臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第四十八話

 

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

 

「本当にケンマ様には驚かされます。まさか、無尽蔵に魔剣や聖剣を造るれるだけではなく、【ランクアップ】までされているとは………」

 

「ま、まあリリ、これでパーティーとしての安定性もより強固なものになったと思えばいいんじゃないかな?」

 

「それはそうですけど………あれを見ても同じことをいえますか、ベル様?」

 

「無尽蔵に魔剣を造れて、何回振っても折れないとか………はははは」

 

「………ごめん、僕が間違ってた」

 

 

『魔剣創造』と『聖剣創造』、【ランクアップ】のことをベルたちに打ち明けると、三者三様の反応を見せる。特にダメージがデカイのは鍛冶師のヴェルフだろう。

 

人のことをあれこれと言ってくれている間、俺はしっかりの殿の役目である後方からモンスター襲撃に警戒しなが、三人の後を追う。

 

そして13階層へと繋がる階段を降り切るとエイナさんの教え通り、上の12階層と比べて少し暗くなった気がする。

 

 

「ここが中層か…………」

 

「話は聞いていましたが、今までの階層よりも光源が乏しいですね」

 

「そうだね。曲がりくねってるわけでもないのに、先が見えないよ」

 

 

小人族のリリとLV.2 のベルと俺でも階層から『ルーム』までの道中が暗くなっていて先が把握出来ないほどだ。

 

 

「13階層はルームとルームを繋ぐ通路が長いのが特徴です。安全に戦闘を行うにも、まずはリリたちは迅速に最初のルームへ到達しなければなりません。そして、先ほどから十分承知しているとは思いますが………」

 

「ああ、分かってるって。『ヘルハウンド』が出てきたら、真っ先に叩け、だろ? 俺だって火葬はごめんだ」

 

「はい。いくら『サラマンダー・ウール』を着けているとはいえど、ヘルハウンドの炎はとても強力です」

 

 

以前、ナァーザさんから聞いた経験談とエイナさんが言っていたことを思い出す。ヘルハウンドの炎は、骨すら残さないと。

 

それとこれは個人的意見だが、中層はゲームとかでも出てくるエリアやステージの節目だと思っている。出現するモンスターの種類や属性、攻撃方法などあらゆるものが変わってくる。それに対応するにはかなりの時間が必要になるだろう。

 

そう思っていた矢先に奴らは現れた。

 

 

「皆、あれ!」

 

「……いきなりおでましか、それも二匹」

 

 

ヴェルフの呟きが通路内に反響する。

 

俺たちの進行方向に現れた二匹のヘルハウンド。ごつごつした黒い体皮に爛々と真っ赤に輝く瞳、犬と呼ぶには少々たくまし過ぎる四足獣。

 

狼とも違った凶暴な顔付きを盛大に歪ませながら、二匹のモンスターは唸り声を上げる。

 

 

「なぁ、この距離はどうなんだ? 詰めた方がいいのか?」

 

「ヘルハウンドの射程距離は甘く見ない方がいい、ってアドバイザーの人から言われたけど………」

 

「なら───叩くぞ!」

 

 

戦闘開始の合図をヴェルフが上げ、疾走する。その直ぐ、右後方にベルも続く。それと当時にヘルハウンドも強烈な遠吠えを上げてから凄まじい勢いで、互いにの肉薄によって約五○メートルもあった距離を詰める。

 

 

『オオオオオオオンッ!』

 

 

二匹いるうちヘルハウンドAがヴェルフへと飛び掛かる。しかし、それよりも速くベルが双方の間に体を滑り込ませ、左手の小型盾でヘルハウンドAの牙を防ぐ。  

 

 

「ぐっ、重いッッ!」

 

『グルルルル………』

 

 

ヘルハウンドAの噛みつきを小型盾でしっかりと防いだベルはその場に踏み止まり、勢いを失って宙ぶらりんになっているヘルハウンドAにヴェルフが颯爽と無防備な体へ容赦のない一太刀を浴びせる。

 

大刀を受けたヘルハウンドAは、真っ二つに泣き別れたあと短い断末魔と共に魔石だけ残して灰化した。

 

 

「てやあああああ!」

 

『ァガッ!?』

 

 

まだ残っているヘルハウンドBは、俺たちから少し距離を置いた状態のまま、上半身を伏せるような体制を取る。その姿勢が火炎攻撃の前動作と理解する。

 

 

「やらせるか!」

 

 

今までと違って、遠慮なく『聖剣創造』で宙に聖剣を創造、そのまま某英雄王の如く射出する。前動作で魔力を練っているヘルハウンドBは、身動きが取れずに聖剣によって頭蓋を貫通されて、死に絶えた。

 

こうして、中層での初戦は危うげなく対処することに成功したのであった。

 

 

「よし……幸先は良さそうだな」

 

「うん。全然歯が立たない相手じゃない。ヘルハウンドの火炎攻撃も、何とか対処できそうだし」

 

「そうだな。付け焼き刃の連携も上手く機能してるみたいだしな」

 

「ともかく、開けた場所に急ぎましょう。こんなところでモンスターに囲まれたら、厄介で………」

 

 

リリが最後まで言い終わる前にモンスターの鳴き声が遮る。

 

 

『キイイッ!』

 

 

その声の主はピョコピョコと揺れる長い耳に、白と黄色の毛並み、ふさふさの尻尾。額には鋭い角が一本生えている。体格は大体リリと同じくらいのモンスターで名前は『アルミラージ』。ゲームやラノベなどに出てくる定番中のモンスターの一種である。

 

しかし、その見た目に俺たちは思わずモンスターとは別の誰かを思い浮かべてしまった。

 

 

「あれは……ベル様?」

 

「うむ、ベルだな」

 

「なんだよ、ベルかよ。よし、殺るか」

 

「ちょっ、言い方!それとあれは、アルミラージだってば!?」

 

 

ベルを弄るのもそこそこに、三匹のアルミラージたちは手近にあった大岩を砕き、その中から新しい天然武器を手に取る。その行動を見て、俺は13階層というよりも中層にある大岩の殆どが『迷宮の武器庫』なのではないかという考えが過る。

 

けれど、そんな思考をゆっくりとさせてくれるわけもなく、天然武器の石斧でアルミラージたちは襲いかかってくる。

 

 

「ベルとヴェルフは右の奴から頼む!他の二匹は俺とリリで抑える」

 

「任せろ!」

 

「うん、分かった!」

 

「お任せください!」

 

『キィィィ!』

 

『キャウッ!』

 

『キィ、キィイ!』

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

あれから幾度となく中層のモンスターと戦闘を繰り返して来たが、現在は最悪に近い状態と言っても過言ではないだろう。俺たち四人は背中合わせでアルミラージの大群と対峙しているからだ。

 

けれど、幸いなことにヘルハウンドやバットバットが来ないところを見るに、まだ希望が見えていると思っていいはすだろう。

 

 

「ふさげろ、息付く暇もねぇ!」

 

「無駄口叩いている暇もないです!」

 

 

俺とベルで現状を維持出来ているが、LV.1 のヴェルフとリリの体力を考えるとジリ貧は待った無しだ。

 

 

「これ以上は仕方ないか………全員、中央で防御姿勢!聖剣で一掃するッ!」

 

 

俺の声を聞いたベルたちは即座に再び背中合わせに集まり、防御姿勢を取る。それを背中越しで感じながら手に持っている魔剣の切っ先を天井に向けてから振り下ろす。

 

 

「聖剣よ、降り注げッ!!」

 

 

先日、リューさんとの早朝鍛練で試した魔剣バージョンよりも数を桁違いに増やした聖剣の短剣バージョンをアルミラージたちの頭上から降り注ぐ。

 

無数の聖短剣の雨がアルミラージたちに降り注ぐ最中、偶然にも致命傷には至らなかった個体も中にはいるが聖短剣の効果でかすり傷程度でも受けてしまえば傷口から煙が発生して動きを鈍らせる。そこへ、更に降り注ぐ聖短剣によって確実に仕止めて行く。

 

これは、当たれば良しの何段にも構成された波状攻撃なので、俺の負担はそこまで大きくない。

 

 

「す、すげぇ………」

 

「最早、これは『魔法』の域を越えているのでは………」

 

「やっぱり、ケンマは凄いや!」

 

 

粗方倒し終わり、息がある個体は聖剣によって身動きが取れず、ジワジワと聖なる力が身体を蝕み、その痛みから呻き声を上げている。

 

 

「ヴェルフ、今のうちに生き残っている個体を仕止めてくれ!」

 

「おう!御言葉に甘えて【経験値】を稼がせて貰うぜ」

 

「では、その間にリリは魔石の回収を済ませてしまいます」

 

「じゃあ、僕はリリの護衛に回るよ。ケンマの聖剣を受けて、生き残ってるアルミラージがリリを襲って来ないとも限らないし。その間、ケンマは休んでて。あんな数の聖剣を生み出したんだから、かなり体力を消耗してるでしょう」

 

「なら、そうさせてもらおうかな」

 

 

ベルの言う通り、アルミラージの数が多かったために創造する聖剣の量も比例して増えた。消耗した体力は大体の感覚からして、シャトルランの一本分くらいだろう。『超回復』のアビリティもあるので直ぐに回復するはずだ。

 

周囲の警戒を怠らず、体力の回復に努めていると先ほどのアルミラージの群れとの戦闘に見覚えがあるなと思い返していた。そう、アニメでも同じ光景に見覚えがある。

 

 

「そうだ。ベルたちがアルミラージの群れに苦戦しているところに、怪我をした千草を背負った【タケミカヅチ・ファミリア】が………………このタイミングかよッ!!」

 

 

そこまでアニメの記憶を思い出したところで辺りの状況を確認していると、この『ルーム』に繋がる数ある通路の入り口で、少女を背負った黒髪の男性とその隣には同じく黒髪の少女がいた。

 

嗚呼、間違いない。この場所は、アニメでベルたちが彼らに『怪物進呈』を仕掛けられるエリアだ。そして、彼らは今にもそれをやろうとしている。

 

臆病者の俺には、彼らと共闘するだとか助けてやろうなどの考えは微塵もなかった。ただ只管に、この場から逃げることを選択した。

 

 

「三人とも逃げるぞ!」

 

「へっ?」

 

「えっ?」

 

「はっ?」

 

 

俺の指示に訳が分からないと言った変な声をもらす三人。それを見逃さずに俺たちの横を通り過ぎていく、六人ほどで構成された【タケミカヅチ・ファミリア】のパーティー。これは完全に出遅れた、とそう確信するには十分だった。

 

そして、彼らを追ってくるモンスターを押し付けられて怪物進呈を仕掛けられたのだと次に気付いたのは、やはりリリだった。

 

 

「いけません、押し付けられました!怪物進呈です!」

 

「なっ!」

 

「冗談、だろう……」

 

 

リリの叫びにベルは、ガバッと【タケミカヅチ・ファミリア】のパーティーが走り抜けた方を振り返るが既に彼らはルームから逃げ去っていて影すら見えなかった。

 

 

「退却します!通路へ、早くっ!」

 

「ベル、先行しろ!殿は俺が勤める!」

 

「分かった!」

 

 

この展開を知っている俺を除いて、リリたちは混乱に陥りながらもリリの指示通りに人一人入れるくらいの通路へと身体を捩じ込む。

 

背後から迫りくるモンスターの足音からしてアニメ通り追い付かれることを確信した俺は、この先にあるトンネルのような通路と次の通路との間にある大岩の橋で仕掛けることを考える。

 

アニメでは、橋の上でベルが【ファイアボルト】を使っていたが俺の場合はそうではない。トンネルの通路を抜けて、大岩の橋に差し掛かったところで身体を反転さ、手に持っている魔剣を地面に突き刺す。

 

 

「ソード・バァァアス!!」

 

 

『魔剣創造』で橋とトンネルの通路を隔ている入り口を幾重にも重ねた魔剣、それも《火除け》の効果を付与した魔剣たちで鼠一匹通れないように完全に塞ぎ切る。これで、多少なりとも時間は稼げるはずだ。

 

分かっていたことはいえ、念のためにかなり分厚く層を作るように魔剣を創造したために、少しばかり息を乱れる。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

「聖剣で通路を塞いだの?」

 

「これなら次のルームまで、背後から襲われる心配は────」

 

「そうでもないみたいだぞ」

 

 

ヴェルフがそう言うと、残された一本道の通路の先からモンスターたちの呻き声が反響して聞こえてくる。

 

俺が創造した魔剣の壁もそのうち破られることを考慮したら、状況は悪化の一方通行を辿っている。それにまだ、天井の崩落という最悪の出来事が残っている。

 

 

「反対側からも………挟み撃ち!?」

 

「何でこう、中層ってのはモンスターが寄ってくるのが早いんだ」

 

「中層だから、でしょう……」

 

 

軽口を叩きながら、リリがバックパックから取り出した回復薬を疲労が目立つリリとヴェルフに回す。息を切らしている俺は、ヴェルフに少しだけ分けてもらって体力の回復を図る。

 

 

「ベル様、ケンマ様、ヴェルフ様、リリは逃げるを上策とします。いくらケンマ様が聖剣でフォローして下さるとはいえ、先ほどのように体力に限界があります。一度息をついて、態勢を立て直さなければ。このまま、まともに戦っても切りがありません」

 

「反対はしないけどな、だけどよう………」

 

「この先を強引に………突破?」

 

「ええ、それが最良かと」

 

「ケンマはどう思う?」

 

 

さて、どうしたものか。このまま前に進めば間違いなく、崩落に巻き込まれる。けれど、引き返せば【タケミカヅチ・ファミリア】が引っ張ってきたモンスターの群れとの戦闘は不可避。二択で迫れるのであれば────

 

 

「強行突破だな」

 

「分かった。行こう!」

 

 

方針が決まった俺たちは、隊列と直して強行突破へと踏み切った。

 

しかし、ダンジョンはリューさんの言う通り狡猾だった。倒しても、倒しても、倒しても、倒しても、モンスターは俺たちに集まってくる。やがて、俺たちの疲労がピークに達したところで、満を持してダンジョンは動き出した。ビギィ、ビギィという亀裂が走る不穏な音がなる。

 

その音に俺とベルは即座に反応して、左右の壁を確認。が、壁には何の変化もない。だとすれば、残されたものは天井。

 

 

「「「「────ッ!?」」」」

 

 

ここに来て、一番警戒していたモンスターの出現による天井の落盤が起きた。天井から産まれ落ちる夥しい数のバットバットの群れ、それに伴って降り注ぐ岩石の雨、霰。僅かに反応が遅れるが俺たちは死んでたまるものかと、なりふり構わず地面を蹴る。

 

けれど、そんな俺たちを嘲笑うかのように土砂が川のように猛威を奮ってくる。そんな中で、仲間を助ける余裕などあるはずもなく、俺は必死に身体中のオーラを高めて土砂から身体を守る。

 

 

「うがっ……!?」

 

『無事か、相棒!?』

 

(なんとかな……日頃の鍛練がここで活きた)

 

 

そして、ドライグに心配されながらも自分が割かし無事であることに安堵するも束の間、自分は無事でも仲間のヴェルフとリリが呻き声を聞こえてきた。

 

 

「ぐっ、ぅ………!」

 

「ヴェルフ!」

 

「っ……うっ……」

 

「リリ!」

 

 

今の呻き声からしてヴェルフは足を殺られたのは間違いない。リリも怪我をしているはずだ。治療をしないとと思った矢先に、土砂が山となって積もっている方から唸り声が聞こえてくる。

 

 

『グルルゥゥゥゥ…………』

 

「ヘルハウンド…………それも三匹も!?」

 

『ガァ………!』

 

 

剣を抜く暇もなく、ヘルハウンドたちは姿勢を低くして、口内に膨大な赤熱を収束させ始める。

 

それを見て、俺は何度もこの一週間の間にイメージしてきたトレーニングを活かして咄嗟に片手を突き出して、掌から《火除けの魔剣》を連続射出。

 

 

「こんなところ死んでたまるか!」

 

 

射出された魔剣は空中でヘルハウンドの火炎と衝突、火炎を呑み込み、無力化しながらそのままヘルハウンドたちの眉間に深々と突き刺さる。けれど、倒し切るまでには至らなかった。

 

 

「まだだ!突き破れろォオオオッッ!!」

 

 

死にたくない強い想いと強固なイメージを魔剣に送り、ヘルハウンドたちの眉間に刺さっている魔剣を上書きしながらそこから新たに創造する。

 

すると、眉間の魔剣を起点に無数の魔剣がヘルハウンドたちの身体を内側から突き破りながら生まれた。その光景は、まるで闇落ちした某正義の味方のように酷い倒し方だった。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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