臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第五十二話

 

 

 

 

 

 

〈sideケンマ〉

 

 

 

分かっていた。知っていた。理解していた。けれど、実際にこうして事が訪れると一気に精神的な不安が襲いかかってくる物なのだろうか?

 

精神的な不安は皆、同じでベルが声を震わせながら感じなくなった物を首から下げているリリに訪ねる。

 

 

「リリ………」

 

「はい………臭い袋の効果が………切れました………」

 

 

訪ねられたリリも声を震わせながら、そう答える。

 

場所は16階層、通路の一角。下の階層へと繋がる縦穴を探して、洞窟状の道の真ん中で俺たちは足を止めた。いや、止めざるを得なかった。何せ、ここまでの道中、モンスターを遠ざけていたはずの虎の子の道具の効果が切れたからだ。ここからは文字通りモンスターが近寄ってくる。

 

それを待っていたとばかりにダンジョンは、俺たちへと刺客という名の試練を与えてくる。

 

 

『来るぞ、相棒。覚悟を決めろ』

 

(ここからは正念場かよ!?)

 

 

ドライグに言われずとも、理解させられる。闇の奥からドスン、ドスン───と重たい蹄が地面を踏みしめる音が聞こえてくるのだから。

 

そして闇から現れたのは牛頭人体で、体長二メートルを超す二体の『ミノタウロス』が天然武器である岩の両手斧を持って現れた。

 

 

「ありぇねぇ……なんだよ、これは……ふざけろぉぉぉ!」

 

『『ヴォオオオオオオオオオオオオッ!!』』

 

 

ミノタウロスたちから放たれる強烈な『咆哮』。それを合図に、それぞれのライトアーマーの色である赤と白の軌跡が走る。

 

 

「はぁあああああッ!」

 

「───アァァッ!」

 

 

赤い軌跡を描いている俺は、一番近いミノタウロスAの身体に魔剣で✕印で斬り付けたあと、奴の強靭な胸部へオーラを纏わせて切れ味を向上させた魔剣を深々と突き刺し、何かが剣先に衝突した感触を手に感じながらそのまま袈裟斬りで斬り上げて上半身半ばから頭まで両断。

 

白い軌跡を描いているベルは、俺のような力技とは違い。持ち前の『敏捷』をフル活用した高速移動による目にも止まらぬ斬撃の雨を降らせていた。それに全く対抗できないミノタウロスBは、最早一方的に駆られる対象でしかない。

 

しかし、ダンジョンからの刺客はまだ終わらず。新たに六体のミノタウロスが奥からやってくる。さすがにその数をヴェルフとリリ、二人を守りながらでは対処するのは難易度が高過ぎる。

 

 

『ヴォォッ!!』

 

『ヴォォル!!』

 

 

ならばと、俺は魔剣に禍々しい赤黒いオーラを集中させて、ベルは先ほど倒したミノタウロスが持っていた岩の両手斧を担ぎ上げ、それに『スキル』である【英雄願望】の純白の光を纏わせる。

 

以前の11階層で『インファント・ドラゴン』の時を蒸し返すように、俺とベルの得物に集束する対照的な輝きを放つ。

 

 

「月牙天衝ォォオオッッ!!」

 

「でああああああああッ!!」

 

 

白と黒、陰と陽の二色の光が斬撃となって放たれるとミノタウロスたちを呑み込み、尚且つ通路を粉砕、円状に爆破した跡を地面に残し、岩壁と天井にも稲妻のような亀裂を走らせる。まさに、インファント・ドラゴンの時の再現に等しかった。

 

一時的に視界から脅威がなくなったことで一息付こうとした矢先、【英雄願望】の効果で体力と精神力を大きく消耗したベルが崩れそうになるのを咄嗟に支える。

 

 

「ベル!」

 

「ベル様!」

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 

突然、膝から崩れ落ちそうになるベルに、ミノタウロスの強制停止から解放されたリリとヴェルフは心配して駆け寄る。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

「これは、スキルの弊害だな。あれだけの威力を出すのに何の代償も無しなんて虫のいい話だ」

 

「なら、お前はどうなんだよケンマ。お前だって、同じくらい威力を出してただろう?」

 

「俺は、月牙天衝を乱発できるようにLV.1 の時からそれなりの鍛練を積んできたから平気だ。あと、十発は撃てる」

 

「どんだけタフなんだよ……!?」

 

「取り敢えずベルがこんな状態だと、この先がきつくなってくる。ヴェルフたちも今のうちに回復薬で体力を回復してくれ。ここからは俺が前に出る。そして、ここから先は文字通りの正念場になってくる」

 

 

覚悟を決めた俺は、鞘に座している魔剣を『魔剣創造』で上書きして《千本桜》を創造する。突然、俺が持っていた剣が、オーソドックスな西洋剣から日本刀に変わったことにヴェルフが目敏く反応する。

 

 

「剣が刀に変わった!? それも魔剣創造ってやつの能力か?!」

 

「ああ、俺が創造した魔剣と聖剣ならイメージ次第で上書きできる。勿論、折れた場所も復元可能だ」

 

「折れた剣まで復元できるって………そんなのありかよ……。ケンマ、頼むからその能力を使って商売とか絶対にするなよッ!そんなことしたらオラリオだけじゃなく、世界中の鍛冶師を敵に回すことになるからな!?」

 

「分かってるわ、それくらい!」

 

「それで、どんな能力を付与されたんですか?」

 

「それはだな─────散れ、千本桜!」

 

 

解号を唱えたことで、《千本桜》の刀身が切っ先から鍔元まで無数の桜の花弁となって散っていく。今まで見たことも聞いたこともないような能力を持つ魔剣、《千本桜》の能力を目の当たりにしたベル、リリ、ヴェルフの三人は初めての光景に目を丸くする他なかった。

 

そんな彼らの表情を見て、俺は心底ご満悦である。何せ、この魔剣は俺にしかまだ作れないのだから優越感で表情筋が緩んでしまう。

 

 

「な、ななななっ……!?」

 

「刀の刀身が花弁に……!?」

 

「イメージ次第でとは聞いていましたが、ここまで出鱈目とは…………」

 

「さっ、『ゴライアス』が出る前に行くぞ」

 

 

それからは、殆どノンストップで縦穴を探して16階層を探索する。途中で現れるモンスターは、俺が目視した瞬間に尽く《千本桜》の花弁でズタズタに切り裂いて、魔石は粉々に砕いてドロップアイテムしか残さなかった。

 

何故、魔石を粉々に砕いてドロップアイテムだけしか残さないようしているのかと言うと、《千本桜》で倒した際に残る魔石を偶然にも食べたモンスターが意図しないで強化種へと成られては困るからだ。

 

 

「おいおい……なんだよ、これ………ふざけろ」

 

「モンスターたちがケンマの視界に入った瞬間、全部魔石とドロップアイテムになってる………」

 

「最早、前衛はケンマ様だけでいいのではないでしょうか?」

 

 

《千本桜》で無双しているもベルたちから三者三様の反応が返ってくる。

 

 

「これで少しは、ベルたちの体力の温存が出来そうだな」

 

 

アニメだと、この辺りでヴェルフが精神疲弊で気絶、リリも体力限界で力尽きる。そうならないように回復薬を時折飲ませるようにはしているが、それでも不安なものは不安だ。

 

他に不安な事と言えば、やはりゴライアスの存在だ。本来ならば、ベルが17階層の『嘆きの大壁』の半ばまで進んだ所で奴は産まれてきている。しかし、俺という存在がいるため、そうはならない可能性の方が高い。なにより、龍の力の影響で力ある者を呼び寄せしまう可能性が大いにある。

 

そのため『嘆きの大壁』に降りた際に、鬼が出るか蛇が出るか。

 

 

『一人で気負い過ぎるな、相棒』

 

(ッ───ドライグ!?)

 

『龍を宿す者として、力ある者を呼び寄せ、その影響で周りの者たちにまで被害が及ぶことをイッセーも恐れていた。そのために、あいつは力を付けた。相棒もそうだろう?』

 

(そうだな。俺の所為で友達であるベルたちにまで迷惑がかかるのならば、自分の尻拭いくらいは最低限できるようになりたい!)

 

『その気持ちさえあれば大丈夫だ。前々から言っているが、もしもの時は相棒の身体の大半をドラゴンにしてでも仲間共ども生き長らえさせてやるさ』

 

(ああ、その時は頼むぜ相棒!)

 

 

ドライグの励ましのお陰で、不安だった気持ちが大分晴れた。今は、ベルたちを守りながら17階層へと繋がる縦穴を探すことに集中しよう。

 

精神的な余裕が出来て、モンスターたちの対処にもその影響が良い形で現れながら通路を進んでいると、段々と通路の道端が広がっているように感じられてきた。

 

 

「間違いありません、この先には17階層に繋がる道があります」

 

「ようやく、ここまで来たか………」

 

「あと、もう一歩だね」

 

 

リリの言葉で、ベルとヴェルフの士気が高まる。

 

 

「だがまだ先はある。油断せずに行こう!」

 

 

某超次元テニスの漫画に出てくる眼鏡の部長の台詞を口にしながら、気を緩めないように注意して置く。

 

そしてようやく目的の縦穴を発見した。けれど、安易に直ぐ縦穴に入るのではなく、ここで最後の準備をすることを俺は提案する。

 

 

「ここで全員、残りの回復薬で体力と精神力を回復しよう。ここから先が、正真正銘最後の正念場だから万全に近い状態で走り抜けたい」

 

「それはリリも賛成です。ダンジョンは何が起こるか分かりませんから」

 

「そうだね。こういう時のケンマの意見は間違ったことがないから」

 

「ここまで来るまでずっとそうだったな」

 

 

全員で残りの回復薬と精神回復薬を飲み干すことに同意。ベルが持っている最後の二属性回復薬は、ベル自身が飲むことに。俺が持っている回復薬二本と精神回復薬二本は、俺がそれぞれ一本ずつ、ヴェルフは精神回復薬を一本と回復薬をリリと半分にして飲み切る。

 

回復薬等で体力が回復したところで、17階層へと繋がる縦穴に降りることにした。方法は今までと変わらない。俺が創造した穴が空いた大剣にロープをくくりつけて、慎重にゆっくりと降りる。

 

 

「足元が滑りやすいから気を付けろ」

 

「斜面が斜めになってるから余計に滑りやすいな」

 

「でも、ケンマが所々に足場になる剣を作ってくれてるから滑り落ちる心配は無さそうだよ」

 

「本当にケンマ様が居てくれて良かったです。もしもケンマ様が居なければ、こんなに安全に17階層まで降りることは不可能だったはずです」

 

 

リリのその言葉にベルとヴェルフも同意するように頷く。まぁ、その通りだろう。俺が知っているアニメでは、この地点で既にベルたちは満身創痍になっていた。そのため、この縦穴を滑り台のように滑り降りて、途中にある壁に身体を打ち付けながら17階層へと降り立つことに成功するのだ。

 

その光景が、同じ縦穴を降りている俺の脳裏には映像となって鮮明に甦って来る。

 

無事に17階層に全員で降り立つことに成功すると、突然17階層が酷く揺れた。その揺れに心当たりがある俺は、最悪のパターンであることを認識するのに時間はかからなかった。

 

 

「なんだよ、今の揺れは!?」

 

「僕もダンジョンの中で、ここまで凄い地震は初めてだよ。リリは何か………リリ?」

 

 

どうやら、揺れの正体に見破ったのは俺だけではないようだ。

 

 

「そ、そんな……確かにインターバル的にギリギリ……それでも……これは……」

 

「リリ、大丈夫!? 顔色が真っ青だよ!?」

 

「さっきの揺れの正体は、ゴライアスだ」

 

「へっ?」

 

 

どうにも、見通しが甘かったようだ。アニメは違って、ヴェルフは足を負傷したままでなく精神疲弊した状態でもないし、リリも体力が尽きた訳でもない。ベルも【英雄願望】の副作用で体力が大幅に減った状態でもないからゴライアスが出現する前に『嘆きの大壁』を走り抜けられると思っていた。

 

けれど、やはり龍を宿している俺がいるから力ある者であるゴライアスを予想よりも早く呼び寄せてしまったようだ。

 

であれば、やることは決まっている。

 

 

「この高さならギリギリ、アレを使えるか」

 

 

17階層の天井を見上げながら、とある技を使えるかどうか見極めながら呟く。そのとある技は、使うためには天井がかなり高くないと場合によって天井を崩落させかねない危険性があるので時と場所を選ばずには居られないのだ。

 

ざっと見た感じでは、前世の体育館よりは高さがありそうなので、今考えているとある技は使えそうだと判断する。

 

ゴライアスが予想よりも早く出現したことに狼狽えているベルにお願いをすることにした。

 

 

「ベル」

 

「な、なにケンマ?」

 

「あの白い光を宿すスキルはまだ使えそうか?」

 

「た、多分……」

 

「待ってください!確かにベル様のあのスキルは強力です。ですが、お一人だけで階層主を倒せるわけ……」

 

「誰が一人でやれって言ったよ。俺もやる」

 

「だがよ、ケンマ。お前のあのゲツガテンショウって魔法があっても相手は階層主だぞ!? 勝てる訳……」

 

「諦めんな!諦めたら、そこからは起こる奇跡も起きない。どの道、進むしか選択肢はねぇんだ。いつまでもゴライアスがここに来ないなんて保証はない。それに、ベルは英雄に成りたいんだろう?」

 

 

「ッ………そうだ………僕は…………英雄に成りたい!」

 

 

再び覚悟決まったベルの右手には、【英雄願望】の光が灯り出す。それを見て、俺もブーステッド・ギアを具現化させて、倍加の力を溜め込む。

 

更に《千本桜》を消して、異空間から《エクス・デュランダル》を解放、引き抜く。

 

 

「二段構えで行くぞ。俺が撃ち漏らしたら、ベル、お前にあとを託す。頼めるな?」

 

「頑張るよ!」

 

「それじゃあ、行こうか。階層主討伐に!」

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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