臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第五十一話

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

15階層で更に下にある安全地帯である18階層へと降りることを選んだ俺たちは、下の階層に降りるための『縦穴』を極力モンスターの戦闘を避けながら探して彷徨っている。けれど、一向に見つからない。

 

それに加えて、他にも現在、俺たちはとある道具によって気が滅入る思いをしている。

 

 

「はっ、はっ、はっ」

 

「う、うえ………」

 

「うっ………ぷっ」

 

「お、オエゲロ………」

 

 

そのため、全員が表情を歪めている。

 

 

「おいリリスケ!この臭いどうにかならないのか!」

 

 

おもむろに、目だけをやって先頭を歩くリリに抗議する。すると、リリは俺たちに振り返りながら首から下げている悪臭を放つ袋をヴェルフに振りかざし辛いの自分だけではないと反論する。

 

 

「お言葉ですが、リリの方が発生源の近くにいるんですよ!そうおっしゃるなら、ヴェルフ様がお持ちになったら如何ですか!?」

 

「や、やめろっ……!」

 

「リリ、勘弁して!」

 

「オロロロ……」

 

「臭いのは自分だけではないです!私だって、臭いです!でも、皆さんのために、□◇#△○!!」

 

 

ヴェルフがいらんことを言うからリリの怒りの反論に伴って、振り回されて臭い袋の悪臭が風に乗って俺とベルの方にも飛んでくる。

 

とんだ、とっばちりである。

 

因みに、この悪臭がする袋の道具の名前は『強臭袋』である。某RPGの『匂い袋』と違って、こちらはモンスターを寄せ付けないための道具。とある黄色鼠が有名なRPGに出てくるスプレーと同じ効果だと思ってくれればいいだろう。

 

 

「リリたちにも有害ですが、この臭いはモンスターにとって毒そのものです。悪臭が続く限り、よっぽどのことがなければモンスターたちは近寄ってきません」

 

「それは分かってるけどよ……」

 

「仕方ないよ、ヴェルフ」

 

「鍛冶師の鋼鉄よりも硬い根性を見せてみろ」

 

「因みに、作成者であるナァーザ様が試しに臭いを直接嗅いだところ、リリの目の前でひっくり返り……床をゴロゴロと物凄い勢いでのたうち回りました」

 

「マジか、獣人族にもフレーメン反応があるんだ」

 

 

猫や犬と同じ嗅覚を持つ獣人族であるナァーザさんが突然強烈な臭いを嗅いでしまえばそうなるのも必死だろう。可哀想に。

 

何せよ、リリの首にかけている臭い袋のお陰で俺たちは極力モンスターとの戦闘は避けられている。けれど、この先にある横道から遠巻きにヘルハウンドが火炎攻撃を仕掛けてくるのを知っている。

 

 

『ガルルルルルル……』

 

「ヘルハウンド!?」

 

 

横道に現れたヘルハウンドと少し距離があったのか、中衛にいるベルが肉薄して仕止めるか或いは魔法で仕止めるかの選択に迷いが生じた。それによってヘルハウンドの火炎攻撃の準備が整ってしまった。

 

けれど、そこへヴェルフがフォローに入る。

 

 

「やるしかないか……任せろ」

 

 

ベルのフォローに入ったヴェルフは、右腕を突き出し、掌を火炎攻撃を仕掛けようとしているヘルハウンドに向ける。

 

 

「【燃え尽きろ、外法の業!ウィル・オ・ウィスプ】!」

 

「魔力暴発!?」

 

 

超短文詠唱から紡がれた魔法は、ヴェルフの右手の空気が揺らぎ───そのまま揺らぎが陽炎となってヘルハウンドの空間へと伝播する。

 

そして、伝播した陽炎はヘルハウンドの口から放たれた火炎を奴の口へと押し込み、やがて不自然に身体が膨張すると大爆発を引き起こした。

 

ヴェルフの『魔法』によって引き起こされた大爆発は、爆炎を俺たちが元居た場所まで迸らせる程の威力だった。もしも、俺たちが壁を盾に隠れていなければ、今頃爆炎に巻き込まれて大火傷を負っていたかもしれない。

 

 

「成功したか……」

 

「ヴェ、ヴェルフ、今のはっ?」

 

「俺の魔法は特殊らしくてな。一定の魔力の反応を火種にして、爆発させるらしい」

 

「対魔法用の魔法、魔法を使う者からしたら天敵以外の何者でもないな」

 

「モンスターで試したことは今までなかったんだが………上手く行って良かったぜ」

 

 

先ほどのヴェルフの『魔法』である【ウィル・オ・ウィスプ】は、魔力を使う相手に無類の強さを誇るだなんてチートな魔法ではなく、それなりに発動条件がある。

 

俺は初めてアニメで見た時は魔法を使う相手に使えば絶対に勝てる魔法だと思い込んでいた。しかし、何度か見直しているとそうでもないことが判明した。【ウィル・オ・ウィスプ】は、発動するには相手の魔法が発動するのと同時くらいに行使しなければ効果を発揮しないのだ。

 

そのため、13階層で現れたヘルハウンドたちの一斉放火をアニメではタイミングが間に合ず、使えなかったのである。

 

 

「あれ? モンスターで、ってことは……人で試したことがあったの?」

 

「ああ、同じ【ファミリア】の連中に頼んでな。見事に爆発した」

 

「……ヴェルフ様、それは」

 

「いや、確かに俺も悪かったがっ、効果を試させてくれと言ったんだ。何が起こるか分からないのはあいつらだって承知して……いや俺が悪いんだけどなっ?」

 

 

罪の自覚がある弁明にリリとベルは、二人してヴェルフに沈痛な表情を浮かべる。

 

それからはいくら強臭袋があったとしても、効果範囲外からなら攻撃を仕掛けてくることがあるということを学んだ俺たちは、隊列を変更してリリを後衛に下げ、俺を中衛へと上げた攻撃特化型の布陣で縦穴を探し続ける。

 

やがて、片手で数え切れないほど戦闘を行い、ヴェルフとベルが何度も魔法を使い続けているので折を見て、二人に精神力回復薬を回す。

 

 

「ヴェルフにベル、ちょっと魔法を使いすぎだ。精神疲弊する前に精神力回復薬を飲んで置け。リリも念のため、回復薬を飲んだ方がいい」

 

「そ、そうか?なら、悪いが貰うな」

 

「自分ではそんなに感じてないけど、ケンマが言うなら」

 

「そうですね。手遅れになる前に、このパーティーの唯一の治癒師であるケンマ様の意見には素直に従って置いた方が良いと思います」

 

 

三人とも俺の考えに納得しているようで、それぞれ必要な回復薬と精神力回復薬を飲み干して行く。それを見てからベルに二属性回復薬を何本所持しているかを訪ねる。

 

 

「ベル、二属性回復薬は何本ある?」

 

「えーっと、二本あるよ」

 

「なら悪いんだが、その内の一本を開けて、ヴェルフとリリが持ってる空の試験管に少しだけ入れて、三等分してくれ。そうすることでベル、リリ、ヴェルフの三人はそれぞれ二属性回復薬を使えるだろ。俺は、まだ回復薬の残りがあるから平気だ」

 

「なぁ、ケンマが言ってるデュアル・ポーションってなんだ?」

 

「ああ、それはねぇ────」

 

 

二属性回復薬が気になったヴェルフが質問してきたので、ベルがかいつまんで二属性回復薬について説明する。それを聞いたヴェルフは、目を見開きながら驚いていた。

 

それからまたダンジョンの中層を前へ前へと進み続け、横穴の曲がり角から顔を出したその先にようやく16階層へと繋がる縦穴を見つけることが出来た。

 

 

「あった………」

 

 

通路に分断するように出来た歪な大きな縦穴、全員で縁まで近付いて覗き込む。穴の覗き込めば、その先には下の階層の地面がくっきりと見えた。間違いない、16階層だ。

 

念のために、何の効果もない魔剣ナイフを縦穴に落としてみる。もしも、これでモンスターが寄ってくるようであれば先にそのモンスターたちを殲滅する必要がある。

 

 

「大丈夫……そうだな」

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

〈sideリュー〉

 

 

 

 

 

「フッ……!」

 

『キュイ!?』

 

「はああああ!」

 

『キュア!?』

 

 

場所は13階層。天然武器である岩斧を片手に飛び掛かってくる『アルミラージ』を亡き戦友の形見である小太刀の《双葉》で頭を貫く。更に背後から忍び寄ってくる新たなアルミラージの気配を感じ取り、軽く回し蹴りを当ててから止めに袈裟斬りで斬り伏せる。

 

少し離れたところでは、アンドロメダがお手製の魔道具でヘルハウンドの動きを鈍らせながら投擲武器で確実に仕止めている。

 

 

「つ、強い………」

 

「一瞬で全滅……」

 

「凄まじいな」

 

 

周囲に他のモンスターの気配がないか確かめてから我が弟子であるイシグロさんとその仲間であるクラネルさんたちを捜索する神ヘスティアたちに声をかける。

 

 

「行きましょう」

 

 

今の軽い戦闘で、今のアンドロメダは以前共闘した時よりも強くなっていることがわかった。ざっとLV.3 の中堅くらいでしょうか?

 

しかし、ギルドから彼女が【ランクアップ】を果たしたという情報は出ていない。だとすると、イシグロさんと同じで何かしらの理由でギルドに報告していない可能性がある。一番の可能性としては、彼女の主神たる神ヘルメスからの命令が妥当でしょう。

 

そう結論付けてから何度かモンスターたちを倒していると現在進み続けている正規ルートの通路で崩落したような跡の瓦礫が道を塞いでいた。

 

 

「これは……!」

 

「崩落か……」

 

 

目の前に広がる瓦礫を見て、私はおもむろに懐からイシグロさんが私宛に残した手紙を読み返す。

 

やはり、間違いない。彼は崩落に巻き込まれることの可能性を予見していた。そして、その場合、ピンク色の花弁を目印として書き記してある。

 

 

「ピンク色の花弁……探しましょう」

 

 

瓦礫が崩れないように気を付けながら瓦礫の山を登っていると、突如として神ヘスティアが何かを見つけたようで瓦礫に近寄って来た。

 

 

「こ、これは、ベルくんの………」

 

 

どうやら崩落でクラネルさんの武器が落ちていたようだ。

 

クラネルさんの武器が落ちていることに神ヘスティアが酷く動揺するのをチラリと一瞥してから瓦礫の頂上へと登り進め、そこから瓦礫の向かい側を見る。瓦礫の向かい側に残っていたのは、使用済みの空になった試験管に無数の魔石、そして手紙に書いてあったピンク色の花弁がポツポツと地面に落ちていた。

 

 

「あった」

 

 

それを見て、彼らは先を進むことを選んだのだと分かった。それを後ろにいる皆に伝える。

 

 

「もうここにはいない」

 

 

そう伝えるとアンドロメダが一度目を瞑ると状況を素早く分析して、その結果、彼らがどういう行動に出たのかを話し始める。

 

 

「………ここで多くの装備を失い怪我を負った彼らが、闇雲にダンジョンを彷徨う可能性は低い……そんな愚かな選択をするようなパーティーなら、とっくに全滅しています。となると……」

 

「地上を目指す選択を捨てて、敢えてダンジョンに数ある安全地帯の18階層へと降りた」

 

 

アンドロメダの言葉を紡ぐように私がそう伝えると彼女以外の皆が驚きのあまり喉を鳴らす。

 

 

「私も同じ考えです。ダンジョンには無数の縦穴があります。下に降りる方が上へ戻るより遥かに効率的です」

 

「だからって……下に降りる?そんな、まともな神経じゃない」

 

 

私たちの結論に【タケミカヅチ・ファミリア】の男性冒険者である団長は信じられないと答える。

 

 

「私ならそうする。そして彼らと、いや、一度冒険を越えた『彼ら』なら、前へ進むと思います。………なにより、彼の手紙にはそう書いてあった」

 

「彼?」

 

「すみません。お気になさらず」

 

 

思わず手紙のことを呟いてしまった。手紙には、誰にもこのことは明かさないで欲しいと注意書きがあったのに、この始末。我ながら、弟子であるイシグロさんとシルの想い人であるクラネルさんが崩落に巻き込まれたと知って、動揺が走っているようだ。

 

反省して冷静にならなければならない、とそう思っていると神ヘルメスと神ヘスティアが私たちの結論を擁護してきた。

 

 

「オレもその意見を支持するよ」

 

「ボクも。ベルくんは下にいる……ような、気がする」

 

 

二神からの擁護があったとなれば、方針は決まったのも同然である。

 

 

「決まりですね。18階層に向かいましょう」

 

 

アンドロメダの指示を聞いた皆は、一様に頷いて返答する。

 

 

「そうだ。皆さんにお聞きしたいのですが、このピンク色の花弁をした植物について何かご存じですか?」

 

「私はあまり見たことがないですね」

 

「オレもそれなりに世界を回っていて似たような物は見たことがあるが、こんな鮮やかな色をした花びらはあまり見たことがないな」

 

「ボクはオラリオから出たことがないから全然分かんないや」

 

「どれどれ…………これは、もしかして、桜の花びらか?」

 

「サクラ?」

 

「極東では、主に春先に咲く花です。しかし、こんな色鮮やかな物は初めて見ました!綺麗ですな!」

 

「でも、なんでダンジョンの中に桜の花びらが?」

 

 

イシグロさんが残した目印を皆に見せて知識を仰ぐと、極東出身の【タケミカヅチ・ファミリア】の方々が目印について当たりを付ける。

 

 

「彼の名前も極東の物………しかし、この花はダンジョン物ではなく地上の物で極東が原産。一体、どうやって……」

 

 

手紙といい、サクラの花びらといい。イシグロさんには聞きたいことが増えてしまったがそれは彼と無事に合流してから本人に訪ねることにしましょう。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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