臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
「やって来たぜ、11階層!」
11階層の『ルーム』に到達すると、ヴェルフは歓喜のあまり両手を挙げながら喜んでいた。終いには、俺たちの方に振り返り満面の笑みを浮かべている始末だ。
「ヴェルフさんの到達階層も11階層なんでしたっけ?」
「ああ、そうだ。それにしても悪いな、ベル、ケンマ。昨日の今日でこんな無茶を聞いてもらって」
「ああ、いえ、ヴェルフさんが『鍛冶』のアビリティを手に入れるためだっていうのなら契約した僕たちも無関係じゃないですし」
「そうだな。【ランクアップ】して、『鍛冶』のアビリティが発現した時には色々と期待させてもらうからな」
「そう言ってもらえると助かるな」
ヴェルフが俺たちのパーティーに加わりたかった理由は、先ほどベルが述べた通りアニメ同様、【ランクアップ】を果たして『鍛冶』の発展アビリティを発現させるためである。
本来なら、どんな派閥でもダンジョン探索は同じ派閥内でパーティを組むのが基本的だが、ヴェルフは強力な『魔剣』が打てるのに打たないという意地っ張りと
「身内の恥を晒したくなかったんだが……ったく、あいつ等、いざダンジョンに行こうとすると俺だけ除け者にするんだぜ。信じられるか?」
「俺たちにそんなことを聞かれても、俺とベルは自分たち以外に【ファミリア】の団員はゼロ。リリは、訳あってヴェルフと同じように派閥が除け者にされている状況だぞ?」
「そう言われっと共感しろってのには無理があるか………。ま、とにかくだ。感謝してるぞ、二人とも。【ファミリア】は閉鎖的だなんて言うが、捨てたもんじゃないな」
「え、えーっと……元々パーティを組むのは僕たちの方でも了承してますし、何より新しい防具をもらってますから」
そう。昨日、ベルはヴェルフから新しいライトアーマーをもらっているのだ。俺の色違いのライトアーマーはまだ腕しか出来上がっていないので、今は以前修復に出したフード付きの戦闘衣を装備している。
戦闘衣を良く見れば、やっぱり所々補習した箇所が目立ってしまっている。それでも、あの鍛冶師曰く、出来るだけのことはやったとそれ相応の金額を請求されたので大丈夫だと思う。
「そういえば、リリとヴェルフは今日が初対面だよな。一応、自己紹介をしておいたらどうだ? 今後もパーティーとして組む訳だしな」
「それもそうだな。俺の名前はヴェルフ・クロッゾ。【ヘファイストス・ファミリア】所属でベルとケンマの専属鍛冶師だ」
「リリは、リリルカ・アーデと申します。所属は【ソーマ・ファミリア】です。それと本当にあの『クロッゾ』なのですね。没落貴族の……」
やはり、リリはヴェルフの家名に反応した。以前、パーティ加入について相談した時も反応していた。そんなリリが反応したことでベルも以前のリリの言葉を思い出したように述べる。
「じゃあ、ヴェルフさんは本当に前にリリが言ってた。一昔前にとある王国で『魔剣』を献上することで貴族の地位を得っていう名門の鍛冶一族の末裔?」
「ああ。ただの落ちぶれた貴族の名だ。ま、今はそんなこと、どうでもいいだろう? ダンジョンに潜ってるんだから、やることは一つだろう」
「ヴェルフの言う通りだ、ベル、リリ。お客さんのお出ましだ」
LV.2になったことで強化された感覚が地面から何かが這い出てくるのを捉えた。それはベルも同じようで警戒心を高めていた。
やがて、大きくピキリ、ピキリッ───という連続した音と共に地面から複数体の『インプ』と『オーク』の群れが這い出てきた。それも先程まではがらんどうだったはずが目の前にはモンスターの大群である。
「同地帯上での瞬間的なモンスターの大量発生……これがあるから10階層から下は怖ぇよな」
「怪物の宴………!」
「これはまたかなりの団体客で……」
ざっと数えただけでも二桁はいる。その中でも大型モンスターであるオークが片手で足りないと来たもんだ。
「幸いこのルームでは霧は発生しませんし、面積も広いです。すぐに囲まれる心配はありませんし、いざとなれば10階層に引き返せます」
過去に多くの冒険者パーティーと行動を経験してきたリリは11階層での戦闘は経験済み。こういう場面では、経験者が一人でもいるのは有難い。
少し冷静になれたところで、誰がどれをどの程度、相手取るか迷っていると真っ先に相手を決めたのはヴェルフだった。
「よし、オークは俺に任せろ。あいつなら俺の腕でも当てられる」
「では、リリも微力ながら援護します」
「なら、ヴェルフとリリが動き安いようにオーク以外の有象無象は俺たちで殺るぞベル!」
「うん。【ランクアップ】した今の力を試すいい機会だ」
それぞれの相手取るモンスターと役割を決めたら各々の得物を抜き放ち、臨戦態勢を取る。
「ベル様? 分かっていると思いますが………」
「うん、大丈夫────油断だけはしないっ!」
「フッ!」
油断しないようリリから注意を受けるベルと共に地面を蹴って、インプたちの群れ目掛けて突貫。聖剣でインプの喉元に切り裂いてスパッと首が刎ね飛び、体に一太刀当てた個体は、種族が悪魔だからなのか『聖剣』の効果で『ハイスクールD×D』と同様に体から煙が発生。最終的にはボロボロと崩れ去り、魔石だけを残していた。
その光景を視界に捉えながらそのまま勢いを殺すことなく、まるでサッカー選手がドリブルしているような足運びで残りのインプたちの中を突っ切りに一太刀ずつ確実に致命傷を与えて行く。
『カ……ペッ……!?』
『ガヒッ!?』
『ブモッ!?』
自分の周りのモンスターを粗方殲滅し終わり、視線をチラリとベルの方へと向ければ、俺のような滑らかな動きとは対照的に稲妻をイメージしたようなジグザグの足運びでインプたちを殲滅していた。
ベルの方もモンスターの殲滅が終われば、リリから新たな敵襲の注意喚起が飛んでくる。
「お二人とも、ハード・アーマードが来ます!」
「うん、行くよ!」
「ほい、来た!」
『ロオオオオオッ!』
体格は俺とベルと然程変わらず、体の背部はいくつかの帯に分かれた甲羅を覆われ、外皮は全体的に鱗のような物が頭部にまで及び、角ばった形状も相まってまるで兜を被っているようだ。
11階層のモンスターで、上層で最も硬いモンスターである『ハード・アーマード』。
ハード・アーマードは目視すると直ぐ様、体を丸めて、アルマジロのようにゴロゴロと転がってきた。それを見て俺は、日頃の鍛練の成果を確認すべく龍のオーラを右足に収束させて脚力を強化、そのままサッカーボールみたく転がってくるハード・アーマードをボレーシュートで蹴り返す。
「ボールを相手のゴールにシュゥゥゥトッ!!」
思わず乗りで前世の動画サイトで話題になった玩具のCMのワンフレーズを口にしていた。
そして俺に力一杯蹴り返されたハード・アーマードは偶然にも残っていた、もう二匹のハード・アーマードと衝突、最後には──────
「【ファイアボルト】!」
炎雷によって消し炭になってしまった。あまりにもバッチリなタイミングだったので偶然とはいえベストポジションにシュートしたものだ。
因みに、最初にベルの所へ転がって行った個体はあっさりとみじん切りにされていた。
「ナイスファイアボルト、ベル!」
「ケンマこそ、ナイスシュート!」
偶然とはいえ、上手く連携が決まったことにお互いに称賛し合う。その間ヴェルフとリリは前衛と後衛、上手く連携を取りながら危なげなくオークを確実に倒していた。
○●○
エンカウントしたモンスターを殲滅したところで、周囲を警戒しつつ息を整えながら休息を取る。その間にリリは、サポーターとしての役割である魔石回収に勤しんでいる。
「やっぱりいいよなー、パーティーっていうのは」
「はい。前より随分動き安くなった気がします」
「パーティーの利点だな。余裕をもてれば、モンスターへの対処も変わる」
ヴェルフの言う通り、パーティーメンバーが増えればそれだけ適材適所で各々が自由に動けるようになる。欲をいえば、このパーティーには後方支援兼遠距離攻撃持ちと同じ後衛支援兼回復役が欲しいところだ。
しかし、言ったところで直ぐに見つかるはずもない。現状、近接特化のヴェルフに攻撃魔法が使える中衛型のベル、射撃による後方支援のリリに攻撃魔法と回復魔法が使えるオールラウンダーの俺といった少し攻撃に特化したバランス型のパーティーと捉えていいだろう。
今の俺たちのパーティーについて考えていると、ベルが他の冒険者が集まってきたことに気付く。
「あ、他のパーティーが来始めましたね」
「なら、リリが魔石を集め終わったら昼飯にしよう。他のパーティーがいれば、飯を食べている間は警戒する必要はないからな」
「なるほどな、ただ場を譲るのも癪だし、利用させてもらうか。いいぞ、俺は賛成だ」
アニメ知識からヴェルフが言うはずだった台詞を先取りして、提案すると同じ意見だったヴェルフが乗ってくる。そして、次はベルの右手に収束している【英雄願望】を指摘するはずだ。
「……おい、ベル。それ、何だ?」
「……えっ?」
「白い、光の粉?」
白い光の粉がベルの新スキルである【英雄願望】だと知って置きながらわざと知らないように装う。
ベル自身も右手に集まっている光の粉に困惑する最中、少し離れたところから俺たちの耳にモンスターの凄まじい雄叫びと冒険者たちの悲鳴が聞こえてきた。
『────オオオオオオオオオオオオッッ!!」
「「「うわああああああ!!」」」
「「「「はぁ……はぁ……はぁ……」」」
何人もの冒険者が焦りながらモンスターから逃げるうちの一人から雄叫びを上げたモンスターの正体を知らせる。
「やべえぞ、インファント・ドラゴンだ!」
「それも二匹もだ!」
「逃げろー!」
『インファント・ドラゴン』。11~12階層で出現する稀少種にして上層では『迷宮の弧王』が存在しない代わりにそのドラゴンが事実上の階層主である。
そんな稀少種が二匹も現れたとなればLV.1 の冒険者たちは逃げる以外の選択肢はない。例外とすれば、遠距離からの魔法による撃退くらいだろう。
しかし、気になるのが稀少種が二匹も現れたというところだ。アニメなら一匹だけのはずだ。ということはやはりドラゴンということで同じドラゴン系のブーステッド・ギアにでも惹かれたのだろう。
そう結論付けながら鞘から魔剣を抜き、LV.2 になってから初めての『女王』へと素早く昇格する。
「【プロモーション・クイーン】」
「リリは!?」
『女王』へと昇格している間、ベルは魔石を回収しているリリの安否を心配する。辺りを見渡してリリを見つけた時には、彼女の側で冒険者が一人、インファント・ドラゴンの尾に薙ぎ倒されていた。
「リリ!?」
「リリスケェッ、逃げろっ!?」
ベルとヴェルフ、二人の余裕ない絶叫が飛ぶがダンジョンは無慈悲にも逃げ惑う一人の少女を死の淵へと追いやるように、もう一匹のインファント・ドラゴンで逃げ道を塞ぎ、二匹のドラゴンで挟み込んだ。
その状況を見て、俺は迷わず【瞬歩】でリリの下へと駆け出す。アニメ通りであれば、二匹いるインファント・ドラゴンのうち一匹は【英雄願望】のスキルが発動しているベルに任せても大丈夫。けれど、残りの一匹はどうだ?
そう考えたところで、【瞬歩】で駆け出した時と同様にいつぞやの『怪物祭』のように魔剣の刀身から禍々しい赤黒いオーラを迸らせる。
そして、リリの背後にいるインファント・ドラゴンはベルに任せ、残る目の前にいるインファント・ドラゴンは俺が相手をしながらそれぞれの攻撃を放つ。
「【ファイアボルト】!!」
「月牙天衝!!」
純白の閃光と赤黒の閃光。相反する二色の閃光が二匹のドラゴンの頭部を呑み込んだ。
生物として大事な脳を失ったインファント・ドラゴンたちは、僅かに間を開けてから体を灰へと変え、腹部にあった魔石はゴトリッと重たい音を立てながら地面へと落下した。
「大丈夫か、リリ?」
「け、ケンマ様、今のは………一体………」
「ちょっとした奥の手だ」
雑に誤魔化しながら周囲にこれ以上モンスターがいないことを確認してから魔剣を鞘に納める。また、厄介なことにモンスターがいない代わりに周りの冒険者からベルと俺が嫌にも注目を集めてしまっている。
ベルは先日の『神会』で【リトル・ルーキー】という二つ名を得ているので目立つのは必然的、対して無名の俺がインファント・ドラゴンを単独でそれも一撃で撃破したとなれば否応なしに目立つのも必然的だ。
日頃から目立ちたくないと言って置きながら、いざという時は目立ってしまっている有り様に溜め息が出てしまう。
「はぁ………。にしても、今の月牙天衝の威力はまるで………」
先ほど放った疑似【月牙天衝】の威力に既視感があった。放出された斬撃の色こそ違うが威力そのものはブーステッド・ギアで倍加した『怪物祭』で食人花に放ったのと遜色なかった。
そこで理由をあれこれと考えた末、一つの結論へと至った。それは【ランクアップ】したことによる【プロモーション】の魔法が強化されたのではないかということだ。
以前、リリが『魔法』は使い続ければ成長すると言っていた。そのことから『魔力』のアビリティに補正が働く『僧侶』が魔力だけではなく『オーラ』にまで作用するように成長したのであれば、全アビリティに補正がかかる『女王』を昇格している状況下で先ほどの疑似【月牙天衝】の威力にも納得が行く。
「無理矢理なご都合設定と言われれば、それまでだな」
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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