は、はい! でも正解には【ランクアップ】が可能になっただけで、まだLV.2 になった訳ではないですが………」

 

「そうかい。なら、【ランクアップ】の祝いはウチでパーっとやりな。だだし、しっかりと代金は貰うよ」

 

「そうですよ、ベルさん。皆でベルさんの【ランクアップ】のお祝いをしましょう! ケンマさんもそう思いますよね?」

 

「ここで俺に振るのかよ………」

 

 

話が俺に振られないように店の端っこでこそこそと丁寧に掃除をしていたのに、その目論見もあっさりとシルによって破られてしまった。

 

 

「まぁ、いいんじゃないか? 金なら俺が払うから皆でパーっとやろうぜ」

 

「いいの、ケンマ?」

 

「だだし、俺が【ランクアップ】したら倍返しにしてもらうがな」

 

「分かった。その時は、僕がケンマのためにお祝いするよ」

 

「話は決まったみたいだね。で、何時頃に祝賀会をやるんだい?」

 

「そうですね………今日の夕方からでお願いします」

 

「あいよ。席は用意しておくから楽しみにしてな」

 

 

そう言って、ミアさんは笑顔で厨房の奥に戻って行った。

 

 

「ベル、このあとはどうするんだ? 今日は祝賀会があるからダンジョンには行かないだろう」

 

「うん。神様から念のため明日まではダンジョンに行っちゃ駄目って言われてるから、それにギルドに行ってエイナさんに【ランクアップ】の報告とちょっと相談したいことがあるんだ」

 

「あっ、やべぇ…………」

 

「どうしたの?」

 

「俺たち三日前にダンジョンへ行ったきり、エイナさんに戻ってきた報告をしてない。これは完全におこられるパターンです」

 

「そ、それは………本当にやばそう」

 

「ミアさん、すみません! これからギルドに行って、アドバイザーにダンジョンからの帰還報告してきます!!」

 

それだけ言い残して、ベルと共に走ってギルドへと向かった。

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

エイナさんに帰還報告を三日間も忘れていたことを思い出した俺たちは、走ってギルドまでやってきた。

 

ギルドに入ると今日が『神会』の行われる日ということもあって、普段よりも冒険者の数が多く感じられる。

 

 

「おはようございます、エイナさん」

 

「ちわ~す、エイナさん」

 

「おはよう、ベルくん、ケンマくん。久しぶり。探索は頑張ってる……なんて、聞くまでもないかな?」

 

「はい、頑張ってます!今は、最後に潜った日から間が空いちゃってますけど!」

 

「それに前の探索で、防具がかなり傷付いてたからそのメンテナンスも必要になったしな」

 

「ふふっ、休息も防具のメンテナンスも大事だからね。休む時はしっかりと休まないといけないから、ちょうどいいんじゃないかな?」

 

 

エイナさんは、俺たちが三日間もダンジョンから帰還したことを報告することを忘れていたことについて怒ることはなく、逆に笑顔を綻ばせながら上機嫌で俺たちと会話を進める。

 

そして、エイナさんは目尻を柔らかくしてベルの隠し切れていない上機嫌の理由について訪ねる。

 

 

「それでベルくん、何かいいことでもあったの?」

 

「わ、わかりますか?」

 

「そりゃあな」

 

「そんな顔をしてちゃあ、誰でもわかっちゃうよ?」

 

 

今のベルは、誰かしらに良いことを話したい或いは自慢したい子供そのものである。

 

 

「えへへ、実はですねっ……次の【ステイタス】更新でですね………」

 

「うんうん」

 

「僕、とうとうLV.2 になれるんです!」

 

 

その一言で、エイナさんとその後ろにいるピンク色の髪が特徴的なヒューマンの女性職員であるミィシャが石のように固まり、ミィシャが持っていた書類の山がバサバサバサッと音を立てて崩れ落ちる。

 

数秒して、聞き間違いだと思ったエイナさんは笑顔のまま聞き返す。けれど、事実は変わらない。

 

 

「……ん?」

 

「だから、LV.2 になったんです、僕!三日前に!」

 

「LV.2 ?」

 

「はい!」

 

「三日前?」

 

「はい!」

 

「嘘なんかついてないよね?」

 

「はい!」

 

「ベルくん、キミ、冒険者になったのはいつ?」

 

「一ヶ月半前です!」

 

 

しばらくの間、ベルとエイナさんの間で笑みが交わされ続ける。そんな光景を側に後ろで再び窓口で列をなそうとしている冒険者たちから二人に怪訝な表情を向けてくる。

 

そして、エイナさんは座っていた椅子を勢いよく倒しながら立ち上がり、溜まりに溜まった驚愕の感想を爆発させる。

 

 

「一ヶ月で、LV.2 ~~~~~~~~~~っ!?」

 

 

因みに、一ヶ月足らずで俺がLV.2 になったのはナイショです。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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