臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
『豊饒の女主人』を出て、小走りでダンジョンへと続くメインストリートを走りながら昼飯に良さそうな物を見繕う。シティーボーイの俺は、しっかり三食+おやつがないと満足に動くことができないのでしっかりと食料を確保しておく。
昼飯と飲み物を揃えたら、ダンジョンへと続く螺旋階段をゆっくりと降りていく。今日は、本格的に金を稼ぐつもりでいるので『騎士』で補正された『敏捷』と『器用』を活かしながらモンスターを倒すことした。
「【プロモーション・ナイト】」
【プロモーション】の詠唱式を唱え、『騎士』へと昇格したのを感じてから一気にダンジョンを駆けていく。『騎士』に昇格したことによって、Lv.1 では到底出せないような速度で移動しながらモンスターの喉笛を素早く聖剣で切り裂いていく。
モンスターを倒し終われば、あまり気分はよくないが『魔剣創造』で創造した短剣で亡骸を裂き抉り、体内から魔石を回収する。
「せいっ!」
『ゴブリャッ!?』
「せやぁっ!」
『キャインッ!?』
「はっ!」
『グゲエッ!?』
ゴブリン、コボルト、ダンジョン・リザードを一時間の間、只管切り裂いて倒していく。【プロモーション】の効力が切れるタイムリミットが来たところで少し休憩を入れることにした。
ダンジョンに潜る前に購入して、バックパックに入れておいた飲み物を取り出して、一時間全力とは行かずともずっと動き続けて、呼吸や汗とかでカラカラに乾いた喉を潤す。
「あー、どうしてカラカラに乾いた時に飲む水って、なんでこうも美味く感じるんだろうなぁ」
一気に中身を半分まで飲み干したボトルを片手に、水を飲む時に消費した酸素を求めるように天井を見上げながら深呼吸をしながら一人呟く。
しばらく魔力と体力の回復に努めていると金属音がダンジョンの壁に反響して聞こえてきた。
「反響するってことはそれなりに近いな。だとすると、他の冒険者が来たのか?」
中身を飲み干したボトルをバックパックの中に収納してから立ち上がり、腰に差している聖剣に手を掛ける。
こんな序盤の上層でも、『怪物進呈』というモンスターの大群を他の冒険者に押し付けるという面倒なことが少なからず起きる。これはハイリスク・ハイリターンも兼ね備えている。
リスクは文字通り、大群となったモンスターを押し付けられるということ。リターンは、大群となったモンスターを優先的に倒せて、その分の魔石やドロップアイテムなんかも独占できるということ。
まだ冒険者になって二日目で、基本アビリティも低い俺からしたらハイリスク以外のなにものでもないため、警戒をする。最悪の場合は、『魔剣創造』と『聖剣創造』で周りに解放した剣山で一網打尽にすればいいだけのことだ。
「ん? 金属音が止んだ?」
いつ、怪物進呈が来てもいいように警戒心を高めていると先ほどまで反響していた金属音がパタリと止まってしまった。
警戒心はそのままに【プロモーション】で『戦車』へと昇格して『力』と『耐久』に能力補正をかけてから金属音が反響していた方向にゆっくりと歩いて確かめることにした。
「【プロモーション・ルーク】!!」
ゆっくり、ゆっくりと金属音がした方向へと足を進めていると今度は金属音ではなく、誰かの叫び声が聞こえきた。
「畜生! 卑怯だぞおおおおっ!?」
今の声で誰なのか容易に顔が浮かんだ。
叫びの内容から苦戦しているように思えるが冒険者の暗黙の了解として、先に手を出したモンスターを横取りするのは御法度。けれど、怪物進呈やその冒険者の許可があれば問題ない。
あとは、本当に危なくなった時による手助けのみである。なので、ちょっと様子を見に行くことにした。
彼の叫び声が聞こえた方へ足を進めていると六匹のコボルトたちが何かを追いかけるように走っていくのを少し遠くではあるが視界に捉えることができた。そのコボルトたちを追いかけていくと、突然白い何かが一番先頭のコボルトを押し倒すとその勢いに後ろのコボルト二匹が巻き込まれて、背中から倒れ込んだ。
先頭のコボルトを倒して終わりかと思いきや、白い何かというよりも昨日ミノタウロスに追いかけられる原因の冒険者であるベル・クラネルが三匹目、四匹目、五匹目、六匹目とコボルトの群れを一人で倒して見せた。
一人で六匹のコボルトを倒したことに称賛して拍手を叩こうとしたところで、新手でゴブリンが一匹現れたので、左手に握り拳を作り、左手から【魔力操作】で魔力を放出してドラゴンショットを放つ。
「ドラゴンショット!!」
ドラゴンショットが左手から放たれると、未だに魔石を回収するためにかがんでいる彼の頭上を通りすぎて、飛び掛かろうしているゴブリンの顔面に魔力弾が命中。ゴブリンの頭がアニメのような「ブシュッ!!」という音と共に消し飛ぶ。
「い、今のは…………」
「横取りして悪かったな」
「えっ、あ、あなたは昨日の!?」
背後で屍となっているゴブリンを倒したのが俺だと分かると凄い分かりやすく驚くや否や、その場で土下座の体勢となった。
「昨日は本当にすみませんでした!! 僕の所為で、あなたを危険な目に合わせて、その上怪我まで…………」
「あー、危険な目にあったのは確かだが、怪我は自業自得だ。あの時は、恐怖のあまり思考がおかしくなってたんだ。だから、土下座はしなくていい」
自分でも優しいと思う。前世であれば、死の危険に晒されたのに激怒や罵声を浴びせないなんてことはなかったはずだ。けれど、今は冷静に対処出来ている。
それは、あの時、ミノタウロスに自分の力が通用しないという悔しさから冷静になれているのだと思う。目の少年に、怒りや罵声を浴びせるよりも今は強くなることを身体が求めているのだ。
「そういえば、自己紹介をしていませんでしたね。僕は、ベル・クラネルっていいます。【ヘスティア・ファミリア】の冒険者です」
「石黒ケンマだ。名前がケンマで、名字は石黒な。【ヴィクトリア・ファミリア】の冒険者だ」
「よろしくお願いします、イシグロさん。ところで、イシグロさんはソロでダンジョン探索ですか?」
「ああ。まだ出来たての弱小【ファミリア】でな。団員も今のところは俺一人だ」
「え………? 僕と同じ?」
ベルが驚いているのを放置しながら自分が倒したゴブリンの亡骸へと近づいて、体内から魔石を回収する。その行動を見ていたベルも自分が倒したコボルトたちの亡骸から慌てて魔石を回収し始める。
「あっ、僕も魔石を回収しないと!」
ベルが魔石を回収している間、新しいモンスターが生まれて来ないように聖剣で壁に傷を付けておく。こうすることで、ダンジョンは壁に出来た傷を治そうと修復に力を注ぐのでモンスターはしばらく発生することがなくなる。
勝手なお節介を焼いたあとは、【プロモーション】の効果時間が勿体ないのでモンスターを求めて移動しようとすると、魔石の回収が終わったベルから声がかかる。
「あの!」
「ん、なんだ?」
「えっと………その…………よかったら僕とパーティーを組んでくれませんか! アドバイザーの人からもパーティーを組むように言われてて、今の僕にはイシグロさんしか冒険者の知り合いがいなくて、だからお願いします!」
頭を下げながらパーティーに勧誘してくるベルを見て、頭の中で色々と思考する。
前世の二次元創作でも、オリジナル主人公を原作主人公と絡ませるために色々なイベントが描くが、その中でもこういった異世界ファンタジー系類は共闘、パーティーといった選択が多いだろう。なので、ここで俺はどういった選択を選ぶのが正解なのか大いに悩む。
物語を描く側であれば、大きく分けて二択だ。A、パーティーに加わる。B、勧誘を断る。しかし、実際に起きてみると普通よりも悩む。が、ここは安全策としてパーティーに加わろう。今の俺は、読者でもプレイヤーでもない。この世界に今生きている一人の人間なのだから。
「わかった。俺もアドバイザーからソロは危険だと言われてたし、好都合だ」
「本当ですか!?」
「ああ。それと、これからパーティーを組む仲間になるんだから、ケンマでいいし、敬語もいらない」
「わかりま…………わかったよ。これからよろしくね、ケンマ。僕のこともベルでいいから」
「よろしくな、ベル」
こうして、ケンマはベルの仲間になったのであった。なんて脳内で下手なナーレションを流してから握手を交わす。
○●○
ベルとパーティーを組んだら軽く打ち合わせをするためにも地上へと一度戻り、換金をしてからまたダンジョンへと挑むことにした。そうでないと、お互いに稼ぎの分配で不満が生まれるので、それを防ぐためにも地上へと戻るのである。
そして、換金やらが終わったあと軽い打ち合わせで、基本的に戦闘では前衛はベル、後援は魔法が使える俺が受け持つことになった。
「今回、俺は後援だからビショップがいいよな。【プロモーション・ビショップ】!!」
【プロモーション】で『僧侶』へと昇格して、魔力の底上げをする。これによって、【魔力操作】による魔法の威力や量にも補正がかかる。
「ドラゴンショット!!」
パーティーを組んで初めて邂逅した複数のコボルトのうち、パーティーメンバーであるベルに奇襲をしかけようとしていた個体のみに標的を絞りながら、手で拳銃のポーズを取り、魔力弾で迎撃する。
あとは、普通にベルが対面しているコボルトを一体ずつ、確実に倒していく。
「援護ありがとう、ケンマ」
「どういたしまして」
「やっぱり、仲間が居てくれと戦いやすいよ」
「俺も気兼ねなく『魔力』の熟練度を向上させることができるから助かる。一人だと、色々なことを考慮しながら戦わないといけないからバカスカと魔法を使えないんだ」
「へぇ、そうなんだ。僕、まだ魔法を覚えてないから経験者からの意見を聞けてよかったよ」
「ま、そのうちベルも魔法の一つや二つは覚えるだろう」
正確には、女神フレイヤから魔導書を間接的に渡されて習得するのだが、それを言わないのが吉だ。バカ正直に教えて、その結果、魔導書を読まないなんて未来が生まれてしまってはベルが今後、助けるであろう人物たちが助からないという最悪な未来が出来上がってしまう。
それだけは決してしてはならない行動だ。救えたはずの命を救えなくするなんて、悪逆無道という言葉では足りないほどに禁忌なのである。
それからしばらく、モンスターを倒し続けているとベルのバックパックがまた満タンになったので、再び地上へ戻ることになった。
道中、他愛のない話をしていると担当アドバイザーがエイナさんである内容へと変わったところで、ふと思った。冒険者登録をした時にアドバイザーがエイナ・チュールだと分かった時には、いつかこういうことが起きるんだろうなと思っていた。なので、今はそこまで驚くこともなく、普通に偶然だなと思わせられるように振る舞うように努力することに成功した。
「そうだ、ベル。お互いに同じアドバイザーなら、ギルドに寄って俺たちがパーティーを組んだことを報告しないか?」
「そうだね。エイナさんも知っている冒険者同士がパーティーを組んだことを分かれば、今後のアドバイスもしやすくなるだろうしね」
「それじゃあ、ギルドに戻るか」
「うん!」
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に