臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第五十話

 

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

 

「光よ集え、全治の輝きを持ちて、彼の者を救え! キュア!」

 

 

天井の落石の後、モンスターから逃げている際に()()()()()()()()()に気付けずに地面が抜け落ちて、そのまま落下して折れてしまったヴェルフの足を【魔力操作】の『スキル』で回復魔法をイメージして治療する。

 

これで二度目なので、ベルもヴェルフも【キュア】の回復魔法には驚きはしないが珍しそうに眺めている。

 

 

「よし、これで歩けるはずだ」

 

「悪いな二回も治してもらって!」

 

「気にするな。次は、リリと念のためベルもだ」

 

「えっ、僕たちも!?」

 

「ああ、落下でどこかしら痛めてるはずだ。ただし、ヴェルフのとは別の魔法で、治療力を高めるだけの回復魔法だ」

 

「ドラゴンショット、ゲキリュウケン、ゲツガテンショウという三つの攻撃魔法に二つの回復魔法、それにプロモーションという身体強化魔法………明らかに魔法スロットを越えています。まさか、レアスキル!?」

 

 

さすがはリリ、目敏いな。まぁ、あれだけ何度も晒していれば世話ないか。【魔力操作】の存在に気付いたリリに、どう答えたものかと考えながらリリとベルの二人に手を翳しながら某RPGの自動回復魔法をイメージして行使する。

 

 

「リベホイミ」

 

 

本来、この魔法は一ターン毎にHPを回復するものだが、イメージ次第で効果が変わる【魔力操作】でアレンジを加えているため一定時間の間だけ永続的に怪我を治すような魔法に改良してある。ただし、即効性はかなり低い。それでも、無いよりかは増しだろう。

 

【リベホイミ】の魔法を受けたリリとベルの身体は、時々であるが淡い黄緑色に発光する。この光があるうちはどんな怪我でも少しはずつ治癒していく。

 

 

「三つ目の治療魔法……間違いないようですね」

 

「こんなレアスキルを持ってることが他の神々にバレてみろ?いい玩具にされるだけだ」

 

「それもそうですね。ケンマ様はレアスキル以外にも、無尽蔵に魔剣と聖剣も造れるとなれば、態々逃す神様はいないでしょう」

 

「さっ、三人の治療も済んだことだし、これからどうする?」

 

 

イメージ次第で体力、オーラ、精神力のいずれかを消費する【魔力操作】を三回も使ってしまった。感覚からしてそこまで使ってはいないみたいだが、今後のことを考えると今のうちに『超回復』で回復して置きたい。

 

何故なら、ホームに残してきたリューさん宛ての置き手紙には、崩落に巻き込まれたら崩落場所からとある目印を残して移動すると書き記して置いたからだ。

 

 

「現状、リリたちがどの階層にいるのか不明です。幸いなことに、ケンマ様の回復魔法で負傷者もいません。ですので、多少危険でも上へと繋がる階段を目指すことを進言します」

 

「どこの階層で正規ルートが分からない、今の状況じゃ仕方ないね」

 

「ケンマは後衛でゆっくりしてろよ。足を治してもらった分はしっかりと働くからな」

 

「分かった、そうさせてもらう。危ない時は、俺も後ろから聖剣のナイフを投げて援護するからな」

 

 

隊列は元々のものから変えずに、ヴェルフを前衛とした隊列で正規ルートか上へと繋がる階層を探して未知の階層を探索する。

 

最後列からヴェルフの動きを観察するが【キュア】の魔法のお陰で完全に足は治っており、違和感もなく歩けていることに安堵する。これならば、アニメよりも早く中層から抜け出すか或いはアニメ通りに18階層へと降りることができるだろう。

 

そう思いながら俺は、三人にバレないように掌から桜の花弁をした小さな魔剣を創造して、捜索に来てくれるはずのリューさんたちの目印にする。

 

 

「あっ、行き止まりだ」

 

 

何度目になるか分からない行き止まりに、感じて来なかった疲労が襲ってくる。耳に障る自分たちの呼吸音。浅くなっている息遣いは疲労だけではないはずだ。

 

正直、どうしようもなく、情けないほどに、不安が押し寄せてくるのだ。人間は、未知を求めて、また未知を恐れる。そのため、自分たちの位置を把握出来ていないこの状況下で毒のように精神を蝕む。

 

 

「一度、落ち着きましょう」

 

 

目の前に立ち塞がる岩壁に立ち尽くしてるところにリリが大きく深呼吸し、その言葉を告げる。

 

全員でリリに振り返ると、フードの下にある彼女の顔は汗を流しながらも冷静であろうとしていた。それを見た俺は水が出る魔剣を創造して、そのまま水を頭から被り、ついでに喉も潤す。

 

 

「ちょっと、ケンマ!?」

 

「フゥー、物理的に頭が冷えたぜ。お前たちもやるか?」

 

 

まさかの俺の行動に三人とも唖然とするが、三人の中でも魔剣を打てるヴェルフが笑いを我慢出来なかったのがくすりと笑ってから《水の魔剣》の扱い方を聞いてくる。

 

 

「ったく、魔剣で頭を冷やすなんて贅沢なことをするのはお前くらいだよ。で、どうすればいいんだ?」

 

「ここの鍔にある装飾に指で触れると刀身から水が出る仕組みだ」

 

「分かった。借りるな」

 

 

ヴェルフが俺と同じことをすると、最初はベルとリリも困惑するが直ぐにヴェルフを見習って自分たちもと《水の魔剣》で頭を物理的に冷やしてから喉を潤す。

 

全員の頭が多少なりとも冷えたところでリリが話を切り出す。

 

 

「まずは、パーティーの装備を確認しましょう。治療用の道具ですが、リリは回復薬が四、解毒剤が二、ベル様たちは?」

 

「俺は何も残っちゃいない」

 

「僕はまだ、レッグホルスターに回復薬がいくつか」

 

「俺は左右のレッグホルスターを合わせて、回復薬が六、解毒剤が二、精神力回復薬が八だ」

 

 

縦穴から落下する際にオーラで全身を守ったお陰で、回復系の道具も奇跡的に無傷で済んだ。背中に背負っているバックパックも軽く確認してみたところ、オーラで守っていたのでこちらも無傷。

 

バックパックの中には、18階層に降りれた時のために持ってきた食料が入っているので無事で良かった。念のため、食料は全て原型のままではなく一口大に刻んであるので多少潰れても問題はない。

 

ただし、箱に入れているため嵩張ってしまうのが難点。こういう時に、前世の真空パックのジップロックがあると便利だなと思う。

 

 

「次に武器です。リリはボウガンを先の崩落で失いました。ヴェルフ様の大刀は無事で……」

 

「ベルは大剣に、後は短剣と小型盾をなくしたか」

 

「う、うん。でもナイフは、どちらも無事」

 

「武器に関しては心配するな。俺が剣を創造すればいいだけの話だからな」

 

「本当、鍛冶師泣かせだぜ」

 

 

武器の確認をすると、当然のように『魔剣創造』か『聖剣創造』の話題で出てきてしまうのでヴェルフから少しだけ泣き言を言われてしまうのは仕方ないことだろう。

 

 

「ヴェルフ様の泣き言はさておき……今後の方針ですが、道具が限られている中で、生きて帰還するためにはできる限りモンスターとの戦闘を避けなければいけません。状況が許すならば、逃げの一択です」

 

 

リリの意見に俺たちは頷いて返答する。その後、見計らったように続きを話す。

 

 

「お三方とも、取り乱さずに聞いてください。これはリリの主観ですが………今いる階層は、15階層かもしれません」

 

「「………!」」

 

 

ベルとヴェルフはリリの言葉に絶句するが、なおを続ける。

 

 

「縦穴から落ちた時間を顧みるに、2階層分の距離を落下した可能性があります。この階層の特徴も、通路の幅や光源、迷宮の難解さなど。13、14階層より15階層のそれに近いです」

 

「上下、どちらにしても2階層分か」

 

「え?」

 

「どうやらケンマ様はリリと同じことを考えておられるようですね……本題に戻ります。上層への帰還が絶望的であるのは間違いありません。ですが、生きて帰るために敢えて下の階層、18階層まで縦穴を使って進む手があります」

 

「だから、ケンマは上下どちらにしても2階層分って言ったんだ。でも、待ってリリ。ここから下の階層を目指すなんて……」

 

「敵は強くなる一方だぞ」

 

 

リリの提案にベルとヴェルフは反対する。それは無論理解できる。モンスターは下に行けば、数も強さも増していく傾向にある。そんなところへ、遭難している自分たちが行くのは自殺行為と紙一重でしかない。

 

 

「18階層は、ダンジョンにいくつかあるモンスターが産まれてくることのない安全地帯だと師匠から聞いたことがある。そこで地上に戻る上級冒険者に付いていく。それがお前の考えだろう、リリ?」

 

「はい。その通りです」

 

「だが、階層主はどうする?17階層だろう、例のデカブツがいるのは」

 

「『ゴライアス』なら、59階層へ遠征に行ってる【ロキ・ファミリア】が倒してるはずだ。ベルが『ミノタウロス』を一人で倒すのを見て、刺激されてるはずだからな」

 

 

プライドの高いベートやアマゾネスのヒュリテ姉妹、強さを求めるアイズが、ベルに刺激受けたままで態々ゴライアスを避けて『深層』に降りるはずもないだろう。もっと言えば、アニメではまだギリギリ間に合っていたのだから大丈夫だろう。

 

 

「ケンマ様の言葉通り、【ロキ・ファミリア】ほどの実力者なら、階層主は放置するより撃破してしまった方が安全です。ゴライアスが復活するインターバルは二週間後……時間を逆算しても、まだギリギリ間に合います」

 

「お前ら、正気か……?」

 

「あくまで選択肢の一つです。ご決断は、パーティーリーダーである、ベル様にお任せします」

 

「ぼ、僕!?」

 

 

リーダーとしての質を問われる状況に、ベルは身体を震わせる。

 

無理もないだろう。俺もアニメ知識がなければ、思考をぐるぐると永遠に回転させ続けるだろう。自分だけではなく、仲間の命を背負うという初めての重責にベルは困惑している。

 

 

「いい、決めろ。どうなったって、俺たちはお前を恨みはしない」

 

「け、ケンマ……僕はどうしたら……」

 

 

ヴェルフのことを見た後、ベルはガタガタと震えながら俺に助けを求める。

 

これは、レフィーヤの時と同じだな。なまじアニメ知識があるから、そこから先読みして動いてしまったから頼りになると勘違いして俺へ助けを求める。

 

しかし、今回はレフィーヤの時と違うのは、ベルに発破を掛けられないということだ。レフィーヤの時は、上級冒険者としてプライドがあったからこそで、ベルの場合は互いにLV.2 のために発破をかけても効果は殆どない。逆に、今まで俺が出娑張ってしまったことが原因でベル自身がアニメ通りに育たない可能性もある。

 

なので、俺がやれること一つだけだろう。

 

 

「ベル、お前の憧れは誰だ?」

 

「え?」

 

「だから、お前の憧れの人は、誰だと聞いてるんだよ」

 

「それは…………」

 

「今、憧れの人を浮かべたな? なら、その憧れの人ならこの状況をどうすると思う? 」

 

「あの人が、この状況で、どうするか……」

 

 

そこまで言えば、ベルの身体の震えは止まっていた。今のベルの頭には、憧れで意中の相手であるアイズの後ろ姿が浮かんでいることだろう。

 

しばらくすれば、ベルの閉じた瞼を開き、その眼差しには強い決心の焔が灯っていた。

 

 

「進もう…………18階層に!」

 

 

18階層に降りることが決まると、リリは背負っていた大きなバックパックから厳重に封がされている袋と大きめな洗濯バサミを取り出した。

 

それを見て、俺はアニメのとあるシーンがフラッシュバックする。

 

 

「では、これを使います」

 

「な、なぁ、リリ?それって、もしかして……」

 

「フフフフ……」

 

「や、やっぱり!?」

 

「それでは、おーぷんせさみー!」

 

「「「ノオオオオオオオ!!?」」」

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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