臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか?   作:黒牙雷真

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第五十五話

 

 

 

 

 

〈sideリリ〉

 

 

 

 

 

アイズ様に連れられて、18階層が『迷宮の楽園』なんてダンジョンには相応しくないと思える異名の由来を教えていただいた後、リリたちは本来の目的地である【ロキ・ファミリア】の団長にしてリリと同じ小人族で、一族の希望とされている【勇者】のフィン・ディムナ様が居られる他よりも大きな天幕へと赴いています。

 

その天幕の中にはフィン様だけではなく、副団長である【九魔姫】のリヴェリア・リヨス・アールヴ様に【重傑】のガレス・ランドロック様。【ロキ・ファミリア】の三巨頭が勢揃いしていました。

 

 

「無事に目を覚まして何よりだ、ベル・クラネル。しかし、キミだけということは、ケンマはまだ目を覚ましていないようだね」

 

「は、はい。ケンマは最後の一撃に全身全霊をかけたみたいで………」

 

「そうか。僕らはケンマに色々と聞きたいことがあったんだが、後にするとしよう」

 

 

ディムナ様は、要があるケンマ様がまだ目覚められていないことに少しだけ落胆しているように伺えますが、直ぐに顔を戻しました。

 

 

「さて、リリルカ・アーデ。先ほどの交渉の続きをしようか」

 

「はい、ディムナ様」

 

「僕のことは、フィンで構わないよ」

 

「では、フィン様と。リリのこともリリで構いません」

 

「わかったよ、リリルカさん」

 

 

17階層でベル様とケンマ様が精神疲弊で倒れられた後、偶然にも18階層から上がってきたアイズ様にゴライアスの魔石を換金した金額の六分の一を対価に天幕の貸し出しと地上に戻る際に【ロキ・ファミリア】の皆様に同伴させていただくことを団長であるフィン様に掛け合っていただくようにお願いしました。

 

その結果、フィン様は快気良くリリたちの望みを聞い入れていただき、ベル様とケンマ様を安全な場所へと運ぶことが出来たのです。

 

 

「再確認しますが、リリたちの望みはアイズ様にお伝えしていた通り、天幕の一角をお借りすること。【ロキ・ファミリア】の皆様が地上に戻る際、リリたちも同伴させていただくこと。ゴライアスの魔石を地上まで運搬していただくこと。この三点になります」

 

「その見返りとして、僕らにはあの魔石を換金所で換金した総額の六分の一を支払う。間違いないかな?」

 

「はい、お間違いないです。魔石の所有者たるケンマ様から六分の一を地上に戻るための資金にするよう言われてますから」

 

「んー…………わかった、交渉成立だ。あまり贅沢は出来ないがキミたちを客人として招こう」

 

「「ありがとうございます」」

 

 

交渉が整理したことで、18階層に滞在している間の安全と地上までの安全が確保できました。

 

 

「では堅苦しい話はここまでにして、キミたちが何故、18階層まで来ることになったのかを聞かせてもらってもいいかな? アイズから聞くに、キミたちの装備は到底ここまで来る装備ではなかったと聞いている」

 

「ベル様、お願いします」

 

「えっ!ぼ、僕!?」

 

「そうです。ベル様は、パーティーリーダーなのですから頑張ってください!」

 

「えええええ!?」

 

「僕としては、どちらも構わないよ」

 

「えっと、それじゃ、事の始まりは13階層で何処かの冒険者パーティーに大量のモンスターを押し付けられまして、それから────」

 

 

交渉の件はケンマ様から任されていたのでリリがやりましたが、ここから先はパーティーリーダーであるベル様のお役目なのです。なので、足りないことがあれば補足をしながらベル様に頑張っていただきました。

 

それと、話してもいい内容はそのままに、駄目なところは申し訳ないですがベル様の脇腹を小突いたり、咳払いをして誤魔化して置きます。これもケンマ様からの指示ですので。

 

 

「ざっと、こんな感じです」

 

「がははっ、中層に進出したその日には18階層か! それにしても、よくLV.2 二人で階層主を倒せたものだ!ギルドが提示しているゴライアスの強さは推定LV.4 、魔石を見るまではにわかに信じられんかったぞ!」

 

「ガレス、この場は内輪だけではないんだ。抑えてくれ」

 

「だが、しかしな……」

 

「有り得ない話ではないと僕は思うよ。何せケンマは以前『怪物祭』に現れたとあるモンスターを一体、一人で倒して見せたとレフィーヤたちから聞いているからね。同じくらいの強さを持つゴライアスが相手ならば殺れないことはないんじゃないかな?」

 

「えっ?」

 

「はっ?」

 

 

フィン様の口からまたもや信じられない話を聞かされました。ケンマ様は、LV.1 の時にLV.4 に相当するモンスターを一人で討伐している?もうやだ………あの方といるとリリの常識がどんどん崩れ去って行きます。

 

そんなリリと同じく、ベル様もケンマ様の武勇伝を聞いて顎が外れんばかりに開いて居られます。やはり、ケンマ様だけで中層を踏破出来たのではないでしょうか?

 

現実から逃避しようとしたところで、フィン様が話を戻されます。

 

 

「そろそろ話を戻そうか。僕らの方は見ての通り、ここで休息を取っている。本来なら、『遠征』の帰りとはいえ18階層にはとどまらず、一気に地上へ帰還してしまうんだけど……帰路の途中で、モンスターから厄介な『毒』をもらってね」

 

 

フィン様の話によると【ロキ・ファミリア】が受けた『毒』は、アイズ様たち第一級冒険者以外の所謂下っ端の団員で『耐異常』のアビリティ評価がH以下の者たちの多くが行動不能に陥るほどの劇毒とのこと。

 

 

「今はベート……【ファミリア】の中でも足が速い者に、一度地上へ解毒剤を集めに行ってもらっている。早ければ明日には戻って来るかもしれないけど、彼が戻るまでは、僕らはここに滞在する予定さ」

 

 

上級冒険者を蝕む悪質な『毒』には、リリたちが持っている普通の解毒剤ではなく専用の解毒剤でなければ解毒が出来ないため、それを調達するためにリリたちがゴライアスと戦うよりも前に、ここを発ったとのこと。

 

縦穴を理由して降りて来たリリたちとは、完全に入れ違いになってしまったようですね。

 

 

「食糧を始めとした物資はもうあまり残っていないんだ。配分できるものには限りがあるから、それだけは理解して欲しい」

 

「い、いえっ、むしろ恵んで頂けるだけでも十分です!」

 

「リリもそう思います!」

 

 

リリもベル様と同じ思いです。こちら側から交渉を仕掛けて置いてなんです。まさか『毒』で寝込む方々が居られ、天幕に余裕がない中でリリたちのために天幕を一つ貸し出してくれるだなんて感謝しかありません。

 

 

「先ほど同じことを言うようだけど、キミたちを短い間ではあるけれど、客人としてもてなそう。周囲と揉め事を起こさなければ、あのテントは好きに使ってもらって構わないよ。団員たちには僕の口から伝えておくよ」

 

「………すみません、本当に、何から何まで。……ありがとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

「なに、こちらとしてちゃんと利益がある。それに、ケンマにも大いに借りがあるからね」

 

 

【ロキ・ファミリア】に貸しを作るって、どんだけ無茶苦茶なんですかケンマ様は!? と心内で思ったことを声に出さなかったリリは、とても良いサポーターだと思います。

 

 

 

 

○●○

 

 

 

 

フィン様と交渉の話をしたあと、ベル様がティオネ様とティオナ様の凸凹アマゾネス姉妹にデレデレされていたところで脇腹を小突いて、お借りしている天幕へと戻ってきたリリたちです。

 

 

「ただいま」

 

「ただいま、戻りました」

 

「おう、お疲れ」

 

 

未だに目が覚めないケンマ様と近くで、留守番をしていたヴェルフ様はケンマ様が手に入れたゴライアスのドロップアイテムをあれこれ触れながら、リリたちに労いの言葉をかけてくださいました。

 

 

「まだ、ケンマは目を覚まさないんだね」

 

「ああ、全く目を覚まさない」

 

「正直、あれだけの大技を連発していることを鑑みると無理もないとリリは思います」

 

「俺的にはケンマが作り出した魔剣、センボンザクラって言ったか? あれもかなり無茶苦茶な使い方だと思うぜ」

 

「えっ? あの魔剣ってそんなに危ないものなの?」

 

「よく思い出してみろ。あの剣は、刀身を無数の花びらにしてモンスターをズタズタに切り裂いていたのを。それを何のデメリットも無しに操れると思うか? 単純に、あの花びら一枚一枚をケンマは全神経を集中させながら操ってたに違いない」

 

「あの花びらを一枚一枚、ケンマが一人で………」

 

 

そう言われてしまうとリリたちは、そんな状況下でゴライアスと戦い、精神疲弊を強制的に引き起こす魔法を使わせてしまったケンマ様に、多大なる負担をかけていたことを再確認せざる負えません。

 

 

「ところで、そっちはどうだったんだ? 【ロキ・ファミリア】の団長といいやぁ、あの【勇者】だろう。どんな話をしてきたんだ?」

 

「主に、このテントをお借りする費用と地上へ戻るまでの同行費用の交渉です。ケンマ様のご指示通り、ゴライアスの魔石を換金した総金額の六分の一を対価にリリたちの要望を聞いていただくことになりました」

 

「あとは僕たちがどうして18階層に来ることになったのか、その事の顛末を話したくらいかな」

 

「なるほど。俺の方は、ゴライアスのドロップアイテムをどう加工しようか悩んでるところだ。ケンマの言う通り、こいつは滅茶苦茶良い武器にも防具にもなりそうだ。ま、ケンマが防具の方を希望したらだけどな」

 

「さすがにあんな伝説の聖剣を二本も所持していれば、滅多なことでは武器に困ることはありませんからね」

 

「だからこそ、俺はケンマが唸るような防具を作ることにした。あいつは、俺が『クロッゾの魔剣』を打てると知ってもなお防具を希望した。これだけは誰にも譲れねぇ!」

 

「じゃあ、ケンマの代わりに僕にはヴェルフの最高だと思える武器を打てるくれないかな?」

 

「そんなの言われなくても決まってんだろう。お前らには、常に俺が打った最高の物を身に付けて貰いたいんだ。それが武器だろうが、防具だろうが関係ない。だから、何の心配もいらねぇよ」

 

「そっか、なら安心だね」

 

 

ヴェルフ様はケンマ様の聖剣を見て、鍛冶師としてのプライドを刺激されたようでワクワクしているように見えますね。

 

そういえばケンマ様を天幕に運んだあと、楽になるように装備などを外した際にバックパックが背負われていましたがこれまでの道中でケンマ様はバックパックを一度も下ろすことがなかった。

 

一体、何が入っているのでしょうか? 失礼を承知で、ケンマ様のバックパックの中身を確認すると中身は全て一口大に切られた食材だった。

 

 

「食材? それにこれは………もしや氷の魔剣!?」

 

「魔剣だと? どういうことだ、リリスケ!」

 

「ケンマ様がずっと隠していたバックパックの中身が気になって、中を確認してみましたら、中には色々な食材とそれを冷やしていたであろう氷の魔剣と思われるナイフが入っていたんです」

 

 

ケンマ様のバックパックに入っていた氷の魔剣と思われるナイフを魔剣を打てる鍛冶師であるヴェルフ様に見せると、ヴェルフ様は直ぐ答えた。

 

 

「間違いない、これは魔剣だ。しっかし、常時発動型の魔剣なんて俺は聞いたことないぞ」

 

「えっ、常時発動型?」

 

「ああ。普通、魔剣というのは振らないと魔法が出ないんだ。だが、この魔剣のナイフは常に冷気を出してる。まさに、冷蔵庫を魔剣にした代物だ」

 

「冷蔵庫を魔剣にって………それは百パーセント、ケンマにしかできないことだよね?」

 

「本当に色々な意味で鍛冶師を泣かしてくれるぜ、こいつは………そのうち俺が泣くぞ」

 

「ですが、これでリリたちの食糧問題は解決されたと言っても過言ではありません。早速、【ロキ・ファミリア】の方にお鍋をお借りしましょう!」

 

「リリスケは料理が出きるのか?」

 

「因みにヴェルフ様は?」

 

「俺は鍛冶師だぞ」

 

「その一言でもう理解できました。ベル様はどうですか?」

 

「少しだけなら。リリをサポーターとして雇う前は、神様と一緒に簡単な物なら作ったことがあるから」

 

「では、申し訳ありませんがベル様には料理をお願いしてもよろしいですか?」

 

「うん、わかった。任せて」

 

 

そう言って、ベル様は食材の入ったバックパックを持って天幕を出ていかれます。しかし、何故ケンマ様はバックパックに食材を入れておられたのでしょう?

 

これでは、まるで最初からリリたちが18階層へ降りてきて、留まらずには居られない状況を予期していた思えます。

 

 

「まさか、未来視のレアスキルまでお持ち……なんて、ことはありませんよね」

 

 

自分で言っておいてなんだが、ケンマ様なら有り得そうで色々と怖い。

オリ主たちの新本拠地候補

  • 第六区画 『竈火の館』の近く
  • 第七区画 元ヘスティア廃教会
  • 西地区 豊穣の女主人の近く
  • 北地区 適当に
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