臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第四十六話

 

 

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

「ぐぅぅうッ!?」

 

『相棒、オーラの制御が少しずつズレてるぞ。修正しろ!』

 

「分かってるッッ!」

 

 

ヴェルフが俺たちのパーティーに加わってから数日。今日は、早朝鍛練が休みなのでホームにて自主鍛練をしている。内容としては、某四大行のバトルアニメみたく全身に纏うオーラを普段よりも多い量のオーラで纏う鍛練。これをすることでオーラを生み出せる器が少しずつ大きくなっていく。

 

 

『十五分経過だ、相棒』

 

「だはー!」

 

 

オーラの放出を止めて、どっしりと押し寄せる疲労に身を任せながら汗だくの身体で頭を打たないように気を付けながら背中から倒れる。

 

正直、この鍛練はダンジョンに潜るよりもリューさんたちと戦うよりも疲れる。所謂、己と我慢比べなので余計だ。オーラの纏った状態を一分延ばすだけでも、普通は年単位での鍛練が必要だとリメイク版で主人公の二人目の師匠が言っていたのをオーラを全く出さないことで普通よりも早い体力回復に努めながら思い出した。

 

 

「この鍛練を初めて約三週間………どの程度まで伸びたかな?」

 

『分数で表すなら五分ってところだな。素質が有る奴からしても伸びている方ではないのか?』

 

「さあ? もうそのアニメは何年も見てないし、原作漫画もあまり読んでないから分からん」

 

『ま、今の相棒がイッセーのように何かの代償を支払って無理矢理にでも未完成な禁手になった場合、三時間前後が限界だろう』

 

「オーバー・ブースターとはいど禁手を維持できる時間は三時間前後か………場面さえ間違えなければかなり使えるな」

 

 

オーバー・ブースターは、一時期とはいえ『赤龍帝の鎧』を顕現させることできるがその反面、制限時間が過ぎるとブーステッド・ギアが何日間か使用出来ないというデメリットも持ち合わせているため使い所は慎重に選ぶ必要がある。

 

もしも黒いゴライアスとの戦いまで禁手に至れなかったことを考えると、オーバー・ブースターでも一発逆転を狙うだけならば十分だろう。

 

 

「おっと、そろそろ時間か」

 

 

いつもの『豊醸の女主人』の中庭で鍛練するのと違って、ベルが迎えに来ることはないので時計を見ながら準備をしなければならない。

 

いつものダンジョン探索用の装備を身に纏ってから『豊醸の女主人』でヴィクトリアから弁当をもらって、ベルと共にいつもの待ち合わせ場所に向かうがそこにはヴェルフしか居らず、リリの姿が見当たらなかった。

 

 

「よ、ベル、ケンマ。おはよう」

 

「おはよう、ヴェルフ」

 

「おはようございます、ヴェルフさん。あの、リリはまだ来てないんですか?」

 

「ああ、そのことなんだが─────」

 

 

ヴェルフ曰く、リリが下宿している店の店主が多忙で体調を崩してしまったらしい。そのため、リリが看病することになり、今日の探索は出来ないとのこと。

 

ここまで聞いて、ふとこの流れに覚えがあるなと記憶のどこかに引っ掛かりを覚えた。その引っ掛かりを必死に思い出そうと試みる。

 

 

「どうする、三人でダンジョンに行くか?」

 

「う、うーん………あっ!あのヴェルフさん、前に預けた『ミノタウロスの角』、あれが武器に変わるところを一から観てみたいんですけど駄目ですか?」

 

「俺は構わないが、ケンマはどうだ?」

 

「えっ、俺か? そうだな………別にいいんじゃないか」

 

 

そう返答したところでようやく記憶の引っ掛かりの原因が分かった。それはアニメでもリリが休んで、ヴェルフが工房で『ミノタウロスの角』を武器に加工するシーンがあったのだ。それを今、はっきりと思い出した。

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

探索における縁の下の力持ちであるリリが休みということで、以前ベルが預けた『ミノタウロスの角』を使って新しい武器を作成するべくヴェルフの工房に行くことになった俺たち、けれど工房には先客がいた。

 

また、その先客には見覚えがあった。何故なら俺の戦闘衣を仕立てた鍛冶師だったからだ。

 

 

「なんで、あいつが俺の工房に居やがる」

 

「ヴェルフさんのお知り合いですか?」

 

「ああ、同じ【ファミリア】の先輩鍛冶師の一人だ」

 

 

何故、先輩鍛冶師がヴェルフの工房に訪れているのか、その真相を確かめるためにコンタクトを取る。

 

 

「スメラギ、俺の工房になんか用か?」

 

「ん、悪いな突然。周りの連中がうるさくてね」

 

「どういうことだ?」

 

「いやな、周りの連中からヴェルフが私のお客を横取りしたとかっていう噂を聞いてね」

 

「なんじゃそりゃ!? 知らねぇぞ、そんなのッ!」

 

「分かってるさ。私もヴェルフがそんなことをするような奴だとは思っていないさ。だから、真偽を明らかにするためにこうして来たんだが………彼か」

 

 

スメラギと呼ばれたヴェルフの先輩鍛冶師は、事の顛末を説明しながら最後に俺を見た。これは間違いなく誤解を与えてしまっている。

 

 

「あー、スメラギさん? なんか誤解をさせて申し訳ないけど、俺は別にあなたからヴェルフに鞍替えした訳じゃないですよ」

 

「なんだ、ケンマ。スメラギと知り合いだったのか?」

 

「この戦闘衣を売ってくれたのがスメラギさんの店だったんだよ」

 

「そうだったのか。となると、あー大体読めてきたぞ」

 

 

今回のお客を取られた、取られていないだのの騒動は間違いなくヴェルフへのやっかみである。そこへ偶々俺がスメラギさんの店で戦闘衣を買って、更にヴェルフの工房に訪れていたのをいいことに噂を流したのだろう。

 

どこの世界にも、こういった陰湿なやり方をする下賎な輩がいるようだ。しかし、この世界には嘘を見破れる神様が居られる。なので、面倒ではあるが【ファミリア】の集会なので一人ひとり事情聴取すれば何れは犯人が判明することだろう。

 

 

「スメラギさんには悪いけど、俺はヴェルフと直接契約を結びました。なので、最初からスメラギさんから鞍替えしてはいないです」

 

「確かに、私と直接契約を結んでいない以上、鞍替えなんて話は成立しない。しかし、ちょっと残念ですね。私の作品をそこまで気にいってくれたのに……」

 

「すみません」

 

「はぁ、まあいいや。変な噂を方は私が何とかしておくから、それとヴェルフ!」

 

「お、おう………」

 

「そのお客は絶対に逃がすなよ。"俺"の勘が正しければ、彼は度々番狂わせをするはずだ」

 

「わ、分かった」

 

「それじゃあ、私はこれで」

 

 

何とか誤解は解けたようで、スメラギさんはヴェルフに激励を送ったあと自分の店があるバベルのテナントへと帰って行った。

 

てかスメラギさん、ヴェルフに激励を送る時に一人称を『私』から『俺』に変わってたな。ああいうタイプのキャラクターは何かしらのイベントに密接に関わってくるのが多いんだよな。要注意だな。

 

 

「悪いな、ヴェルフ。俺の所為でヴェルフにまで迷惑んかけて」

 

「気にするな。元はと言えば、うちの【ファミリア】の連中が原因だからケンマも被害者だろう」

 

「そうか、ならお互い様だな」

 

 

突然の先客がいたが、元々の目的である『ミノタウロスの角』を使った武器をベルのために作るため、ヴェルフの工房へと入る。

 

工房に入るとヴェルフは自分の荷物を置きながら、俺たちにもある注意を促してくる。

 

 

「作業中、部屋は相当暑くなるからな、防具は外しておいた方がいいぞ」

 

「え、あ、はい」

 

「なら、遠慮なく」

 

 

脱いだ自分たちの軽装を部屋の隅へと置き、インナーだけになりながら、他にやれることがないかを探していると武器を作成する最中、部屋の中は高温となる。なので、窓は開けておくべきではないかと思った。

 

 

「ヴェルフ、こっちの窓は開けておくか?」

 

「悪い、全開で頼む」

 

「僕も手伝います!」

 

 

二人して工房の鎧戸を開けて、内と外の空気が入れ換えるようにする。それが終わるとヴェルフは、いつの間にか炉の方へ火を入れていた。

 

炉に火を入れると火力を上げるため、足で空気入れのような物を踏み、炉に酸素を供給してドンドン火力を上げていく。 

 

 

「な、何をするんですか?」

 

「このドロップアイテムを加熱する」

 

「モンスターの角を、焼いちゃうんですか!?」

 

 

ベルが驚くのも無理もない。本来、生き物の角はカルシウムなどの塊。それを加熱してしまえば、最終的には炭になってしまう。俺もアニメの知識がなければ、ベルと同様に驚いていたはずだ。

 

そんなベルの問いに、ヴェルフは当然のように答えを返答する。

 

 

「モンスターの角や爪の中には、金属の性質を持つものがあるんだ」

 

「金属……?」

 

「ああ。『アダマンタイト』って聞いたことないか?」

 

 

『アダマンタイト』、前世のゲーム、アニメ、ラノベ等に稀少鉱石としてポピュラーな鉱石の一つだ。特に強度が高いため、武具によく使われている。

 

そんなアダマンタイトだが、この世界だと鉱石としてだけではなく、モンスターのドロップアイテムの物質の一部として存在している。何故ならモンスターはダンジョン、つまりは壁から産まれているのとダンジョンが地下にあるため地中の鉱石を取り込んでいるのではないかという資料をエイナさんとの勉強で学んだ。

 

 

「あるぞ。それにドロップアイテムに金属の性質があるのは、一説ではモンスターがダンジョンの壁から産まれてくるから地層の鉱石を取り込んでいるからではないかと、アドバイザーから聞いた」

 

「あ、思い出した!」

 

「そうだ。アダマンタイトはダンジョンでしか取れない鉱物でな、武器の素材としては一級品だ。硬度も半端ない。鉱物自体、モンスターが出てくるあの壁面からポロリって感じで、本当に稀に出てくる。上層でも出てきたなんて話も聞くが、持ち帰られるのはもっぱら下層や深層の物だな」

 

 

ヴェルフが真剣に見つめる炉から上がる火の粉はまるで不死鳥を思わせるほど幻想的な光景に目を奪われながら、椅子に座って観察する。

 

ある程度、炉の火力が整ったところでヴェルフは『ミノタウロスの角』を炎が迸っている炉の中へと投入した。

 

 

「何か、聞きたそうにしてるな、ベル」

 

「へっ!?」

 

「いいぞ、何でも聞いてくれて。契約まで結んだ相手に、隠し事はしなくない。無論、ケンマもだ」

 

「その時になったら聞くよ」

 

 

少し間を置いてからベルは唾を飲み込んで、一歩、ヴェルフの懐へと踏み込んだ。

  

 

「ヴェルフさんは、どうして、魔剣を作ろうとしないんですか?」

 

「そうだな……まぁ、理由は色々あるんだが……俺、魔剣が嫌いなんだ」

 

 

明確な魔剣に対しての拒絶に、ベルは目を見開く。そして、ヴェルフは当時の話を話してくれる。

 

【ヘファイストス・ファミリア】に入団して己の作品を店に出しても作成者の『クロッゾ』というサインを見ては『クロッゾの魔剣』を欲しがる客が後を立たずにグレてしまった。更になぜ『クロッゾ』が魔剣を打てるようになったのか原点、そして現代ではヴェルフ以外には『クロッゾの魔剣』が打てない理由も。

 

やがて武器が完成に近付いて行くに連れて、鎚で鍛錬する時にはヴェルフの独白と思いが鎚に伝わって行く。それは、まるでベルを置いて、決して折れることがないようにと武器へ祈りを込めているようにも見える程だ。

 

色々とヴェルフについて教えてもらいながら、ようやく完成したのは刀身が真っ赤な一本の短刀。しかし、その切れ味と出来は下級鍛冶師でも最高の一本に違いないはずだ。

 

 

「………完成だ」

 

「うわぁ………!」

 

「素材が良かったんだろうな。俺の今までの作品で、間違いなく最高の出来だ」

 

 

出来上がったばかりの真っ赤な短刀を見て、俺もホームに置いてある強化種である青いミノタウロスのドロップアイテムをどうしようかと悩む。

 

正直、以前にも述べたが武器だけならかなりの物が俺の手元に揃っている。それこそ、オラリオの街でも最高の二振りがだ。しかし、せっかく苦労して倒した相手のドロップアイテムのため、売る気になれない。

 

 

「よし!それじゃ名前を付けるか」

 

 

おっと、俺が持っているドロップアイテムの使い道について考えていると、いつの間にか新しいベルの武器の命名式まで話が進んでいた。

 

 

「『牛若丸』……いや、ミノタウロスの短刀だから、『ミノたん』」

 

「トーラスダガー、レッドブルー………翼を授ける?」

 

「いやいやいや!最初のやつでいいじゃないですか!?」

 

「そっか? じゃあ『牛若丸』にするか。ほれっ」

 

 

『牛若丸』と命名された赤い短刀は、革の鞘に納められてベルに差し出される。

 

 

「ありがとうございます。ヴェルフさん」

 

 

嬉しそうに『牛若丸』を受け取ろうベルは掴むがヴェルフは素直に渡さなかった。その理由は─────

 

 

「まだ会って数日だし、信頼丸ごと預けろとは言わない。でも………ケンマやリリスケみたいに、俺も仲間っぽく呼んでくれよ」

 

「わかった、ヴェルフ」

 

 

目の前で繰り広げられているアニメのワンシーンを見て、俺は感動を覚えながら二人の鎧戸から夕陽に照らされる光景を脳内保存することだけに努めていた。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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