臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第四十四話

 

 

 

〈sideベル〉

 

 

 

 

「おはようございまーす。ケンマはいますか?」

 

 

祝賀会の夜から一日、今日はケンマと一緒にケンマの知り合いの鍛冶師であるヴェルフ・クロッゾさんの工房に行くため、ダンジョンに行く時と変わらない時間帯に『豊饒の女主人』に来ている。

 

朝の挨拶をしながらお店の掃除をしている店員さんたちにケンマを呼んでもらうと、ケンマの【ファミリア】である【ヴィクトリア・ファミリア】の主神であるヴィクトリア様が僕の対応してくれた。

 

 

「おはよう、ベル。ケンマなら裏庭で品出しの手伝いをしてるから呼んでくるわね」

 

「おはようございます、ヴィクトリア様。態々すみません」

 

「これくらいは構わないわよ。ベルは、ケンマと仲良くしてくれているもの」

 

 

ヴィクトリア様は、神様とは別の意味で綺麗な女神だ。長い金髪に清んだ青空のような青瞳、そのどれもこれもが彼女の魅力になっている。

 

ケンマを呼び行くためにカウンターの奥へとヴィクトリア様が消えて行くと肩を揉んでいるケンマがやってきた。

 

 

「待たせて悪いな、ベル」

 

「ううん、いつも通りだよ」

 

「それじゃあ、ヴェルフのところへ行くか」

 

「うん!」

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

「そうだ、ベル。昨日言った物は持ってきたか?」

 

「うん。ミノタウロスのドロップアイテムだよね? ちゃんと持ってきてるよ」

 

 

昨日の祝賀会でケンマからミノタウロスのドロップアイテムである赤い角を持ってくるように言われていたので、忘れずにちゃんと持ってきている。

 

 

「よし。なら、それを使ってヴェルフに武器を打ってもらえよ。リリからもらったバゼラードは、ミノタウロスとの戦いで折れただろう?」

 

「そんなこともできるんだ。あっ、だからケンマは僕にコレを持ってくるように言ったんだ」

 

「そういうこと。俺の方でもベルにやってもいいんだが、せっかく本職の鍛冶師に会いに行くんだ。そっちの方がいいだろう?」

 

「ケンマがオススメするなら、クロッゾさんにお願いしようかな」

 

 

『ミノタウロスの角』を使って、ケンマがオススメする鍛冶師のヴェルフ・クロッゾさんにどんな武器を打ってもらうかの話をしながら歩き続けていると、唐突に僕の鼻に濃い鉄の臭いが襲いかかる。

 

それに伴って、少しずつ金属が金属を打つ音も聞こえてくる。臭いや音以外にもドワーフが数人がかりで大きな丸太を担ぎ上げていたり、分厚いエプロンと手袋を身に付けたヒューマンが高温で真っ赤に染まったガラスをまるで粘土のようにグニャグニャと色々な形へと変えたり、エルフは弓の弦を力一杯引き絞り調子を確かめたり、獣人族は砥石で研いだ刃物を目を細目ながら刃毀れがないかを確かめていた。

 

そんな始めて見る光景に心を踊らせていると、さっきまでの鍛冶師で溢れ返っていた工場区画と違って、静かでありながら一つの金属が打たれる音が響いていた。

 

 

「ここがヴェルフ・クロッゾの工房だ、ベル」

 

「ここが………工房」

 

 

工場区画とは違って、小ぢんまりとした平屋作りの建物。ところどころ黒ずんでいて汚れが結構目立っているけど、逆にそれがまさに鍛冶屋、という雰囲気を醸し出している。

 

 

「おーい、ヴェルフ! ベルを連れてきたぞ」

 

「ノックとかしないんだ…………」

 

 

ノックなどせずにいきなり入り口の扉を開けながら大声で家主の名前を呼びながら入っていくケンマに少し驚きながら僕も続いていくが、入り口の境を踏み越えた刹那、「ぐっ!?」と唸りそうになるほどの熱風が全身を撫でた。

 

平屋の中では、絶賛何かの防具を製作している最中のようでカンッ!カンッ!という一定のリズムを刻んでいる音の元に視線を向けると真っ赤な焔のような髪色をして額に手拭いを巻いた鍛冶師が汗水垂らしながら真剣に鉄を叩いていた。

 

彼がケンマの知り合いの鍛冶師ヴェルフ・クロッゾさん。

 

 

「す、すごい………」

 

 

鉄が鍛冶師によって、武器や防具へと変わっていく光景のその一端を目の当たりにして僕は思わず呟いてしまう。

 

それから何分、何十分が経過しただろうか? クロッゾさんは満足が行く物が出来たのか、打っていた防具を水で冷やしたあと深く息を吐きながら顔の汗を袖で雑に拭う。

 

 

「お疲れ、ヴェルフ。それと勝手にお邪魔してる」

 

「ケンマか。おう、悪いな」

 

 

クロッゾさんが気を抜けるタイミングを見計らったように、ケンマは水を入れたコップをクロッゾさんに手渡し、クロッゾさんはそれを受け取り、一気に飲み干す。

 

 

「かぁー、キンキンに冷えやがる!鉄を打って、火照った身体には効くなぁ!!」

 

「作業中で悪いけど、ベルを連れてきたぞ」

 

「おっ! 俺のお得意様一号か!?」

 

「その前に、一回水で顔を洗って来い。汗だくで倒れるぞ」

 

「心配するなって。これくらいの汗なんて鍛冶師からしたら日常茶飯事で慣れてる」

 

「それならいいんだが、場所を移さないか? ここは暑すぎる」

 

「確かに話すには暑すぎるな。準備するから外で待っててくれ」

 

「分かった」

 

 

ケンマとクロッゾさんのやり取りは、まるで長年付き添ってきた親友のように思えた。お互いに遠慮がない、そんな印象だった。

 

クロッゾさんが準備をする間、僕たちは工房から出る。それだけでかなり涼しく感じるほどに室内と外とでは温度差が激しかったのだろう。

 

 

「悪いな、ベル。熱い場所に一緒に付き合わせて」

 

「ううん、全然。僕も実際に防具を作っているところを見られてワクワクしてたから」

 

「そうか」

 

 

工房の中で火照った身体を外の風で冷ましていると準備が整い、前回僕が買ったライトアーマーと同じ物が入った木箱を持ったクロッゾさんが工房から出てきた。

 

 

「悪りな、来てもらったのに待たしちまって」

 

「俺は大丈夫だ。ベルは?」

 

「僕も大丈夫だよ。あっ、そうだ。クロッゾさん、ケンマから聞いたんですけど、このミノタウロスの角で何か武器を作れたりしますか?」

 

「武器でいいのか? ミノタウロスから取れるドロップアイテムは、何だって武具に使えるからな。それと、『クロッゾ』はやめてくれ。家名は嫌いなんだ」

 

「あ、すみません」

 

「それで、そのミノタウロスの角だが少し借りてもいいか?」

 

「はい、どうぞ」

 

「すまねぇ」

 

 

僕から『ミノタウロスの角』を受け取るとヴェルフさんは色々な角度から観察したり、人差し指でノックして固さを確かめたりした。

 

 

「破損は酷くない、強度も並み以上。これなら研磨して形状を整えるだけでも、十分武器として使えると思うが………このドロップアイテムだけで武器を作るとしたら、できるものは短剣が一本か短刀二本が限界だろう。どれにする?」

 

「鍛冶師でもない僕が、意見できることなんてないですし………ヴェルフさんにお任せします」

 

「『さん』付けか………まあ今はいいか。武器の件は任された。それと、こいつをベルにやる」

 

「やっぱりあのライトアーマーだ。いいんですか?」

 

「ああ、パーティーに入れてくれるお礼とでも思ってくれるのとちょっとしたお願いがあるんだ」

 

「ちょっとしたお願い?」

 

「まあ、それは後で何処かの店で話すさ。行こうぜ」

 

 

僕たちは詳しい話をするために何処かの店に入ろうと工場区画を抜ける際、唐突にヴェルフさんが僕に少し大きめな声で話を振ってきた。

 

 

「なぁ、ベル・クラネル。お前は二度も俺の作品を買いに来てくれた。もう俺の顧客だ。違うか?」

 

「はい、そうですね」

 

「ヴェルフ、少し足らないぜ? ヴェルフのライトアーマーがあったからベルはミノタウロスから生き延びて、単独でミノタウロスを倒して、【ランクアップ】を果たした。つまり、ヴェルフの作品も尽力したことになる。それはベルの同じパーティーである俺が保証してやる。これが()()ならすぐに折れてベルは殺されていたかもしれないなぁ? いやー、魔剣じゃなくて防具で本当に良かった!」

 

 

ヴェルフの話にケンマもわざとらしいく声を大きくしながら、態々魔剣と比較するようにライトアーマーのことを誉めていた。これはどういう意味があるんだろう?

 

ケンマがこういったことをする時は、何かしらの意図があると思う。そう、前のリリの時と同じように。それを理解するために周囲に視野を広げていると工場内にいる鍛冶師たちが舌打ちや睨みを効かせていた。

 

 

「悪いな、ベル、それにケンマも。ちょっとした縄張り争いってやつだ。それに態々魔剣と比較しながら俺の作った防具を誉めるとは、ケンマもやってくれるな」

 

「そりゃあそうだろう。俺は、魔剣を打てるヴェルフ・クロッゾよりも優秀な防具を作れる一人の鍛冶師ヴェルフに防具を頼んでるだからな」

 

「まったく、毎回鍛冶師を喜ばせるようなことばっかり言いやがって!」

 

「えっ?ヴェルフさんって、魔剣を打てるんですか!?」

 

 

ケンマからヴェルフさんが『魔剣』を打てると聞いて、驚いてしまった。

 

それと『魔剣』と聞いて、ヴェルフさんの表情が少しだけ曇った気がしたけど、気のせいかな?

 

 

「なんだ、ベル・クラネルには話してなかったのか?」

 

「必要ないだろう。俺たちが欲しいのは『クロッゾの魔剣』じゃなくて、ヴェルフの防具だからな」

 

「それもそうかっ!」

 

「ちょっ、ヴェルフ! おまっ!?」

 

 

ケンマの言葉の何かが嬉しかったのか、ヴェルフさんはしばらくの間、ケンマと戯れていた。

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

 

「それじゃあ改めて、俺は【ヘファイストス・ファミリア】所属の鍛冶師で名前はヴェルフ・クロッゾ。歳は今年で十七だ。パーティー加入の件、本当に助かる」

 

「いえ、ケンマからの勧めだったので僕は何もしてませんよ。それとご存じかも知れませんが【ヘスティア・ファミリア】所属のベル・クラネルです。よろしくお願いします、ヴェルフさん」

 

「俺の自己紹介は今更必要ないだろうから無しで」

 

 

そう言ってケンマは自己紹介することなくジャガイモの揚げ物をパクパクと食べ続ける。それを見ながら僕たちも注文した料理に手を着けながらヴェルフさんに今後のダンジョン攻略の方針を伝える。

 

粗方、攻略方針を伝えて料理もある程度食べ終わるとヴェルフさんからある提案を持ち出された。

 

 

「なぁ、二人とも。よかったら俺と直接契約しないか?」

 

「───直接、契約?」

 

 

以前、最初のライトアーマーを買いに行った時、エイナさんから聞いた情報を思い出す。

 

冒険者はダンジョンで手に入れた『ドロップアイテム』を鍛冶師に防具へと加工してもらって格安で購入する。また、その見返りとして鍛冶師が欲する『ドロップアイテム』を手に入れた際にはこちらも格安で提供する。とどのつまり『ギブアンドテイク』というやつだ。

 

そんな提案を僕は今、ヴェルフさんから受けている。

 

 

「い、いいんですかっ!?」

 

「おいおい、それはこっちの台詞だぞ。お前はもうLV.2 で、『鍛冶』のアビリティも持ってない無名の俺とじゃあ、普通に考えて釣り合わないだろう?」

 

「ベル、これはチャンスだ。ヴェルフ、俺は直接契約を結ばせてもらうぞ」

 

「よっしゃ、まずは一人目だ!」

 

 

確かにケンマの言うとおり、これはチャンスなのかもしれない。ヴェルフさんの作る防具は、とても着心地が良くて使いやすかった。なにより工場区画でケンマが言っていたように、ミノタウロスの死闘で生き延びることが出来たのは間違いなくヴェルフさんの防具があったからこそだ。

 

ならば、ここでヴェルフさんの直接契約を結ぶのは悪くはないはすだ。ここで、この話を逃がしたらいつまた同じ話があるかわからない。

 

 

「うん、僕もヴェルフさんとの直接契約を結びます」

 

「よし、二人目だ!正式な契約書とかはまた今度回すからその時はよろしく頼む」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

「よろしく頼む」

 

 

こうして、僕たちはヴェルフ・クロッゾという鍛冶師と直接契約を結ぶことになったのであった。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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