臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第四十九話

 

 

 

 

 

〈sideヴィクトリア〉

 

 

 

 

 

 

「まだ帰ってきてないのね……」

 

 

わたしは、ケンマの部屋の扉を開いてあの子が帰ってきているか確かめた。けれど、結果は帰って来ていなかった。部屋の主がいないので、部屋から出ていこうしたらゴトリッと重たい何かが落ちる音が聞こえた。

 

それを確かめるために、再び部屋に入ると床には短剣と三枚の手紙が落ちていた。

 

 

「なにかしら……手紙?」

 

 

まずは、手紙の宛先を確認するとわたしとヘスティア、それからリュー宛てだった。しかし、何故わたしたち宛ての手紙がケンマの部屋に落ちているのだろう。そう考えた辺りで、この短剣がケンマ自身が造った物だとしたら手紙を書いた主もケンマだと納得が行く。

 

そう思って、おもむろに短剣でわたし宛ての手紙の閉じ口を切り、手紙を読んでいく。が、読んで行くにつれて、わたしは血の気が引き、膝も震え始める。

 

 

「嘘よ……そんなの嘘よ……だって、貴方はわたしに必ず帰ってくるって……」

 

 

手紙の内を最後まで読み進め、ケンマの【恩恵】が残っているのを確かめてからあの子が書いた指示通りにわたしは動き出すことにした。

 

まずは、リュー宛ての手紙を彼女に渡すために『豊饒の女主人』へと急ぐ。店に着くと、走って来たので膝に手をついて息を整える。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……!」

 

「あれ、ヴィクトリア様? どうかしなのかニャ、そんな慌てて……」

 

「りゅ、リューを……呼んで……ちょうだい……大至急よッ!」

 

「わ、分かりましたニャ!」

 

 

店の前を掃除していたクロエに、大至急でリューを呼んで来て貰うよ頼むと直ぐに彼女はやって来た。

 

 

「ヴィクトリア様、私をお呼びだとクロエから聞いたのですが、何かご用ですか?」

 

「いい、リュー。この手紙を貴方の部屋で読んで頂戴!そして、その手紙通りに動いて頂戴。わたしはまだ行くところがあるから、それじゃあ!」

 

「あっ、ちょっ、ヴィクトリア様!?」

 

 

リュー宛ての手紙を彼女に渡したあと、わたしは次なる目的地へと再び走り出す。次に会うべき相手は、ケンマとベルの担当アドバイザーでギルド職員のエイナ・チュールという眼鏡をかけたハーフエルフの女性。

 

わたしはそのアドバイザーの子には会ったことがないが、ケンマがしっかりと彼女の特徴を書き記して置いてくれたお陰で直ぐにギルドでエイナ・チュールを見つけることができた。

 

 

「そこのハーフエルフの子、貴方がエイナ・チュールで合っているかしら!?」

 

「は、はい。私がエイナ・チュールですが、申し訳ありませんが女神様、御身の御名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」

 

「わたしの名前は、ヴィクトリア。貴方が担当している石黒ケンマという冒険者の主神よ」

 

「なるほと、ケンマく……イシグロ氏の主神でしたか。主神自らとは、何かご用ですか?」

 

「あの子は、ケンマは昨日ダンジョンに行ってからここには帰ってきてないかしら!?」

 

「昨日、同じパーティーである【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネル氏と共に、ダンジョンへ出発する前の朝に訪れた以外にはイシグロ氏を見ておりませんが……」

 

 

エイナは、周りの職員にも目で訪ねるが全員首を振っていた。つまり、ケンマはダンジョンから戻ってきていないのは確実となってきた。

 

ケンマがダンジョンから帰ってきていない事実が明確なものになっていくことに恐怖していると、ギルドの入り口からわたしと同じように自分の眷属の安否を確認するためにやって来たヘスティアと鉢合わせる。

 

 

「アドバイザーくん!」

 

「か、神ヘスティア?」

 

「昨日、ベルくんはここに来たかい!?」

 

「そのことでしたら、今、神ヴィクトリアからも同じ問い合わせが……」

 

「昨日から、ベルくんがホームに帰ってきていないんだ!」

 

「やっぱり、ヘスティアのところもそうなのね」

 

「ボクのところも、ってことは……ヴィクトリアのところもかい?」

 

「ええ、昨日から帰ってきていないわ。恐らく、ダンジョンから戻ってきていない可能性が一番高いわね」

 

「少々お待ちください!」

 

 

わたしたちの話を聞いて、エイナは緑玉色の瞳を愕然と見開くと顔を直ぐに青くさせてからわたしたちに一言断りを入れてから窓口から離れると換金所にもケンマたちが帰ってきていないかを確かめてくれた。

 

 

「換金所とも連絡を取りました。ケンマくんたちと思わしき冒険者は、一度も来てないようです」

 

 

戻ってきたエイナの話を聞いて、ケンマたちが『中層』で遭難したことは確信した。

 

 

「ヘスティア、固まってるところ悪いけど、貴方にこれを」

 

「これは……手紙?」

 

「ケンマがこのことを予見していたのか、色々と指示が書いてあるわ。まずは、それを読んでから動きましょう」

 

「分かった」

 

 

ケンマからの手紙をヘスティアは受け取ると直ぐ様、閉じ口を開けて中身の手紙を読み進める。

 

すると、次第に顔色と表情に変化が訪れた。

 

 

「はぁ……なんだい、キミのところの子供は? 完全にボクたちの動きまで的中してるじゃないか」

 

「そりゃあ、わたしの自慢の眷属だもの」

 

「でも、今回は助かったよ。この手紙のお陰で、少し心の余裕ができた。アドバイザーくん、冒険者依頼の発注したい。依頼内容は、『ベルくんたちの捜索』だ」

 

「報酬はどうしますか?」

 

「四○万ヴァリス。【ファミリア】の全財産だ」

 

「ヘスティア、わたしも半分の二○万ヴァリス出すわ。同じ大切な子供を探してもらう冒険者依頼だもの、それくらいはさせてちょうだい」

 

「ヴィクトリア……ありがとう」

 

「わたしの方こそ」

 

 

ケンマたちを捜索する冒険者依頼を発注したあと、わたしは指示が書かれた手紙を読み返しながら次の行動を考える。

 

すると、ギルドの入り口からとある男神が顔を俯かせた二人の眷属を連れてヘスティアの名前を叫ぶ。

 

 

「ヘスティア!」

 

「タケ?」

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

「すまん、ヘスティアにヴィクトリア!お前たちの子が帰ってきてないのは、俺たちに原因があるかもしれん。うちの連中が『中層』でお前たちの子らしき者たちにモンスターを押し付けたと………」

 

 

タケミカヅチの謝罪が廃れた教会の【ヘスティア・ファミリア】のホームに響き渡る。

 

 

「こいつらも必死だったとはいえ……申し訳ない」

 

 

必死に頭を下げ続けるタケミカヅチ同様に、その眷属たちも懺悔をするかのように顔を俯かせている。

 

正直ケンマの手紙がなければ、わたしはこの場であらんかぎりの罵声と憤怒をタケミカヅチたちに浴びせていただろう。それは、家族を何よりも大切にしている家庭の女神であるヘスティアも同じだと思う。

 

その証拠に、ホームにやって来きてからヘスティアはタケミカヅチたちに背中を向けたままでいるからだ。

 

 

「もし、ベルくんたちが戻って来なかったら、キミたちのことを死ぬほど恨む、けれど憎みはしない。約束する」

 

 

ヘスティアがそう告げながら振り返ると、背後にある所々割れているステンドグラスから光が差し込み、神威を解放してもいないのに慈愛深くすらある女神の寛容さと、その毅然な眼差しに、子供たちは初めて己の主神以外の神に心を打たれた。

 

ヘスティアは子供たちを許したその上で、懇願する。

 

 

「今は、どうかボクに力を貸してくれないかい?」

 

『───仰せのままに』

 

 

一糸乱れぬ動きで【タケミカヅチ・ファミリア】の子供たちは膝を床に付き、頭を垂れた。

 

自分のところの子供ではないが、ヘスティアの恩情に応えようと誓う彼らの姿を見て、わたしはたちは目を細める。

 

そして、ミアハが本題へと戻す。

 

 

「では、話を先に進めよう。時間が惜しい。」

 

「うん」

 

「捜索隊、だったな。まだヘスティアとヴィクトリアの子が生きているのは間違いないんだな?」

 

「ええ、ケンマは間違いなく生きているわ」

 

 

タケミカヅチの問いに、わたしは即答で応える。

 

例え【恩恵】が消えたとしてもケンマが生きているのを確かめられる方法はもう一つある。それは、ケンマが創造した短剣。あれは、きっとケンマが転生する時に持ち込んだ『魔剣創造』か『聖剣創造』で造り出した短剣だ。

 

その二つの詳しい情報は、今のわたしではこの世界に降り立つ時に神々の制約として色々と制限が掛けられてしまっているから記憶も曖昧だけれど、ケンマが死んでしまえば、あの短剣も消滅してしまうのは何となくではあるけど分かる。

 

 

「ボクの方もまだベルくんの【恩恵】が残っているのを感じるよ。ヘファイストス、ヴェルフくんの方は?」

 

「ちょっと待ちなさい、契りを交わした子が多くて把握しづらくて………」

 

 

なるほど、こういう場合は、眷属が多ければ多くなるほど良いことだらけではないということが、今ので分かった。

 

 

「ええ、多分、まだ生きてるわ。私が与えた【恩恵】の数は減っていないようだし」

 

 

わたしたちの眷属が全員生きていることが判明すると、ミアハがヘファイストスに訪ねる。

 

 

「ヘファイストスの子は協力できないか?」

 

「実はロキのところの『遠征』に団員を預けていてね……深層域まで行くから、腕利きの子はみんなあっちにいるわ。今すぐ動かせる子じゃあ、中層にとどまらせるには頼りないわ。ごめんなさい、ヘスティア、ヴィクトリアも」

 

「ヘファイストス、気にしなくていいよ」

 

「わたしの方で繋がりある上級冒険者には、ここへ来る前に声をかけたけど、来てくれるか………」

 

「その上級冒険者は誰で、どこの所属なのだ?」

 

「ごめんなさい。訳あって、名前も所属も言えないけれど、言えるとしたらケンマの冒険者としての師匠の一人ということだけね」

 

 

ミアハの問いに、わたしは信頼性を欠ける答えしかできなかったがヘスティアがフォローを入れてくれる。

 

 

「ケンマくんの師匠か、そんな子が来てくれれば心強いね。でも絶対ではないとなると、やっぱりタケのところに頼っちゃうことになるな」

 

「それはいいんだが……うちから中層へ送り出せるのは桜花と命……それにサポーター代わりに千草が行ける程度だ」

 

「しかし、三人だけというのは……」

 

 

あまりにも心許ない。最悪の場合は、二次遭難の可能性もあり得る。そう思って悩んでいると教会の入り口から優男風の男神の声が飛んでくる。

 

 

「───オレも協力するよ、ヘスティア!」

 

「ヘルメス!?」

 

「お前、何しに!? いつ旅から戻った!?」

 

「なに、神友が困ってると聞いて、駆けつけたのさ」

 

 

わたしたちが目を見張る中、タケミカヅチを軽くあしらうかのような笑みを浮かべながら颯爽とヘルメスは教会の中へと入ってきた。

 

しかし、この展開をわたしは知っている。何故なら、ケンマの手紙にヘルメスとその眷属がわたしたちが発注した冒険者依頼を受けにやって来くると書いてあったからだ。

 

 

「オレも手を貸すよ。ベル・クラネルと仲間の捜索依頼」

 

 

その証拠にヘルメスの手には一枚の羊皮紙、冒険者依頼の依頼書が握られている。けれど、ヘルメスは天界に居た頃から胡散臭いことで有名なため、ヘファイストス、タケミカヅチ、ミアハの三名が怪しむ。

 

 

「神友とか言って、貴方、下界に来てからろくにヘスティアと関わりをもっていなかったんじゃない?」

 

「確かに……」

 

「随分といい加減な友ではあるな」

 

「あれあれ? これは手厳しいなぁ……。でも、ヘスティアに協力したいのは本当さ。───オレもベルくんを助けたいんだよ」

 

 

突如として、ヘルメスの声音が巫山戯た物から真剣な物へと変わった。そのあと、再び巫山戯る声音に戻るとヘルメスは隣にいる眼鏡をかけた自分の眷属の肩に手を置いた。

 

 

「捜索隊には、このアスフィも連れて行く」

 

「は!?」

 

「うちのエースだ、安心してくれ」

 

「はぁ………」

 

唐突に言い渡された主神命令にアスフィという子供は、変な声をあげるが直ぐに慣れたように苦労人を思わせながら溜め息を吐くとケンマたちを捜索すると仲間として、わたしたちに軽く一礼する。

 

ヘルメス自身はあまり信用ならないが、子供はそうではないと思いながらタケミカヅチは敢えて、わたしとヘスティアに承諾の決定権を委ねる。

 

 

「どうする、二人とも」

 

「わたしはお願いするわ。出会って間もないけど、ケンマたちのことをお願いするわね、アスフィ」

 

「承りました。女神様」

 

「ボクもヴィクトリアに賛成だ。今は一刻でもベルくんたちの救助が最優先だ。少しでも人手が欲しい。頼むよ、ヘルメス」

 

「ああ、任されたよ!」

 

 

タケミカヅチのところの桜花、命。ヘルメスのところのアスフィ。三名のLV.2 が揃えば中層での活動も安定性が増してくる。

 

贅沢を言うのであれば、このパーティーにLV.4 のリューにも参加して欲しいけれど無い物ねだりをしても何もかわりはしない。

 

 

「準備が出来次第、出発ね」

 

「うむ。今夜がめどだな」

 

「桜花、お前たちは直ぐに準備しろ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

わたしは出来ることはないけど、タケミカヅチの子供たちはケンマたちを捜索するために準備に取りかかる。

 

やることがないわたしは、このあとやらかすであろうヘスティアを監視していると案の定、少し離れたところでヘルメスとアスフィが内緒話をしているところへ入って行った。大方ケンマの手紙通り、ヘスティアもヘルメスと共にダンジョンに行くのだろう。

 

本音を言えば、わたしも行きたい。けれど、手紙には絶対に来るなと書かれている。もしも仮にダンジョンでわたしが送還されてしまった時には帰るものも帰れないから止めてくれと必死に懇願するように書かれていたので、大人しく待つことにした。

 

 

「はぁ……こういう時に何も出来ないなんて、歯痒いわね」

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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