臆病な『赤龍帝』が冒険都市にいるのは間違っているだろうか? 作:黒牙雷真
〈sideケンマ〉
「ん、んん~………ここは、【ロキ・ファミリア】のテントの中か?」
『ようやく目覚めたみたいだな、相棒』
アニメ知識を頼りに、自分が何処にいるのかを把握しようとしていると左手の甲の部分が緑色に点滅しながら脳内にドライグの声が聞こえてくる。
(おはようさん、ドライグ。今が何時か分かる?)
『相棒が寝ている間、あの兎の小僧が「本当に夜が来た」と言っていたから夜だろう。正確な時間までは分からんがな』
(そっか…………。取り敢えず、トイレトイレ)
寝起きの生理現象で尿意を催したので周りに寝ているベルとヴェルフ、それからいつの間にかいる【タケミカヅチ・ファミリア】の男性冒険者である桜花と【ヘルメス・ファミリア】の主神であるヘルメスたちを起こさないように気を付けてながらテントの外へと出る。
テントを出ると辺りは地上と同じくらい真っ暗だった。しばらくすれば、夜目に慣れてきて大体の物が見えるようになってきた。
「よし。急げ、急げ!漏れる、漏れる!」
急ぎ足で森の中へと入り、人目が付かないところでトイレを済ませる。アニメとかでは、ベルたちがダンジョンでトイレをしているような演出はなかったが、何処でしているのだろうかと常々気になっている。
ダンジョンでトイレに行きたくなったら地上と違って直ぐに行けない訳だし、モンスターの襲撃を考えたら尚更…………もしや、トイレの魔道具が存在するとか?
「確かにそんな物があれば、アニメでも演出されない訳だ」
トイレの演出がない理由を自分の中で納得できるものを見つけてからテントに戻る道中で、夜の闇が反射して紫に輝く鉱石が所々に生えていた。
この鉱石は水晶を見て、18階層の天井にはこの水晶が夜空の星々のように輝く光景をベルとアイズが見上げるワンシーンを思い出して、俺もそれを見習って上を見上げると絶景が広がっていた。
「すげぇ…………」
映像では何度も見返したことがある。けれど、実物と映像では全く受ける衝撃が違った。映像では、こんな風景を見れるなら異世界に行ってみたいかも? と漠然とした気持ちがあった。しかし、実際に実物を目にしてみてどうだ? 明らかに身体を駆け巡る圧倒感、達成感、感動など色々な感情が溢れ出て来て、ニュースのリポーターのようなコメントを繕う余裕すら失くしてしまうほどに美しいのである。
上を見すぎて、首が痛たくなるまで天井を見上げたら暗闇で迷う前に元居たテントへと戻る。そして、与えられた寝床で先ほどの感動を噛み締めながら『昼』の天井はどうな景色になるのかドキドキ、ワクワクしながら目を瞑り、身体を休めることに努めた。
あの光景を見たあとので興奮で眠れないかと思えば、まだ身体に疲労が残っていたのか、あっさりと微睡みの沼へと沈んでしまった。
○●○
次に目を覚ましたのは、18階層が暗い時間帯だった。僅かに、疲れすぎて眠れていなかったのではないか? とアミューズメント施設に行って帰って来た時のことを思い出すが肩をぐるぐると回した限りでは、そうではなさそうだ。
だとなると、この一ヶ月弱で日常と化してしまった早朝鍛練の時間帯に起きたのではないかと簡単な答えが浮かび上がる。けれど、起きたはいいが早朝鍛練の相手ができるリューさんの居場所を俺は知らない。
「仕方ない。休みの日のメニューでもやるか」
早朝鍛練に出掛けて、ベルたちに心配をかけないように【ロキ・ファミリア】の見張りの人に川辺は何処にあるのかの訪ねて、鍛練をしてくる有無も伝えてから教えてもらった川辺へと向かう。
川辺に着いたら、辺りに人がいないことを確認してから『聖剣創造』で聖剣を創造、その聖剣に聖なるオーラを纏わせてながら丁寧に素振りを始める。
「一!二!三!四!五!」
17階層で『ゴライアス』に使った倍加の力を譲渡した《エクス・デュランダル》の攻撃的なオーラを叩きつける技、強化版デュランダル砲だが、明らかにイメージよりも破壊力が低かったように感じられた。本来の破壊力ならば白刃取りなどされるはずもないのに────
「どうしてッ!?」
『それは相棒が、無意識にパワーを抑えていたからだ』
「どういうことだ、ドライグ!?」
ドライグに俺が強化版デュランダル砲の威力を無意識に抑えていると言われて、思わず怒鳴るように聞き返してしまった。
『お前さんは、恐れているのさ。ダンジョンにダメージを与え過ぎると産まれてくる"大いなる厄災"とやらをな』
「ジャガー……ノート……」
アニメでも、初めて出来たあの光景は『絶望』と表すには相応しい表現だった。アニメのベル・クラネルとリュー・リオン以外はLV.3 あるいはLV.2 の集まりでしかないが、多勢に無勢でなのにも関わらず一方的に奴は虐殺を繰り返していた。
『そう、そいつだ。もしも、そいつが産まれてしまっては、今の相棒では勝てない、仲間たちも確実に殺される。それを分かっているから全力を出すことに躊躇していた。その結果、倍加の力を譲渡したエクス・デュランダルの破壊力に制限がかかった』
「デュランダルは所有者の気質によって、破壊力が変わると公式設定にもあったな。それで、ゴライアスに止められた訳か………クソッたれが!」
アニメ知識があって、臆病者だからこそやってしまった失敗に苛立ちを覚えながら素振りを続けながら思う。通常の階層主であるゴライアスであれならば、イレギュラーで産まれ落ちる強化種である黒いゴライアスにも通用しないのではないかと。そんな不安が頭を過る。
けれど、答えは直ぐに見つかる。それはダンジョンにダメージを与えることなく、ゼロ距離で黒いゴライアスだけに攻撃が入るようにすれば良い。そう考えたら、案外簡単なことだったと不安が嘘のように晴れてしまった。
18階層が大分明るくなってきたところで今日の早朝鍛練をここまでにして、川辺で汗を流したら【ロキ・ファミリア】の野営地へと戻る。
野営地に戻ってくると、偶々水を汲みに行っていたのかバケツ一杯に水を入れて、溢さない様にゆっくりと歩いている見知ったエルフと鉢合わせた。
「あっ、ケンマ!良かった、目を覚ましたんですね!」
「レフィーヤ、久しぶりだな」
「お身体の方は、もう大丈夫なんですか?」
「ああ、お陰様でな。それに、早朝鍛練もできるくらいには体力も精神力も回復してるからもう大丈夫だ」
「良かった………そういえば、アイズさんから聞いたんですが。ケンマは、あのベル・クラネルと二人で階層主であるゴライアスを本当に倒したんですか?」
「んー、二人だけではないけど、まぁ倒したな。滅茶苦茶ギリギリだったけどな。正直、レフィーヤと初めて会った時に倒した食人花の方が楽だった気がするよ」
討伐方法はともあれ、ゴライアスを討伐したことは時が経てばバレてしまうので誤魔化す必要もないだろう。
素直にゴライアスと戦ってみて感じた感想をレフィーヤに伝えると、彼女は俺の感想を聞いてみて思ったことを言葉にする。
「あの時の新種のモンスターの方が楽なら、私が一人でゴライアスを倒すのは難しいでしょうか?」
「多分、難しいだろうな。俺たちの場合、あれは極めて蛮勇寄りだった。そんな危ない橋をレフィーヤには渡って欲しくはない」
「それは………どういう意味で言ってますか?」
「そんなの決まってるだろう。レフィーヤのことが大切だからだ」
「わ、私のことが大切ッッ!?」
推しの一人であるレフィーヤが俺たちの蛮勇を真似て死んだとなれば、【ロキ・ファミリア】の皆さんに申し訳ないし、一人のファンとして墓場まで後悔が残り続けることは間違いない。だからこそ、勇気と蛮勇を履き違えないように彼女には理解して欲しい。
そのことを真っ直ぐにレフィーヤへ伝えると、顔と耳を真っ赤に染めて、頭から湯気が幻視できそうなくらいアワアワと慌てふためいている。
「ちょっ、レフィーヤ!? そんなにガタガタと揺れたら、せっかく汲できた水が溢れる、溢れる!」
「ハッ!」
「はぁ……それじゃあ、俺は借りてるテントに戻るよ。見張りの人に川辺へ行くことを伝えてはいたけど、いきなり俺がいなくなってたらベルたちも心配するからな」
「分かりました。では、また朝食の時に」
「ああ、また後でな」
○●○
レフィーヤと分かれて、今度こそ借りているテントに戻ろうと近くまで戻っているとテントの中からベルとヴェルフの慌ただしい声が聞こえてくる。
『装備は全部ある!だから、遠くまでは行ってないはずだ!』
『でも、何処に!? ケンマだって、18階層は初めてのはずだよ?』
『だよなぁ……。ったく、一人で何処か行くなら一言かけろよ!?』
あー、これは俺がいなくなってしまったのが事の発端のようだ。取り敢えず、中に入って素直に謝罪しよう。
「ただいまー」
「あっ、ケンマ!?」
「お前っ、今まで何処をほっつき歩いていやがった!?」
「心配かけて悪かったな。日課の早朝鍛練をするために川辺までちょっと…………一応、【ロキ・ファミリア】の見張りの人には一言言ってあったんだぜ?」
凄い剣幕で詰めよってくる二人に苦笑いしながら謝罪する。
「人に心配かけさせて置いて早朝鍛練って………」
「ふざけるのも大概にしろよ」
「ごめん、マジで、本当にごめん」
ベルとヴェルフが心底、俺のことを心配してくれていることが大いに理解できた俺は、今度はしっかりと頭を下げて二人に謝罪する。前世では、ここまで心配してくれる奴なんて親でもいなくなってしまったから理解するのに遅れてしまった。
いつから俺は、両親から心配されることがなくなってしまったのだろう。今更だが、両親は俺が死んでしまったことに悲しんでくれているだろうか?
「はいはい、辛気臭いのはそこまでにしようぜ。突然、居なくなって心配していた仲間も帰ってきたんだしさ」
前世の世界で俺が死んでしまったあとに両親がどういった反応をしていたのかを気になっていると、一本の羽が付いた帽子を被る優男風の男神が俺たちの間に入る。
先ほどは暗い中で眠っていたので背中姿でしか見えなかったが、彼こそが旅行の神であるヘルメスだ。ヘルメスといえば、翼の生えるサンダルが有名だろう。俺もそのくらいしか、ヘルメスの神話を知らない。
「確かに、ケンマが無事に帰ってくれてなによりだよ」
「そう言われるとそうだな。今度から気を付けてくれよ、ケンマ」
「ああ、気を付ける」
ヘルメスのお陰もあってか、それ以上ベルとヴェルフから小言を言われることはなかった。
「改めて、オレはヘルメス。【ヘルメス・ファミリア】の主神をやっている。キミがベルくんの言っていたイシグロ・ケンマくんで合ってるかな?」
「はい。俺が【ヴィクトリア・ファミリア】の石黒ケンマです。旅行の神である神ヘルメスなら理解していると思いますが、ケンマが名前で石黒が名字です。よろしいお願いします」
「これはこれはご丁寧に。こちらこそ、以後お見知りおきを」
お互いに自己紹介をしてから握手を交わす。それが終われば、ヘルメスの雰囲気がガラリと変貌してゴライアスを倒したことについて訪ねられる。
「ところで、キミはどうやって階層主であるゴライアスを倒したのかな?」
「おい、ベル、ヴェルフ」
「あ、あははは…………ごめん」
「俺はお前の指示通り何も言ってないぞ!」
「はぁ………確かにゴライアスは倒した。けれど俺一人の力じゃない、パーティーメンバー皆の力だ。俺一人だったら、こんな五体満足で居られるはずがないからな」
「んー、どうやら嘘はついていないようだね。だが、オレの欲しい答えとはちょっと違うんだよねぇ~」
「これ以上は話すつもりはない。神ヘルメスだって、ここまで来た理由を本人に聞かれたくないだろう?
「ッ!へぇ………面白いことを言うね、ケンマくん」
「一応、貴方のことを少しは知っているつもりだ。例えば、とある処女神の水浴びを友神の神々と覗いた挙げ句、縄で縛られて罵倒され『ありがとうございま~す!』とか言ってしまう変態の神だとか、ね」
「おいおい、それを誰から聞いたんだい?」
「ノーコメントで」
「なっ!?」
やはりそうか。以前、ロキにはやったがこれで確証に近付いた。この世界の神々は、人間の嘘を見抜く能力を標準装備している。けれど、今のように嘘を言うのではなく全く別の事を言えば何とかなる。
正確には、「知りません」のなどの知っていながら知らないぞと嘘を言えば神々にはバレてしまう。であれば「ノーコメント」、「話すことはない」と言えば場合によって神々を誤魔化すことは可能ということになる。
現に今回のヘルメスの問いに、俺は
「まさか、当てずっぽうでオレの過去を当てたのかい?」
「さぁ、どうだろう。それこそ、神のみぞ知るってやつじゃないのか」
「ハハッ、これは一本取られたね!」
俺とヘルメスのやり取りを見ているベル、ヴェルフ、桜花の三人は唖然と俺たちを眺めている。
「ヘルメス様を相手に凄い、ケンマ」
「相変わらず、ケンマは俺たちを驚かしてくれるぜ」
「神を相手に、なんと巧みな話術なのだ」
オリ主たちの新本拠地候補
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第六区画 『竈火の館』の近く
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第七区画 元ヘスティア廃教会
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西地区 豊穣の女主人の近く
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北地区 適当に